がん細胞は、何らかの刺激によって細胞の遺伝子に傷が生じ、その結果として機能を正常に保つことができなくなった細胞です。
しかしがんは、「遺伝性の病気」ではありません。つまり親から子へと遺伝する種類の病気ではないのです。
遺伝性の病気では、患者の細胞すべてにおいてその病気の原因となる遺伝子が変異しています。これに対してがんでは、患者の細胞は基本的には遺伝子変異をもっておらず、がん細胞として異常増殖を始めた1個の細胞(およびその子孫)においてのみ、その遺伝子変異が起こっています。ですので、病気そのものが遺伝するわけではありません。
しかし、生まれつき変異しやすい遺伝子を親から受け継いでおり、ちょっとした刺激でも感度が高いために遺伝子が変異してがんが生じる人もいます。その場合にはがんになりやすい体質が遺伝したことになります。
そこでがんを防ぐには、自分の遺伝子が傷つかないように気をつけること、そして傷を修復できる能力や、いったん生じたがん細胞を体の抵抗力などによって排除する能力を高めることが大切です。
このうち、DNAを損傷させる原因物質が外部から体内に入らないような生活習慣をもつことは、意識すればある程度実行できるといえます。
食品添加物と発がん性
私たちにできることのうち、最も基礎的なことは、口から胃腸に入る物質からDNAを傷つけるものを除く、ということです。
現在、日本で使用が許可されている食品添加物、農薬、防腐剤などは政府の関連機関が安全性試験をしてDNAに傷をつけるものは使用が禁止されているので、基本的には安心してよいはずです。
しかし、例外的に発色剤や防腐剤として使用されているものとして「亜硝酸ナトリウム」があります。亜硝酸は食肉中の血色素成分と反応して安定化させることで肉のきれいな赤みを保つため、ハム、ソーセージ、ベーコンなど食肉加工品や、タラコなどにおいて発色剤として使われています。
この物質は「DNAを傷つける」と教科書にも書いてあるほどはっきりと危険な物質であるにもかかわらず、日常的な使用が許可されているのは不思議なことです。しかも、動物性たんぱく質が分解してできるジメチルアミンと亜硝酸が反応すると、強力な発がん物質であるジメチルニトロソアミンが生成されることもよく知られています。
亜硝酸が許可されている理由のひとつは、亜硝酸が食中毒の原因となる細菌、とりわけボツリヌス菌の繁殖を抑制する点にあるでしょう。ボツリヌス菌が出す毒素(ボツリヌストキシン)は自然界最強の毒性をもつとされ、その強さは青酸カリの数十万倍といわれています。
そのため、発色剤を使わない自家製ソーセージなどは危険だといえます。実際、ヨーロッパではいまでも、発色剤を使わない自家製ソーセージなどで死亡者がでています。発がん性などのように「今すぐ危険なわけではない物質」とは危険度のレベルが違います。
また、ハムなどに含まれる亜硝酸は動物性たんぱく質とつねに接していることになり、反応して生じる物質の濃度は高いと推測できます。とくに肉類は、食事後に体外に排泄されるまで胃腸内に長時間とどまることになります。
戦後、日本人の食事が西洋式になって肉食が増えたため大腸がんが増えたという説明があります。しかし肉食が悪いのではなく、食肉加工品に含まれる亜硝酸の影響は大きい可能性があります。輸入果物などに大量に使われている防カビ剤OPP(オルトフェニルフェノール)や殺菌剤TBZ(チアベンダゾール)も発がん性が疑われています。
何を選んで食べるかは個人が決めることなので、食に対する安全意識を高めていくことはとても大切なことだといえます。