ロズリートレク(一般名:エヌトレクチニブ)は、2019年6月に承認された「NTRK融合遺伝子融合が認められる進行・再発の固形がんに対する治療薬」です。
特定の遺伝子の異常に作用する薬なので、分子標的薬の一種といえます。この薬がどのタイプのがんに使用でき、効果や副作用がどのくらいあるのか、解説したいと思います。
ロズリートレクの特徴
まず重要な特徴は、「NTRK融合遺伝子」を標的にする始めての薬であることです。
がん細胞増殖の一因として、NTRK融合遺伝子から作られる融合TRK(神経栄養因子受容体)の働きがあることが分かっており、ロズリートレクは融合TRKの働きを阻害することでがんの増殖を抑える、という薬です。
遺伝子の説明は以下のとおり複雑ですが、簡単にいえば「自分が保有しているがん細胞の遺伝子検査の結果、「NTRK融合遺伝子融合あり」と診断された人に使える薬となります。
(NTRK融合遺伝子とは、NTRK遺伝子(NTRK1、NTRK2、NTRK3、それぞれTRKA、TRKB、TRKCタンパク質をコードする)と他の遺伝子(ETV6、LMNA、TPM3など)とが染色体転座の結果、融合してできる異常な遺伝子)
NTRK融合遺伝子の融合が認められるがんはどのようなものがあるのでしょうか。
非小細胞肺がんや結腸・直腸がんなどの患者数の多い固形がんでは、その確率は1%程度とされています。該当する人は100人に1人という体確率です。
しかし患者数の少ない神経内分泌腫瘍、唾液腺がんでは多く認められるといわれています。
NTRKだけでなく、ロズリートレクはROS1(c-rosがん遺伝子1)遺伝子陽性にも効果を示します。
分かりやすくいえば、自身のがん細胞に「ROS1遺伝子変異陽性」あるいは「NTRK融合遺伝子融合」があった場合に使える薬です。
例えば非小細胞肺がんでは、1%程度の確率で「ROS1遺伝子変異陽性」と診断されることがあります。
ロズリートレクが使用できるがんの部位
これまで、がん・肉腫に使われる薬は「がんの部位ごと」でした。
今後の主流は「がんの部位を問わず、遺伝子変異に対応して薬剤を承認する」形になりつつあります。
ロズリートレクはこのように「臓器横断的に承認」された薬です。一般的によく知られた肺がんや大腸がん、乳がんでは先述のとおり変異が認められる可能性が少ないですが、希少がんでは陽性になる確率がそれより高くなります。
【ロズリートレクが使用できるがんの部位】
成人や小児の様々な固形がんや肉腫です。具体的には
乳児型線維肉腫、神経膠腫、神経膠芽腫、びまん性橋グリオーマ、先天性中胚葉性腎腫、悪性黒色腫、炎症性筋線維芽細胞性腫瘍(IMT)、子宮肉腫、その他軟部腫瘍、消化管間質腫瘍(GIST)、乳腺分泌がん、唾液腺分泌がん、原発不明がん、肺がん、大腸がん、虫垂がん、乳がん、胃がん、卵巣がん、甲状腺がん、胆管がん、膵臓がん、頭頸部がんなどが挙げられます。
ロズリートレクの効果
【臨床試験による効果測定】
・奏効率:56.9%(NTRK融合遺伝子陽性の固形がんの成人患者51名が対象)
・5例中4例が奏功(0歳~4歳の小児を対象とした試験)
ロズリートレクの副作用
副作用として疲労、便秘、味覚異常、浮腫、めまい、下痢、吐き気、知覚異常、呼吸困難、痛み、貧血、認知障害、体重増加、嘔吐、咳、血中クレアチニン増加、関節痛、発熱、筋肉痛が認められます。
それぞれの発生確率は公表されていませんが、主な3の試験での確率は以下のとおりです。
- 全有害事象の発生確率:99.5%、98.7%、100%
- Grade3以上の有害事象:63.6%、67.1%、47.4%
- 死亡に至った有害事象:6.3%、7.9%、1.8%
- 重篤な有害事象:39.3%、39.5%、42.1%
- 投与中止に至った有害事象:10.2%、7.9%、3.5%
- 休薬に至った有害事象:45.1%、51.3%、43.9%
- 減量に至った有害事象:35%、25%、8.8%
この数値をみると、従来使われている薬と比較して、重い副作用が出やすい薬だということが分かります。
Grade3以上の副作用、重篤な副作用の発生割合が4割~6割程度に上り、それが原因で休止や減量、投薬中止に至ったケースが多く存在する、ということが分かります。
期待できる新薬で、奏効率は期待できるものの、副作用が起きやすく長く続けることが困難な薬である、といえる数値です。
ロズリートレクが使えるかどうか調べる検査方法は?
ROS1およびNTRK遺伝子の検査は、がん遺伝子パネル検査で調べることができます。
2019年6月から保険適応となったパネル検査である、
- 国立がん研究センターとシスメックスが開発した「NCCオンコパネル」
- 中外製薬が開発した「ファウンデーションワン」
いずれでも遺伝子変異の有無、遺伝子融合の有無を調べることが可能です。
これはがんゲノム医療の一環になります。「がんゲノム医療とは何か?」「パネル検査の保険適応の条件」などについてはこちらの記事で解説しています。