「乳房再建」は、手術によって失われた乳房を、形成外科の技術によって再建する方法です。
乳房を再建することで再発が増えたり、再発の診断に影響することはありません。しかし、再建の時期(手術と同時か手術後か)や方法(自家組織か人工物か)もいろいろで、放射線照射治療との関係や、乳房の手術をする施設の状況、再建をする形成外科医の技術など、検討すべき問題はたくさんあります。
再建を検討したい人は、手術前に希望を伝えながら、形成外科医と外科医によく相談することが大切です。
乳房再建をおこなう時期・タイミング
乳房再建法は大きく分類すると、Ⅰ期再建とⅡ期再建に分けられます。Ⅰ期再建とは、乳がんの手術の際に同時に乳房を再建する方法です。Ⅱ期再建とは、乳がんの手術後、別の時期に乳房を再建する方法です。
患者さんの立場からすると、1度の手術で乳がん切除と再建が同時に行えるという点で、Ⅰ期再建が望ましいと考えられます。
しかし、乳がんの再発の不安のある患者さんや乳がんの進行の程度によっては、Ⅱ期再建が望ましい場合があります。
これらのことを考慮して、患者さん、形成外科医、外科医の3者で手術前によく話し合って、それぞれに適した手術時期を選択することが大切です。
乳房再建方法の比較
<シリコンインプラント>
・保険の適応:あり
・手術の侵襲:少ない、短時間の手術入院4日間以内
・新たな傷の有無:なし
・感染への抵抗性:低い
・特有な合併症:シリコンの破損と露出、シリコンの被膜の拘縮
・共通の合併症:感染、血腫、修正術を含む再手術
<自家組織>
・保険の適応:あり
・手術の侵襲:大きい、長時間の手術入院約2週間
・新たな傷の有無:皮弁採取部の瘢痕
・感染への抵抗性:高い
・特有な合併症:皮弁の部分壊死、腹直筋ヘルニア
・共通の合併症:感染、血腫、修正術を含む再手術
乳房再建の費用と保険適応
2006年の保険の改訂によって、乳房切除後の乳房再建は保険適応が認められました。Ⅰ期再建とⅡ期再建で費用は若干異なり、また、再建乳房への乳頭形成も保険の適応になっています。
費用は、手術の内容によっても異なりますがおよその目安は次のとおりです。
(保険適用、3割負担の金額)
・自家組織による再建=30~60万円
・インプラントによる再建=15~30万円
乳房再建の方法について
乳房再建は大きく分けて、自家組織による方法とエキスパンダーを用いる人工乳房の方法があります。代表的な再建方法をお示しします。
・自家組織による再建
患者さんの体の一部の組織を胸に移植する方法で、お腹の組織を移植する方法と、背中の組織を移植する方法の2つがあります。
お腹の組織を移植する方法は、腹直筋皮弁法と言い、お腹の皮膚と脂肪と筋肉に血管を付けたまま胸に移植して、乳房をつくる方法です。背中の組織を移植する方法は広背筋皮弁法と言い、背中の皮膚と脂肪と筋肉に血管を付けたまま胸に移植して、乳房をつくる方法です。
・エキスパンダーを用いた人工乳房による再建
エキスパンダーという皮膚を伸ばす滅菌された水を入れる袋を胸の筋肉の下に入れて、除々に皮膚の皮下組織を乳房の形に膨らませ、人工乳房(シリコンでできたもの)に入れ替えるという方法です。
乳がんが胸に再発した場合に、発見しにくくなるのではないかと心配する人が多いのですが、再発するときは大胸筋の上に起こり、エキスパンダーや人工乳房は大胸筋の下に入れるので、再発の診断に影響することはありません。
また、乳頭や乳輪の再建は、乳房を再建して位置や形が安定するのを待って行われます。
再建の方法とその時期については、再建を希望される患者さんの意向、乳がんの病状、そして、再建する施設の外科医や形成外科医の考え方によっても異なってきます。できれば、乳房再建を年間10例以上行っている施設で再建を行うのが望ましいといえます。
放射線照射は皮膚にダメージを与え、皮膚が弱くなったり、伸びにくくなったりするため、放射線照射を受けた後の再建は、傷の治りが悪くなるためにうまくいかないことがあります。
最近では、リンパ節への転移が4個以上の場合には、乳房の手術の内容に関わらず、胸壁に放射線を照射することで、生命予後がよくなることが検証されたため、このような患者さんには照射することが増えています。放射線照射後の人工物によるⅡ期再建はリスクがあるといえます。
また、自家組織によるⅡ期再建はできる場合もありますが、傷の治りや見た目もよくないことがあります。手術の前に、担当医と十分相談しましょう。
以上、乳がんの乳房再建についての解説でした。