がん専門のアドバイザー、本村です。
ホメオパシーは1796年に、ドイツ人の医師サミュエル・ハーネマンが体系化した療法です。
まず、ホメオパシーには以下の2つの基本原則があります。
1.類似の原則:
ある症状で苦しんでいる人に,健康な人に与えた場合に同じような症状を引き起こす物質(ホメオパシー薬=レメディ)を投与すること。
2.最小限で効果的な投与を行うこと:
ある原料をレメデイにする過程で非常に高い希釈率で薄め(実際には10の60乗倍程度)、心身に悪影響を及ぼさず、自然治癒力に働きかける作用のみを得るようにして患者の治療を行うこと。
です。
原則だけみれば少し難解ですが、分かりやすく例えれば「ハチに刺されたとき、ハチの毒をかなり薄めた砂糖玉=レメディを飲んで治す」という感じでしょうか
日本語に訳すと「同質療法」「同種療法」となるように、毒をもって毒を制す。病の原因となるものをもって病を制す、という考え方に基づいています。
ホメオパシーでは「レメディ」によって体に備わっている自然治癒力を呼び起こし、患者が全体のバランスを取り戻しながら回復する、と考えられているのです。
ホメオパシーは世界的にも広く知られた療法
ホメオパシーは、世界の80カ国以上で用いられ、特に欧州では約30%の人がセルフケアとして利用し、欧米人の75%がホメオパシーを知っている、という統計があります。
ホメオパシーを行う者は フランス、オーストリア、ハンガリー、ロシアなど,法的規制のもとに医師のみが行う国と英国など法的規制のない国や、ドイツのように独自の形態を取っている国があります。
つまり医療として扱っている国もあれば、そうでない国もあるということです。
日本ではいわゆる「保険適応内の医療」ではありません。そのため保険適応ではないですし、法的な規制は一切ない、という状況です。
ちなみに、日本学術会議は2010年に会長談話として「ホメオパシーの治療効果は科学的に明確に否定されています。それを”効果がある”と称して治療に使用することは厳に慎むべき行為です」と発表しています。
この談話を日本医学会も全面的に支持する、と公表していますので、日本の医療界では「ホメオパシーは非科学的であり排除すべき存在」と位置付けている、といえます。
癌(がん)治療として客観的な検証はされているのか
レメデイは3,000種以上あるとされていますが、なぜ効くのかはいまだ解明されていません。
レメディを支持する人は「科学的に解明はされていないが、実際に様々な疾患に対して効果はある」と主張するいっぽう、支持しない人は「プラセボ効果(偽薬による思い込み的な効果)しかない。医療ではなく直接的には何の効果もない」と主張しています。
これらの論争に何らかの決着を見出そうと、世界中で様々な無作為化比較試験や, 多くの研究論文が報告されてきました。
このような報告には様々なレベルのものがありますが、信頼性の高い医療論文データベースであるPubMed(パプメド)で検索したところ、ホメオパシーが、がんの縮小や生存率向上、予後の向上に寄与したとする論文は現時点では存在していません。
がん治療としては効果を示せる根拠がない、というのが結論になります。
なおQOL(生活の質)の向上や、がん治療の副作用の軽減に関与するかどうかについてはいくつかの無作為化比較試験(=研究の対象者をランダム(無作為)に2つのグループに分け。一方には評価しようとしている治療や予防のための介入を行い(介入群)、もう片方には介入群と異なる治療(従来から行われている治療など)を行う試験)
ホメオパシーはがんによって引き起こされる症状を軽減できるか?
PubMedで無作為化比較試験が2件あります。
1つは手術、抗がん剤、放射線治療を完了した乳がんの女性の「ホットフラッシュ」に対してのものです。
プラセボ(偽薬。例えば治療にまったく関係ないビタミン剤など)と比較してホメオパシーが有用であったことを示す確証はないと結論を示しています。
しかし、全体的健康感の指標は改善する可能性があると述べています。
もう1つの試験では乳がんサバイバーにおけるエストロゲン減少の症状に対してプラセボと比較してホメオパシーが有用であったことを示す確証はないと述べているものです。
以上より、現時点では乳がん患者に対してホメオパシーによるホットフラッシュを含めたエストロゲン減少の症状を改善させる効果に対する根拠はないとされています。
その他の部位のがん、症状に関しては試験や論文がまだありません。
また、がんによって引き起こされる「メンタル的な苦痛や問題」についての報告、試験、論文もありません。
ホメオパシーはがんによって低下したQOL(生活の質)を改善できるか?
これに関してはシステマティックレビュー(=文献をくまなく調査し、ランダム化比較試験(RCT)のような質の高い研究のデータを(偏りを限りなく除いたうえで)分析を行うこと)がPubMedに1件あります。
ここでは「ホメオパシーにはがん治療における効果(がんと闘うための体力増強、身体的・精神的な健康の改善病気や治療の結果起こる痛みの緩和)を示す十分な確証はない」としています。
結果、現時点では「がん患者さんに対してホメオパシーは従来の治療のみを行った群と比較して全般的なQOLのうちがんと闘うための体力増強、身体的・精神的な健康の改善、病気や治療の結果起こる痛みを改善させる根拠はない」という状況です。
ホメオパシーはがん治療に伴う副作用などの有害事象を軽減できるか?
副作用に関連するものとして、システマティックレビューが1件、無作為化比較試験が3件あります。
まず、システマティックレビューでは, ホメオパシー薬(Calendula)が放射線治療中の急性皮膚炎を予防する可能性があるとしています。また、化学療法による口内炎がホメオパシー薬(TraumeelS)により改善する可能性があると述べています。
また1つめの無作為化比較試験では、標準的な悪心予防に複合ホメオパシー薬(Cocculine)を追加することについて、早期乳がん患者における抗がん剤による悪心・嘔吐の予防には効果がないと結論を示しています。
2つめの無作為化比較試験ではホメオパシー薬(TraumeelS)が骨髄移植を受けた小児の口内炎の苦痛と病悩期間を改善する可能性があると述べています。
3つめの無作為化比較試験では放射線治療における皮膚炎において皮膚の熱感に対してはホメオパシー薬(Belladonna、X-ray)によって改善する可能性があるとしています。
以上より、がん患者さんに対してホメオパシーはプラセボと比較して口内炎や放射線治療における皮膚炎を軽減させる可能性があると考えられます。一方で抗がん剤による悪心・嘔吐の予防を軽減させる医学的根拠は現時点ではありません。
ホメオパシーでのいわゆる「好転反応」について
疾患に対する医学的知識や臨床経験をもっている治療者から投与されたホメオパシーのレメディ自体は安全であることが多い、とされています。特に欧米の医療者が行うホメオパシーで何らかの問題や症状の悪化につながることはほぼない、とされています。
一点、注意が示唆されているのは「アグラベーション」についてです。ホメオパシーでの副作用的反応には「アグラベーション」があります。
「アグラベーション」は、日本でよく言われるところの「好転反応」です。これは病状が回復する前に一時的に悪化するという状態を指します。
一般的な医療でも「アグラベーション」はあり、薬物を投与した場合に低確率で起きる可能性があるとされています。
が、本来はアグラベーションが起こらずに回復するのが望ましく、これがもしオメオパシーの途中で起きたらホメオパシーをいったん中止すべきであり、もし回復中の一時的な悪化でなければ病状の悪化であり、そのままホメオパシーを続ければトラブルに発展することがあります。
関連事象としてレメディを誤って使用し、新生児が死亡した事件も報告されています(ビタミンK欠乏症の新生児に対して、レメディを投与し新生児が死亡した事件)。
癌(がん)とホメオパシー まとめ
医学的に明確な根拠がない、ということは知られているホメオパシーですが、古来より支持している人が一定数存在することや、神秘的な要素もあることから、がんに罹患された方々でもホメオパシーを実践する人は多くいます。
私がサポートする患者さんでもホメオパシーを実践してきた人は多数いますので、その経過についてはある程度事実として把握しています。
ホメオパシーがどうなのか、ということを把握するには、がんという病気がどんな病気なのかをしっかり知っておくことが重要です。
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