こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
腎臓がんの薬物療法は、近年大きく進歩してきました。
かつては治療選択肢が限られ、治療成績も良くありませんでしたが、現在では免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬を中心とした治療により、患者さんの予後は改善してきています。
この記事では、2026年現在において腎臓がんで使われる薬物療法の最新情報と、どのような順序で薬が使われるのかについて詳しく解説していきます。
腎臓がんの薬物療法の特徴
腎臓がん、特に腎細胞がんの薬物療法には大きな特徴があります。
他の多くのがん(乳がんや大腸がん、胃がんなど)では、いわゆる「抗がん剤(細胞障害性抗がん剤)」が治療の中心となります。
しかし腎細胞がんに対しては、抗がん剤による治療(化学療法)は効果が限られており、一般的には使用されていません。
代わりに、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬が薬物療法の中心となっています。
分子標的薬は、がん細胞の増殖に関わる特定の分子をターゲットとして攻撃する薬です。免疫チェックポイント阻害薬は、患者さん自身の免疫の力を活用してがんを攻撃する薬です。
これらの薬は、従来の抗がん剤とは異なる作用メカニズムを持っており、治療成績の改善に大きく貢献しています。
現在使用されている主な薬剤一覧
2026年現在、腎細胞がんの治療で使用できる薬剤は以下のとおりです。
分子標的薬
分子標的薬には、主に2つのタイプがあります。
チロシンキナーゼ阻害薬は、がんの血管新生を阻害することで腫瘍の増殖を抑える薬です。現在使用できる薬剤は、スニチニブ(商品名:スーテント)、ソラフェニブ(商品名:ネクサバール)、アキシチニブ(商品名:インライタ)、パゾパニブ(商品名:ヴォトリエント)、カボザンチニブ(商品名:カボメティクス)、レンバチニブ(商品名:レンビマ)です。
mTOR阻害薬は、腫瘍細胞の増殖を抑制する薬です。エベロリムス(商品名:アフィニトール)とテムシロリムス(商品名:トーリセル)の2剤が使用できます。
免疫チェックポイント阻害薬
免疫チェックポイント阻害薬は、がん細胞が免疫から逃れる仕組みをブロックし、免疫細胞によるがん攻撃を活性化させる薬です。
現在、腎細胞がんに使用できる免疫チェックポイント阻害薬は、ニボルマブ(商品名:オプジーボ)、イピリムマブ(商品名:ヤーボイ)、ペムブロリズマブ(商品名:キイトルーダ)、アベルマブ(商品名:バベンチオ)です。
サイトカイン療法
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬が使用できない場合には、インターフェロンやインターロイキン2などのサイトカイン療法が検討されることもあります。
ただし、現在ではこれらの薬は限定的な使用となっています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
薬物療法が必要となる状況
腎細胞がんで薬物療法を実施するのは、主に進行した腎細胞がんです。
具体的には、手術で完全に切除することが難しい場合や、他の臓器に転移がある場合が対象となります。
通常、転移があるがんに対しては、原発部位(がんが最初に発生した臓器)を切除することはあまりありません。
しかし腎細胞がんでは、転移があっても体調や年齢などの条件が整えば、原発部位である腎臓を切除することが推奨されています。
これは、腎臓を切除した場合のほうが、切除しない場合と比較して生存期間が長い傾向があることが研究で示されているためです。
ただし、腎臓の切除手術自体にもリスクがありますので、実施するかどうかは患者さんの状況(進行状態、年齢、全身状態など)を総合的に判断して決定されます。
治療選択に重要なリスク分類
腎細胞がんの薬物療法では、どの薬をどのような順序で使うかを決めるために、リスク分類が用いられます。
現在主に使用されているのは、IMDCリスク分類(International Metastatic Renal Cell Carcinoma Database Consortium)です。
IMDCリスク分類の評価項目
IMDCリスク分類では、以下の6つの項目を評価します。
| 評価項目 | 基準 |
| Karnofskyの全身状態スコア | 80%未満 |
| 診断から治療開始までの期間 | 1年未満 |
| ヘモグロビン値 | 正常値下限未満 |
| 補正カルシウム値 | 正常値上限を超える |
| 好中球数 | 正常値上限を超える |
| 血小板数 | 正常値上限を超える |
これらの項目について該当する数により、以下のようにリスク分類されます。
| リスク分類 | 該当項目数 |
| 低リスク(Favorable risk) | 0個 |
| 中リスク(Intermediate risk) | 1~2個 |
| 高リスク(Poor risk) | 3個以上 |
一次治療(最初の薬物療法)の選択
一次治療では、組織型(がんの種類)とIMDCリスク分類に基づいて薬剤が選択されます。
腎細胞がんの約70~80%を占める淡明細胞型腎細胞がんでは、リスク分類によって治療戦略が異なります。
中リスク・高リスクの場合
IMDCリスク分類で中リスクまたは高リスクに分類された淡明細胞型腎細胞がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法が標準治療となっています。
現在、一次治療として推奨される併用療法は以下のとおりです。
ニボルマブとイピリムマブの併用療法(ICI+ICI併用)は、2018年に承認されました。この組み合わせは、CheckMate 214試験において、スニチニブ単剤よりも全生存期間と奏効率が有意に高いことが示されています。
ペムブロリズマブとアキシチニブの併用療法(ICI+TKI併用)は、2019年に承認されました。KEYNOTE-426試験で有効性が証明されています。
アベルマブとアキシチニブの併用療法(ICI+TKI併用)も、2019年に承認されています。JAVELIN Renal 101試験の結果に基づいています。
ペムブロリズマブとレンバチニブの併用療法(ICI+TKI併用)は、2022年に承認されました。CLEAR試験において、スニチニブと比較して無増悪生存期間の中央値が23.9か月と9.2か月で、病勢進行または死亡のリスクを61%減少させることが示されました。
ニボルマブとカボザンチニブの併用療法(ICI+TKI併用)は、2021年に承認されています。
また、分子標的薬単剤として、カボザンチニブ単独での使用も選択肢の一つとなっています。
低リスクの場合
IMDCリスク分類で低リスクに分類された淡明細胞型腎細胞がんに対しては、分子標的薬の単剤療法が主な選択肢となります。
スニチニブまたはパゾパニブの単剤投与が標準的な治療です。
ただし、低リスクの患者さんに対しても、免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法を使用することは可能です。
患者さんの状態や希望、施設の方針などによって選択されます。
スニチニブとパゾパニブの違い
スニチニブとパゾパニブは、いずれもチロシンキナーゼ阻害薬ですが、副作用のプロファイルに違いがあります。
スニチニブでは、骨髄抑制が出やすく、白血球や血小板が低下しやすい傾向があります。
その結果、感染症や出血のリスクが高まることがあります。また、吐き気も起きやすい副作用です。
投与サイクルは「4週投与して2週休む」という方法が標準ですが、副作用の影響で継続が困難な場合は「2週投与して1週休む」サイクルで実施することもあります。
パゾパニブでは、下痢や脱毛、手足症候群などの副作用が見られます。
重篤なものとしては間質性肺炎があります。
悪心や吐き気、倦怠感はスニチニブよりも軽微であることが多く、生活の質(QOL)の総合的な評価ではスニチニブよりやや良好とされています。
二次治療以降の選択
一次治療で使用した薬剤の効果が薄れてきた場合や、副作用が厳しくて継続できなくなった場合は、二次治療に移行します。
二次治療以降で使用する薬は、がんの状態、体調、一次治療で使用した薬の種類などに基づいて選択されます。
一次治療で分子標的薬単剤を使用した場合
一次治療でスニチニブやパゾパニブなどの分子標的薬を使用した場合、二次治療では免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブが第一候補となります。
ニボルマブは2016年に転移性腎細胞がんに対して承認されました。
免疫の力を利用してがん細胞を攻撃する作用があり、分子標的薬とは異なるメカニズムで効果を発揮します。
毒性によってがんを攻撃するわけではないため、副作用は比較的軽微です。
ただし、免疫システムが過剰に働くことで、さまざまな臓器に自己免疫疾患のような副作用が起こる可能性があります。
ニボルマブ以外の選択肢としては、アキシチニブやカボザンチニブなどの他のチロシンキナーゼ阻害薬、またはエベロリムスなどのmTOR阻害薬が候補となります。
カボザンチニブは、MET、VEGFR2、AXLなど複数のチロシンキナーゼを阻害する薬で、2020年に日本で承認されました。
METEOR試験において、エベロリムスと比較して無増悪生存期間の中央値が7.4か月と3.8か月で、有意な延長が認められています。
一次治療で併用療法を使用した場合
一次治療で免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法を使用した場合、二次治療では別の作用機序を持つ薬剤への変更が検討されます。
カボザンチニブやアキシチニブなどの分子標的薬単剤、またはエベロリムスなどのmTOR阻害薬が候補となります。
患者さんの状態によっては、三次治療、四次治療へと進むこともあります。
一次治療から二次治療に進める患者さんは約7割、三次治療に進める患者さんはさらにその約7割とされています。
したがって、約半数の患者さんが三次治療まで進み、3人に1人程度が四次治療まで進むことになります。
薬物療法における重要なポイント
根治を目指す治療ではない
進行した腎細胞がんに対する薬物療法は、基本的にはがんを完全に治すことを目的とした治療ではありません。
治療の主な目的は、がんの進行を遅らせ、できるだけ長く良い状態を維持することです。
薬物療法により、腫瘍を縮小させたり、再び増殖するまでの期間を延ばしたりする効果が期待できます。
副作用管理の重要性
分子標的薬や免疫チェックポイント阻害薬は、それぞれ特徴的な副作用があります。
治療を長く続けるためには、副作用を我慢せず、適切にコントロールすることが大切です。
どのような副作用が起こりやすいのか、どう対応すればよいのか、特に気をつけるべき症状は何かなど、治療が始まる前に担当医によく確認しておくことをお勧めします。
免疫チェックポイント阻害薬では、全身のさまざまな臓器に免疫関連有害事象が起こる可能性があります。
主なものとしては、皮膚障害、腸炎(下痢や腹痛)、間質性肺炎、1型糖尿病、肝障害、内分泌障害(甲状腺機能低下症など)、腎障害などがあります。
これらの副作用は、気づかずに放置していると重症化することがあるため、早期に発見して対処することが重要です。
分子標的薬では、高血圧、手足症候群、下痢、甲状腺機能低下症、蛋白尿などの副作用が見られることがあります。
薬剤ごとに副作用のプロファイルが異なるため、使用する薬剤に応じた対策が必要です。
定期的な効果判定
薬物療法を行っている間は、定期的に画像検査などで治療効果を評価します。
薬が効いている間は治療を継続しますが、効果がなくなってがんが進行し始めた場合は、別の薬への変更を検討します。
今後の展望
腎細胞がんの薬物療法は、ここ数年で大きく進歩してきました。
免疫チェックポイント阻害薬と分子標的薬の併用療法により、従来の単剤療法と比較して治療成績が改善しています。
今後も新しい併用療法や新規薬剤の開発が進んでおり、さらなる治療成績の向上が期待されています。
また、どのような患者さんにどの治療が最も適しているかを予測するためのバイオマーカーの研究も進められています。
将来的には、個々の患者さんに最適な治療を選択できるようになる可能性があります。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「腎臓がん(腎細胞がん)治療」
3. 東京科学大学大学院医歯学総合研究科 腎泌尿器外科学「進行性腎がんに対する集学的治療」