肝臓がんは他のがんに比べて治療方法が多く、手術以外の局所治療法として、ラジオ波焼灼療法(RFA)、マイクロ波凝固療法、エタノール注入療法があります。
この中で、最も広く行われているのがRFAで、マイクロ波凝固療法は、RFAの登場により今日ではごく一部の施設でしか行われていません。
いっぽう、エタノール注入療法は千葉大で開発された治療で、1982年に臨床がスタートし、12年後の94年頃には広く定着しました。肝臓がんの内科的局所療法の中では最も歴史のある治療だといえます。
治療の具体的な流れは次のとおりです。
医師は腹部超音波(エコー)画像を見ながら皮膚から直接肝臓がん部分に直径1ミリ程度の針を刺し、純度100%のエタノールを注入して肝臓がんを壊死させます。1回の治療で完全にがんを壊死させるのは難しいので、週に2回くらいの割合で治療を行い、がんの大きさによっては数回施行するため2~3週間程度の入院を必要とすることがあります。
治療の対象となるのはがんの大きさが3センチ以内、3個以下が基本です。
このエタノール注入療法は有効な治療法ではあるが、問題点もあります。
肝臓がんは結節内結節という、隔壁で仕切られたいくつもの部屋からできています。注入したエタノールはその区画には入りますが、壁を通過できないので他の区画には入りません。そのため何度も針を刺さねばならず、未治療部分が残ると再発の可能性がでてくるのです。
いっぽうで、この治療法ならではの強みもあります。
1センチ以内の肝臓がんが5~6個あるようなときは、RFAだと治療に50~60分程度かかりますが、エタノール注入療法だと5~6分程度で済むので、患者への負担が少なくて済むことがメリットです。また、他臓器と隣接しているときもRFAでは熱がそこに及びかねません。そのときはエタノール注入療法であれば問題なく治療できます。
自身のがんの状態と取り得る選択肢を見比べてみて、より適した治療法を選ぶことがポイントになります。
治療後
治療が終わったら、針を刺した部分を消毒し、圧迫して固定します。その後、2~6時間は安静にし、飲食も禁じられます。この間、止血剤を点滴することもあります。
強い痛みは一般に、治療後数分でおさまります。しかし、痛みがさらに長く続く場合には、鎮痛薬を投与します。エタノールに弱い患者がこの治療法を受けると、酔ったような状態になることがあります。
治療のスケジュール
治療のスケジュールは、病院によっても、また患者の状態によっても異なります。ふつうは治療の間隔を2~4日間あけますが、体調が悪いときや、高齢で治療による負担が大きいときなどは、さらに時間をあけて治療することもあります。
治療の回数
治療の回数は、腫瘍の大きさと数によって異なります。腫瘍が大きく、また数も多いときには、それだけ治療回数が増えます。
たとえば、1センチ以下の腫瘍が1個のときには、1回の治療で終わることもあります。しかし、2センチのがんなら2~3回、3センチのがんなら3~5回の治療が必要となります。
というのも、腫瘍の周囲に浸潤したがん細胞も完全に壊死させるには、ふつう、腫瘍の体積の2~3倍程度のエタノールが必要だからです。つまり、直径2センチの腫瘍なら8~12ミリリットル、直径3センチなら30~45ミリリットルのエタノール注入が必要になります。
1回の穿刺で注入するエタノールの量は、一般に5ミリリットル以下です(1回の治療の総量も10~20ミリリットル以下)。そこで単純計算すると、2センチの腫瘍なら2回の治療が必要ということになります。
腫瘍の性質や形状によっても、必要量は変わってきます。内部に"壁"が生じているときには、それらによって区切られた"部屋"ごとに、エタノールを注入する必要があります。
また、腫瘍が膜でおおわれているときには、膜やその外側に浸潤しているがん細胞を殺すために、膜の近くにもエタノールを注入しなくてはなりません。複数の腫瘍がある場合には、思者の状態を見て、1回の治療の対象を複数の腫瘍にするか、1個だけにするかを決めます。
以上、肝臓がんのエタノール注入療法についての解説でした。