「手足がむくんで重い」「皮膚が張ってつらい」「以前の服が着られない」と感じていませんか?
これは、リンパ浮腫と呼ばれる症状かもしれません。リンパ浮腫は、がん治療(特に手術や放射線治療)によってリンパの流れが滞り、体にリンパ液がたまってむくみが生じる慢性的な病気です。
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リンパ浮腫は、一度発症すると完治は難しいとされていますが、適切なセルフケアを行うことで、症状を和らげ、進行を遅らせ、日常生活の質を維持することができます。
この記事では、リンパ浮腫がなぜ起こるのか、そして、自宅でできる「セルフマッサージの基本」と「日常生活で気をつけるべき注意点」について詳しくご紹介します。ご自身や大切な方のリンパ浮腫と上手に付き合い、快適に過ごすためのヒントとして、ぜひ参考にしてください。
なぜリンパ浮腫が起こるの?その原因とメカニズム
リンパ浮腫は、体の免疫機能や水分バランスに関わる「リンパ系」に障害が起こることで発症します。がん治療においては、特に以下のような要因が主な原因となります。
主な原因
- リンパ節郭清: がんの手術において、がん細胞が転移している可能性のあるリンパ節を切除する「リンパ節郭清」が行われることがあります。
リンパ節はリンパ液の流れの中継地点であるため、これを除去することでリンパ液の流れが滞り、リンパ浮腫のリスクが高まります。
特に、乳がんにおける腋窩(えきか)リンパ節郭清後の腕のむくみや、婦人科がんにおける骨盤内リンパ節郭清後の足のむくみが多く見られます。 - 放射線治療: リンパ節やリンパ管が存在する領域に放射線を照射すると、リンパ管が硬くなったり、詰まったりすることがあります。これによりリンパ液の流れが悪くなり、リンパ浮腫を発症する可能性があります。
- がんの進行: がんそのものがリンパ管を圧迫したり、リンパ節に転移してリンパ液の流れを妨げたりすることでもリンパ浮腫が起こることがあります。
- その他、発症を促す要因:
- 肥満: 肥満はリンパ浮腫のリスクを高める要因の一つです。
- 感染症(蜂窩織炎など): リンパ浮腫のある部位は免疫機能が低下しているため、感染症を起こしやすく、それがリンパ浮腫をさらに悪化させる悪循環に陥ることがあります。
- 長時間の同じ姿勢: 同じ姿勢を長く続けることで、リンパ液の流れが滞りやすくなります。
- 怪我や皮膚の損傷: リンパの流れが悪い部位の怪我や皮膚の炎症は、リンパ浮腫の発症や悪化のきっかけとなることがあります。
リンパ浮腫は、治療後すぐに現れることもあれば、数ヶ月から数年経ってから発症することもあります。早期に症状に気づき、適切なケアを始めることが非常に重要です。
自宅でできるリンパ浮腫の「セルフマッサージの基本」
リンパ浮腫のケアにおいて、セルフマッサージ(リンパドレナージ)は非常に重要な役割を果たします。
これは、リンパ液の流れを促し、むくみを軽減するための優しいマッサージです。ただし、必ず専門の理学療法士やリンパ浮腫セラピストから指導を受けた上で行いましょう。ここでは、一般的なセルフマッサージの基本をご紹介します。
マッサージを行う前の準備と心構え
- 清潔な肌で: 清潔な手と肌で行いましょう。皮膚が乾燥している場合は、低刺激性の保湿剤を塗ってから始めると、摩擦による肌への負担を軽減できます。
- 無理せず、優しく: リンパマッサージは、筋肉を揉みほぐすような強いマッサージではありません。皮膚の表面をなでるような、ごく軽い力で行うのが基本です。強く押しすぎると、かえってリンパ管を傷つけたり、炎症を起こしたりする可能性があります。
- 呼吸を意識: 深くゆっくりとした腹式呼吸をしながら行うと、リンパ液の流れがさらに促進され、リラックス効果も高まります。
- 体調の良い時に: 体調が悪い時や、発熱、炎症、皮膚トラブルがある時はマッサージを控えましょう。
セルフマッサージの基本ステップ(例:腕のリンパ浮腫の場合)
リンパ液は、体の中心部に向かって流れる性質があります。そのため、リンパ節の多い首や体幹部からマッサージを始め、リンパ液の通り道を開いてから、むくんでいる部位へと進めていきます。
- 準備体操(深呼吸と首・肩のストレッチ):
- 楽な姿勢で座り、ゆっくりと深呼吸を数回繰り返します。
- 首をゆっくり左右に傾けたり、肩を回したりして、首や肩周りのリンパの流れを促します。
- 頸部(首)のマッサージ:
- 鎖骨の上にあるくぼみに、指の腹で優しく触れ、内側から外側へ向かって軽くさするようにマッサージします。
- 耳の後ろから鎖骨に向かって、首筋を優しくなで下ろすようにマッサージします。
- 体幹部(脇腹、胸、背中)のマッサージ:
- リンパ浮腫のある腕と同じ側の脇腹(健側)を、下から上へ、脇の下に向かって優しくなで上げます。
- 胸の中心から脇の下に向かって、優しくなでるようにマッサージします。
- 背中側も、リンパ液が流れる方向に沿って優しくさするようにします(手が届く範囲で)。
- 上腕(二の腕)のマッサージ:
- 脇の下のリンパ節に向けて、肘から脇の下に向かって優しくなで上げます。
- 前腕(肘から手首)のマッサージ:
- 手首から肘に向かって、優しくなで上げます。
- 手・指のマッサージ:
- 指先から手首に向かって、一本一本の指を優しくさするようにマッサージします。手のひらや手の甲も、心臓に向かって優しくなでるようにします。
※足のリンパ浮腫の場合は、鼠径部(足の付け根)や腹部からマッサージを始め、太もも、ふくらはぎ、足首、足先へと進めていきます。 ※マッサージの回数や時間は、個々の状態や専門家からの指導に従いましょう。
日常生活で気をつけるべきリンパ浮腫の「注意点」
リンパ浮腫の症状を悪化させないためには、日々の生活の中でいくつかの注意点を守ることが非常に重要です。
1. 皮膚の保護と清潔保持
- 毎日清潔に保つ: リンパ浮腫のある部位は、皮膚が乾燥しやすく、感染症を起こしやすい状態です。毎日優しく洗い、清潔に保ちましょう。
- 保湿の徹底: 入浴後やシャワー後は、必ず低刺激性の保湿剤をたっぷり塗り、皮膚の乾燥を防ぎましょう。皮膚が潤っていると、バリア機能が保たれ、傷や感染症のリスクを減らせます。
- 傷つけない工夫: 虫刺され、ひっかき傷、切り傷、日焼け、やけどなどに注意しましょう。ガーデニングや水仕事をする際は手袋を着用するなど、常に皮膚を保護する意識が大切です。
- 自己処理に注意: むくんでいる部位の毛の処理は、皮膚を傷つけないよう慎重に行いましょう。電気シェーバーの使用が推奨されます。
2. 適度な運動と休息
- 無理のない運動: 主治医や理学療法士の指導のもと、無理のない範囲で体を動かすことは、リンパ液の流れを促し、むくみの改善につながります。
- 例: 軽い散歩、手足の曲げ伸ばし体操、水中での運動など。
- 長時間の同じ姿勢を避ける: 座りっぱなしや立ちっぱなしは、リンパ液の流れを滞らせます。定期的に休憩を挟み、軽くストレッチをしたり、歩いたりして体を動かしましょう。
- 患肢を高く保つ: 寝る時や休憩する時は、むくんでいる手足を枕やクッションなどで心臓より少し高い位置に保つと、むくみの軽減に役立ちます。
3. 圧迫療法と衣服の選択
- 弾性ストッキングやスリーブの着用: 専門医やリンパ浮腫セラピストから処方された弾性ストッキングや弾性スリーブを適切に着用することは、リンパ浮腫の管理において非常に重要です。リンパ液の貯留を防ぎ、むくみを軽減します。
- 締め付けない衣類を選ぶ: むくんでいる部位を締め付けるような下着、靴下、衣類、アクセサリーなどは避けましょう。リンパ液の流れを妨げ、症状を悪化させる可能性があります。
4. 体重管理と栄養バランス
- 適正体重の維持: 肥満はリンパ浮腫のリスクを高め、悪化させる要因となります。適正体重を維持するよう心がけましょう。
- バランスの取れた食事: 特定の食品がリンパ浮腫に直接影響するという科学的根拠は少ないですが、バランスの取れた食事は、全身の健康維持に不可欠です。塩分の摂りすぎはむくみを悪化させる可能性があるため、控えめにしましょう。
5. 医療者への相談の重要性
リンパ浮腫は、自己判断で対処せず、必ず専門の医療者に相談することが大切です。
- 専門医・リンパ浮腫セラピストへの相談:
- 症状の初期段階から専門医やリンパ浮腫セラピスト(複合的理学療法士など)に相談し、正確な診断と適切な治療計画を立ててもらいましょう。
- 正しいセルフマッサージの方法や、弾性ストッキング・スリーブの選び方、着用方法などについて指導を受けることが非常に重要です。
- 異常を感じたらすぐに受診: リンパ浮腫のある部位が急に赤く腫れたり、熱を持ったり、痛みが出たり、発熱を伴ったりした場合は、感染症(蜂窩織炎など)の可能性があります。すぐに医療機関を受診しましょう。
まとめ:
リンパ浮腫は、がん治療後の生活に大きな影響を与える症状ですが、決して一人で抱え込む必要はありません。その原因を理解し、自宅でできるセルフマッサージや日常生活の工夫を継続することで、症状を和らげ、進行を遅らせることができます。
「無理はしない」「できる範囲で続ける」という気持ちで、ご紹介したマッサージや注意点を実践してみましょう。日々の小さな努力が、リンパ浮腫の管理と快適な日常生活の維持につながります。
そして、症状の変化や不安なことがあれば、我慢せずに必ず医療者(専門医やリンパ浮腫セラピスト)に相談しましょう。適切なサポートを受けながら、リンパ浮腫と上手に付き合い、あなたらしい毎日を取り戻していきましょう。