マンモグラフィやエコーで乳がんと診断されると、次の段階では直接細胞を採る「細胞診」や、組織を採る「針生検」による病理検査を行います。それによって、どのようながんの種類なのか、深さや広がりがあるのか、という確定診断が下されます。
がんは画像検査で発見され、病理検査で最終的に判定されます。それぞれの患者さんのがん治療の方針が決定づけられることになります。そのためこの病理診断は、個々の患者さんに適切な治療を実行する上で極めて重要です。
乳がんや子宮がん、胃がん、肺がんなどでは、切除した組織を手術中に病理検査をしてがんの広がりを見極め、さらに大きく切るかどうかを判断する迅速診断も同時に行っています。
通常はまず、患者さんの体から採取された病変の組織や細胞から、顕微鏡用のガラス標本がつくられます。病理検査とは、この標本の細胞を特殊な染色液で染めてから顕微鏡で観察して診断をすることで、それを専門とする医師が病理医です。
病理の仕事はそれぞれの症状を受け持つ科を中心として、たとえば胃の具合が悪ければ胃カメラの検査をし、臨床から病理へ回ってそこでがんの標本をつくるという形で行われ、再び臨床にその検査結果が戻って来るというルートで行われます。病理検査の結果はそこで主治医に報告され、治療方針の決定に生かされます。
大学病院や各地のがんセンターなどの大きな病院には複数の病理医がいますが、300~500床くらいの市立病院や総合病院では1人くらいです。患者さんが自宅近くの開業医、診療所等に行った場合は、そこには病理医はいませんから、外部の検査センターに提出してそこで病理医が標本をつくります(病院内に常勤の病理医がいないときには、手術中の検査などはできないという問題があります)。
病理科のある病院・施設も増えつつある
国内の病理専門医は約2000人で、医者の中の割合でいうと0.5%くらいです。
人口10万人当たりで見ると、アメリカの7.9人に対し日本は1.4人。人口比では5分の1にも満たないし、287施設あるがん医療の中核となるがん診療連携拠点病院でも114病院(40%)で、常勤の病理医は1人しかおらず、39病院(13%)では不在です。
そのうち、乳腺専門の病理医となるとさらに少なくなってきます。しかし、最近では、病理科(病理診断科)は専門科として独立した「標榜科」となり、病理科を標榜する病院・施設も増えてきました。
病理検査の4つの重要な役割
病理検査の仕事の主な内容を整理すると、①細胞診、②針生検(生検)、③手術で摘出された臓器・組織の診断、④手術中の迅速病理診断、といったものがあります。
①の細胞診は、乳腺に細い針を刺して採取した細胞を顕微鏡で調べて、がん細胞であるかどうか判断します。乳頭から分泌物がある場合は、ガラス板を乳頭に押しつけて細胞を採取して同様に判断します。
②の針生検は、局所麻酔をしてからやや太い針を乳腺に刺して組織を採取します。乳がんの初期治療の方針を決定するために最も重要な検査です。また、触れてもわからないような小さな腫瘍やがん細胞の間接的な証拠である石灰沈着に対して、マンモグラフィやエコーを撮影しながら針を刺して組織を採取します(マンモトーム生検)。
ときには、皮膚や乳首の周りのびらんなどを小さなメスで切り取ったりして、病変の一部の組織を標本にします。この検査もまた「生検」と言います。
③の手術で摘出された臓器・組織の診断ですが、摘出された臓器・組織は、病理医が肉眼で、病変の部位、大きさ、性状、広がりを確認し、診断に必要な部分を必要な数だけ切り取って、臨床検査技師がこの臓器・組織の顕微鏡標本をつくります。
この標本を病理医が顕微鏡で観察し、どのような病変がどれくらい進行しているか、手術で取り切れたのか、追加治療が必要かどうか、がんのタチの悪さや転移の有無など、治療方針の決定に役立つ情報を臨床医に提供します。
④の手術中の迅速診断は、乳がんの進展やリンパ節転移の有無を手術中に確認するため、液体窒素で凍結した標本を顕微鏡で診断します。迅速病理診断では、手術中に採取された病変組織から20分程度で病理検査が行われます。その結果は執刀医に連絡されて、手術方針が決定されます。
しかし、最終的にがんがどこまで浸潤しているのかという乳管内進展や、がんの性質(たち)などについては、切除した組織標本を細かく検討する必要がありますので、通常2週間程度の時間をかけて、病理医から詳細な病理検査の結果が報告されます。
以上、乳がんの検査についての解説でした。