がん専門のアドバイザー、本村です。
がん患者さんに対する「ゲルソン療法」は低ナトリウム・高カリウムのベジタリアン食が基本で、それに加えて種々の薬剤、コーヒー浣腸からなる療法です。
古くから存在するうえ、最も広く知られたがんの民間療法の1つだといえます。
この療法を生み出したのはマックス・ゲルソン氏で、ドイツ生まれの内科医です。
医者としての50年の経歴のうち、最後の23年間を米国で過ごしています。
1959年に他界しましたが、彼の治療法を引き継ぐためのはっきりしたシステムを残さなかったため、77年に娘のシャルロット・ゲルソン・ストラウス氏が(ノルマン・フライツ氏と共同で)現在はカリフォルニア州ボニータに本拠を置く、ゲルソン研究所を設立しました。
この研究所はゲルソン療法を実施するメキシコ、ティファナの診療所の監督も行っています。ある外部報告書によると、ティファナの診療所では毎年約600人の患者を扱っているとされています。
癌(がん)を治す?ゲルソン療法誕生の背景と初期の治療法
マックス・ゲルソン氏は1881年、ドイツで生まれ、1907年、フライブルク大学医学部を卒業しています。
その後、ドイツ、オーストリア、フランスで医師として働き、1936年、米国に渡りました。
1938年にニューヨークの医師免許を取得し、44年には米国の市民権をえて、ニューヨークで自らの診療所を開院する一方、近くのゴサム病院での診療も始めました。
ゲルソン氏は米国医師会(AMA)、ニューヨーク州医師会、ニューヨーク郡医師会の会員でもありました。
しかし、58年、ニューヨーク郡医師会は長い調査の末、ゲルソン氏の会員権を剥奪しました。
同氏が46年にラジオ出演した際、解説者のレイモンド・グラム・スウィング氏がゲルソン療法ががんに効果的であると説明したことが、ゲルソン氏の個人的な宣伝にあたると糾弾したのです。
詳細は明らかではありませんが、ゲルソン氏はこれにより、病院特権や医療事故に対する保険も失ったと伝えられています。
46年、がん研究一般に対し連邦政府の援助を増加するという法案に関する聴聞会で、ゲルソン氏は上院の外交関係委員会の小委員会で証人となりました。
小委員会でゲルソン氏は、自分の背景、つまりがん治療法の開発の経緯を説明し、彼の療法で治療した患者10人の病歴に関して報告する文書を提出しました。
その後患者のうち5人が聴聞会に呼ばれ、尋問を受けました。ゲルソン氏はそれらの患者の進行したがんが彼の療法の結果、治癒したと述べました。
証人喚問とラジオ出演により、ゲルソン氏は国内で注目の的となったのです。
同じ年、ゲルソン氏に関する情報がほしいという多くの要望に応える形で、「米国医師会雑誌(JAMA)」にある論説文が掲載されましたが、それはゲルソン氏と彼のスポンサーであるニューヨークのロビンソン財団を「未だ確立していない幾分いかがわしいがん治療法を推進している」として批判するものでした。
この論説はゲルソン氏が「良好な結果と感じた臨床上の印象を示しただけで、その療法の実際の価値についての科学的証拠とはとても言えるものではない」というAMAの見解を示していました。
49年、AMAの「薬学と化学に関する評議会」はゲルソン療法に関するAMAの見解を繰り返し、「食品および他の栄養素の摂取方法を変えることでがんの抑制に特別な効果があるという考え方には何ら科学的根拠がない」と結論づけました。
また、AMAの「未だ証明されていないがん治療法に関する委員会」も57年、ゲルソン療法に対する声明を初めて発表しました。
生野菜や果物の摂取、塩分や脂肪分の制限や禁止など、ゲルソン療法にはある種のがんやその他の病気にかからないようにするための食事としての現在の常識と一致する部分がりますが、食事と「解毒」によってがんが「退縮」することがある、というゲルソン氏の主張については確証がない、としています。
癌(がん)患者さんに対するゲルソン療法の理論
ゲルソン氏は数十年をかけて独自の食事療法を開発しました。
開発の手法は大部分が経験に基づくもので、食物や薬剤の様々な種類や組み合わせを患者に試し、良好な成績を上げたものを書き留め、それに従って後の患者の療法を調整した、と本人は説明しています。
そうするなかで、なぜ効果が見えるものとそうでないものがあるのかを理論づけ、観察の説明となる仮説を立て、1958年の著書「マックス・ゲルソン ガン食事療法全書(徳間書店)」をはじめ、数々の文献をドイツ語と英語で発表し、その中で自らの療法の開発について説明し、治療効果を認めたと考えられる患者の病歴を紹介しました。
ゲルソン氏が正式な医学教育において食事の治療的側面について学んだかどうかはわかりませんが、医者になって間もない頃、自身のひどい片頭痛を治すための食事療法を考案した、と報告しています。
その療法が成功したと見るや、彼は皮膚結核(尋常性狼瘡)、喘息、肺結核、関節炎など、あらゆる病気の治療に食事療法を用い始めたのです。
28年には胆管がん患者からの要請により、結核治療に用いた食事療法を使ってがんの治療を始め、その患者は彼の療法により治癒したと伝えられています。
40年代半ば、ニューヨークで開業するまでに、仕事の中心はがん治療となっていました。がんの食事療法について彼が英語で書いた最初の論文が発表されたのは45年のことです。
その論文は食品やミネラルおよびビタミン補強品の摂取、生レバー(子牛の生の肝)抽出物の注入などによる、高カリウム・低ナトリウムで無脂肪の栄養療法の概略を述べたものでした。
彼はこの療法で「健康状態全体」に改善が見られ、なかには「腫瘍の退縮」が見られたとされる10人の患者について報告しました。
ゲルソン氏はその後発表した論文の中で、ヨ-ド溶液(ルゴール)・甲状腺抽出物・カリウム溶液・パンクレアチン・ビタミンCなど、治療に取り入れた食物以外の物質について説明しています。
彼の治療を受けた患者の中でさらに6人は、腫瘍周辺の炎症が軽減し、痛みがやわらぎ、心理状態が良くなり、少なくとも一時的に腫瘍が縮小したと記しています。
50年代半ばには療法の構成とそれらを使用する理論的根拠を患者の臨床経過とともに発表しました。
ゲルソン氏はがんを、基本的に他の多くの病気と類似した「変性」疾患であるとしています。
また、変性疾患には「代謝障害」が基礎にあって、代謝を適切に保つには正常な肝機能が不可欠であると考えました。
彼の考えによると、がん患者は、脂肪・蛋白質・炭水化物・ビタミン・ミネラルの代謝、酸化酵素の活性、腸内細菌の活動など、生理的機能のいくつかに障害があり、それらの機能的欠陥が、悪性細胞の増殖に好都合の体内環境をつくり出していると考えたのです。
ゲルソン氏は自分の療法が、悪性細胞が増殖を統けるのに必要な条件とは逆の状況をつくり出すと考えました。
彼は体から「毒素」を取り除くこと、肝臓を健康な状態に戻すことを重要視しました。
がんや肝硬変などにより肝臓に損傷がある患者は、(肝臓が正常に戻らないため)彼の療法で治癒する可能性は低いと記しています。
また、死亡した患者に肝臓の著しい変性が認められたことを挙げ、腫瘍の退行の過程で何らかの毒性要素が血流の中に入り込んだ結果によると推察しました。
毒性を示す腫瘍分解物質が肝臓その他、生命維持に不可欠な臓器に害を与えると考えたのです。
この見解から、患者に対し解毒を行うこと、つまり自家中毒で死なせないようにすることが治療における最も重要な第一歩であるとゲルソン氏は考え、解毒の重要性を述べるためにヒポクラテスの「特別スープ」と「浣腸の使用」に関する一節を引用しました。
ゲルソン氏は最初の頃、がん治療の一環として、3、4時間に1度のコーヒー涜腸を処方ました。コーヒー涜腸が胆汁の分泌を刺激し、その結果毒性物質の排泄を早めるという考えに基づいてのことです。
解毒の必要性が生じるのは、体内で有害物質が生成されるからだけではなく、農業における殺虫剤や除草剤の使用によって外部から体内に毒素が侵入することにも起因するとゲルソン氏は考えています。
したがって彼の食事療法では有機肥料で成育した食物を使うことを強調しています。
また、がん治療では体を補強し、体全体から毒素を取り除くことで、体が本来持っている治癒のメカニズムを取り戻さなければならないと理論づけています。
カリウムとナトリウムのバランスも重視
体内のカリウムとナトリウムのバランスもゲルソン療法を構成する重要な要素の1つです。
両者のバランスが崩れると腫瘍の増殖に有利な体内環境をつくり出してしまうと彼は述べています。
彼はがん患者は塩分をとらず、カリウム(グルコン酸カリウム、リン酸水素二カリウム、酢酸カリウムという形で)を補充するべきだと考えていました。
カリウムとナトリウムのバランスのがん患者に対する生理学的意味に関するゲルソン氏の見解については、彼の死後、いくつかの文献が発表されました。
これらの文献は、カリウムの補充とナトリウムの制限によって腫瘍の形成が抑えられるというゲルソン氏の理論に様々な生物学的根拠を与えるものでした。
また、がん治療における酸化反応の役割もゲルソン理論の中心的要素の1つです。
酸素が枯渇した環境では腫瘍細胞が増殖し、酸化反応が起こると腫瘍は破壊されるという考え方です。
そこで彼は、食生活に酸化酵素を自然のままの状態で取り入れること、具体的にはステンレススチール製のミキサーや圧搾器で作った野菜と果物のジュースを飲むことが不可欠だと考えていました(遠心分離式ジューサーやミキサーの使用は食品の酸化酵素を破壊するため好ましくないと考えていた)。
彼はまた、缶詰・瓶詰製品や加工食品、粉末食品、冷凍食品、アルミニウム製の鍋で調理した食品を避けるよう説いていました。
療法を構成するこれら様々な要素が1つになって、「損傷した細胞の生物学的機能を正常化する」効果を発揮するというのがゲルソン氏のねらいです。
総括としてゲルソン氏は次のように記しています。
「最終的な目標は、体の生理学的機能を悪性腫瘍が発現する以前の状態に戻すことである。代謝機能が正常であれば、異常な細胞は抑制され、再び無害になるのだ」。
現在のゲルソン療法の進め方
ゲルソン・クリニックの患者向けパンフレットにはゲルソン療法を、「体が自力で病気を癒し、変性疾患を克服できるよう、体が本来持っている治癒のメカニズムを取り戻す」療法であると説明しています。
ゲルソン・クリニックはがん、心臓病、糖尿病、関節炎、多発性硬化症などの治療に加えて、深刻な病状はないが、気分良く暮らしたい、より健康になりたい、病気を予防したいという目的で、単に解毒と体づくりのためにセンターを訪れる人々にも対応しています。
現在のゲルソン療法は2つの主なプログラムで構成されています。」
1つは集中解毒プログラムで、体の治癒力と代謝の障害となる毒素と老廃物を取り除くことを目的としたものです。
2つめは集中栄養プログラムで、代謝と治癒力の向上に必要な栄養素を吸収しやすい形で体と細胞に注ぎ込むというものです。
患者は、一定期間クリニックで治療を受けた後、短くて1年半の間、「肝臓と膵臓の機能、酸化作用、免疫系などが、がんの再発や他の変性疾患を十分に防ぐことのできるレベルに回復するまで」自宅で療養を続けるよう指導を受けます。
現在のゲルソン療法の食事は塩分・脂肪分・動物性蛋白質を控え、炭水化物の多い食品をビタミン・ミネラルの補助食品とともにとるというものです。
新鮮な生の果物と野菜を大量にとり、89年の末までは、子牛の生レバーも加えられていました。
近年の患者向けパンフレットでは、食事療法の構成を、「有機栽培による果物と野菜で作った様々な種類の新鮮な生ジュースをグラスに1杯、1日に13回、1時間おきに飲むこと」および、「有機栽培の野菜、果物、無精白の穀物からなる完全なベジタリアン食を1日3回、作ってすぐに食べること」と説明しています。
ゲルソン療法では、カリウム補強剤、甲状腺ホルモン、ルゴール液(ヨ-ドとヨウ化カリを含んだミネラル液)、注入可能な生の肝臓抽出物とビタミンB12、膵臓酵素、コーヒーまたはカモミール茶の浣腸など他の様々な材料も用いています。
現在の療法にはゲルソン自身が定めたもの以外の内容も加わっており、ゲルソン研究所が配布している資料によると次のようなものが含まれています。
・オゾン療法(涜腸またはヘパリンを添加した自己血液に溶かして注入、または患者の血管に直接注入する方法による)
・過酸化水素(局所投与、座薬、または経口摂取)
・点滴によるGKI液(グルコース、カリウム、インシュリン溶液)の投与
・「生細胞療法」
・ひまし油
・粘土パック
・リンカーン・バクテリオファージ(無毒化した黄色ブドウ球菌から作ったワクチン)、および、インフルエンザ・ウイルス・ワクチン(両ワクチンはゲルソンが治癒に貢献すると考えていた「アレルギー性炎症」を刺激するといわれている)
・レトリル
様々なルール、摂るべきモノにより、ゲルソン療法を行う患者は長期にわたり制約の多い生活を強いられることになります。
また新鮮な野菜や果物が入手しにくい地域では療養の継続が困難になる場合もあります。
患者が厳しさに耐え抜くことができるよう、クリニックでは「ヘルパー」を付けるよう勧めています。
「治癒のためには時間とエネルギーと休養が必要であり、この治療だけで養生していたのでは回復の機会が減ずる」からとしています。
報告されたゲルソン療法の副作用と、考えられる副作用
ゲルソン療法で副作用の可能性が取り沙汰されてきたのは、子牛の生レバー抽出物とコーヒー涜腸の使用に関してです。
子牛の生レバー抽出物の投与が原因で、カンピロバクター(Campylobacter fetus subspecies fetus)感染症が生じたことがあります。この菌種はウシやヒツジの腸管に住んでいる。ヒトに感染した場合、早期に発見すれば治療が可能ですが、見過ごしたり適切な処置を施さなかった場合には敗血症を起こし、死に至ります。
実際に1981年、ゲルソン療法を受けたと思われる患者を含むがん患者の間にこの菌による感染症が発生したと報告されています。79年1月から81年3月にかけて、がん患者9人と敗血症を伴う狼瘡患者1人がサンディエゴ郡保健局に報告されました。
うち9人は血液から、1人は腹膜液から菌が検出された。入院した時点で全員が重度の電解質異常を起こしており、5人は昏睡状態で、患者9人は入院して間もなく死亡しました。
ゲルソン研究所の職員は感染症の勃発を新聞で知り、サンディエゴ郡保健局に連絡をとりました。感染以前に患者が受けた処置として新聞に掲載された内容から、この10人のうち少なくとも数人はゲルソン・クリニックの患者だと判断したからです。
生レバー抽出物との因果関係の可能性を認め、ゲルソン・クリニックではその後、汚染の可能性を減ずるため、子牛の肝臓の扱い方と保存法を改善するとともに、患者に感染症状が疑われた時点ですぐにカンピロバクターの検査を行い、感染者には適切な抗生物質(エリスロマイシンなど)投与による治療を施すことに決めました。
その後、ゲルソン療法の患者におけるこの種の感染症が公式に報告された例はありません。しかし、生レバ ー抽出液が感染症の原因となり得ると考え、ゲルソン・クリニックでは89年末に、生の肝臓抽出物の使用を廃止しました。
コーヒー浣腸について
ゲルソン療法を受けた患者では報告されていませんが、コーヒー涜腸は重度の体液異常、電解質異常と関わりがあります、
シアトルに住む2人の女性(1人はがん患者)がコーヒー洗腸を行った後、体液異常と電解質異常で死亡したことが報告されました。
女性の1人はある晩、10から12回のコ ーヒー涜腸を行い、その後も1時間に1度の割合で涜腸を続けたとされています。
もう1人は毎日4回行っていたとある。どちらの場合もゲルソン療法で指導している方法よりも格段に頻度が高いものです。
コーヒー涜腸が関与する重度の副作用に関してはこの他にも、3件の症例について述べた報告書があります。
しかし、コーヒー涜腸に伴う致死性の電解質異常が及ぼす全般的なリスクがどのくらいあるのかは明らかにされておらず、使用頻度と使用条件によって左右される部分が多少なりともあると考えられています。
ゲルソン療法は本当に癌(がん)に効果があるのか。有効性の主張
ゲルソンは著書「ガン食事療法全書」の中で、進行したがんにも有効な治療法があることを示しました。
46年、上院の外交関係小委員会に証人として喚問された際も、彼が治療をした「望みのない」がん患者のうち、約30%に良好な結果が認められたと述べています。
56年に行った講演(論文は没後、78年に出版された)、および、54年に発表した論文の中で、ゲルソンは「いわゆる全身性、再発、末期のがん」の50%に対し、彼の治療は「良好な結果を招いた」としています。
ゲルソン療法を現在実践している医師たちも、この療法の有効性を主張しています。
ゲルソン研究所の患者向けパンフレットには次のように書かれています。
ゲルソン療法は早期から中期のがんであれば、ほぼ確実に回復に至らせることができる。従来の考え方では治癒不可能とされるところまで進行したがん(肝臓・膵臓がんや複数の部位に転移したがん)であっても治ることがある。これまでに多くの進行がん患者がゲルソン療法で「治癒」してきた
パンフレットにはさらに、がんと他の病気(関節炎、心臓病、糖尿病など)が併発している患者に関しても、ゲルソン療法を行えば「大抵はすべての病気が同時に治る」とあります。
これは「がんをいやすことのできない体は関節炎、動脈硬化症、糖尿病をも改善することができない。体が治癒力を取り戻せば「体の中の医者」が、治療にとりかかり、患者の体のすべてを元の状態に戻す」というゲルソンの信念に基づいています。
ゲルソン研究所の副所長、ノルマン・フリッツ氏は、S・J・ホート氏(50年代、ナショナ ル・エンクワイヤー誌のライターをしていたロバート・リッチェロ氏のペンネーム)の著書を再出版した。このとき、元の表題「マックス・ゲルソン医師は本当にがんを治すのか?」という元の表題を「がん - ゲルソン療法なら治る」と改題しました。
改訂版の紹介文の中でフリッツ氏は、ゲルソン療法は『「希望のない」ところまでがんが進行した患者の約半数以上の命を救うことができ、早期がんや末期に入ったばかりの一部のがんに関しては90%以上が治る』と述べています。
ゲルソン研究所の職員全員が必ずしもフリッツ氏と同じ考えというわけではないようですが、この本は今でも患者が容易に手に入れることができ、ゲルソン療法の概要を知るための最も手近な情報源の1つです。
ゲルソン研究所が発行する会報には、ゲルソン療法で治癒したと思われる患者の病歴がしばしば紹介されます(一部切除した手術不可能で放射線耐性の成人星状細胞腫がゲルソン療法によって治癒した例など)。
オーストリアでのゲルソン療法に対する評価研究
ゲルソン療法のいくつかの要素について、その臨床効果を調べる研究がオーストリアで行われました。
従来の治療法の補助療法としてゲルソン療法を少し改良した方法を用いることについて、オーストリア、グラーツのランデスクランケンハウス第二外科のピーター・レクナー医師が行っている研究の中間報告書があります。
この研究で行われている療法は、繊維が多く、塩分は控えめ、ヨ-ドとカリウムを十分に含んだ乳卵菜食主義の食事をとり、定期的にコーヒー涜腸を行うというものです。
元のゲルソン療法のうち、肝臓抽出液、甲状腺補強品(甲状腺機能不全の患者を除く)、ナイアシン補助食品など、いくつかの要素は使用していません。また、コーヒー涜腸は1日2回に限っています。
過去にゲルソン療法の患者が涜腸の頻繁使用で大腸炎(大腸が炎症を起こし、しばしば下痢を起こす)を起こしたことに注目したからだとされています。
この研究では改良ゲルソン療法を志願した患者29人を対象に、腫瘍の種類と進行の段階が同等でゲルソン療法を行わない同人数の患者とそれぞれペアにし、比較検討を行いました。
乳がん19組、結腸と直腸がん8組、悪性黒色腫(メラノーマ)4組が研究の対象となりました。
報告によると、患者は全員過去に一般的な医学的方法によるがん治療(外科手術など)を受けたことがあり、研究対象となった期間中も治療(化学療法、放射線照射、インターフェロンなど)を並行して続けている人がいました。
患者の中には転移性のがんで進行した段階の者もあったと報告書に記されていますが、研究の開始時点で対象患者全員ががんであると測定可能だったかどうか、また、過去の、あるいは並行して行っている従米の治療法による抗がん作用が認められる患者があったのかどうかについては触れていません。
レクナー氏は、改良ゲルソン療法を行った患者には療法が原因と考えられる副作用は認められず、栄養不良を起こす者もなかったと報告しています。
手術不可能な肝転移がんで、ゲルソン療法を行ったある患者には一時的な腫瘍の退縮が認められたと記載しています。
レクナー氏の見解によると、ゲルソン療法は自覚的所見に効果があり、鎮痛薬の投与が少なくてすむので、患者の心理状態が良くなり、その結果、比較対照群より化学療法の副作用が軽かった。そして、決定的な結果は示していないものの、肝転移を伴う乳がん・大腸がん患者は特にゲルソン療法の効果が高かった、と述べています。
レクナー氏は報告書の中で、自分の結論が主観的なものであり、「統計による結果ではない」と認めながらも、ゲルソン療法を実行した患者は比較対照となっている患者より「長く生存し、生活の質を高く保っているように見える」と述べています。
このような記述法をとっていることから、この研究の日的が、改良ゲルソン療法による生存率の上昇や、生活の質の向上について決定的な結論を出そうとするものではないことがわかります。
また、ゲルソン療法の志願者は比較的厳しく、制約の多い療養計画を自ら選んだ人ということになるので、これらの患者とゲルソン療法を選ばない患者には本質的に差があるとも考えられます。
したがってゲルソン療法実践者と非実践者の比較は、腫瘍の状態・生存・生活の質における差を判定する根拠とはなりません。
加えて、記載された情報だけでは改良ゲルソン療法の効果と、過去の、あるいは並行して行っている一般的な治療法の効果を区別することもできません。
しかしこの研究は、従来の処置とゲルソン療法を並行して行った場合の効果に関して結論に至るための予備段階として、29人に基づいて質的な情報を提供したものであるとはいえます。
イギリスでのゲルソン療法に対する批評
1989年、イギリスのある医療保険会社から3人の研究者が「がんの食事療法といわれる根拠」を評価するためゲルソン・クリニックを訪れ、患者と療養の様子を自由に観察し、ゲルソン療法に対して「最も良い反応を示した」とされている患者の情報を網羅したファイルを閲覧しました。
と同時に彼らは2つの研究を行いました。
1つは最も良い反応を示したとされる患者群に関して見直す研究、もう1つは訪問時におけるクリニックの患者の心理状態に関する研究です。
再吟味の対象となったのはクリニック開院以来扱ったすべての患者のうちの149人です。
うち27人は元気に生存しており、評価のための資料が十分に残っていました。対象のほとんどすべてがゲルソン療法開始前に何らかの形で一般的ながん始療を受けており、なかにはゲルソン療法と並行して他の方法を継続している人もいました。
彼らの報告書では、ゲルソン療法を行った黒色腫患者9人における病気の進行過程について、「この病気の、我々が考えるところの「普通の進行過程」の範囲内のものである」としています。
また、初期の前立腺がんを外科手術で切除し、その後ゲルソン療法を行ったとされる2人の生存者については、ゲルソン療法を行わなかった場合に予想される結果と何ら変わりはない、と断定しています。
しかし、「臨床的に見て、かなり重い」段階の前立腺がん1人は、病気の状態、過去の処置から推測できる生存期間よりも長く生存しているとしました。
乳がん・子宮内膜がんそれぞれ2人については、それらの部位のがんを他の治療法で処置した場合の進行過程と同じであるとしました。
しかし子宮内膜がんの別の1人に関しては、生検でがんが確認された後、ゲルソン療法以外の処置は行わなかったが、子宮を摘出してみると悪性腫瘍はまったく認められなかったとしており、これは腫瘍が退縮した一例としています。
非ホジキンリンパ腫の1人は、長期にわたって放射線療法を受けており、これが良好な結果に貢献したのではないかと推察しています。また、同じ病気のもう1人は、ゲルソン療法実行後に追跡調査でCTスキャンを撮っていないため、腫瘍の状態の変化が明らかでない、としました。
しかし、ゲルソン療法のみで治療した軽い非ホジキンリンパ腫の患者1人は、生検で確認された腫瘍が退縮しており、その他の症例に関しては、「病気の進行が遅い」と評価しました。
最終的に3人のイギリス人研究者は次のように結論づけました。
「これらの症例の中には組織学的所見と病気の進行段階からみて予後が不良と思われた者もあったと言えるだろうが、平均的な患者より良い結果を得た者もいる。しかし、予後が不良とされた患者で一般的な治療を受ける者6000人を対象とした大規模な研究を行ったとしても、結果は同様になったと考えられる」。
「患者の少数において腫瘍の退縮が認められたが、これはがんの普通の進行過程を逸脱したものである。したがってこの療法には一部の患者に対して抗がん作用があると言えるかもしれない。
しかし、ゲルソン療法に実質上の抗がん作用があると言い切るためには、より多くの症例において効果が証明されなければならないことを強調する必要がある。もし別の、新しい、効果的ながん治療法を6000人を対象に実施したとしたら、成功例をもっと多く見ることができるとも考えられる」。
もう1つの研究
第2の研究では患者15人に対し、アンケート調査を行いました。
これは患者の背景や病歴を明らかにし、さらに医師に対する感情や身体的および精神的な健康状態、ゲルソン・クリニック自体や対人関係についてどのような感情を持っているかを知るためのものです。
概して患者は前向きな感情を持ち、前向きな生活をしていることがわかりました。
家族やクリニック内の他の患者に強く支えられていると感じており、「自分の健康を自分で管理」しながら、「気分良く」、「自信をもって」暮らしている、という人が多いとしています。
過去はさておき、アンケートの時点では鎮痛のためにモルヒネを使用している患者が1人もいないことに3人の研究者は特に注目しました。
また「痛み」を苦にする度合いが低かったともしています。
これらの結果から研究者たちは、ゲルソン療法には患者とその家族に対し「自覚的所見に有意な効果がある」とし、次のように結論づけました。
「この療法では本質的に、患者自身が自分の健康に前向きに取り組むことが必要である。また、一般的な治療法では満たすことのできない患者のニーズに応えることのできるものである。したがって絶望的な患者やその家族に対処する上で、腫瘍学者が学ぶべきものがゲルソン療法にはある」。