甲状腺がんは初期段階では目立った症状が現れないことが特徴です。しかし、進行に伴い徐々に症状が現れるようになります。
のどの圧迫感、首の腫れ、しこりなどの症状が見られるようになり、さらに進行すると気管や食道への浸潤により血痰や嚥下困難が生じる場合があります。
声帯の運動を支配する反回神経に影響が及ぶと、声のかすれや高音が出にくいといった症状が現れます。また、未分化がんでは呼吸困難、嚥下障害、首の腫れといった症状が現れることがあります。悪性リンパ腫では腫瘤が急速に増大する傾向があります。
これらの症状が認められ、甲状腺がんが疑われる場合には、段階的な精密検査を実施します。検査の進め方は基本的に「触診」「血液検査」「超音波検査」の順序で行われます。
甲状腺がん検査の基本的な流れ
甲状腺がんの診断には、複数の検査を組み合わせて総合的に判断します。初期検査では触診でしこりの有無を確認し、悪性か良性かを調べるための超音波検査や病理検査が行われます。各検査について詳しく解説していきます。
触診による甲状腺がん検査
触診は医師が直接甲状腺に触れて行う基本的な検査です。腫瘍の有無、数、硬さ、可動性などをある程度判別することができます。ただし、個人差があり、首の細い女性と比較して高齢男性では甲状腺の位置が低く鎖骨付近と重なることがあり、触診での判断が困難な場合があります。
触診では甲状腺のみでなく、周囲のリンパ節の腫大の有無も確認します。これにより転移の可能性についても初期評価を行います。
血液検査による甲状腺がんの確認
甲状腺がんの血液検査では、複数の腫瘍マーカーや甲状腺機能を評価します。甲状腺がんを血液検査で発見することは、ほぼ不可能ですが、診断の補助や経過観察において重要な役割を果たします。
主要な血液検査項目
サイログロブリンは甲状腺濾胞細胞から分泌されるタンパク質で、甲状腺がんの腫瘍マーカーとして使用されます。ただし、良性の甲状腺腫でも上昇することがあるため、単独での診断には限界があります。
髄様がんでは例外的に2つの腫瘍マーカーを持っています。1つ目は CEA(癌胎児性抗原)で、人間ドックでも測定される一般的な腫瘍マーカーです。CEAは髄様がん以外にも胃がん、大腸がん、肺がんなどで上昇するため、髄様がん発見のための特異的なマーカーとは言えません。
2つ目のカルシトニンは髄様がんに特異的なマーカーです。CEAとカルシトニンの両方が高値を示す場合、髄様がんの存在を強く疑います。
未分化がんでは白血球数の増加と血沈(血液沈降速度)の亢進が特徴的な検査所見として現れます。
甲状腺機能検査
甲状腺ホルモン(FT3、FT4)や甲状腺刺激ホルモン(TSH)の測定により、甲状腺の機能状態を評価します。多くの甲状腺がんでは甲状腺機能に異常をきたすことはありませんが、機能異常の有無を確認することは重要です。
超音波検査による甲状腺がんの詳細診断
甲状腺がんの診断において最も有用な検査です。超音波検査は痛みがなく、放射線被ばくもない安全な検査で、15分程度で終了します。妊娠・授乳中の女性でも安心して受けていただけます。
5mm以下の小さな腫瘍まで発見することができ、腫瘍の性状(良性か悪性か)をある程度判断することが可能です。また、腫瘍の部位、大きさ、周囲臓器との関係、リンパ節転移の有無なども評価できます。
超音波検査では甲状腺内部の血流状態も観察でき、悪性腫瘍に特徴的な血流パターンの確認も行います。検査中にリアルタイムで観察できるため、患者さんにも画像を見ながら説明を受けることができます。
穿刺吸引細胞診による甲状腺がんの確定診断
超音波検査で甲状腺がんが強く疑われる場合、穿刺吸引細胞診を実施します。これは良性腫瘍と悪性腫瘍を確実に判定するための検査です。
甲状腺の腫瘍部分に直接細い針を刺し、細胞を吸引採取して顕微鏡で診断します。小さな腫瘍の場合は超音波ガイド下で行い、より正確に針を刺すことができます。
超音波検査で明らかに良性腫瘍と判定できる場合には細胞診を行わないこともありますが、悪性が疑われる場合には必須の検査となります。
細胞診の判定分類
細胞診の結果は以下のように分類されます:
- 検体不適正:適切な細胞が採取できなかった場合
- 良性:良性腫瘍と判定
- 意義不明:良性か悪性かの判定が困難
- 濾胞性腫瘍:濾胞がんか良性の濾胞腺腫かの判別が困難
- 悪性疑い:悪性の可能性が高い
- 悪性:悪性腫瘍と確定診断
甲状腺がん検査における画像診断
甲状腺がんが確定診断された場合、治療方針決定のためにさらに詳細な画像検査を行います。
CT検査(コンピュータ断層撮影)
CTスキャンは甲状腺がんの進展範囲を詳細に把握するために実施されます。特に周囲臓器への浸潤の程度や、手術での切除範囲を決定する際に重要な情報を提供します。造影剤を使用することで、より詳細な血管との関係も評価できます。
MRI検査(磁気共鳴画像撮影)
MRIは軟部組織のコントラストに優れ、甲状腺がんと周囲組織との境界を明確に描出できます。ただし、精密検査の段階では必ずしも必要ではなく、CTが優先されることが多いです。
シンチグラフィ検査
甲状腺がんでは、甲状腺の機能や形状を調べる甲状腺シンチグラフィと、他の臓器への転移などを確認する腫瘍シンチグラフィが行われます。
甲状腺がんは肺と骨に転移しやすい特徴があるため、転移が疑われる場合には骨シンチグラフィが行われます。肺への転移はCTで、骨への転移はシンチグラフィで調べることが一般的です。
ただし、シンチグラフィの診断能力には限界があるため、より詳細な検査としてPET検査が行われることもあります。
PET検査(陽電子放射断層撮影)
PET検査は代謝活動の活発ながん細胞を検出する検査です。甲状腺がんの転移や再発の診断に有用で、シンチグラフィよりも高い診断能力を持ちます。
甲状腺がん検査の医療費について
甲状腺がんの検査にかかる医療費は、検査内容や医療機関により異なりますが、保険適用となる場合がほとんどです。
検査項目 | 3割負担での概算費用 | 1割負担での概算費用 |
---|---|---|
触診・初診 | 約2,000-3,000円 | 約700-1,000円 |
血液検査(甲状腺機能+腫瘍マーカー) | 約3,000-5,000円 | 約1,000-1,700円 |
超音波検査 | 約2,000-3,000円 | 約700-1,000円 |
穿刺吸引細胞診 | 約5,000-8,000円 | 約1,700-2,700円 |
CT検査 | 約8,000-12,000円 | 約2,700-4,000円 |
MRI検査 | 約12,000-18,000円 | 約4,000-6,000円 |
甲状腺エコー検査の場合、3割負担の方で約7,000円、1割負担の方で約2,300円が目安となります。ただし、これらの費用は医療機関や検査の組み合わせにより変動します。
高額な検査が必要となる場合には、高額療養費制度の利用も可能です。事前に医療機関の医療相談室や加入している保険者に相談することをお勧めします。
甲状腺がん検査を受けるタイミング
甲状腺がんの検査を受けるべきタイミングについて説明します。
症状がある場合
以下のような症状がある場合は、早めに医療機関を受診し検査を受けることが重要です:
- 首の前面にしこりを触れる
- のどの違和感や圧迫感が続く
- 声のかすれが2週間以上続く
- 首のリンパ節の腫れ
- 嚥下困難(物が飲み込みにくい)
定期検診での発見
甲状腺がんは症状のない段階で人間ドックや健康診断のオプション検査で発見されることも多くあります。特に女性は男性の5-8倍発症しやすいため、定期的な検査を検討することが推奨されます。
甲状腺がん検査後の治療方針決定
これらの検査結果を総合的に評価し、がんの種類、進行度(ステージ)、患者さんの年齢や体の状態を考慮して治療方針を決定します。
2024年に発行された甲状腺腫瘍診療ガイドラインでは、最新のエビデンスに基づいた診断・治療指針が示されており、これに従って個々の患者さんに最適な治療法が選択されます。
乳頭がんでは腫瘍の大きさや転移の有無により、超低リスク・低リスク・中リスク・高リスクに分類され、リスクに応じた治療法が選択されます。髄様がんや未分化がんでは、それぞれの特性に応じた専門的な治療が行われます。
甲状腺がん検査における注意点
甲状腺がんの検査を受ける際の注意点について説明します。
検査前の準備
血液検査の場合、特別な食事制限は通常必要ありませんが、服用中の薬剤がある場合は医師に相談しましょう。
検査結果の解釈
検査結果は必ず医師から詳しい説明を受けましょう。特に細胞診の結果が「意義不明」や「濾胞性腫瘍」の場合は、追加検査や経過観察が必要となることがあります。
一度の検査で診断が確定しない場合でも、継続的な検査により正確な診断が可能になります。不安な点があれば、遠慮なく医師に質問しましょう。
まとめ
甲状腺がんの検査は、触診から始まり、血液検査、超音波検査、穿刺吸引細胞診という段階的な流れで進められます。各検査にはそれぞれ重要な役割があり、総合的な評価により正確な診断が可能になります。
早期発見・早期治療により良好な予後が期待できる甲状腺がんですが、適切な検査を受けることが何より重要です。気になる症状がある場合は、迷わず医療機関を受診し、専門医による診断を受けましょう。