胃がん手術は早期に発見すればするほど確実に体にやさしい治療が可能だといえます。
最も早期であれば「内視鏡治療」で腫瘍を切除することができ、そして、次の段階に控えているのが、腹部に4~5か所の小さなキズだけで治療ができる「腹腔鏡手術」です。
現在、胃がんにおける腹腔鏡手術は、日本では年間1万例ほど行われています。ただし胃がん治療のガイドラインでは、腹腔鏡手術は臨床研究の段階にあります。今でも標準治療は開腹手術です。つまり、腹腔鏡手術は開腹手術と比べて治療効果という点で、問題がないのかどうか、その点が研究されている段階といえます。
具体的には合併症である縫合不全や膵液漏が増えることはないか、再発は起きないか、そして予後はどうか、といったことが調べられています。
ただ臨床研究中とあっても、これほど一般化している腹腔鏡手術なので患者には、"研究"という受けとめ方はほとんどないのが現状です。胃がんガイドラインに沿った標準治療を行うことは病院側、医師にとっては重要ですが、治療成績をより向上させると同時に患者の負担を軽くするために、現場主導で行われている治療法だといえます。
腹腔鏡手術と開腹手術での比較試験では、手術直後の体への負担という点では腹腔鏡手術が開腹手術に優っています。さらに、長期的な成績(生存率や再発率)が同じだったとしたら腹腔鏡手術が開腹手術よりも良いということになり、標準治療として認められることになるでしょう。
では、腹腔鏡手術とは、どんな手術方法なのかというと、次の手順で行われます。
腹部に5か所程度、5~10ミリ程度のキズをつけ、ここに、筒状の器具のポートを挿入します。このポートを通路として、手術で使用する鉗子、メスなどといった手術器具を入れるのです。同時に腹腔内を拡大してモニターに映し出す内視鏡も入れます。腹腔内には空間が必要となるので、炭酸ガスを入れてふくらませ、視野を広く確保します。
手術を行う医師はモニターを見ながら、腹部に挿入した手術器具を外から操作して手術を行います。手術で胃を大きく切除した場合には、その切除した胃を外へ出すための出口が必要となります。そのときは、3~4センチ程度の小さなキズをつけて、そこから取り出すことになります。
開腹手術よりも腹腔鏡手術を選ぶ人が多いのはメリットがあるからですが、何といっても「体につくキズが小さいので目立たない」という特徴が最大のメリットだといえます。それによって術後の痛みがきわめて少なく、術後の回復も早く(翌日にはベッドから起きあがり歩くことができる)なるため、当然、社会復帰も早いといえます。
今日では、進行がんに対しても臨床研究として腹腔鏡手術を行っているところもあります。ステージ(病期)Ⅱ、Ⅲといった進行がんでは、がんが胃の壁に露出していたり、大きなリンパ節転移があったりする場合があります。ですから、がん細胞を取り残すなどして、がんの再発という観点から患者にデメリットがないか確認が行われています。
胃がん手術における腹腔鏡手術の比率は2005年が14.6%、07年が20.0%、09年が25.9%で7431例。今日では約1万例と増加しています。
開腹手術と同程度の進行がんにまで腹腔鏡手術を行っている病院もあり、「幽門側胃切除術」「胃全摘術」を行い、必要となるリンパ節の切除も腹腔鏡により行われています。
この幽門側胃切除術は、がんが胃の出口の幽門近くにできたときに行われる手術です。日本人はへりコバクターピロリに感染している人が50歳以上では80%と多く、ピロリ菌の住みついている場所が胃の中でも幽門近辺なので、この近辺にがんが多く発生します。がん部分から3センチ程度離れたところから幽門までをリンパ節と共に切除する手術が「幽門側胃切除術」です。
いっぽう胃全摘術は、がんが胃の上部に発生したときに行われる手術で、胃の入り口の噴門から幽門まで、胃をすべてリンパ節と共に切除します。
最近では手術支援ロボット"ダヴィンチ"を使ったロボット手術を行っている施設もあります。実際、胃がんに対してロボット手術を行っている医師は、"腹腔鏡手術以上にリンパ節の切除もスムーズにできる"と話しています。
ロボットの良さは「3Dなので奥行きも分かる」「関節があるので人間の手以上にスムーズに動く」「手ぶれがない」「視野がより拡大している」などのメリットがあるようです。
以上、胃がんの腹腔鏡手術についての解説でした。