
アキシチニブ(インライタ)とは?基本情報と特徴
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
アキシチニブ(商品名:インライタ)は、根治切除不能または転移性の腎細胞がんに使用される分子標的薬です。経口薬として1日2回服用する錠剤で、主にファイザー株式会社が製造販売しています。
この薬は「チロシンキナーゼ阻害薬」に分類され、がん細胞の増殖に必要な血管新生を抑えることで抗腫瘍効果を発揮します。従来の細胞障害性抗がん剤とは異なる作用機序を持つため、先行治療が効かなくなった患者さんにも効果が期待できる治療選択肢となっています。
一般名と商品名
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 一般名 | アキシチニブ(Axitinib) |
| 商品名 | インライタ錠(Inlyta) |
| 製造販売元 | ファイザー株式会社 |
| 投与経路 | 経口(内服薬) |
| 剤形 | 1mg錠、5mg錠 |
アキシチニブの作用機序:どのようにがん細胞を抑えるか
アキシチニブは、がん細胞の血管新生を阻害することで効果を発揮する薬です。がん細胞が成長するためには栄養や酸素が必要ですが、これらを取り込むために新たに血管を作ろうとします。
がん細胞はVEGF(血管内皮増殖因子)という物質を分泌し、血管内に存在するVEGFR(血管内皮増殖因子受容体)に結合することで、血管新生の命令が伝わります。この命令を伝える働きを持つのがVEGFR内にあるチロシンキナーゼという酵素です。
アキシチニブは、VEGFR-1、VEGFR-2、VEGFR-3の3つの受容体のチロシンキナーゼを選択的に阻害します。この阻害により血管新生の命令が遮断され、がん細胞への栄養補給ルートが断たれることで、がん細胞の増殖が抑制され、やがて死滅に至ります。
他のチロシンキナーゼ阻害薬と比較して、アキシチニブはVEGFRに対する選択性が高く、阻害活性が強いという特徴があります。これにより、骨髄抑制や血液障害などの副作用が比較的少ないとされています。
体内での代謝経路
アキシチニブは主に肝臓の代謝酵素CYP3A4/5によって代謝され、糞中に排泄されます。そのため、肝機能障害がある患者さんでは慎重な投与が必要となります。
対象となるがんの種類と適応
2026年1月現在、アキシチニブが適応となるのは以下のがんです。
根治切除不能または転移性の腎細胞がん
アキシチニブは、手術による根治が困難な進行した腎細胞がん、または他の臓器に転移した腎細胞がんの治療に使用されます。使用方法は以下の2つのパターンがあります。
| 使用場面 | 投与方法 | 推奨事項 |
|---|---|---|
| 一次治療 (初回治療) |
免疫チェックポイント阻害薬 (PD-1/PD-L1阻害剤)との併用 |
キイトルーダ(ペムブロリズマブ)などとの併用療法が推奨 |
| 二次治療 (先行治療後) |
単剤投与 | サイトカイン療法や他の分子標的薬の治療歴がある患者さん |
近年、未治療の進行性腎細胞がんに対して、アキシチニブと免疫チェックポイント阻害薬であるキイトルーダ(ペムブロリズマブ)との併用療法が一次治療として使用可能となっています。この併用療法により、従来の標準治療であったスニチニブ単独療法と比較して、生存期間の延長が示されています。
臨床試験で示された効果と奏効率
アキシチニブの有効性は、複数の臨床試験で証明されています。
AXIS試験(国際共同第3相臨床試験)
一次治療が効かなくなった転移性腎細胞がんの患者さん715人を対象に、アキシチニブとネクサバール(ソラフェニブ)の効果を比較した試験では、以下の結果が得られました。
| 評価項目 | アキシチニブ群 | ネクサバール群 |
|---|---|---|
| 無増悪生存期間 (がんが進行せず安定した期間) |
6.8ヶ月 | 4.7ヶ月 |
| 奏効率 (腫瘍が縮小した患者さんの割合) |
19.6% | 9.2% |
特筆すべきは、日本人患者さん54人に絞り込んだ解析では、さらに優れた結果が示されたことです。日本人では無増悪生存期間がアキシチニブ群12.1ヶ月、ネクサバール群4.9ヶ月、奏効率はアキシチニブ群52.0%、ネクサバール群3.4%と、日本人に特に効果が高い傾向が認められました。
KEYNOTE-426試験(一次治療における併用療法)
2025年8月に報告された最新の5年追跡結果では、キイトルーダ+アキシチニブ併用療法とスニチニブ単独療法を比較した結果、以下のような持続的な効果が示されました。
| 評価項目 | キイトルーダ+アキシチニブ群 | スニチニブ群 |
|---|---|---|
| 全生存期間(OS)の中央値 | 47.2ヶ月 | 40.8ヶ月 |
| 無増悪生存期間(PFS)の中央値 | 15.7ヶ月 | 11.1ヶ月 |
| 客観的奏効率(ORR) | 60.6% | 39.6% |
この結果から、併用療法が長期的にも優れた効果を維持することが確認されています。
投与方法と投与スケジュール
標準的な投与量
通常、成人には以下のように投与されます。
アキシチニブとして1回5mgを1日2回経口投与します。朝と夕方など、約12時間間隔で服用するのが一般的です。水と一緒に服用し、食事の有無にかかわらず服用できます。
用量調整
患者さんの状態や副作用の発現状況に応じて、以下のように増減されます。
増量の場合:
副作用が軽く、血圧が適切にコントロールされている場合は、2週間ごとに1回7mg1日2回、さらに1回10mg1日2回まで増量できます。投与量と効果には相関関係があることが知られています。
減量の場合:
副作用が出現した場合は、症状の重症度に応じて1回3mg1日2回、または1回2mg1日2回に減量します。
免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の場合
キイトルーダなどのPD-1/PD-L1阻害剤との併用では、キイトルーダは3週間または6週間間隔で点滴投与し、アキシチニブは毎日経口投与を継続します。
注意が必要な副作用
アキシチニブは選択的なVEGFR阻害薬ですが、様々な副作用が報告されています。
重大な副作用(頻度の高いものから)
| 副作用 | 頻度 | 対応 |
|---|---|---|
| 高血圧 | 45.3% | 毎日の血圧測定が必須。降圧薬の使用が必要な場合あり |
| 甲状腺機能低下症 | 21.6% | 定期的な甲状腺機能検査が必要 |
| 鼻出血 | 5.9% | 軽度であれば経過観察、持続する場合は医師に報告 |
| 甲状腺機能亢進症 | 3.2% | 定期的な検査と症状の観察 |
| 肺塞栓症 | 0.8% | 呼吸困難、胸痛があればすぐに受診 |
| 喀血 | 0.6% | 血を吐いた場合は緊急対応が必要 |
| 高血圧クリーゼ | 0.3% | 急激な血圧上昇は緊急処置が必要 |
その他の主な副作用
下痢、口内炎、手足症候群(手のひらや足の裏の皮膚障害)、疲労、食欲減退、タンパク尿、発声障害、肝機能障害などが報告されています。
手足症候群は、皮膚の乾燥、ひび割れ、赤み、痛みなどの症状が手のひらや足の裏に現れるもので、予防と早期発見が重要です。保湿剤の使用や、皮膚に異常を感じたらすぐに医療者に報告することが推奨されます。
緊急対応が必要な症状
以下の症状が出現した場合は、すぐに医療者へ連絡する必要があります。
突然の強い腹痛、呼吸困難、胸痛、意識障害、下肢の腫れや痛み、喀血、吐血、下血、急激な血圧上昇などです。これらは動脈・静脈血栓症、消化管穿孔、重症出血などの重大な副作用の兆候である可能性があります。
日常生活での注意点と自己管理
血圧の自己測定
アキシチニブを服用する患者さんは、毎日決まった時間に血圧を測定し、記録しておくことが推奨されます。これは高血圧や高血圧クリーゼといった副作用の早期発見と対応のために重要です。
降圧薬を併用している患者さんでは、アキシチニブの休薬時に血圧が低下することがあるため、血圧の変動に注意が必要です。
皮膚のケア
手足症候群の予防のため、以下の対策が有効です。
手足の保湿を十分に行う、刺激の少ない靴や衣服を選ぶ、熱いお湯での入浴を避ける、皮膚に異常を感じたらすぐに報告するなどです。
服用のタイミング
毎日同じ時間帯に服用することで、血中濃度を一定に保つことができます。飲み忘れた場合は、次の服用時間まで6時間以上あれば気づいた時点で服用し、6時間未満の場合はその回は飛ばして次回から通常通り服用します。
慎重投与が必要な患者さん
以下のような方は、特に慎重な経過観察が必要です。
高血圧のある方、甲状腺機能障害のある方、血栓塞栓症の既往がある方、脳転移のある方、外科的処置後で創傷が未治癒の方、中等度以上の肝機能障害のある方などです。
妊娠中または妊娠の可能性がある方への投与は禁忌とされています。
保険適用と薬価、費用について
アキシチニブは、根治切除不能または転移性の腎細胞がんに対して保険適用となっています。
2026年1月時点の薬価
| 規格 | 薬価(1錠あたり) |
|---|---|
| インライタ錠1mg | 1,525.4円 |
| インライタ錠5mg | 6,910円 |
月額費用の目安
標準的な投与量である1回5mg1日2回の場合:
1日あたりの薬剤費:6,910円×2錠=13,820円
30日分:13,820円×30日=414,600円
自己負担額(3割負担の場合):124,380円/月
自己負担額(1割負担の場合):41,460円/月
実際の自己負担額は、高額療養費制度の適用により、所得に応じた上限額までとなります。
高額療養費制度の活用
多くの患者さんは高額療養費制度を利用することで、月々の自己負担額を所得に応じた限度額以内に抑えることができます。
例えば、70歳未満で年収約370万円~約770万円の方の場合、自己負担限度額は80,100円+(医療費-267,000円)×1%となります。
事前に「限度額適用認定証」を取得しておくと、医療機関の窓口での支払いが限度額までとなり、一時的な負担を軽減できます。
他の治療薬との併用
免疫チェックポイント阻害薬との併用
現在、腎細胞がんの一次治療では、アキシチニブとキイトルーダ(ペムブロリズマブ)などの免疫チェックポイント阻害薬との併用療法が標準治療の一つとなっています。
この併用療法では、がん細胞への攻撃を強める免疫チェックポイント阻害薬と、血管新生を阻害するアキシチニブの2つの異なる作用メカニズムにより、相乗効果が期待できます。
併用注意の薬剤
アキシチニブは肝臓の代謝酵素CYP3A4で代謝されるため、この酵素に影響を与える薬剤との併用には注意が必要です。
CYP3A4を強く阻害する薬剤(一部の抗真菌薬、抗生物質など)を併用すると、アキシチニブの血中濃度が上昇し、副作用が強く出る可能性があります。
逆に、CYP3A4を誘導する薬剤(一部のてんかん薬、結核治療薬など)を併用すると、アキシチニブの効果が減弱する可能性があります。
治療を受けるうえでのポイント
治療施設の選択
アキシチニブの投与は、緊急時に十分対応できる医療施設において、がん化学療法に十分な知識と経験を持つ医師のもとで行われる必要があります。
治療開始前には、患者さんやご家族に有効性と危険性について十分な説明がなされ、同意を得たうえで投与が開始されます。
定期的な検査と経過観察
治療中は以下のような定期的な検査が必要です。
血圧測定(毎日の自己測定と定期的な診察時の測定)、血液検査(肝機能、腎機能、甲状腺機能、血球数など)、尿検査(タンパク尿の確認)、画像検査(治療効果の判定)などです。
副作用への対処
副作用が出現した場合は、症状や重症度に応じて、アキシチニブの減量、休薬、または中止が検討されます。
多くの副作用は適切な対症療法により管理可能です。例えば、高血圧には降圧薬、下痢には止痢薬、口内炎には口腔ケアと痛み止めなどが使用されます。
2026年現在の治療における位置づけ
腎細胞がん治療における分子標的薬の選択肢は年々増加していますが、アキシチニブは以下の点で重要な位置を占めています。
一次治療では、免疫チェックポイント阻害薬との併用療法の一つとして、国内外のガイドラインで推奨されています。二次治療では、サイトカイン療法や他の分子標的薬治療後の選択肢として、優れた効果が示されています。
VEGFR阻害薬の中でも選択性が高く、比較的副作用が管理しやすいという特徴があり、長期継続投与が可能な症例も報告されています。
患者さんが知っておくべきこと
アキシチニブは、根治切除不能または転移性の腎細胞がんに対して効果が証明されている治療薬ですが、すべての患者さんに効果があるわけではありません。
治療効果や副作用の出方には個人差があります。医師とよく相談しながら、自分に合った治療を見つけていくことが大切です。
副作用については、早期発見と適切な対処により、多くの場合管理可能です。日々の自己観察と、気になる症状があればすぐに医療者に相談することが重要です。
高額療養費制度などの医療費支援制度を活用することで、経済的な負担を軽減できる場合があります。医療ソーシャルワーカーなどに相談しましょう。
治療を続けるうえで、ご自身の体調の変化に敏感になり、医療チームと良好なコミュニケーションを保つことが、より良い治療成績につながります。
参考文献・出典情報
MSD株式会社 キイトルーダとアキシチニブの併用治療について

