
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
乳がんが疑われる場合、マンモグラフィやエコーなどの画像検査だけでは最終的な診断を下すことはできません。がんかどうかを確定するには、実際に細胞や組織を採取して顕微鏡で調べる「病理検査」が必要です。
この病理検査には「細胞診」と「組織診(針生検)」があり、それぞれ異なる役割を持っています。検査結果が出るまでには通常1~2週間程度かかりますが、これには病理学的な診断を正確に行うための複雑なプロセスがあります。
この記事では、乳がんの病理検査がどのように行われるのか、なぜ時間がかかるのか、そして日本の病理検査体制の現状について、詳しく解説します。
乳がん診断における病理検査の重要性
画像検査では乳がんの疑いがあるかどうかを判断できますが、最終的に「がんである」という確定診断を下すことはできません。がんの診断は、画像検査で発見され、病理検査で最終的に判定されます。
病理検査では、採取した組織や細胞を専門の医師である病理医が顕微鏡で観察し、がん細胞の有無だけでなく、がんの種類(組織型)、悪性度、広がり、ホルモン受容体の有無など、治療方針を決定する上で重要な情報を得ることができます。
2025年の最新の診療ガイドラインでも、乳がんの確定診断には病理検査が必須とされており、特に組織診(針生検)による診断が推奨されています。これは、乳がんの治療が初期段階からサブタイプ別に分けられるため、単に「がんである」という診断だけでなく、がんの性質を詳しく知ることが非常に重要だからです。
細胞診と組織診(針生検)の違い
病理検査には大きく分けて「細胞診」と「組織診(針生検)」の2種類があります。それぞれに特徴と役割があり、病変の状況や目的に応じて使い分けられます。
細胞診(穿刺吸引細胞診)
細胞診は、採血に使うような細い針(21~23ゲージ程度)を乳腺に刺して、注射器で吸引することで細胞を採取する検査です。局所麻酔は通常必要なく、外来で短時間で実施できます。
乳頭から分泌物がある場合は、ガラス板を乳頭に押しつけて細胞を採取する「分泌液細胞診」も行われます。また、乳頭にびらんがある場合は「捺印細胞診」という方法で細胞を採取します。
細胞診の利点は患者さんへの負担が少ないことですが、診断の正確性には限界があります。論文によると、細胞診の感度(がんをがんと診断できる確率)は約74~87%、特異度(がんでないものをがんでないと診断できる確率)は約96~98%とされています。
また、細胞診ではがんのサブタイプ(ホルモン受容体の有無、HER2の状態など)を判定できないことがあります。そのため、現在では細胞診は補助的な検査として位置づけられ、確定診断には組織診が用いられることが一般的になっています。
組織診(針生検)
組織診は、細胞診よりも太い針を使って組織の一部を採取する検査です。主に以下の3つの方法があります。
1. コア針生検(CNB):鉛筆の芯程度の太さ(14~18ゲージ)の針を使い、局所麻酔下で組織を採取します。検査時間は10~30分程度で、外来で実施できます。診断の感度は約87~95%と高く、細胞診よりも正確な診断が可能です。
2. 吸引式組織生検(VAB、マンモトーム生検):さらに太い針(3~6mm程度)を使い、吸引しながら組織を採取します。触診やエコーでは分からない小さな腫瘍や、マンモグラフィで見つかった石灰化に対して、画像を見ながら正確に組織を採取できます。
3. 外科的生検:メスで切開して病変の一部または全部を摘出する方法です。針生検で確定診断がつかない場合や、がんの疑いが強い場合に行われますが、体への負担は大きくなります。
次の表は、細胞診と組織診の主な違いをまとめたものです。
| 項目 | 細胞診 | 組織診(針生検) |
|---|---|---|
| 針の太さ | 細い(21~23ゲージ) | 太い(14~18ゲージ) |
| 麻酔 | 通常不要 | 局所麻酔が必要 |
| 検査時間 | 数分 | 10~30分 |
| 身体への負担 | 小さい | やや大きい |
| 診断精度 | 感度74~87% | 感度87~95%以上 |
| サブタイプ判定 | 困難な場合が多い | 可能 |
| 結果判明 | 数日~1週間 | 約1~2週間 |
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病理検査のプロセスと標本作製の流れ
病理検査の結果が出るまでに1~2週間かかるのは、標本を作製し診断するまでに多くの工程が必要だからです。ここでは、組織診の場合の標本作製プロセスを詳しく説明します。
1. ホルマリン固定(数時間~2日以上)
採取された組織は、まずホルマリン固定液に浸されます。これは組織のタンパク質の変性を防ぎ、細胞の構造を保つために必要な処理です。組織の大きさや種類によって、数時間から2日以上かかることがあります。
2. 肉眼観察と切り出し(約半日)
固定された組織を、病理医が肉眼で観察します。病変の部位、大きさ、性状、広がりを確認し、診断に重要な部分を選んで切り出します。この作業は病理医の経験と知識が重要となる工程です。
3. 脱水・脱脂処理(数時間~1日)
切り出した組織を、水溶性の固定液から脂溶性のパラフィンワックスに置き換えていきます。この工程では、組織をアルコールなどの溶液に順次浸していく必要があり、自動装置を使って行われます。
硬い組織の場合は、薄く切るために脱灰処理(組織を軟らかくする処理)が必要です。また、脂肪が多い組織の場合は、脱脂処理を行います。これらの追加処理が必要な場合、さらに時間がかかります。
4. パラフィン包埋(数時間)
処理した組織をパラフィンワックスに浸し、金型に入れて冷却すると、組織ブロックが完成します。
5. 薄切(数時間)
完成した組織ブロックを、ミクロトームという特殊な機械を使って、厚さ4マイクロメートル(1mmの4/1000)の薄い膜状に削ぎ取ります。この作業は高度な技術を要し、臨床検査技師が行います。薄切された組織は、スライドガラスの上に貼り付けられます。
6. 染色(数時間)
薄切された組織からワックスを除去した後、特殊な染色液で染色します。最も一般的なのはヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)で、細胞の核が青紫色に、細胞質が赤く染まります。
がんの種類を特定したり、ホルモン受容体やHER2などのタンパク質の有無を調べたりするために、免疫染色という特殊な染色が追加で行われることがあります。免疫染色が必要な場合は、さらに数日~1週間程度の時間が必要です。
7. 病理医による診断(数日~1週間)
完成した標本を病理医が顕微鏡で観察し、診断を行います。難しい症例では、複数の病理医で検討したり、大学などの専門機関に相談したりすることもあります。
病理医は、がん細胞の有無、がんの種類(組織型)、悪性度、広がり、リンパ管や血管への浸潤の有無、ホルモン受容体の状態、HER2の状態などを総合的に判断し、報告書を作成します。
8. 主治医への報告と結果説明
病理診断の結果は主治医に報告され、主治医が患者さんに結果を説明します。検体が提出されてから最終的な診断結果が出るまでには、生検で約1~2週間、手術材料で約1~2週間程度かかるのが一般的です。
病理検査に時間がかかる理由
患者さんにとって、検査結果を待つ時間は不安でつらいものです。「なぜこんなに時間がかかるのか」と疑問に思われる方も多いでしょう。ここでは、病理検査に時間がかかる主な理由を説明します。
標本作製の物理的・化学的プロセスに時間が必要
前述したように、組織の固定、脱水、包埋、薄切、染色という一連のプロセスには、それぞれ一定の時間が必要です。これは化学的な反応や物理的な処理を含むため、短縮することが難しいのです。
正確な診断のための慎重な観察が必要
病理診断は、今後の治療方針を決定する非常に重要な診断です。病理医は標本を慎重に観察し、時には複数の切片を作製して確認したり、特殊染色を追加したりして、正確な診断を行います。
診断が難しい症例への対応
病変が微妙で通常の染色では確定できない場合、免疫染色などの特殊染色が追加されます。これにより、診断確定まで2週間以上かかることがあります。また、難しい症例では、病理医が学会や専門機関に相談することもあり、その分時間がかかります。
病理医の業務量と人手不足
後述しますが、日本では病理医が不足しており、1人の病理医が多くの検体を診断しなければならない状況にあります。特に手術後の組織標本は、病理医による肉眼観察と切り出しが必要なため、生検材料よりも時間がかかります。
また、病理医には学会出張や研修医の教育、カンファレンスへの参加など、診断以外の業務もあります。こうした要因が重なると、結果が出るまでの時間が延びることがあります。
追加検査が必要な場合
針生検の結果、さらに詳しい検査が必要と判断された場合、追加の染色や検査が行われます。特に乳がんでは、ホルモン受容体(エストロゲン受容体、プロゲステロン受容体)やHER2の状態、Ki-67(細胞増殖マーカー)の測定が標準的に行われます。これらの免疫組織化学的検査を行う場合、さらに費用と時間がかかります。
なお、結果が遅れているからといって、必ずしも悪性であるとは限りません。診断が難しい良性の病変でも、慎重な検討が必要な場合があります。
病理医の現状と病理検査体制
日本の病理検査体制を理解する上で、病理医の現状を知ることは重要です。
病理専門医の数
日本病理学会によると、2025年時点で日本の病理専門医は約2,300~2,400人程度です。全医師数の中で病理専門医が占める割合は約0.7~0.8%で、小児科医(約16,000人以上)や産婦人科医(約10,000人以上)、麻酔科医(約8,000人以上)と比べても圧倒的に少ない状況です。
人口10万人当たりで見ると、アメリカが約5人であるのに対し、日本は約1.4~1.8人と、アメリカの約3分の1程度です。
病理医の地域偏在
病理医の分布には大きな地域差があります。東京都には全国の病理専門医の約18%が集中している一方、地方では県内の病理医が10人未満という県もあります。
がん診療連携拠点病院(2025年時点で全国に約400施設)でも、常勤の病理医が1人しかいない病院が約40%、病理医が不在の病院が約13%あるとされています。
乳腺専門の病理医はさらに少数
全国の病理専門医の中でも、乳腺を専門とする病理医はさらに少なくなります。乳がんの病理診断は、多様な組織型の鑑別、サブタイプの判定、治療効果の判定など、高度な専門知識が必要です。
病理検査体制の改善に向けて
2008年4月から、病理診断科が正式な標榜科(診療科)として認められるようになりました。これにより、病理科を標榜する病院・施設が増えてきています。
また、病理医がいない病院では、外部の検査センターや大学病院に病理診断を依頼することができます。さらに、遠隔病理診断システムを使って、専門医のいる施設に診断を依頼する「テレパソロジー」や、複数の施設で病理医が協力して診断を行う「連携病理診断」の仕組みも整備されつつあります。
ただし、病理医がいない施設では、手術中の迅速診断ができないという問題があります。迅速診断は、手術中にがんの広がりやリンパ節転移の有無を確認し、手術の範囲を決定するために重要な検査です。
手術中の迅速病理診断
乳がんの手術では、手術中に採取された組織を迅速に病理検査する「術中迅速診断」が行われることがあります。
迅速診断では、採取された組織を液体窒素で急速に凍結させ、その凍結標本を薄切して染色します。このプロセスは約20~30分で完了し、病理医が顕微鏡で診断を行います。
診断結果は直ちに執刀医に伝えられ、手術の方針(がんの切除範囲を広げるか、リンパ節郭清を行うかなど)が決定されます。
ただし、迅速診断は凍結標本を用いるため、通常の固定標本に比べて組織の保存状態がやや劣ります。そのため、迅速診断はあくまでも手術方針の決定のための暫定的な診断であり、最終的な診断は手術後の通常の病理検査(約2週間後)で確定されます。
手術後の病理検査では、切除した組織全体を詳しく調べ、がんの浸潤の深さ、広がり、リンパ節転移の個数、ホルモン受容体の状態、HER2の状態、切除断端(がんが完全に取り切れたかどうか)などを評価します。
病理検査にかかる費用
病理検査には健康保険が適用されます。患者さんの自己負担額は、加入している保険や年齢によって異なりますが、一般的に3割負担の場合の目安を示します。
穿刺吸引細胞診を超音波ガイド下で行った場合、手技料、超音波検査費用、病理診断料を含む医療費全体(10割)は約11,000円です。3割負担の場合、患者さんの自己負担額は約3,300円となります。
針生検(コア針生検)を超音波ガイド下で行った場合、手技料、超音波検査費用、標本作製料、病理診断料を含む医療費全体(10割)は約25,800円です。3割負担の場合、患者さんの自己負担額は約7,740円となります。
さらに、針生検でホルモン受容体やHER2の免疫組織化学的検査を行った場合、約15,900円(10割)が加算されます。3割負担の場合、約4,770円の追加負担となります。
手術後の病理検査の費用は、手術の種類や検査内容によって異なりますが、一般的に手術費用の中に含まれています。
なお、病理診断のために追加の免疫染色などを実施する場合、後日に追加の保険請求がされることがあります。
患者さんへの病理診断結果の説明
病理検査の結果は、通常、主治医から患者さんに説明されます。病理診断報告書には専門的な用語が多く含まれているため、分からないことがあれば、遠慮なく主治医に質問することが大切です。
近年、一部の病院では「病理診療外来」を設置し、患者さんが直接病理医から診断結果の説明を受けられるようになっています。ただし、現時点で病理診療外来を開設している病院は限られています。
また、病理検査の結果や治療法の選択について、他の医療機関にセカンドオピニオンを求めることも可能です。セカンドオピニオンを希望する場合は、まず主治医にその旨を伝え、画像データや病理診断報告書、病理標本(プレパラート)を借りて、他の医療機関に持参します。
セカンドオピニオンは基本的に保険診療の対象外で、全額自己負担となります。ただし、セカンドオピニオンの結果、新たな検査が必要となった場合は、その検査には保険が適用されます。
病理検査は、乳がん治療の第一歩となる非常に重要な検査です。検査結果を待つ間は不安が大きいと思いますが、正確な診断のために必要なプロセスとなります。
検査結果について疑問がある場合や、追加の検査が必要かどうか迷う場合は、主治医とよく相談し、納得のいく診断と治療を受けることが大切です。
参考文献・出典情報
1. 乳がんを診断・治療するために必要な検査|乳がんinfoナビ(大阪大学)
2. 乳がん 細胞診・組織診(針生検)とは|ファイザー株式会社