
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
乳がんの治療において、抗がん剤治療(化学療法)は手術と並んで重要な治療法です。その中でFEC療法は、かつて乳がん治療で広く使用されてきた多剤併用療法の一つです。
この記事では、FEC療法の具体的な内容、治療効果、副作用とその対策について、2026年時点の最新情報をもとに詳しく解説します。また、現在の乳がん診療ガイドラインにおけるFEC療法の位置づけについてもお伝えします。
FEC療法とは
FEC療法は、3種類の抗がん剤を組み合わせた多剤併用化学療法です。それぞれの薬剤名の頭文字を取ってFEC療法と呼ばれています。
使用される3つの薬剤
| 略称 | 一般名 | 薬剤の分類 |
|---|---|---|
| F | フルオロウラシル(5-FU) | 代謝拮抗薬 |
| E | エピルビシン(EPI) | アントラサイクリン系抗がん剤 |
| C | シクロホスファミド(CPA) | アルキル化薬 |
これらの薬剤を組み合わせることで、単剤で使用するよりも高い効果が期待されると考えられてきました。それぞれの薬剤は異なる作用機序でがん細胞にダメージを与えるため、相乗効果が得られるという理論的背景があります。
FEC療法の投与スケジュール
FEC療法は3週間(21日間)を1サイクルとして実施されます。
投与当日(1日目)に3種類の薬剤すべてを点滴で投与し、その後20日間は休薬期間となります。この休薬期間中に、治療によってダメージを受けた正常な細胞が回復することを待ちます。
通常、このサイクルを4回繰り返すことが標準的です。つまり、治療全体としては約3か月間(12週間)かけて実施されます。
FEC療法の適応
FEC療法は主に以下の状況で使用されてきました。
- 術前化学療法:手術前に腫瘍を小さくして、乳房温存手術の可能性を高めるため
- 術後補助化学療法:手術後に、目に見えない微小転移を制御し、再発を防ぐため
適応とされる病期は主にStageI~Ⅲの症例です。
現在の乳がん診療におけるFEC療法の位置づけ
2023年版ガイドラインによる重要な変更
ここで重要な情報をお伝えする必要があります。
日本乳癌学会が発行する「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」において、FEC療法に関する重要な見解が示されています。
複数の臨床試験の結果から、AC療法(アドリアマイシン+シクロホスファミド)またはEC療法(エピルビシン+シクロホスファミド)とFEC療法を比較したところ、FEC療法で5-FUを追加しても予後の改善効果が認められませんでした。
むしろ、5-FUの追加によって副作用のリスクが増える可能性が指摘されています。このため、現在ではFEC療法やCAF療法(シクロホスファミド+アドリアマイシン+フルオロウラシル)は推奨されない治療法とされています。
現在推奨される治療法
2026年現在、乳がんの化学療法として主に推奨されているのは以下の治療法です。
- TC療法(ドセタキセル+シクロホスファミド)
- AC療法またはEC療法
- AC療法やEC療法の後にタキサン系薬剤を追加する逐次療法
特にTC療法は、2006年の研究発表以降、使用頻度が増加しており、FEC療法に代わって標準的な治療法の一つとなっています。
なぜこの記事でFEC療法を解説するのか
現在では推奨されていないとはいえ、以下の理由からFEC療法についての正確な情報を提供することには意義があります。
- 過去にFEC療法を受けた患者さんが、自身の治療内容を理解するため
- 一部の医療機関で依然として使用されている可能性があるため
- 新しい治療法と比較して理解を深めるため
- 医療の進歩を実感し、現在の標準治療の意義を理解するため
FEC療法の標準的な投与量と投与方法
各薬剤の投与量
| 薬剤名 | 投与量(体表面積あたり) | 投与方法 | 投与時間 |
|---|---|---|---|
| 5-FU | 500mg/m² | 点滴静注 | 15分 |
| エピルビシン | 100mg/m² | 点滴静注 | 15分 |
| シクロホスファミド | 500mg/m² | 点滴静注 | 30分 |
投与量は患者さんの体表面積に基づいて計算されます。体表面積は身長と体重から算出され、個々の患者さんに適した投与量が決定されます。
前投薬(制吐療法)
FEC療法では、吐き気や嘔吐などの副作用を予防するために、抗がん剤投与前に制吐薬が投与されます。
アントラサイクリン系薬剤とシクロホスファミドの併用は、「高度催吐性リスク」に分類されており、適切な制吐療法が不可欠です。
2023年10月改訂の「制吐薬適正使用ガイドライン第3版」に基づいた制吐療法が推奨されています。一般的に使用される制吐薬には以下のようなものがあります。
| 薬剤分類 | 代表的な薬剤 | 投与タイミング |
|---|---|---|
| 5-HT3受容体拮抗薬 | オンダンセトロン、グラニセトロンなど | Day1(投与当日) |
| NK1受容体拮抗薬 | アプレピタント | Day1~3 |
| ステロイド | デキサメタゾン | Day1~4 |
| 非定型抗精神病薬 | オランザピン | Day1~6(糖尿病患者には禁忌) |
特にオランザピンは、2017年に日本で抗がん剤による悪心・嘔吐に対して保険適用となり、急性期・遅発期ともに有効な制吐薬として注目されています。ただし、糖尿病の患者さんには使用できないため注意が必要です。
FEC療法の治療効果(奏効率と生存率)
FEC療法の治療成績として報告されているデータを紹介します。ただし、これらは過去の臨床試験のデータであり、現在推奨されている他の治療法との比較においては、必ずしも優れているわけではないことをご理解ください。
5年間の治療成績
| 評価項目 | 数値 |
|---|---|
| 5年無病生存率 | 73.2% |
| 5年全生存率 | 86.7% |
無病生存率とは、治療後に再発せずに生存している患者さんの割合を示します。全生存率は、治療を受けたすべての患者さんのうち、生存している方の割合です。
これらの数値は、治療を受けた患者さんの約73%が5年間再発せず、約87%が5年後も生存していることを示しています。
治療効果に影響する因子
FEC療法の効果は、以下のような要因によって変わってきます。
- がんの進行度(ステージ)
- リンパ節への転移の有無と個数
- ホルモン受容体の状態
- HER2タンパクの発現状況
- 患者さんの年齢と全身状態
特にリンパ節転移陰性の症例に対しては、FEC療法を日常臨床で使用することを推奨する根拠が少ないとされています。
FEC療法の副作用
抗がん剤治療では、がん細胞だけでなく正常な細胞もダメージを受けるため、様々な副作用が現れます。FEC療法で報告されている主な副作用とその発現頻度を以下に示します。
主な副作用とGrade3以上の発現頻度
| 副作用 | Grade3以上の発現率 | 備考 |
|---|---|---|
| 好中球減少 | 33.6% | 感染症のリスクが高まる |
| 発熱性好中球減少症 | 8.4% | 緊急の対応が必要 |
| 悪心・嘔吐 | 20.5% | 制吐薬で予防・軽減可能 |
| 口内炎 | 4.0% | 口腔ケアが重要 |
| 無月経 | 72.4%(All Grade) | 閉経前の女性に影響 |
| 脱毛 | 83.9%(Grade3) | 高頻度で発現 |
| 心障害 | 1.3%(重篤な有害事象) | アントラサイクリン系薬剤の副作用 |
Grade3以上とは、日常生活に影響を及ぼす中等度から重度の副作用を意味します。
副作用発現のメカニズム
抗がん剤は、細胞分裂が活発な細胞に対して作用します。がん細胞は盛んに分裂を繰り返していますが、正常な細胞の中にも分裂が活発なものがあります。
特に影響を受けやすい正常細胞には以下のようなものがあります。
- 骨髄細胞:白血球、赤血球、血小板を作る細胞
- 毛髪をつくる細胞:脱毛の原因
- 消化管の粘膜細胞:口内炎、下痢、便秘などの原因
- 生殖細胞:無月経の原因
これらの細胞がダメージを受けることで、様々な副作用が現れるのです。
投与量の調整が必要な場合
患者さんの状態によっては、標準的な投与量を減量する必要があります。
エピルビシンの投与量調整
エピルビシンは心臓への毒性(心毒性)があるため、総投与量の管理が重要です。
総投与量が900mg/m²を超えると心毒性のリスクが増大するため、過去の治療歴を含めて、アントラサイクリン系薬剤の総投与量を確認する必要があります。
また、肝機能が低下している患者さんでは、以下のように減量が検討されます。
| 肝機能の状態 | 減量の目安 |
|---|---|
| T-Bil 1.2~3.0mg/dL かつ AST 2~4×正常上限 | 50%減量 |
| T-Bil 3.1~5.0mg/dL かつ AST >4×正常上限 | 75%減量 |
シクロホスファミドの投与量調整
腎機能または肝機能が低下している場合は、以下のように調整されます。
| 臓器 | 機能低下の程度 | 調整内容 |
|---|---|---|
| 腎臓 | GFR<10mL/min | 25%減量 |
| 肝臓 | T-Bil 3.1~5.0mg/dL または AST>3×正常上限 | 25%減量 |
| 肝臓 | T-Bil>5.0mg/dL | 投与中止 |
5-FUの投与量調整
T-Bilが5.0mg/dL以上の場合、5-FUの投与は中止されます。
併用禁忌・併用注意の薬剤
FEC療法を安全に実施するためには、他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
併用禁忌(絶対に併用してはいけない薬剤)
| FEC療法の薬剤 | 併用禁忌薬 | 理由 |
|---|---|---|
| 5-FU | テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム配合剤(TS-1など) | 5-FUの血中濃度が著しく上昇し、重篤な副作用のリスク |
| シクロホスファミド | ペントスタチン | 心毒性の増強により死亡例の報告あり |
併用注意(慎重に使用する必要がある薬剤)
| FEC療法の薬剤 | 併用注意薬 | 注意点 |
|---|---|---|
| 5-FU | フェニトイン | フェニトインの血中濃度が上昇し、中毒症状が現れる可能性あり。血中濃度のモニタリングが必要 |
| 5-FU | ワルファリン | ワルファリンの作用が増強される可能性あり。プロトロンビン時間の定期的なモニタリングが必要 |
副作用対策と日常生活での注意点
1. 血管外漏出への対策
エピルビシンは「壊死性抗がん剤」と呼ばれ、血管の外に漏れると周辺組織に重大なダメージを与える可能性があります。
点滴中に以下のような症状を感じたら、すぐに医療スタッフに伝えてください。
- 点滴部位の痛み、腫れ、熱感
- 点滴の流れが悪くなった感じ
- 点滴部位の皮膚の変色
血管外漏出が起こった場合、デクスラゾキサンという治療薬の投与が検討されます。早期の対応が重要です。
2. 着色尿について
エピルビシン投与後、1~2日間は尿が赤色やオレンジ色に着色することがあります。これは薬剤の色が尿に排泄されているためで、通常は心配ありません。
ただし、この着色によって血尿との区別が難しくなる可能性があります。
3. 出血性膀胱炎の予防
シクロホスファミドは、膀胱の粘膜に炎症を起こすことがあります。
予防のためには、以下の点に注意してください。
- 投与後1~2日間は水分を多めに摂取する(1日2リットル程度が目安)
- こまめにトイレに行き、尿を長時間ためない
- 排尿時の痛みや灼熱感がある場合はすぐに連絡する
尿の色による血尿の判断は難しいため、自覚症状を重視してください。
4. 脱毛への対応
FEC療法では、83.9%の患者さんにGrade3の脱毛が報告されています。
脱毛は治療開始後1~3週間で始まることが多く、治療中は続きます。しかし、すべての治療が終了した後は、髪の毛は回復します。
対応方法としては以下があります。
- ウィッグ(かつら)の準備:治療開始前に選んでおくと、自然な髪の状態に近いものを選べます
- 帽子やスカーフの活用
- 医療用ウィッグの購入費用に対する助成制度を利用(自治体により異なります)
5. 便秘・イレウスへの注意
5-FUは便秘やイレウス(腸閉塞)を起こす可能性があります。
以下の点に注意してください。
- 排便の状況を記録する
- 便秘が続く場合は早めに相談する
- 激しい腹痛がある場合はすぐに連絡する
- 必要に応じて緩下剤を使用する
6. 好中球減少と感染症予防
好中球は白血球の一種で、細菌感染から体を守る役割があります。FEC療法では33.6%の患者さんでGrade3以上の好中球減少が報告されています。
好中球が減少すると、感染症にかかりやすくなり、重症化しやすくなります。
感染症予防のポイント:
- 手洗いとうがいをこまめに行う
- 人混みを避ける
- 生ものの摂取を控える
- 38℃以上の発熱があればすぐに連絡する
- 市販の風邪薬は、投与後7日以降は使用を控える(熱が出ても気づきにくくなるため)
7. 悪心・嘔吐への対策
制吐薬が投与されますが、それでも悪心や嘔吐が現れることがあります。
対応方法:
- 処方された制吐薬を指示通りに服用する(吐き気がなくても予防的に服用)
- 少量ずつ、数回に分けて食事をする
- 冷たいもの、さっぱりしたものが食べやすい場合が多い
- 無理に食べようとせず、食べられるものを食べられる時に摂取する
- 強い吐き気が続く場合は、追加の制吐薬について相談する
8. 心機能のモニタリング
アントラサイクリン系薬剤であるエピルビシンには心毒性があります。
治療前および治療中に、心エコー検査などで心機能をチェックします。息切れ、動悸、むくみなどの症状がある場合は、すぐに担当医に相談してください。
治療を受ける前の準備
治療開始前に治療しておくべきこと
化学療法を安全に受けるために、以下の点を治療開始前に対処しておくことが推奨されます。
- 虫歯の治療:口内炎が起こると治療が困難になる
- 巻き爪の処置:感染の原因になりやすい
- 皮膚の化膿病変の治療:感染のリスクを減らす
医療チームとのコミュニケーション
治療を始める前に、薬剤師や看護師からオリエンテーションが行われます。疑問や不安な点は、遠慮なく質問してください。
また、治療中も定期的に医師の診察があり、副作用の状況や体調を確認します。気になる症状があれば、些細なことでも伝えることが大切です。
FEC療法の歴史的背景と現在
FEC療法は1990年代以降、乳がんの標準的な化学療法として広く使用されてきました。当時は多くの患者さんがこの治療を受け、一定の成績を上げてきました。
しかし、医療は常に進歩しています。より効果的で副作用の少ない治療法を目指して、世界中で臨床試験が行われてきました。
その結果、2023年版の診療ガイドラインでは、5-FUを加えることによる明確な利益が証明されず、むしろ副作用のリスクが懸念されるため、FEC療法は推奨されない治療法となりました。
現在では、TC療法やEC療法、またはアントラサイクリン系とタキサン系を組み合わせた逐次療法が主流となっています。
患者さんとご家族へのメッセージ
乳がんの治療法は日々進歩しています。現在推奨されている治療法は、多くの臨床試験の結果に基づいて、最も効果的で安全性の高いものが選ばれています。
もし過去にFEC療法を受けた方がこの記事を読んでいる場合、当時はその治療が最善の選択肢だったということをご理解ください。医療は常に進化しており、現在の基準で過去の治療を評価することは適切ではありません。
また、これから乳がんの化学療法を受ける方は、担当医とよく相談して、自分に最も適した治療法を選択してください。ガイドラインは一つの指針ですが、個々の患者さんの状態に応じて、最適な治療は異なる場合があります。
化学療法には副作用がありますが、適切な支持療法により、多くの副作用は軽減できます。医療チームとよくコミュニケーションをとり、不安や疑問があれば遠慮なく相談することが大切です。
参考文献・出典情報
- 日本乳癌学会「患者さんのための乳がん診療ガイドライン2023年版」Q16 乳がん治療に使われる薬剤にはどのようなものがありますか
- 国立がん研究センター がん情報サービス「乳がん 治療」
- 日本癌治療学会「制吐薬適正使用ガイドライン」2023年10月改訂 第3版
- 東北大学病院がんセンター「乳癌FEC100療法」
- 国立がん研究センター中央病院「CEF療法の手引き」
- ファーマスタイルWEB「乳がん治療 最前線」2025年7月
- オンコロ「ホルモン受容体陽性乳がんに対する新規治療薬への期待」2025年7月
- がん研有明病院「疾患別の薬物療法」
- 聖マリアンナ医科大学 ブレスト&イメージング先端医療センター「薬物療法」
- 日本乳癌学会「乳癌診療ガイドライン2022年版 薬物療法」

