
乳がんの骨転移とは
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
乳がんは骨に転移しやすいがんの一つです。骨転移を起こしている患者さんは、乳がん患者さんの約半数に上ると報告されています。
骨は常に新しく作られ、古い骨が壊されるという新陳代謝を繰り返しています。この骨の新陳代謝には、骨を作る「骨芽細胞」と骨を壊す「破骨細胞」という2種類の細胞が関わっています。
健康な状態では、この2つの細胞のバランスが保たれていますが、骨に転移したがん細胞は破骨細胞を活性化させる物質を放出します。その結果、骨を壊す働きが強くなり、骨がもろくなってしまいます。
骨転移による影響と骨関連事象(SRE)
骨転移が進行すると、患者さんにさまざまな症状や問題が生じます。これらを総称して「骨関連事象(SRE:Skeletal Related Events)」と呼びます。
骨関連事象には以下のようなものがあります。
| 骨関連事象 | 症状・影響 |
|---|---|
| 病的骨折 | 弱くなった骨が日常的な動作で折れてしまう |
| 骨の痛み | がん細胞による骨破壊や神経への影響で強い痛みが生じる |
| 脊髄圧迫 | 背骨の転移により神経が圧迫され、麻痺などが起こる |
| 高カルシウム血症 | 骨から溶け出したカルシウムで血液中のカルシウムが高くなり、倦怠感や意識障害を引き起こす |
| 整形外科的手術の必要性 | 骨折の予防や治療のために手術が必要になる |
これらの骨関連事象は、患者さんの生活の質(QOL)を低下させる重要な問題です。そのため、骨転移が見つかった場合には、これらの事象を予防し、発生を遅らせることが治療の目標となります。
骨転移の治療における基本的な考え方
骨転移が見つかった場合、治療の優先順位を理解しておくことが大切です。
骨転移の治療で最も重要なのは、がん細胞そのものを抑える治療です。つまり、抗がん剤やホルモン療法、分子標的薬などによる薬物療法が最優先となります。これらの治療でがん細胞をコントロールできれば、骨転移巣も縮小することが期待できます。
一方、今回ご説明する「ゾメタ」や「ランマーク」は、がん細胞を直接攻撃する薬ではありません。これらは「骨修飾薬」と呼ばれ、破骨細胞の働きを抑えることで骨の破壊を防ぎ、骨関連事象の発生を予防したり遅らせたりする役割を担っています。
ゾメタ(ゾレドロン酸)とは
ゾメタ(一般名:ゾレドロン酸水和物)は、ビスホスホネート製剤と呼ばれる薬の一種です。もともとは骨粗しょう症の治療薬として開発されましたが、がんの骨転移治療にも広く使われています。
ゾメタの作用メカニズム
ゾメタは骨に対して高い親和性を持ち、骨の表面に吸着します。そこで破骨細胞に取り込まれ、破骨細胞の機能を障害したり、アポトーシス(細胞死)を誘導したりすることで、骨を壊す働きを抑制します。
さらに近年の研究では、ゾメタががん細胞が他の臓器に転移するための足場を作るのを阻害したり、免疫細胞を誘導してがん細胞を攻撃する働きがあることも分かってきています。
ゾメタの投与方法
ゾメタは点滴による投与となります。通常、4mgを生理食塩液またはブドウ糖注射液100mLに希釈し、15分以上かけて点滴します。投与間隔は3~4週間に1回です。
外来で抗がん剤の点滴を受けている患者さんの場合、抗がん剤の点滴の最後に15分程度追加するだけで済むため、比較的負担が少ないという利点があります。
ただし、近年の臨床試験では、全身状態が良好な患者さんでは12週間隔の投与でも効果が同等であることが示されており、患者さんの状態によっては投与間隔を延ばすことも検討されています。
ゾメタの薬価
ゾメタ点滴静注4mg/5mLの薬価は10,636円(2025年時点)です。3割負担の患者さんの場合、薬剤費だけで1回約3,200円の自己負担となります。ただし、実際には診察料や点滴の手技料なども加わります。
ランマーク(デノスマブ)とは
ランマーク(一般名:デノスマブ)は、2012年に承認された比較的新しい骨修飾薬です。ビスホスホネート製剤とは異なる作用メカニズムを持つ分子標的治療薬です。
ランマークの作用メカニズム
破骨細胞が作られ、活性化されるためには、RANKL(ランクル)という蛋白質が重要な役割を果たしています。RANKLは、骨芽細胞などから分泌され、破骨細胞の前駆細胞にあるRANK(ランク)という受容体に結合することで、破骨細胞の形成や活性化を促進します。
ランマークは、このRANKLに特異的に結合するヒト型モノクローナル抗体です。RANKLとRANKの結合を阻害することで、破骨細胞の形成、活性化、生存を抑制し、骨の破壊を防ぎます。
ランマークの投与方法
ランマークは皮下注射による投与です。通常、120mgを4週間に1回投与します。
皮下注射はゾメタの点滴と比べて短時間で済み、静脈に針を刺す必要がないという利点があります。特に、経口のホルモン療法薬を服用している患者さんや、外来でホルモン療法の注射を受けている患者さんにとっては、点滴のために長時間病院にいる必要がないため、負担が少ないと言えます。
ランマークの薬価
ランマーク皮下注120mgの薬価は44,108円(2025年時点)です。3割負担の患者さんの場合、薬剤費だけで1回約13,200円の自己負担となります。ゾメタと比較すると高額ですが、高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額を抑えることができます。
ゾメタとランマークの効果の比較
どちらの薬も骨関連事象を減少させる効果が証明されていますが、その効果には若干の違いがあります。
臨床試験での比較
骨転移のある乳がん患者さんを対象とした臨床試験では、ランマークとゾメタを直接比較した研究が行われています。
その結果、ランマークは初回の骨関連事象が発生するまでの期間を有意に延長させることが示されました。具体的には、ゾメタでは骨関連事象発生までの期間中央値が26.4か月だったのに対し、ランマークでは中央値に到達しませんでした(それ以上に長かった)。
また、ランマークは2回目以降の骨関連事象の発生リスクも23%抑制しました。
このような結果から、一般的にはランマークの方が骨関連事象に対する効果がやや高いと考えられています。
生存期間への影響
ただし、重要な点として、どちらの薬剤も患者さんの生存期間を延ばす効果は認められていません。これらの薬は、あくまでも骨関連事象の頻度を減らし、発症を遅らせることで生活の質を維持することが目的です。
日本の診療ガイドラインでの位置づけ
日本乳癌学会が発行する「乳癌診療ガイドライン2022年版」では、骨転移を有する患者さんに対して、がん薬物療法に骨修飾薬(ゾメタまたはランマーク)を併用することが標準的とされています。
どちらの薬を選択するかについては、医師との相談により決定されます。効果の面ではランマークがやや優れていますが、投与方法の利便性、副作用のプロファイル、費用などを総合的に考慮して選択することになります。
ゾメタとランマークの使い分け
実際の臨床では、以下のような点を考慮して薬剤が選択されます。
| 考慮する点 | ゾメタが適している場合 | ランマークが適している場合 |
|---|---|---|
| 投与方法 | 抗がん剤の点滴を受けている場合 | 経口薬や注射のホルモン療法を受けている場合 |
| 効果 | 骨転移が比較的軽度の場合 | 進行した骨転移で骨関連事象のリスクが高い場合 |
| 治療経過 | 初回治療として | ゾメタで効果不十分な場合の切り替え |
| 腎機能 | 腎機能が正常な場合 | 腎機能が低下している場合 |
重要な副作用:顎骨壊死(がっこつえし)
ゾメタとランマークのどちらにも共通する重大な副作用として、顎骨壊死があります。これは、顎の骨が壊死してしまう状態で、発症すると治療が困難なため、予防が極めて重要です。
顎骨壊死とは
顎骨壊死は、顎の骨が壊死して露出したり、感染を起こしたりする状態です。症状としては、顎の痛み、腫れ、しびれ、膿が出る、歯がぐらつく、顎の骨が露出するなどがあります。無症状のこともあります。
進行すると、病的骨折(弱い力で顎の骨が折れてしまう)や皮膚瘻孔(顎の外側の皮膚に穴が開いて膿が出る)を起こすことがあります。
顎骨壊死の発生頻度
骨転移の治療でランマークを使用した場合、顎骨壊死の発生頻度は約2~5%と報告されています。ゾメタでも同様の頻度で発生します。骨粗しょう症の治療で使用される場合と比べて、がんの骨転移治療で使用される場合の方が発生頻度が高くなります。
なぜ顎の骨だけに起こるのか
全身の骨に薬が分布するのに、なぜ顎の骨だけに壊死が起こるのでしょうか。これにはいくつかの理由があります。
顎の骨は他の部位の骨と比較して、極めて感染しやすい環境にあります。歯が直接植わっており、口腔内には800種類以上、1兆個もの細菌が存在します。また、口腔粘膜は薄く、食事や日常生活で容易に傷がつきます。
さらに、顎の骨は全身の骨の中で最も新陳代謝が速く、破骨細胞の活動が活発です。そのため、破骨細胞の働きを抑える薬が高濃度に沈着しやすいのです。
加えて、噛む力は成人男性で平均60kgもあり、毎日繰り返し顎の骨に大きな力がかかっています。
顎骨壊死の誘因
顎骨壊死を引き起こす主な誘因は以下の通りです。
- 抜歯などの歯科処置(顎骨壊死の約60%が歯科処置に続発)
- 虫歯や歯周病などの口腔内感染
- 義歯による傷
- 口腔内の外傷
- 特に誘因なく自然発生(約20%)
顎骨壊死の予防対策
顎骨壊死は一度発症すると治療が困難なため、予防が最も重要です。以下の対策が必要となります。
投与前の対策
ゾメタやランマークの投与を開始する前に、必ず歯科または口腔外科を受診してください。医師からも投与前の歯科受診について説明があるはずです。
歯科では以下のような検査や処置を受けます。
- レントゲン撮影を含めた口腔内の詳細な検査
- 虫歯や歯周病の有無の確認
- 必要な虫歯の治療
- 抜歯が必要な歯がある場合は、薬の投与開始前に抜歯を済ませる
- 口腔ケアの方法についての指導
投与中の対策
薬の投与を開始した後も、継続的な口腔ケアと定期的な歯科受診が必要です。
- 毎日の丁寧な歯磨きと口腔内の清潔保持
- 定期的な歯科検診(3~6か月に1回程度)
- 新たな虫歯や歯周病の早期発見と治療
- 抜歯などの侵襲的な歯科処置はできるだけ避ける
- やむを得ず抜歯が必要な場合は、主治医と歯科医師の間で十分な連携を取る
注意すべき症状
以下のような症状があれば、すぐに歯科や口腔外科を受診してください。
- 顎の痛みや腫れ
- 顎のしびれ
- 歯のぐらつき
- 歯茎からの膿
- 口臭の悪化
- 口の中に骨が見える
その他の副作用
低カルシウム血症
ランマークとゾメタのどちらも、低カルシウム血症を引き起こすことがあります。ランマークの方がやや頻度が高いとされています。
低カルシウム血症が悪化すると、しびれ、けいれん、不整脈などの症状が出ることがあるため、予防のための薬を併用します。
ランマークの場合は、カルシウムとリンが配合された薬剤が処方されます。ゾメタの場合は、カルシウム製剤とビタミンD製剤が別々に処方されます。
急性期反応
ゾメタでは、投与後に発熱や骨痛などの急性期反応が起こることがあります。ランマークではこの反応は少ないとされています。
腎機能への影響
ゾメタは腎機能に影響を与えることがあるため、腎機能が低下している患者さんには使用しにくいという問題があります。一方、ランマークは腎機能への影響が少ないため、腎機能が低下している患者さんにも比較的使いやすいという利点があります。
治療費と高額療養費制度
ゾメタやランマークの治療は、保険診療で受けることができます。
月々の自己負担額が一定額を超えた場合、高額療養費制度により、超えた分が払い戻されます。自己負担の上限額は、年齢や所得によって異なります。
例えば、70歳未満で年収約370万円~約770万円の方の場合、1か月の自己負担の上限額は約80,100円+(医療費-267,000円)×1%となります。
また、同一世帯で1年間に3回以上高額療養費の支給を受けた場合、4回目からは自己負担の上限額が44,400円に軽減されます。
高額療養費制度を利用することで、実際の自己負担額を大きく抑えることができますので、医療機関の相談窓口や加入している健康保険の窓口で詳しく相談してください。
治療の継続期間
ゾメタやランマークは、骨転移がある限り継続して使用します。がんの治療が効果を示し、骨転移が改善した場合でも、予防的に継続することが一般的です。
ただし、顎骨壊死などの副作用が発生した場合や、全身状態が悪化した場合などには、休薬や中止を検討することがあります。
まとめに代えて
乳がんの骨転移に対するゾメタとランマークは、どちらも骨関連事象を予防し、患者さんの生活の質を維持するために重要な役割を果たす薬です。
効果の面ではランマークがやや優れていますが、投与方法の利便性や副作用のプロファイル、費用などを総合的に考慮して、医師と相談しながら適切な薬を選択することが大切です。
最も重要なのは、顎骨壊死という重大な副作用を予防するため、投与前に必ず歯科を受診し、投与中も継続的な口腔ケアと定期的な歯科受診を行うことです。
参考文献・出典情報
- 乳癌診療ガイドライン2022年版 BQ8 乳癌骨転移に対して骨修飾薬(デノスマブ、ゾレドロン酸)は推奨されるか?
- がんサポート「治療法の選択肢が広がった!骨転移を抑えてQOLを維持しよう」
- がんナビ「薬剤による骨転移治療」
- 日経メディカル「ランマーク皮下注:癌の骨転移に有効な分子標的薬」
- 福岡県薬剤師会「乳癌の骨転移に対して、骨吸収抑制薬は勧められるか?」
- 公立学校共済組合 中国中央病院「ビスホスホネート製剤による顎骨壊死」
- 佐野内科ハートクリニック「顎骨壊死について」
- 東京女子医科大学 歯科口腔外科「薬剤性(関連)顎骨壊死」
- 神戸きしだクリニック「デノスマブ(プラリア、ランマーク)について」
- 日本がん対策図鑑「【乳がん:骨転移巣(SRE)】『ランマーク』vs『ゾメタ』」

