がん患者さん向けの「民間精神療法」の有名なものの1つに、研究者であり臨床心理学者であるローレンス・ルシャン氏が、がん治療の補助的なものとして考案した「マンツーマン式精神療法」があります。
ルシャン氏はその2冊の著書の中で、自分が精神療法を施行することによって、進行性・転移性がん患者でがんの退縮、延命効果、生活の質の向上といった効果を示し得ることを説明しています。
ルシャン氏はシカゴ大学で博士号を取得した後、1952年からニューヨークの応用生物研究所で臨床研究を始め、様々な心理学雑誌にその研究論文を投稿しています。
長年にわたり彼の研究の中心課題は「性格的因子、心的外傷をもたらすような大事件、及びがんの発病・進行との相関関係」を追求することでした。
つまり、精神的な影響、思考や性格の影響が、がんの発病や進行に関係があるのか?を追求することでした。
初期の研究では、「がんにかかりやすい性格」に焦点をあて、性格と様々な出来事の相互作用により、がんを防御するメカニズムが低下し、その結果がんにかかりやすくなるとしています。
ルシャン氏が1989年の著書「転機としてのがん(Cancer as a Turning Point)に記した精神療法は、患者1人ひとりが持つ創造力・治癒力を見出すことが大切だという趣旨です。
彼が提唱しているのは「個人特有の人生の歌を見つけて表現する」、「人生において感激や喜びがなくなってしまった原因を探る」ことが大切だということです。
ルシャン氏は、この方法を患者が過去を探求し、本来備え持つ、あるべき生き方を全うできない原因を分析するための自己分析・発展の1プロセスとして位置づけています。
患者ががんを人生の転機としてとらえることができるよう、その方法を探ったルシャン氏は、こうした自己啓発を行い自己を充実させる道を次のように説明しています。
「この人にとって何が正しいのか。自分らしい在り方、対人関係、創造性とはどんなものか。
その人の人生の根底に流れているのはどんな音楽で、どんな歌を唄えば嬉々として朝を迎え、また心安らかに眠りの床に就くことができるのか。
どんなライフスタイルが心の沸き立つような喜び、感激、連帯感を与えるのか。
どう取り組めば本来のあり方、対人関係、創造性を発揮できるのか。何が知覚・表現を妨げているのか。
どう取り組めばこうした方向に進み精神療法など必要としないような充実した喜びに満ち溢れた生活を送ることができるのか」。
ルシャン氏は、彼の精神療法を受けることで腫瘍を退縮させ延命効果を得るがん患者がいると説明しています。彼の見解をまとめると次のとおりです。
「約20数年前にこの方法を体得してから、絶望の淵に立たされた末期患者の約半数が長期緩解を得、今も健在である。
それ以外の患者の場合も医学的予想を上回る延命を得ている。ほとんどの患者が人生の「色彩」や感情を改善し、人生の最後を治療前よりはるかに興奮に満ち興味深いものにできたと痛感している」。
ルシャン氏は精神療法によって免疫機能が変化し得るとした上で、自分のやり方によって腫瘍の増殖を阻止・退縮させることもできると述べています。
自分本来の人生を生き抜くことができるという希望を取り戻すことで、身体に備わったがん防御機構が従来の力を取り戻していく、ということを彼は伝えています。
まとめ
精神的なストレスは身体にも様々な影響を与えます。一般的な例でいうと、円形脱毛症をはじめ、ストレスで胃に穴が空く、ということが実際に起ることは多くの人が知っています。
それががんにどこまで影響するのか?というのはルシャン氏の報告・研究だけでは統計的なことは言えませんが、精神的に前を向くこと。前を向くのが難しくても平常心を保つことが重要なことであることは確かです。
彼の提唱する理論で興味深いのは「個人特有の人生の歌を見つけて表現する」という点です。
好きな音楽を聴く、好きな歌を歌う、ということがとても気持ちのよいことであることは誰もが理解できることですし、すぐに実践できることです。
がんが消えてほしいから聞く、というスタンスよりも、純粋にただ好きな音楽を楽しむ、ということはとても良いことだと思います。辛い状況のなかでも、そういう時間を少しでも意識して持つことで、気持ちの落ち着きや命や人生の喜びを得られるのではないか、と思います。