がんと診断されたとき、今まで経験のない人は医師に何を聞けばよいのか分からないと思います。
最近ではがんの治療についてのインフォームドコンセント→「治療を始める前に医師側か患者側に対して病気(がん)の状態や治療の内容・方法を説明し、患者側が納得したうえではじめて治療を開始するという考え方」が浸透しています。
しかし、すべての医師がきちんと分かりやすく説明してくれるとはいえません。コミュニケーション力に問題があると思われる医師は想像よりも多いというのが私の印象です。
診断直後は右も左も分からないと思いますが、少なくとも治療を始める前、治療法を決断する前には、自分の発症したがんのことについて知っておくことが大切です。
そのうえでポイントになるのは次の要素です。
①がんの種類や特徴
②がんの進行度(病期)
③がんの悪性度
④予後
①がんの種類や特徴
がんの種類は最初に発生した器官や臓器によって決定されます。特にがんを攻撃する薬である「抗がん剤」はがんの発生した部位によって何が使われるかが決まります。
ですので、どこのがんなのか(例えば胃がん、肝臓がん、膵臓がんなど)は必ず把握しなければなりません。(稀にどこのがんか分からない原発不明がん、というがんもあります)
そのほか同じ臓器のがんでもがん化した細胞や組織の違いにより、扁平上皮がん、腺がんなどと呼ばれることもあります。がんは種類によって進行のしかたや早さ、治療法、生存率が大きく異なるので、がんの種類を最初に知る必要があります。
・がん診断のプロセス
画像診断や血液検査でがんとほぼ確定できる症例が増えてきましたが、一般には、良性の腫瘍とがんを画像診断だけで区別することは困難です。がんを疑われる部分から組織や細胞を採取して観察する「生検」を行います。
生検には体の外から針を刺して少量の組織を採取する「針生検」や、内視鏡で病巣の一部もしくはすべてを切除する方法、それに外科手術でサンプルを取り出す方法があります。
画像診断などですでにがんが確定しているときは、手術後、切除した組織からがん細胞を取り出して病理診断を行うことで、がんの種類がよりくわしくわかります。また臓器によってはがんのタイプ(性質)が同じことが多く、たとえば前立腺がんのほとんどは腺がん、子宮頸がんの多くは扁平上皮細胞がんです。
②がんの進行度(病期)
がんが解剖学的にどれくらい広がっているかを説明するものです。がんの多くは、病状の進行によって病巣の状態や特徴がしだいに変化します。そこで、これらの特徴をもとにしてがんの進行度を見分けることができます。
この進行度を何段階かに分けたものががんの「病期(臨床病期)」です。「ステージ」「ステージング」と呼ぶとともあります。
これまでに世界各国でさまざまな病期の分類法が提案されてきましたが、それらのうち、現在世界的に広く使用されている分類法が「TNM分類」です。これはアメリカ癌合同委員会(AJCC)が作成し、国際対癌連合(UICC)が発表しているもので、5~10年ごとに見直しが行われています。
この分類法は白血病以外のほとんどのがんに適用されます。白血病は局所的な原発腫瘍がないなど固形がんとは異なるため、これには当てはまりません。
TNMのTは原発腫瘍(tumor)、Nはリンパ節(node)、Mは転移(metastasis)を表わします。つまりがんの進行状態をこれら3つの最重要な要素をもとに分類しているのです。各項目をもう少し具体的に説明すると次のとおりです。
1.T:原発腫瘍の程度(広がりの範囲)を示し、T0~T4の4段階に分けます。TOは局部組織に浸潤していないもので、早期の非浸潤がん(イン・サイテュ)と呼ばれます。T4は他の組織や臓器に浸潤している腫瘍です。
2.N・リンパ節への転移の程度を示し、N0~N4の4段階に分けます。NOはリンパ節転移がないもので、N4は広範囲のリンパ節への転移を意昧します。リンパ節転移の範囲は、がんの種類によって異なり、それぞれ定義されています。
3.M:遠隔転移の有無を示し、MOとM1の2段階に分けます。転移がなければMO、転移が見られる場合M1です。
これらの定義を組み合わせてがんの進行度を4段階に分け、口ーマ数字のⅠ~Ⅳで表します。それぞれの段階のがんは一般的に以下の状態です。なお再発したがんは別に分類されます。
病期Ⅰ:がんが局所にとどまっており、通常、治癒が可能ながん
病期Ⅱ、Ⅲ:がんが局所的に進行しており、付属のリンパ節への転移が見られます。がんの種類によって定義は異なります。
病期Ⅳ:通常、手術が不可能なほど進行したがん、もしくは他の臓器に転移しているがんです。
なおがんの種類によってはⅡa、Ⅲbと細分類するものもあります。
世界には独自の病期分類をつくっている国も少なくありません。しかし内容的にはほとんどこのTNM分類と共通です。ただしTNM分類法を単純にすべてのがんに当てはめることはできません。がんの種類によっては進行のしかたがほかのがんとは大きく異なるからです。そのためTNM分類でも、45の臓器や組織について個別の病期を公表しています。
また、それぞれのがんには別の専門家によってつくられた病期が使用される例もあります。大腸がんについては「デュークス分類」が一般化しています。これは20世紀前半にイギリスの医師カスバート・デュークスが作成したものです。
日本では、胃がんや大腸がんについては「日本胃癌学会」「大腸癌研究会」による病期が広く用いられています。
これらの病期の重要性は、世界中の医師がみな、ある患者のがんの進行状態を「共通認識」として把握できることです。特定のがんに対してどの医師もほぼ共通の評価や判断を下し、ほぼ共通の治療方針を立てるべき基準があることはとても重要なことです。これは、がん患者がどこの医療機関で治療を受けてもおおむね同じ治療結果を得られると期待できることを意昧します。
③がんの病理学的悪性度(グレード)
がん細胞の組織を採取し、顕微鏡で観察してがんの性質を判断します。細胞の異形度や分化度を調べます。異形度は正常細胞との違いを言い、細胞の分化とはがんの細胞が未成熟な状態から特定の役割をもつ成熟状態へと変わることを言います。
その過程は、未分化→低分化→高分化へと進みます。未分化の細胞ががん細胞に変わった場合は、高分化細胞の場合より悪性度が高いとされます。
④予後
がんが治療後にどんな経過をたどるかを予測し、以後の治療法を選択する判断材料となる要素のことです。がんの大きさ、リンパ節転移や遠隔転移の有無、がん細胞の悪性度などが関係してきます。