乳がんで使う薬によってうつ病になるのでは?と心配される方がいますが、抗がん剤の副作用でうつになるという研究結果や検証結果は今のところありません。また、乳がんの主力ホルモン剤であるタモキシフェン(ノルバデックス)とうつとの関連について、一定の見解は得られていません。
抗がん剤とうつについて
抗がん剤の副作用としてうつが生じるという報告は、これまでほとんどみられていません。しかし、抗がん剤治療中あるいは治療後に、うつをはじめとする心理的な症状が出ることはよく知られています。
特に治療中は、治療前からある痛みなどの症状、あるいは抗がん剤による全身倦怠感、吐き気、嘔吐、脱毛といった副作用に伴い、不安やうつがみられることがあります。
また治療後は、治療が終了したという安心感もありますが、一方で体力低下、嘔吐、手足のしびれなど、身体的につらい状態が続いたり、治療が終了したということで、医療スタッフと密な連絡が取れなくなることで逆に不安が高まり、うつが生じることもあります。
ホルモン剤とうつについて
ホルモン剤、特にタモキシフェンとうつとの関連については、うつ症状のためにタモキシフェン治療が継続できなかったという研究結果もあれば、タモキシフェン治療によって、うつのりスクは上がらなかったという研究結果もあるなど、いまだに一定の見解は得られていません。
しかし、うつとの関連がみられたという報告がある以上、治療中にうつをはじめとする心理的な症状が生じていないかどうかに、常に留意しておく必要があります。やはりここでも、うつを見逃さないことが重要です。なお、タモキシフェン以外のホルモン剤とうつとの関連については、報告がありません。
うつ病について
乳がんの治療中でうつ病の症状には注意するとき、次のようなサインに注意することが大切になります。
①抑うつ気分:気分が沈む、あるいはすぐれない日が毎日のように続く。
②意欲・興昧の低下:今まで普通にできていたことがおっくうで、やる気が出ない。
③自責感:周囲の人に迷惑をかけているのではないかと悩む。
④焦燥感または制止:イライラして落ち着かない。考えが前に進まない。
⑤倦怠感:いつも疲れを感じている。疲れやすい。
⑥集中力低下・決断困難:集中力が続かない。決断ができなくなる。
⑦食欲低下:食欲がない。食べてもおいしくない。
⑧不眠:寝付けない。途中で目が覚めて眠れない。朝早くに目が覚める。
⑨自殺念慮:生きていても仕方がないと考える。
これらの症状のうち、①または②のいずれかを含んだうえで(必須項目)、全9項目中5項目以上を満たし、それが2週間以上続いている場合にうつ病と診断されます。
しかし、上に挙げられている症状のなかに含まれている倦怠感、集中力低下、食欲低下、不眠といった身体症状は、抗がん剤あるいはホルモン剤の治療中にもよくみられる症状です。また、これらの身体症状が持続しているわりには他の症状が出ないため、うつ病が過小評価され、見逃されている可能性があります。
しかし、うつ病のときはきちんと診断して対処しないと、心身ともにつらい状態となるだけでなく、考え方も否定的になって、抗がん剤治療やホルモン治療を中止したいなどと考えてしまうことがあります。うつ病は治療により改善し、症状は消失します。
「うつ病かな?」と思ったら、精神腫瘍医や精神科医、心療内科医などの心の専門家に相談していただくのが望ましいのですが、もしそれが難しければ、まず身近な医療スタッフに相談してみましょう。
以上、乳がんの化学療法についての解説でした。