がんの代替療法のなかには、メンタルに焦点を当てたものがあります。中心的なものとして「イメージ療法」があります。
イメージ療法とは心の中にイメージを創り出し、それを解釈するために使われる様々な心理技法を指します。これは自らの潜在意識と対話をするための手段と考えられているものです。
イメージ療法は、考えや信念、経験を明確に表し、恐怖や将来に対する否定的な考えを「前向きな考えや信念に変える」ことを目的に活用されています。
がん治療で使われるイメージ療法では、その過程の中でがん細胞が破壊されるイメージを思い描かせることによって、患者にがんを克服できるのだと信じ込ませる、というものがあります。
また、攻撃的なものではなく、穏やかなイメージを使うものもあります。平和で快適な情景を心の中にイメージすることに焦点をあてるものです。このような療法はしばしばリラクゼーション、めい想、催眠などと併用されています。
こういったイメージ療法が生まれたのは1970年代です。
主にがん治療にイメージ療法を中心とする精神療法を活用するきっかけを作ったのは、放射線科がん専門医カール・サイモントンさんと、精神療法士ステファニー・サイモントン・アシュレーさん夫妻です。
サイモントン夫妻の78年出版のベストセラー「がんのセルフ・コントロール(創元社)」は、ダラスにあるがんカウンセリング研究センター(カリフォルニア州パシフィック・パリサデスのサイモントンがんセンターの前身)で、イメージ療法、その他の精神療法を使ってがん思考を治療した経験をつづったものです。
その治療は「全人的がん治療」と呼ばれ、「身体・精神・感情のバランスを取り戻すことによって全人的に健康を回復できる」よう考えられています。
その理念は、がん発病に性格的特質・精神的因子が果たす役割について論じた諸説に基づくといわれています。
がん患者さんが士気を高め健康を取り戻し、生柄のその他の領域にも創造的な変化がもたらされるよう、リラクゼーションや精神療法を利用します。概してこの治療法は、従来のがん治療の補助的なものとして位置づけられていますが、この治療によって直接抗がん作用が見られたとする症例報告もあります。
がんのイメージ療法 サイモントン療法とは
サイモントン夫妻が示したイメージ療法はまずリラクゼーションから始まります。
それから患者は心の中に腫瘍を「脆く不ぞろいな柔らかい細胞の塊」として思い描くよう指示されます。
さらに医学的ながん療法が強力で有効な手段で、それによって腫瘍を退縮させ、がんが克服できるのだとイメージします。
同時に、身体に自然に備わった治癒力のシンボルである強力で攻撃的な免疫メカニズムががんから自分の体を守ってくれることをイメージするのです。
具体的には脆弱な悪性細胞を簡単に倒すことができる強力な防御軍として白血球を思い描き、さらに殺された細胞が自然に身体から流し出されて消失することをイメージします。それから健康でエネルギーに満ち溢れ充実した自分の姿を想像する・・・という流れです。
同夫妻はこの一連のイメージ化を1日に3回繰り返すよう教えています。
がん患者さんに対するイメージ療法の効果は?
サイモントン夫妻によれば、リラクゼーションとイメージ療法の過程で、患者は恐怖・緊張・ストレスを和らげ、物事に対する態度を変え、生きようとする意志を強め、抑うつや絶望感・無力感に立ち向かい、自信を得て楽観的になれるとしています。
さらに身体的変化をもたらし、免疫機能を亢進させ腫瘍の進行を変えることもあるとしています。
その結果、以下の報告のように有意な延命効果も得られたとしています。延命効果については全国平均と自分たちの患者を単純比較した統計に基づいています。
我々は過去4年間、医学的に不治と診断された悪性腫瘍患者159人を治療した。
そのうち63人は今も健在で、診断後の平均生存期間は24.4カ月である。同じような患者の余命の全国平均は12カ月である。全国平均と患者の年齢など構成を合わせて比較すると、生存期間は平均の2倍以上になる。
我々の試験においては亡くなった患者を合わせても、平均余命は20.3カ月であった。言い換えれば、我々の試験で生き残っている患者は、医学的治療しか受けていない患者に比べ、平均で2倍も生きていることになる。
亡くなってしまった患者でさえ、対照群に比べ1.5倍も長く生き延びたことになる(OTA報告書原文からの翻訳)」。
1980年に発表された論文でサイモントン夫妻は、別のがん患者のグループに同様の手法を使いましたが、対照試験ではなく試験的な研究でした。
乳がん・肺がん・結腸がん患者130人のうち、進行がん患者75人を分析対象とし、診断後の生存期間の中央値(患者の半分が亡くなり半分が生存している期間)は、乳がん患者(33人)で35カ月、結腸がん患者(18人)で21カ月、肺がん患者(24人)で14カ月であっと報告しています。
すでに発表されている、同じく転移性乳がん・結腸がん・肺がん患者の生存期間は、それぞれ、16カ月、2カ月、6カ月であることから、サイモントン夫妻は自分たちの患者がこの文献に報告されている患者の2倍も長く生きたとして、その理由を自分たちの行う治療の結果、患者の気持ちが高揚し、治療に対する信頼感が高くなり、全体的に前向きな姿勢を持つからではないか、と報告しています。
サイモントン夫妻の研究法は、生存率に影響を与え得るほかの因子を考慮に入れていないので、リラクゼーションやイメージ療法によって延命効果が得られるという確実な結論を導き出すことはできません。
同夫妻の患者が比較の対象となった患者と身体的・精神的特質がどう異なっていたのかは分からない、という要素もあるので、これらの報告から単純に「イメージ療法は有益だ」ということはできません。
がん患者さんに対する、イメージ療法や精神療法の延命効果は?
イメージ療法やめい想などで腫瘍が退縮したとか延命効果が得られたという逸話のような報告はいくつかありますが、これらの療法を他の患者に使用したときに果たして同じように抗がん作用が得られるかどうかは定かではありません。
一般的にがん治療における精神療法について研究している人たちが関心を払っているのは、そうした療法が抗がん作用を持つかどうかということより、生活の質にどのような影響を与えるかということにあります。