がん専門のアドバイザー、本村です。
今日のテーマは「AHCC」という製品です。
AHCCはキノコに含まれる成分をもとに作られた「健康食品」で、アミノアップ化学という会社が開発・製造をしています。
1990年に販売が開始されて以降、書籍も出版され、その中で「がん治療の医療現場で使われている」「臨床試験が行われている」などの表現があることから、私がサポートしている患者さんからも「AHCCはがんに効くのか?」などの質問を受けることがあります。
販売されてからだいぶ経つので注目度が高い、というわけではないですが、よく知られた製品であるといえます。
ちなみに先ほどGoogleで検索してみると、以下のような広告も出されていました。
臨床試験で実証済み、とあります。なにがどう実証されているのでしょうか。
いったいAHCCとはどんな製品なのでしょうか。
中立的な立場で分析をしてみましょう。
AHCCは製品として、どのカテゴリに入るのか
日本では食品の分類について、厚生労働省によって以下のように分類をしています。
右から特定保健用食品とはいわゆるトクホのことです。最近ではコーラにもトクホマークがついているのでよく知られていますね。
栄養機能食品とは、科学的根拠が確認された栄養成分(ビタミンCなど)を一定の基準量含む食品であれば表示できます。カロリーメイトなどがこれに当たります。
機能性表示食品とは、消費者庁に科学的根拠に基づいて届出ることで正式に「登録」されます。
さて、AHCCはどこのカテゴリに入るかというと、「いわゆる健康食品」であり、一般食品ということになります。
一般食品は機能性の表示ができません。
アミノアップ社のWebサイトでは現在、以下のような表記がされています。
AHCCは本来、機能性の表示ができない「一般食品」ですが「機能性食品の製品(product)」として掲載されています。
この会社で「機能性表示食品」として消費者庁に登録されているのは隣の「Oligonol(オリゴノール)=運動で生じる身体的な疲労感を軽減する効果を表示できる」だけです。
機能性食品と機能性表示食品は別だ、ということなのでしょうが、まぎらわしい表現をしているのではないかと思います。
AHCCの癌(がん)に対する効果、効能は?
AHCCの原料はアガリクス、マイタケなどを除く数種類のキノコ類です。
キノコの菌糸体を液体タンクで長期間培養し、培養終了後に酵素反応、滅菌、濃縮、凍結乾燥などの工程を経て製品化されています。
それによって生成される「多糖類=αグルカン、βグルカンなど」が特徴的な成分だといえます。
一般食品なので公式に効果、効能をうたうことはできませんが、アミノアップ社では自社での研究成果として様々な書籍や論文などで効果、効能を提示してます。
総合して簡潔にまとめると「AHCCに含まれる多糖類(ほとんどがβグルカンなど)により、樹状細胞やリンパ球などのいわゆる免疫細胞を活性化し、がん細胞に対して何らかの抑制効果を発揮する」ということになります。
この効果の根拠となるのが「臨床研究」です。
人間が協力し、病気の原因を明らかにしたり、予防・診断・治療方法を開発したりすることを目的とした研究をすべて「臨床研究」と呼ぶので、臨床研究の幅は広いです。
厚生労働省が管理し、医薬品の効果を確認することを治験といいますが、これが最も厳格な試験になります。治験も広い意味では臨床研究に該当するということです。
本来、医薬品を投与する研究と、一般食品を摂取する研究(AHCCの臨床研究)は、その厳格さや社会的インパクト、意味合いは大きく異なりますが、カテゴリ的には同じ「臨床研究」という枠内に入ります。
人間の癌に対するAHCCの臨床試験
HCCに関する科学的検証、特に人間に対する臨床試験については、世界的な医学論文のデータベース「Pubmed(パプメド)」に2件掲載されています。
ここに掲載される論文は第三者の目を通してから掲載されるため信頼性が高いと言えます。
癌(がん)患者さんのAHCC摂取 臨床試験1
・報告があった年=2002年
・試験実施機関=関西医科大学第一外科学教室
【試験の目的】
肝細胞がんで手術をした患者さんに対して、AHCC摂取により、手術後の再発率や死亡率に違いがあるかを検証する。
【試験の内容】
1992年2月から2001年10月に肝細胞がんの手術を受けた患者さんのうち以下の条件を満たした人が対象。
1.手術で腫瘍が取りきれていること
2.手術で取り出した腫瘍が組織学的に肝細胞がんと診断されていること
222名がこの臨床試験に参加。患者の希望により、AHCCを摂取するグループ(113名)、AHCCを摂取しないグループ(109名)に分け、手術後の再発率や死亡率に違いが生まれるかを検証する。
【試験の結果報告】
1.AHCCを摂取したグループは摂取しないグループに比べて肝細胞がんの再発率が0.639倍、あらゆる死因による死亡率が0.421倍になったと報告されています。つまり、肝細胞がんの手術後にAHCCを摂取すると、再発を少なくしたり、生存を延長したりできる可能性を示唆しています。
2.試験期間中に3名の患者さんが軽度の吐き気を理由にAHCCの摂取を中断した以外には、AHCCによると思われる副作用はいっさい認められていない、と報告しています。
【報告の分析】
・AHCCを摂取した患者さんに認められたという再発率の低下や死亡率の低下について、AHCCだけの効果かどうかが分からない、という点が1つの問題点です。
AHCC以外の何かの取り組みを禁止していたわけではないので、AHCCを摂取すること以外の他の要因が試験の結果に影響を与えている可能性があります。(例えば術後のアルコール摂取など)
・、なぜ、AHCCが患者さんの再発率や死亡率に影響を与えたのかについて、動物実験などでは免疫細胞の活性化などが証明されていますが、今回の試験ではその点の検討が行われていません。
そのためこの報告からだけでは、AHCCの効果に関して免疫機能への影響については、推測の域を出ることができないといえます。
癌(がん)患者さんのAHCC摂取 臨床試験その2
・報告があった年=2006年
・試験実施機関=タイの研究機関
【試験の目的】
手術などの積極的な治療が実施できず、緩和ケアを受けている進行肝細胞がん患者さんに対してAHCC摂取により生活の質などに変化があるかどうかを検証する
【試験の内容】
進行肝細胞がん患者さん44名が対象。このうち34名がAHCCを摂取。残りの10名がプラセボ(外見上同じでも、AHCCの成分は入っていない偽物)を摂取して、両者の間で生存期間、生活の質(QOL)、血液検査値、免疫機能などに変化があるか比較検討する。
【試験の結果報告】
AHCCを摂取したグループの方が、プラゼボを摂取したグループに比べて、生存期間が延長し、摂取して三か月後の生活の質が改善し、血液検査上もアルブミン値(肝臓で合成されるタンパク質。肝臓の機能の指標の一つ)が高くリンパ球の数が多くなっていた、と報告されています。
免疫機能に関しては、血液中のインターロイキン12とネオプテリンを調べています。AHCC摂取群の方が、プラセボ摂取群より、若干高い値を示しています。
【報告の分析】
対象が少数で摂取群と摂取しないグループの数にも違いがあるため統計学的有意差があるとはいえません。結論としては、AHCCとプラセポで差があった、とはいえません。また、国内の臨床試験と同じく、AHCCだけの効果なのかどうかが分かりません。
癌(がん)とAHCCの効果 まとめ
【QOLを改善するか?】
肝細胞がん患者において、AHCCを摂取することによって、生活の質を改善する可能性があります。
【抗がん剤などの副作用を軽減するか】
AHCCを摂取することによって、手術、抗がん剤、放射線治療の副作用の軽減を人間の臨床試験で証明した報告は、現段階ではありません。
【再発を予防したり、生存期間を延長したりするか?】
肝細胞がん患者において、AHCCを摂取することによって、再発を予防したり、生存期間を延長したりする可能性はあります。
【注意点】
摂取することによる健康被害として、軽度の吐き気が臨床試験実施中に起きたとして報告されていますが、因果関係は不明です。
いくつかの臨床試験、研究の報告はありますが、現時点では医薬品でも医薬部外品でもなく、機能性表示食品でもない、ふつうの食品であるといえます。開発会社と協力している一部の医師によって研究が薦められ「がんに対して効果がある」と報告されている、という状況です。
もちろん標準治療(手術、抗がん剤、放射線)を実施している病院でAHCCが提供されることは100%ありません。
個人経営のクリニック、保険外医療を実施するクリニックなどで提供されている、ということです。
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