
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
胃がんと診断され、手術が必要と言われたとき、多くの患者さんが気になるのが「どのような手術方法があるのか」「体への負担はどのくらいか」ということではないでしょうか。
胃がんの手術には、大きく分けて「開腹手術」と「腹腔鏡手術」があります。近年は腹腔鏡手術を受ける患者さんが増えており、日本では年間1万例以上が実施されています。
この記事では、胃がんの腹腔鏡手術について、対象となる患者さんの条件、具体的な術式、特徴やメリット・デメリット、手術後の後遺症や生活への影響まで詳しく解説します。
胃がんの腹腔鏡手術とは?基本的な仕組みと術式
腹腔鏡手術とは、腹部に数か所の小さな穴を開け、そこから専用の器具とカメラを挿入して行う手術方法です。開腹手術のように腹部を大きく切開する必要がないため、「低侵襲手術」とも呼ばれています。
腹腔鏡手術の具体的な手順
腹腔鏡手術は、以下のような手順で行われます。
まず、腹部に5か所程度、5〜12ミリ程度の小さな切開を行います。この切開部分に「ポート」と呼ばれる筒状の器具を挿入します。ポートは手術器具を出し入れするための通路となります。
次に、ポートを通じて腹腔内に炭酸ガスを注入し、腹部を膨らませます。これにより手術を行うための空間と視野を確保します。炭酸ガスは体内で吸収されやすく、安全性が高い気体です。
ポートから腹腔鏡(カメラ)を挿入し、腹腔内の様子をモニターに映し出します。執刀医はこのモニターを見ながら、別のポートから挿入した鉗子やメス、電気メスなどの手術器具を操作して手術を進めます。
切除した胃を体外に取り出す際には、3〜5センチ程度の切開を追加で行うことがあります。これは「小切開創」と呼ばれ、開腹手術の切開(15〜20センチ程度)と比べると格段に小さいものです。
胃がんに対する腹腔鏡手術の術式の種類
胃がんの腹腔鏡手術には、がんの位置や進行度に応じていくつかの術式があります。主な術式を表にまとめました。
| 術式 | 切除範囲 | 適応となるがんの位置 | 残る胃の割合 |
|---|---|---|---|
| 腹腔鏡下幽門側胃切除術 | 胃の下部2/3程度 | 胃の中部〜下部 | 約1/3 |
| 腹腔鏡下胃全摘術 | 胃全体 | 胃の上部 | 0(全摘出) |
| 腹腔鏡下噴門側胃切除術 | 胃の上部1/3程度 | 胃の上部(早期がん) | 約2/3 |
| 腹腔鏡下幽門保存胃切除術 | 胃の中部 | 胃の中部(早期がん) | 約1/2 |
このうち最も多く行われているのは「腹腔鏡下幽門側胃切除術」です。日本人の胃がんは、ヘリコバクター・ピロリ菌の感染と関連して胃の下部(幽門側)に発生することが多いためです。50歳以上の日本人では約70〜80%がピロリ菌に感染しているとされ、ピロリ菌が好んで住み着く幽門付近にがんが発生しやすい傾向があります。
腹腔鏡手術の対象となる条件・患者さん
腹腔鏡手術はすべての胃がん患者さんに適用できるわけではありません。現在のガイドラインや医療現場での基準を踏まえ、対象となる条件を解説します。
腹腔鏡手術が標準治療として認められている条件
日本胃癌学会の「胃癌治療ガイドライン」では、腹腔鏡手術は一定の条件を満たす症例において推奨されています。
| 項目 | 腹腔鏡手術が推奨される条件 |
|---|---|
| 臨床病期 | cStage I(早期胃がん) |
| がんの深達度 | 粘膜下層までの浸潤(T1) |
| リンパ節転移 | なし、または軽度(N0〜N1) |
| 遠隔転移 | なし |
| 腫瘍の大きさ | 内視鏡治療の適応外 |
cStage Iの胃がんに対しては、腹腔鏡下幽門側胃切除術は開腹手術と同等の治療成績が確認されており、標準治療の選択肢として位置づけられています。
進行胃がんに対する腹腔鏡手術
cStage II〜IIIの進行胃がんに対する腹腔鏡手術については、日本国内で大規模な臨床試験(JLSSG0901試験)が実施されました。この試験の結果、進行胃がんに対しても腹腔鏡手術は開腹手術と同等の治療成績を示すことが報告されています。
ただし、進行胃がんの腹腔鏡手術は、開腹手術と比較して技術的な難易度が高くなります。がんが胃の壁を越えて周囲に浸潤している場合や、リンパ節転移が広範囲に及ぶ場合には、より広い範囲のリンパ節郭清が必要となるためです。
そのため、進行胃がんに対する腹腔鏡手術を受ける場合は、十分な経験を持つ外科医と施設を選ぶことが重要です。日本内視鏡外科学会では、腹腔鏡手術の技術認定制度を設けており、一定の基準を満たした医師を「技術認定医」として認定しています。
腹腔鏡手術が難しい場合
以下のような場合は、腹腔鏡手術が困難または不適切と判断されることがあります。
| 状況 | 理由 |
|---|---|
| 腹部の手術歴がある | 癒着により腹腔鏡での操作が困難になる可能性 |
| 腫瘍が大きい | 腹腔鏡での操作や摘出が困難 |
| 周囲臓器への浸潤がある | 合併切除が必要となり、開腹での操作が必要 |
| 高度肥満 | 腹腔内の視野確保や操作が困難 |
| 心肺機能が低下している | 炭酸ガス気腹による心肺への負担 |
ただし、これらはあくまで一般的な目安であり、個々の患者さんの状態や施設の経験によって判断は異なります。担当医とよく相談することが大切です。
腹腔鏡手術の特徴:開腹手術との比較
腹腔鏡手術と開腹手術には、それぞれ特徴があります。両者を比較することで、それぞれの手術法について理解を深めることができます。
腹腔鏡手術と開腹手術の比較表
| 項目 | 腹腔鏡手術 | 開腹手術 |
|---|---|---|
| 皮膚の切開 | 5〜12mm×5か所程度+小切開 | 15〜20cm程度 |
| 手術時間 | やや長い(3〜5時間程度) | 標準的(2〜4時間程度) |
| 出血量 | 少ない傾向 | 腹腔鏡より多い傾向 |
| 術後の痛み | 軽い傾向 | 腹腔鏡より強い傾向 |
| 入院期間 | 7〜10日程度 | 10〜14日程度 |
| 社会復帰までの期間 | 早い傾向(2〜4週間) | 腹腔鏡よりやや長い |
| 術後の傷跡 | 目立ちにくい | 目立ちやすい |
| 術後合併症の発生率 | 開腹とほぼ同等 | 腹腔鏡とほぼ同等 |
| 長期予後(生存率) | 開腹と同等 | 腹腔鏡と同等 |
腹腔鏡手術のメリット
腹腔鏡手術の主なメリットは以下の点です。
傷が小さいことによる美容面での利点があります。特に若い患者さんや、傷跡を気にされる方にとっては重要なポイントとなります。
術後の痛みが軽減される傾向があります。これは切開創が小さいことに加え、腹壁の筋肉を大きく切開しないためです。痛みが少ないことで、術後早期からの離床(ベッドから起き上がること)や歩行が可能となります。
術後の回復が早い傾向があります。多くの場合、手術翌日には歩行が可能となり、食事も術後数日で開始できます。入院期間も短縮される傾向にあります。
腹腔鏡のカメラは腹腔内を拡大して映し出すため、細かい血管やリンパ節を確認しやすいという利点もあります。
腹腔鏡手術のデメリット・限界
一方で、腹腔鏡手術には以下のような限界や注意点もあります。
手術時間が開腹手術より長くなる傾向があります。これは腹腔鏡下での操作には熟練を要するためです。ただし、経験豊富な施設では開腹手術と同程度の時間で行われることもあります。
術中に予期せぬ出血や臓器損傷が起きた場合、開腹手術に切り替える(移行する)必要が生じることがあります。これは「開腹移行」と呼ばれ、患者さんの安全を守るための適切な判断です。開腹移行の頻度は施設や術者の経験によって異なりますが、一般的には数%程度とされています。
炭酸ガスで腹部を膨らませるため、心臓や肺に持病がある患者さんでは負担となる可能性があります。
触覚によるがんの広がりの確認ができないため、術前の画像診断の精度が重要となります。
手術後の経過と回復
腹腔鏡手術を受けた後の経過について解説します。術後の経過は個人差がありますが、一般的な流れを知っておくことで心の準備ができます。
術後の一般的な経過
| 時期 | 状態・できること |
|---|---|
| 手術当日 | 麻酔から覚醒、ベッド上で安静 |
| 術後1日目 | ベッドから起き上がる、歩行開始(補助あり) |
| 術後2〜3日目 | 水分摂取開始、ドレーン(管)の抜去開始 |
| 術後3〜5日目 | 流動食から開始、徐々に食事の形態をアップ |
| 術後7〜10日目 | 食事が安定すれば退院の目安 |
| 退院後2〜4週間 | 日常生活への復帰、軽い仕事は可能 |
| 退院後1〜2か月 | 通常の仕事や活動への復帰 |
術後に注意すべき症状
退院後、以下のような症状がある場合は、早めに担当医に連絡することが大切です。
38度以上の発熱が続く場合は、感染症の可能性があります。腹痛が強くなる、または新たに出現した場合も注意が必要です。傷口からの出血や膿の排出、傷の赤み・腫れ・熱感がある場合は、創部感染の可能性があります。
吐き気や嘔吐が続く場合、食事が全く摂れない場合も、担当医に相談してください。
胃がん手術後の後遺症と生活への影響
胃がんの手術では、腹腔鏡手術であっても開腹手術であっても、胃の一部または全部を切除します。そのため、手術後には胃の機能に関連したさまざまな症状が現れることがあります。これらは「術後後遺症」や「術後障害」と呼ばれます。
主な術後後遺症
| 後遺症 | 症状 | 原因 | 対処法 |
|---|---|---|---|
| ダンピング症候群(早期) | 食後30分以内の冷汗、動悸、めまい、脱力感 | 食べ物が急速に小腸に流れ込むため | 少量ずつゆっくり食べる、食後は横になる |
| ダンピング症候群(後期) | 食後2〜3時間後の冷汗、脱力感、空腹感 | 急激な血糖上昇後の反動で低血糖になる | 糖質を控えめに、間食を取り入れる |
| 逆流性食道炎 | 胸やけ、呑酸(酸っぱいものが上がる感じ) | 胃の入口の機能低下による胃液や胆汁の逆流 | 食後すぐに横にならない、就寝時は上体を高くする |
| 小胃症状 | 少量で満腹感、食事量の減少 | 胃の容量が減少したため | 1回の食事量を減らし、食事回数を増やす |
| 貧血 | 倦怠感、息切れ、めまい | 鉄分やビタミンB12の吸収低下 | 定期的な血液検査、必要に応じてサプリメントや注射 |
| 骨粗鬆症 | 骨がもろくなる | カルシウムやビタミンDの吸収低下 | 定期的な骨密度検査、カルシウム・ビタミンD補充 |
| 体重減少 | 手術前より体重が減る | 食事量の減少、吸収効率の低下 | 栄養バランスの良い食事、必要に応じて栄養補助食品 |
術後の食生活について
胃を切除した後の食生活は、手術前とは異なる工夫が必要になります。以下のポイントを意識することで、後遺症の症状を軽減し、栄養状態を維持しやすくなります。
1回の食事量を減らし、食事回数を増やします。1日3食ではなく、5〜6回に分けて食べることが推奨されます。
よく噛んでゆっくり食べることが大切です。胃の貯留機能が低下しているため、食べ物を細かくして消化しやすい状態で腸に送ることが重要です。
食事中の水分摂取は控えめにします。水分で胃が膨らむと、食事量が減ってしまうためです。水分は食間に摂るようにします。
脂肪分の多い食事や甘いものは、ダンピング症候群を起こしやすいため、控えめにします。
タンパク質を意識して摂取します。体力回復や傷の治癒のためにタンパク質は重要です。
社会生活への復帰
腹腔鏡手術後の社会復帰は、開腹手術と比較して早い傾向にありますが、個人差があります。
デスクワーク中心の仕事であれば、退院後2〜4週間程度で復帰できることが多いです。体を使う仕事や重いものを持つ仕事の場合は、1〜2か月程度の休養が必要となることがあります。
車の運転は、傷の痛みがなくなり、急ブレーキなどの動作に支障がなくなってから再開することが望ましいです。一般的には退院後2〜3週間程度が目安ですが、担当医に確認してください。
入浴は、傷がふさがれば問題ありません。退院時に担当医から指示があります。
適度な運動は、体力回復のために重要です。ウォーキングなどの軽い運動から始め、徐々に活動量を増やしていくことが推奨されます。
ロボット支援下手術(ダビンチ手術)について
近年、胃がんの手術において「ロボット支援下手術」を実施する施設が増えています。これは手術支援ロボット「ダビンチ(da Vinci)」を用いた手術で、腹腔鏡手術の一種として位置づけられます。
ロボット支援下手術の特徴
ロボット支援下手術では、執刀医がコンソール(操作台)に座り、ロボットアームを操作して手術を行います。従来の腹腔鏡手術との違いを表にまとめました。
| 項目 | ロボット支援下手術 | 従来の腹腔鏡手術 |
|---|---|---|
| 視野 | 3D(立体視)、10〜15倍拡大 | 2D、5〜10倍拡大 |
| 器具の可動域 | 多関節で自由度が高い | 直線的な動きが中心 |
| 手ぶれ | 手ぶれ補正機能あり | 術者の技術に依存 |
| 操作性 | 直感的な操作が可能 | 習熟が必要 |
| 保険適用 | 2018年より適用 | 適用あり |
ロボット支援下手術は、2018年4月より胃がんに対して保険適用となりました。これにより、患者さんの経済的負担は従来の腹腔鏡手術と同程度となっています。
ロボット手術の利点として、3Dの立体視により奥行きの把握がしやすいこと、多関節のロボットアームにより人間の手では難しい角度での操作が可能なこと、手ぶれ補正により精密な操作ができることなどが挙げられます。
一方で、ロボット手術にも限界があります。触覚のフィードバックがないため、組織の硬さや張力を直接感じることができません。また、ロボットシステムのセットアップに時間がかかること、システムが高額であるため実施できる施設が限られることなどがあります。
ロボット手術の成績
胃がんに対するロボット支援下手術の治療成績については、従来の腹腔鏡手術と比較した研究が進められています。現時点では、短期成績(合併症発生率、在院日数など)は従来の腹腔鏡手術と同等またはやや良好とする報告が多く、長期成績(生存率、再発率)についても同等であることが示されつつあります。
胃がん腹腔鏡手術の治療成績
腹腔鏡手術の治療成績について、開腹手術との比較を含めて解説します。
短期成績(周術期成績)
短期成績とは、手術直後から退院までの期間における成績を指します。
日本で行われた大規模な臨床試験(JCOG0912試験、JLSSG0901試験)の結果、腹腔鏡手術は開腹手術と比較して、術後合併症の発生率に差がないことが示されています。
術後合併症には、縫合不全(つなぎ目がうまくつかない)、膵液漏(膵臓からの液漏れ)、腹腔内膿瘍(お腹の中に膿がたまる)、肺炎などがあります。これらの発生率は、腹腔鏡手術と開腹手術で同程度とされています。
長期成績(生存率・再発率)
長期成績とは、手術後の生存率や再発率を指します。
早期胃がん(cStage I)に対する腹腔鏡手術の長期成績は、開腹手術と同等であることが複数の臨床試験で確認されています。5年生存率、無再発生存率ともに開腹手術と差がないことが示されています。
進行胃がん(cStage II〜III)に対する腹腔鏡手術についても、JLSSG0901試験の結果から、開腹手術と同等の長期成績であることが報告されています。
これらの結果から、適切な症例選択と技術を持った施設で行われる腹腔鏡手術は、開腹手術と同等の治療効果が期待できるといえます。
腹腔鏡手術を受ける施設の選び方
腹腔鏡手術を受ける際には、施設選びも重要な要素となります。以下のポイントを参考にしてください。
施設選びのポイント
手術件数は一つの指標となります。年間の胃がん手術件数、腹腔鏡手術件数が多い施設は、それだけ経験が蓄積されています。目安として、年間50例以上の胃がん手術を行っている施設が望ましいとされています。
日本内視鏡外科学会の技術認定医が在籍しているかどうかも参考になります。技術認定医は、一定の手術経験と技術審査を経て認定された医師です。
がん診療連携拠点病院に指定されている施設は、がん治療に関する一定の体制と実績を有しています。
セカンドオピニオンを活用することも選択肢の一つです。複数の施設の意見を聞くことで、自分に合った治療法や施設を見つけやすくなります。
参考文献・出典情報
以下の情報源を参考にしています。
1. 日本胃癌学会「胃癌治療ガイドライン」
https://www.jgca.jp/guideline/guidelines.html
2. 国立がん研究センター がん情報サービス「胃がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/stomach/index.html
3. 日本内視鏡外科学会
https://www.jses.or.jp/
4. 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco-cpg.jp/
5. 厚生労働省「がん対策情報」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html
6. 日本外科学会
https://jp.jssoc.or.jp/
7. 国立がん研究センター中央病院「胃がんの治療について」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncch/clinic/gastric_surgery/index.html
8. 日本消化器外科学会
https://www.jsgs.or.jp/
9. 日本ロボット外科学会
https://j-robo.or.jp/
10. がん研究会有明病院「胃がん」
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/stomach.html

