がんという診断を受け、治療に向き合う日々は、身体だけでなく心にも大きな負担がかかります。
「これからどうなるんだろう」「治療はうまくいくのかな」「家族に迷惑をかけていないかな」といった不安は、多くの患者さんが経験する自然な感情です。
不安は、食欲不振や睡眠障害、倦怠感といった身体的な症状を悪化させることもあります。不安は一人で抱え込む必要はありません。適切なセルフケアの方法を知り、日常生活の中で工夫を重ねることで、心をできるだけ穏やかに保つことが大切です。
この記事では、がん治療中に不安が起こる理由から、そのつらい感情を少しでも和らげ、心穏やかに過ごすための「セルフケアのヒント」について詳しくご紹介します。
なぜ不安が起こるの?がん治療中の不安の理由
がん治療中に不安を感じることは、ごく自然なことです。様々な要因が複雑に絡み合って不安な気持ちが生まれると考えられています。その主な原因を知ることで、ご自身の心の状態への理解が深まり、適切な対処ができるようになります。
主な原因
- 病気そのものへの不安:
- 病気の進行や再発、転移への恐れ: がんが今後どうなるのか、治療は効くのか、再発するのではないかという漠然とした不安は、常に患者さんの心に付きまといます。
- 身体の変化への不安: 治療による外見の変化(脱毛、体重の変化など)や、身体機能の低下に対する不安も大きいでしょう。
- 治療への不安:
- 副作用への恐れ: 吐き気、痛み、倦怠感など、治療に伴う副作用への恐怖は、治療開始前から大きな不安材料となります。
- 治療の選択や費用への心配: 治療法の選択に迷ったり、治療にかかる費用に対する経済的な不安を感じたりすることもあります。
- 日常生活の変化への不安:
- 仕事や社会生活への影響: 治療によって仕事や学業を中断せざるを得なくなったり、これまで通りの社会生活が送れなくなることへの不安。
- 役割の変化や家族への負担: 家庭内での役割が果たせなくなることへの罪悪感や、家族に負担をかけているのではないかという心配。
- 情報過多・情報の不足:
- インターネットや周囲からの情報過多: 不確かな情報に触れることで、かえって不安が増すことがあります。
- 必要な情報の不足: 自分が知りたい情報がなかなか得られないことも、不安を募らせる原因となります。
- 精神的な要因:
- 孤独感: 病気のことを打ち明けられず、一人で抱え込んでしまうことで、孤独感が強まり、不安が増すことがあります。
- 喪失感: 健康だった頃の自分や生活を失ったことに対する喪失感や悲しみも、不安につながることがあります。
これらの原因は一つだけでなく、複数重なって不安を強めていることがほとんどです。ご自身の不安がどのような要因で起こっているのか、医療者と相談しながら理解を深めることが大切です。
心穏やかに過ごすための「セルフケアのヒント」
がん治療中の不安は、解消が難しい場合もありますが、心を穏やかに保つためのセルフケアのヒントをご紹介します。
1. 感情を受け入れ、表現する:心のデトックス
自分の感情を否定せず、受け止めることから始めましょう。
- 感情を言葉にする:
- 日記をつける: 自分の感情や考えを文字にすることで、心の整理がつき、客観的に自分を見つめ直すことができます。
- 信頼できる人に話す: 家族、友人、医療者、同じ経験を持つ仲間(患者会など)に、今の気持ちを正直に話してみましょう。話を聞いてもらうだけでも、心が軽くなることがあります。
- 泣くことを許す: 悲しい時は泣いても良いのです。感情を解放することは、心のデトックスになります。
- 完璧な自分を求めない:
- 「こうあるべき」という理想の自分像にとらわれず、今のありのままの自分を受け入れましょう。つらい時はつらい、だるい時はだるい、と素直に認めましょう。
2. リラックス法を取り入れる:心身の緊張をほぐす
心と体の緊張をほぐすことで、不安が和らぎます。短時間でも毎日続けることが大切です。
- 呼吸法:
- 深くゆっくりとした腹式呼吸を意識しましょう。息を吸う時にお腹を膨らませ、吐く時にへこませるようにすると、副交感神経が優位になり、リラックス効果が高まります。不安を感じたら、まずは深呼吸を数回繰り返してみましょう。
- 瞑想・マインドフルネス:
- 「今、ここ」に意識を集中する練習は、痛みや不安といった過去や未来へのとらわれから一時的に離れ、心を穏やかにする助けになります。短い時間(5分程度)から始め、自分の呼吸や体の感覚に注意を向けてみましょう。
- アロマテラピー:
- 好きな香り、心が落ち着く香りを活用してみましょう。ラベンダー、カモミール、ベルガモットなど、リラックス効果が期待できる香りがおすすめです。アロマディフューザーを使ったり、ハンカチに数滴垂らして枕元に置いたりする方法があります。ただし、香りに敏感になっている場合は、ごく少量から試すか、使用を控えましょう。
- 軽いストレッチや体操:
- 体を動かすことで、心身の緊張がほぐれ、気分転換にもなります。主治医や理学療法士に相談の上、体調に合わせた無理のない範囲で行いましょう。椅子に座ってできるストレッチや、手足を軽く動かすだけでも効果があります。
3. 気分転換と楽しみを見つける:日常に彩りを
治療中でも、日常の中に小さな楽しみを見つけることが、心の活力を保つ上で非常に重要です。
- 好きなことに没頭する:
- 読書、映画鑑賞、音楽鑑賞、絵を描く、手芸をする、パズルをするなど、自分が楽しめること、心が落ち着くことに時間を使いましょう。 oral
- 短時間でも集中できることを見つけると、不安な気持ちから意識をそらすことができます。
- 自然に触れる:
- 天気が良い日に散歩に出かける、庭やベランダの植物を眺める、窓から見える景色を楽しむなど、自然に触れる機会を作りましょう。自然の音や香りも、リラックス効果をもたらします。
- 昔の趣味を再開する:
- 以前好きだったけれど、忙しくてできていなかった趣味を、この機会に再開してみるのも良いでしょう。
- 新しいことへの挑戦:
- 体力的な負担が少ない範囲で、新しい趣味や学び(オンライン講座など)に挑戦してみるのも、新しい発見や喜びにつながることがあります。
4. 情報との適切な距離をとる:心の情報デトックス
インターネットや周囲の情報は、時に不安を増幅させることがあります。
- 信頼できる情報源に絞る: がんに関する情報は、医師、国立がん研究センターなどの公的機関、信頼できる医療機関のウェブサイトなど、根拠に基づいた情報源から得るようにしましょう。
- 情報の量を制限する: 必要以上に情報を集めすぎないようにしましょう。漠然とした情報や、不安を煽るような情報は、意図的に避けることも大切です。
- SNSとの付き合い方: SNSは同じ悩みを持つ人とつながれる利点もありますが、ネガティブな情報に触れすぎて疲弊しないよう、適度な距離を保つことが大切です。
医療者や周囲との「つながり」の重要性
不安は一人で抱え込まず、医療者や周囲のサポートを積極的に利用することが非常に重要です。
1. 医療者への相談
- 主治医・看護師への相談:
- 不安の程度や、それが日常生活にどのように影響しているか(例: 眠れない、食欲がないなど)を具体的に伝えましょう。
- 医師は、不安を和らげる薬の処方や、精神科医・心療内科医、心理カウンセラーへの紹介を検討してくれる場合があります。
- がん相談支援センター:
- 全国の主要な病院に設置されており、がんに関するあらゆる相談に無料で応じてくれます。専門の相談員が、不安や悩みを傾聴し、適切な情報やサポート窓口につないでくれます。治療のことだけでなく、経済的なこと、社会制度のことなど、幅広い相談が可能です。
- 心理カウンセラー・精神科医:
- 強い不安や抑うつ症状が続く場合は、専門家によるカウンセリングや治療が有効な場合があります。医療機関の相談窓口を通じて紹介してもらいましょう。
2. 周囲のサポートを活用する
- 家族・友人:
- 自分の気持ちを正直に伝え、理解と協力を求めましょう。無理に元気なふりをせず、つらい時は「つらい」と伝えることが大切です。
- 家族にも、不安な気持ちを共有し、一緒に乗り越えてもらうことで、絆が深まることもあります
まとめ:
がん治療中の不安は、多くの患者さんが経験するつらい感情ですが、決して一人で抱え込む必要はありません。その原因を理解し、日常生活の中で小さなセルフケアを積み重ねることで、心を穏やかに保ち、生活の質を向上させることができます。
「無理はしない」「完璧を目指さない」という気持ちで、ご紹介したリラックス法、気分転換、そして周囲とのつながりを意識してみましょう。日記を書いたり、深呼吸をしたり、好きな音楽を聴いたりするだけでも、心の状態は変わるかもしれません。
そして、不安は我慢せず、必ず医療者や周囲のサポートを積極的に利用しましょう。自分の気持ちを伝えることが、不安を和らげ、心穏やかな日々を取り戻すための第一歩です。