アビラテロン(ホルモン薬)→がん細胞が作る男性ホルモンも抑える
アビラテロン酢酸エステル(商品名:ザイティガ)は、精巣や副腎が作り出す男性ホルモンはもちろん、従来のホルモン療法では抑えることができなかった、がん細胞自身が作り出すアンドロゲンの合成も阻害するホルモン薬です。
去勢抵抗性前立腺がんに対する治療薬として、欧米をはじめ世界83力国および地域(2013年10月時点)で承認され、日本でも2014年に販売されるようになりました。
ホルモン療法を長期間行っていると、がん細胞は、男性ホルモンが枯渇した環境に順応するだけでなく、自ら微量の男性ホルモンを作り出して、増殖することを始めます。
男性ホルモンを供給するために、精巣、副腎、前立腺がん細胞それぞれが、男性ホルモンを作り出すことになります。
ホルモンの合成には酵素が必要で、男性ホルモンの合成にかかわる主要酵素が「CYP17」です。アビラテロンは、このCYP17の働きを阻害する薬剤です。
男性ホルモンが作られる大本を断つという考えから開発されたのがアビラテロンで、去勢抵抗性前立腺がんの治療に有効とされています。
ステロイド薬の併用が必要
副腎は、男性ホルモンのほかにも、副腎皮質ホルモンなどいろいろなホルモン分泌にかかわっています。アビラテロンは男性ホルモンだけでなく、副腎皮質ホルモンの合成も阻害するため、ホルモンのアンバランスをきたしてしまいます。
そのため、副腎皮質ホルモンと同じような働きをするプレドニゾロン(商品名:プレドニン)というステロイド薬の併用が必要となります。これを併用しないと、低カリウム血症や血圧の上昇などが見られることがあります。
とはいえ、プレドニゾロンには抗腫瘍作用があるので、単に減少する副腎皮質ホルモンの補充だけでなく、アビラテロンの効果をより強力にすると考えられています。
アビラテロン(ザイティガ)について
・1日1回4錠1000mgを服用する経口薬。プレドニゾンを併用します。食事に含まれる脂肪の影響を最小限にするため、食前2時間・食後1時間内の服用は避けます。
・1カ月の薬代は約44万円(3割負担の場合、約13万円)。健康保険が適用されますが、それでも高額なので、服用を考える際は病状だけでなく、経済的な負担も考える必要があります。
・化学療法前にアビラテロンを使用することで、全身状態が良好になり、化学療法を行うまでの期間が延長されることがわかっています。化学療法前でも後でも使用できる薬として期待が高まっています。
エンザルタミド(ホルモン薬)→男性ホルモンを強力ブロック
アビラテロンと同様に注目されているのがエンザルタミド(商品名:イクスタンジ)です。アメリカではすでに、ドセタキセルによる化学療法治療歴のある去勢抵抗性前立腺がんの治療薬として販売されています。
日本では、「MDV3100」という名称で臨床試験が繰り返され、承認が待たれていましたが、2014年に販売が認められました。
これは、去勢抵抗性前立腺がん患者を対象にした薬で、新しい強力なアンドロゲン受容体阻害薬です。前立腺がんの成長に必要なアンドロゲン受容体シグナル伝達を、特徴的な3つの作用で阻害します。
具体的には、①男性ホルモンであるテストステロンがアンドロゲン受容体に結びつくこと、②アンドロゲン受容体が核へ移行すること、③アンドロゲン受容体によるDNA結合および活性化を阻害します。この従来の薬にはないトリプル作用で、PSA値を低下させ、がん細胞の縮小または病態の安定をもたらします。
転移のある去勢抵抗性前立腺がん患者で、化学療法を行っていない人を対象としたアンドロゲン除去療法による第三相臨床試験の結果、エンザルタミド群は、プラセポ(偽薬)群と比較して生存期間の延長が認められたほか、死亡のリスクを29%低下させたという報告もあります。
1日1回の服用でOK。副作用は主治医に相談を
エンザルタミドは、1日1回の経口薬で、1回につき4カプセル(160mg)を服用します。
主な副作用は、けいれん、便秘、疲労、食欲減退、体重減少、吐き気、ほてり、無力症などが報告されています。このような症状に気づいたら、主治医に相談しましょう。
エンザルタミド(イクスタンジ)について
・1日1回4カプセル160mgを服用する経口薬。
・1カ月の薬代は約37万円(3割負担の場合、約11万円)。健康保険は適用されますが、それでも高額なので、服用を考える際は病状だけでなく、経済的な負担も考える必要があります。
・化学療法未治療の場合でも使用を認められることになりました。
以上、前立腺がんの治療法についての解説でした。