16.前立腺がん

【2026年更新】前立腺がん手術後の勃起障害と神経温存術を分かりやすく解説。回復率・治療法・最新ロボット手術について

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前立腺がん手術による勃起障害のメカニズム

こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。

前立腺がんの治療を受ける際、多くの患者さんが気になるのが性機能への影響です。特に手術による勃起障害(ED)は、治療後の生活の質に関わる重要な問題です。

勃起のメカニズムを理解することで、なぜ前立腺がん手術で勃起障害が起こるのかが分かります。

勃起は、陰茎海綿体の平滑筋が弛緩し、血液が流れ込むことで起こります。この平滑筋の収縮と弛緩を調節しているのが、前立腺のすぐ外側を走る勃起神経です。

前立腺の両側には、神経血管束という神経と血管の束が、前立腺に接するようにして走っています。この神経血管束には勃起を司る神経が含まれており、前立腺の後側方を中心に、直腸との間を通って陰茎部へと向かっています。

通常の前立腺全摘除術では、がんを完全に取り除くため、前立腺とともにこの勃起神経も切除します。神経の刺激が陰茎まで伝わらなくなるため、神経を温存しない手術ではほぼ確実に勃起が起こらなくなります。

射精機能への影響

前立腺全摘除術では、精液の約70%を占める精嚢腺液を分泌する精嚢も同時に切除します。そのため、手術後は射精ができなくなるのが通常です。ただし、性感や射精感そのものは維持されることが多いとされています。

勃起障害には、全く勃起しないという状態だけでなく、性交時に十分に勃起しない、勃起の持続時間が短いといった状態も含まれます。

神経温存前立腺全摘除術とは

前立腺全摘除術による勃起障害を避けるため、患者さんが希望し、がんの状態が許せば、神経温存前立腺全摘除術という選択肢があります。

この手術では、前立腺の左右を走っている勃起神経の両方、もしくは片方を残したまま、前立腺だけを摘出します。

神経温存の選択肢

神経温存には以下の3つのパターンがあります。

両側神経温存:左右両方の勃起神経を温存する方法です。勃起機能の回復率が最も高くなりますが、がんの位置によっては選択できないことがあります。

片側神経温存:生検でがんが前立腺の左右どちらかに片寄っている場合、がんが確認されない側の神経を温存し、もう片方は切除します。両側温存に比べて回復率は低下します。

神経非温存:がんが広範囲にわたる場合や、神経血管束の近くにがんがある場合は、根治性を優先して両側の神経を切除します。

勃起機能の回復率

神経温存手術を行った場合の勃起機能回復率は、複数の医療機関のデータから以下のような結果が報告されています。

両側神経温存を行った場合、術後12か月での勃起機能回復率は約70%から80%とされています。ただし、これは術前に勃起機能があった患者さんを対象とした数値です。

片側神経温存の場合、回復率は20%から50%程度と、両側温存に比べて低下します。

神経非温存の場合は、ほとんどの患者さんで完全な勃起障害が生じます。

これらの数値は、年齢、術前の勃起能力、手術の技術、術後のリハビリテーションなどによって変動します。また、神経を温存したからといって必ずしも回復が保証されるわけではなく、個人差が大きいことを理解しておく必要があります。


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ロボット支援手術による神経温存の向上

2012年4月に保険適用となったロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術(ダヴィンチ手術)は、神経温存術の精度を飛躍的に向上させました。

ロボット支援手術の特徴

ダヴィンチと呼ばれる手術支援ロボットは、以下のような特徴を持っています。

3次元の高画質カメラにより、術野を最大10倍に拡大して立体的に観察できます。これにより、前立腺を包む薄い筋膜の層や、勃起神経の位置を正確に把握できます。

多関節の手術器具により、人間の手では不可能な繊細な動きが可能になります。手ぶれ補正機能も搭載されており、より精密な剥離操作ができます。

腹部に数カ所の小さな穴を開けるだけで手術が行えるため、出血量が少なく、術後の回復が早いという利点があります。

ロボット手術による成績の向上

ロボット支援手術を導入している施設からは、従来の開腹手術に比べて良好な成績が報告されています。

ある大学病院の報告では、神経温存手術の実施率が91%に達し、術後1年での勃起機能回復率は80%となっています。また、術直後の尿禁制回復率は76%、術後3か月では94%と、排尿機能の回復も良好です。

別の施設では、両側神経温存を行った場合、術後2年までに80%から90%の患者さんが性交可能なレベルまで回復したと報告されています。

神経温存術の適応となる条件

神経温存手術は、以下のような条件を満たす患者さんに検討されます。

がんの状態による適応

表にまとめると以下のようになります。

項目 両側神経温存に適した条件 神経温存が難しい条件
病期 T1またはT2(前立腺内に限局) T3(被膜浸潤あり)
グリソンスコア 6以下または7の高分化がん 8から10の低分化がん
PSA値 10ng/mL以下 10ng/mLを大きく超える
がんの位置 片側に偏在している 神経血管束の近くにある

患者さん側の条件

年齢:高齢になるほど神経温存術後の勃起機能回復が期待しにくくなります。一般的に75歳以下を適応としている施設が多くなっています。

術前の勃起能力:もともと勃起機能が良好だった方のほうが、術後の回復率が高い傾向があります。

勃起機能の温存を強く希望していること:性機能の維持を重視するか、がんの根治性を最優先するかは、患者さんの価値観によって異なります。


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神経移植術という選択肢

勃起神経を温存できない場合でも、神経移植術という方法があります。

腓腹神経移植術の方法

この手術では、くるぶしの外側を走る腓腹神経という足の知覚を司る神経を、1本もしくは2本採取して移植します。

腓腹神経は足の感覚神経ですが、移植しても歩行などの運動機能に影響はほとんどありません。採取部分の皮膚感覚が少し鈍くなる程度です。

移植された神経が勃起神経として機能するまでには、1年から1年半程度の期間が必要です。神経が再生しても、加齢の影響などにより性機能が元どおりにならないこともあります。

神経温存や神経移植は、前立腺全摘除術と同時に行われるため、手術時間は通常の前立腺全摘除術だけの場合より1時間から2時間長くなります。

勃起障害の治療法

神経温存手術を受けた後でも、完全に術前の状態に戻ることは難しい場合が多くあります。しかし、神経が温存されていれば、薬物療法などの治療が有効です。

PDE5阻害薬による治療

神経温存手術後の勃起障害に対して、最も広く使用されているのがPDE5阻害薬です。

PDE5阻害薬は、勃起のメカニズムに直接働きかけることで勃起を起こしやすくする薬剤です。分解酵素であるPDE5の働きを抑制することで、陰茎海綿体の血管拡張を促進します。

日本で使用できる主なPDE5阻害薬は以下の3種類です。

薬剤名(成分名) 効果発現時間 持続時間 特徴
バイアグラ(シルデナフィル) 30分から60分 約4時間 世界初のED治療薬。空腹時の服用が推奨される
レビトラ(バルデナフィル) 30分から60分 約4時間 食事の影響を受けにくい。先発品は販売中止、後発品のみ
シアリス(タダラフィル) 1時間から4時間 24時間から36時間 長時間作用型。性交のタイミングを読みにくい方に適する

PDE5阻害薬の使用方法と注意点

これらの薬は性的刺激を受けないと効果が現れないという特徴があります。飲めば自動的に勃起するわけではなく、あくまで勃起しやすい状態を作る薬です。

また、初回の使用で効果が十分でなくても、4回から8回程度使用を続けることで効果が現れることがあります。

ただし、以下の患者さんは使用できません。

硝酸剤やNO供与薬を服用中の方(併用すると血圧が急激に低下する危険があります)

重度の心血管系疾患がある方

レビトラの場合、QT間隔延長症候群の方や特定の抗不整脈薬を服用中の方

術後勃起リハビリテーション

神経温存手術後は、術後早期からPDE5阻害薬を定期的に使用する勃起リハビリテーションが推奨されることがあります。

定期的に勃起を促すことで、陰茎海綿体の線維化を防ぎ、勃起機能の回復を助ける効果が期待されます。特に術後1年以内は改善が期待できるとされています。

その他の治療法

PDE5阻害薬が無効な場合や、神経非温存手術を受けた場合には、以下のような治療法があります。

陰茎海綿体自己注射:血管拡張薬(プロスタグランジンE1)を患者さん自身で陰茎海綿体に注射して勃起を起こさせます。5分から15分で勃起が起こり、30分から1時間ほど持続します。ただし、保険適用がありません。

陰茎勃起補助器具(VED):陰茎に装置を装着し、真空を作ることで勃起を引き起こします。その後、リングを陰茎の根元に装着して勃起を維持します。

陰茎プロステーシス:他の治療法が効果を示さない場合、陰茎にインプラントを埋め込む手術が選択肢となります。

放射線療法による勃起障害

前立腺がん治療では、手術以外に放射線療法も選択肢となりますが、放射線療法でも勃起障害が起こることがあります。

放射線療法後の勃起障害の特徴

放射線療法では、治療直後は勃起障害が少ないのですが、治療後数年が経過すると、勃起障害が起こることがあります。

これは、放射線で前立腺の横を通る神経血管束が傷つき、血流障害が起こるためです。ただし、多くは勃起が弱くなるといった程度にとどまり、前立腺全摘除術ほど重症にはなりません。

最近の放射線治療技術の進歩

かつては二次元で広範囲に照射していたため、前立腺周囲の組織ダメージも多かったのですが、現在は以下のような技術により、勃起機能への影響が軽減されています。

三次元原体照射(3D-CRT)や強度変調放射線治療(IMRT)により、勃起神経を避けて照射できるようになりました。

小線源療法(ブラキセラピー)では、前立腺内に放射線を放出するヨウ素125を用いた線源を挿入し、内側から照射します。

放射線療法と手術の勃起機能への影響の比較

ロボット支援手術で両側神経温存を行った場合と、最新の放射線治療(IMRT)を比較すると、長期的にはあまり変わらないとされています。

いずれの治療法でも、加齢の影響も加わり、治療前ほどには回復しないことが少なくありません。

ある研究では、放射線療法前後およびその期間中にバイアグラを連日投与したグループは、プラセボ群と比較して、術後6か月、12か月、24か月のすべての時点で有意に高い勃起機能スコアを示したと報告されています。

ホルモン療法による性機能障害

ホルモン療法では、性機能障害は避けられません。

ホルモン療法の影響

男性ホルモンが抑制されるため、性欲が低下することが主な原因です。外科的去勢術(両側精巣摘除術)を受けた場合、精子を作れなくなります。

どうしても性機能を温存したい場合、抗アンドロゲン薬単独療法を選ぶという方法もありますが、がん抑制効果が低くなるリスクを伴います。

治療選択における考慮点

性機能障害は、精神状態とも深く関わっているため、治療によって生じる場合のほか、がんにかかったというストレスや加齢、持病などの影響で起こることも珍しくありません。

そのため、性機能障害の治療をする際は、何が原因なのかを明らかにすることも大切です。

治療選択における判断のポイント

前立腺がん治療において性機能をどの程度重視するかは、患者さんの年齢、価値観、パートナーの存在など、さまざまな要因によって異なります。

治療選択の考え方

がんの根治性を最優先するのか、それとも生活の質(特に性機能)の維持を重視するのか、患者さんごとに優先順位は異なります。

神経温存手術を選択する場合、がん細胞を取り残す可能性についても十分に理解する必要があります。ただし、適切に患者さんを選択すれば、神経温存によってがんが残る可能性は低いとされています。

パートナーとの話し合い

性機能の問題は患者さん本人だけでなく、パートナーにも関わることです。がんが残る可能性があっても性機能を温存するかどうかは、パートナーも含めてよく話し合い、医師と相談しながら、最終的に判断する必要があります。

セカンドオピニオンの活用

治療法の選択に迷う場合は、複数の医療機関で意見を聞くことも有効です。特に神経温存手術の経験が豊富な施設であれば、より詳細な情報が得られます。

性機能について主治医に相談しにくいという患者さんも多いのですが、ロボット支援手術を行う施設では、性機能が必要な患者さんには必ず確認するという体制を取っているところもあります。

まとめ

前立腺がん手術による勃起障害は、多くの患者さんにとって大きな関心事です。

神経温存手術やロボット支援手術の技術が進歩し、以前に比べて勃起機能の温存率は向上しています。両側神経温存を行った場合、70%から80%の患者さんで術後1年までに勃起機能が回復するとされています。

また、神経温存手術後にはPDE5阻害薬が有効であり、術後の勃起リハビリテーションも推奨されています。

治療法の選択にあたっては、がんの根治性と生活の質のバランスを考え、医師やパートナーとよく話し合うことが大切です。

前立腺がん治療は選択肢が増えており、患者さんの状況や優先したいことに応じて、最適な治療法を選ぶことができる時代になっています。

参考文献・出典情報

  1. 国立がん研究センター がん情報サービス - 前立腺がん 治療
  2. がんと生活のこと - 勃起障害と前立腺がんの治療による影響
  3. 東京都立駒込病院 - 前立腺がん:根治性・機能温存を両立するロボット前立腺全摘除
  4. 順天堂大学医学部附属順天堂医院 - 前立腺がんに対するロボット支援手術
  5. 前立腺がんの語り - 手術と性機能障害
  6. 筑波大学腎泌尿器外科診療グループ - 前立腺癌
  7. 帝京大学泌尿器科アンドロロジー診療 - 勃起障害の初期治療(PDE5阻害薬)
  8. 日本医事新報社 - 勃起障害に対するPDE5阻害薬の選択
  9. 国立がん研究センター東病院 - ロボット支援手術(ダ・ヴィンチ)について
  10. 日本泌尿器内視鏡・ロボティクス学会 - 泌尿器科領域におけるロボット支援手術ガイドライン

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本村ユウジ
がん治療専門のアドバイザー・本村です。

私の仕事は【がん患者さんに正しい選択を伝えること】です。

「本村さん、おかげで元気になりました」

そんな報告が届くのが嬉しくて、患者さんをサポートしています。

→200通以上の感謝の声(これまでいただいた実際のメールを掲載しています)

しかし毎日届く相談メールは、

「医師に提案された抗がん剤が怖くて、手の震えが止まらない」

「腰がすこし痛むだけで、再発か?転移か?と不安で一睡もできなくなる」

「職場の人も家族さえも、ちゃんと理解してくれない。しょせんは他人事なのかと孤独を感じる」

こんな苦しみに溢れています。

年齢を重ねると、たとえ健康であっても、つらいことはたくさんありますよね。

それに加えて「がん」は私たちから、家族との時間や、積み重ねたキャリア、将来の夢や希望を奪おうとするのです。

なんと理不尽で、容赦のないことでしょうか。

しかしあなたは、がんに勝たねばなりません。

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