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こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
GIST(ジスト)は消化管間質腫瘍と呼ばれる、消化管にできる悪性腫瘍です。胃がんや大腸がんなどの粘膜から発生するがんとは異なり、消化管の筋肉層から発生する肉腫に分類されます。
発症割合は10万人に1~2人程度とされる希少がんの一つで、胃での発症が最も多く約7割を占めます。次いで小腸が約2割、まれに大腸や食道で発見されることもあります。
消化管の内側ではなく壁の中で発症するため、周囲の臓器や組織を圧迫するほど大きくならないと自覚症状がほとんどありません。そのため発見時にはすでにある程度の大きさになっているケースが多いのが特徴です。
GISTの治療方針と薬物治療の位置づけ
GISTの治療は、原則として手術が第一選択となります。腹腔鏡や開腹による外科手術が基本で、場合によっては内視鏡と腹腔鏡を併用した手術が行われることもあります。
しかし腹膜播種や肝臓への転移があり手術ができない場合、または手術後の再発予防を目的とする場合には、分子標的薬を中心とした薬物治療が行われます。
GISTの多くはKIT遺伝子またはPDGFRA遺伝子に変異があり、これらの遺伝子から作られる異常なタンパク質が腫瘍の増殖を促進します。薬物治療では、このタンパク質の働きを阻害する分子標的薬が使用されます。
2026年時点でのGIST治療薬の種類
現在、日本で承認されているGISTの治療薬は次の4つです。治療ラインごとに使い分けられています。
| 治療ライン | 薬剤名(商品名) | 一般名 | 承認年 |
|---|---|---|---|
| 1次治療 | グリベック | イマチニブ | 2003年 |
| 2次治療 | スーテント | スニチニブ | 2008年 |
| 3次治療 | スチバーガ | レゴラフェニブ | 2013年 |
| 4次治療 | ジェセリ | ピミテスピブ | 2022年 |
これらは全て経口薬(飲み薬)で、継続的に服用することで効果を発揮します。
1次治療:グリベック(イマチニブ)の効果と副作用
グリベックの作用機序と効果
グリベックは2003年にGISTの治療薬として日本で初めて承認された薬で、分子標的薬の先駆けとなりました。KIT遺伝子の変異によって作られる異常なKITタンパク質の働きを阻害し、腫瘍の増殖を抑えます。
特にKIT遺伝子のエクソン11に変異があるタイプに対して高い効果を示し、エクソン9に変異がある場合も効果が期待できます。GISTの約8割がエクソン11または9に変異があるため、多くの患者さんに効果が認められます。
切除不能のGISTに対する奏効割合は約50%、無増悪生存期間の中央値は2年と報告されています。つまり半数の患者さんは2年以上にわたってグリベックの効果が持続するということになります。
グリベックの投与方法
GISTの治療では、通常1日1回400mgを食後に服用します。吐き気などの副作用を軽減するため、朝昼晩の食事のうち最も量をしっかり摂れる食事の後に服用することが推奨されています。
効果がある限り服用を継続しますが、耐性ができて効果がなくなった場合は2次治療へ移行します。
グリベックの主な副作用
主な副作用として以下のようなものがあります。
| 副作用の種類 | 具体的な症状 | 対処方法 |
|---|---|---|
| 消化器症状 | 吐き気、嘔吐、下痢 | 食後服用、制吐剤使用 |
| むくみ | 眼瞼浮腫、顔面・下肢のむくみ | 利尿薬使用、減塩食 |
| 皮膚症状 | 発疹、かゆみ | 保湿、症状に応じた薬物治療 |
| 筋肉症状 | 筋肉痛、けいれん | 症状に応じた対症療法 |
| 血液系 | 貧血、白血球減少 | 定期的な血液検査による監視 |
グリベックの副作用は通常の化学療法ほど強くありませんが、特に眼瞼浮腫(目の周りのむくみ)は生活の質に影響するため、短期の休薬を検討するなど治療継続のための配慮が必要です。
グリベックの術前・術後補助療法での使用
近年では、手術前にグリベックを使用して腫瘍を小さくし手術を可能にする術前補助療法や、手術後の再発予防として行う術後補助療法でも使用されています。
術後補助療法は、再発リスクの高い患者さんに対して3年間行うことが世界的な標準治療となっています。
2次治療:スーテント(スニチニブ)の効果と副作用
スーテントの作用機序と効果
スーテントは2008年に承認された、グリベックが効かなくなった後の2次治療薬です。KITやPDGFRAの他に、血管新生に関わるVEGFRなど複数のキナーゼを阻害するマルチキナーゼ阻害薬です。
イマチニブ耐性のGIST患者さんに初めて延命効果を示した薬剤で、無増悪生存期間の中央値は約6~7か月と報告されています。
スーテントの投与方法
通常1日1回50mgを4週間連日服用し、その後2週間休薬します。これを1コースとして繰り返します。
ただし副作用のためにスケジュール通りに服用できないケースも多く、その場合は投与量を37.5mgに減量したり、投与スケジュールを調整するなどの工夫が必要です。実際、投与量やスケジュールを個々の患者さんに合わせて調整した方が長期の治療成績が良好だったという報告もあります。
スーテントの主な副作用
グリベックに比べると副作用が強く、以下のようなものがあります。
| 副作用の種類 | 頻度 | 特徴 |
|---|---|---|
| 高血圧 | 約30% | 定期的な血圧測定が必要 |
| 手足症候群 | 約50% | 手足の腫れ、皮膚の乾燥・はがれ |
| 血液毒性 | 血小板減少26% 好中球減少27% |
感染症リスクの増加 |
| 甲状腺機能低下 | 頻度高い | 定期的な甲状腺機能検査が必要 |
| 心機能低下 | 左室駆出率低下12% | 心エコー検査による監視が必要 |
甲状腺機能低下、心機能低下、QT延長などは重篤化するまで見逃されることもあるため、治療開始前の各臓器機能のチェックと、定期的な甲状腺機能検査、心エコー、心電図検査が必要不可欠です。
3次治療:スチバーガ(レゴラフェニブ)の効果と副作用
スチバーガの作用機序と効果
スチバーガは2013年に承認された3次治療薬です。グリベックやスーテントと同様、マルチキナーゼ阻害薬で、腫瘍の血管新生、腫瘍形成、腫瘍微小環境の維持に関わる複数のキナーゼを阻害します。
グリベックやスーテントの効果が見られなくなった場合、または副作用のために使用できない場合に使用され、理論上さらに約半年間の生存期間延長が期待できるとされています。
スチバーガの投与方法
通常1日1回160mgを食後に3週間連日服用し、その後1週間休薬します。これを1サイクルとして投与を繰り返します。
空腹時や高脂肪食の摂取後は薬の吸収が低下するため、適切な食事のタイミングでの服用が重要です。スーテントと同様、患者さんごとに投与方法を調整することが推奨されています。
スチバーガの主な副作用
スーテント同様、グリベックに比べて副作用が強く現れます。
| 副作用の種類 | 主な症状 | 注意点 |
|---|---|---|
| 手足症候群 | 手足の痛み、腫れ、水疱 | 治療開始後2か月以内に出現しやすい |
| 肝機能障害 | 肝酵素値の上昇 | 定期的な肝機能検査が必須 |
| 高血圧 | 血圧上昇 | 治療開始後2か月以内に出現しやすい |
| 消化器症状 | 下痢、食欲減退 | 症状に応じた対症療法 |
| 血液系 | 血小板減少、白血球減少 | 定期的な血液検査による監視 |
まれに間質性肺疾患などの重篤な副作用が出ることがあるため、十分な注意と定期的な検査が必要です。
4次治療:ジェセリ(ピミテスピブ)の効果と副作用
ジェセリの作用機序と効果
ジェセリは2022年6月に承認された、日本で開発された世界初のHSP90阻害薬です。これまでの3つの治療薬が効かなくなった、または副作用で使用できなくなった患者さんに対する新しい治療選択肢となります。
HSP90はがん細胞の増殖・生存に重要なタンパク質の安定化に関わっており、ジェセリがこれを阻害することで、KITやPDGFRAなどの腫瘍増殖に関与するタンパク質が減少し、腫瘍の増殖が抑制されます。
臨床試験では無増悪生存期間の中央値がジェセリ群で2.8か月、プラセボ群で1.4か月となり、病勢進行または死亡のリスクを49%低下させました。
ジェセリの投与方法
通常1日1回160mgを空腹時に服用します。5日間連続で服用した後2日間休薬し、これを繰り返します。
食後に服用すると血中濃度が上昇するため、食事の1時間前から食後2時間までの間は服用を避ける必要があります。
ジェセリの主な副作用
| 副作用の種類 | 主な症状 | 対処方法 |
|---|---|---|
| 下痢 | 重度の下痢が出現する可能性 | 定期的な症状確認、脱水予防 |
| 眼障害 | 夜盲、霧視、視力障害 | 症状に応じて休薬・減量 |
| 貧血 | 赤血球減少 | 定期的な血液検査 |
| 味覚障害 | 味覚の変化 | 食事内容の工夫 |
| 肝機能障害 | 肝酵素値上昇 | 定期的な肝機能検査 |
副作用が出現した場合は、症状の重症度に応じて休薬または減量が行われます。減量は段階的に行われ、160mg→120mg→80mg→40mgと調整されます。
GIST治療薬の費用と高額療養費制度の活用
各治療薬の薬剤費
GIST治療薬は分子標的薬であり、薬剤費が高額になります。以下は主な薬剤の概算費用です(2026年時点)。
| 薬剤名 | 1日の用量 | 1か月の薬価概算 | 備考 |
|---|---|---|---|
| グリベック (イマチニブ) |
400mg | 先発:約17万円 後発:約4.7万円 |
後発品あり 選定療養費に注意 |
| スーテント (スニチニブ) |
50mg | 約40万円 | 4週服用+2週休薬 |
| スチバーガ (レゴラフェニブ) |
160mg | 約68万円 | 3週服用+1週休薬 |
| ジェセリ (ピミテスピブ) |
160mg | 約75万円 | 5日服用+2日休薬 |
これらの金額は薬剤費のみで、診察料や検査費用は含まれていません。健康保険が適用されますが、3割負担でも相当な額になります。
高額療養費制度の活用
高額療養費制度は、1か月の医療費が自己負担限度額を超えた場合、超えた分が払い戻される制度です。所得に応じて自己負担限度額が設定されています。
| 所得区分 | 年収目安 | 自己負担限度額(70歳未満) |
|---|---|---|
| 年収約1,160万円以上 | 標準報酬月額83万円以上 | 252,600円+(医療費-842,000円)×1% |
| 年収約770~1,160万円 | 標準報酬月額53~79万円 | 167,400円+(医療費-558,000円)×1% |
| 年収約370~770万円 | 標準報酬月額28~50万円 | 80,100円+(医療費-267,000円)×1% |
| 年収約370万円以下 | 標準報酬月額26万円以下 | 57,600円 |
| 住民税非課税 | - | 35,400円 |
なお、2026年8月からは高額療養費制度の見直しが予定されており、自己負担限度額が段階的に引き上げられる可能性があります。最新の情報は厚生労働省のホームページで確認することをお勧めします。
多数該当制度の活用
過去12か月以内に3回以上、自己負担限度額を超える医療費がかかった場合、4回目からは自己負担限度額がさらに下がります。長期治療を続けるGIST患者さんにとって重要な制度です。
選定療養費について
2024年10月から、後発医薬品が発売されて5年以上経過した先発医薬品を希望する場合、選定療養費が別途徴収されるようになりました。
グリベックの場合、先発品を希望すると30日分で約3万7,000円の選定療養費が必要になります。ただし医療上の必要性が認められる場合は徴収されません。
治療薬の選択と継続のポイント
遺伝子検査の重要性
GISTの治療効果は遺伝子変異のタイプによって異なります。KIT遺伝子のエクソン11変異があるタイプはイマチニブの効果が高く、エクソン9変異のタイプはスニチニブの効果がより顕著です。
近年では、がん遺伝子パネル検査によって多数の遺伝子異常を一度に調べることが可能になり、遺伝子情報に基づいた個別化医療も行われるようになっています。
副作用マネジメントの重要性
GIST治療薬は長期にわたって継続することで効果を発揮します。副作用が出現した場合でも、適切な対症療法や投与量・スケジュールの調整によって治療を継続できることが多くあります。
副作用を我慢せず、つらい症状があれば速やかに医療チームに相談することが大切です。
治療施設の選択
GISTは希少がんのため、診断や治療に専門的な知識と経験が必要です。国立がん研究センターなどの希少がんの診療実績が豊富な施設での治療を検討することも一つの選択肢です。
また、がん診療連携拠点病院に設置されているがん相談支援センターでは、治療や経済的な相談を無料で受けることができます。
まとめ
GIST治療では、イマチニブ、スニチニブ、レゴラフェニブ、ピミテスピブの4つの分子標的薬が順次使用されます。それぞれの薬剤には特徴的な副作用がありますが、適切な管理によって多くの患者さんで治療継続が可能です。
薬剤費は高額ですが、高額療養費制度を活用することで自己負担額を抑えることができます。遺伝子検査に基づいた個別化医療や、副作用マネジメント、経済的サポートの活用など、総合的なアプローチによってより良い治療成績が期待できます。
治療に関する疑問や不安がある場合は、まずは担当医に相談しましょう。
参考文献・出典情報
国立がん研究センター希少がんセンター|GIST(消化管間質腫瘍)
日経メディカル|新薬も承認されたGIST診療の現在とこれから
がん情報サイト「オンコロ」|経口HSP90阻害剤ジェセリ、GIST適応で製造販売承認
MSDマニュアル家庭版|消化管間質腫瘍
日経メディカル処方薬事典|グリベック錠100mg
日経メディカル処方薬事典|スーテントカプセル12.5mg
日経メディカル処方薬事典|スチバーガ錠40mg
日経メディカル処方薬事典|ジェセリ錠40mg
日経メディカル|GISTの最新治療と活用したい患者・家族サポート
厚生労働省|高額療養費制度について(令和7年5月)

