前立腺がんとセカンドオピニオンの重要性
前立腺がんの治療方針については、医師によって意見が分かれる部分があります。前立腺がんは、前立腺の細胞が何らかの原因で異常に増殖することにより起こる病気で、悪性腫瘍の1つです。がんのように治療が複雑で選択肢がさまざまある疾患では、診断や治療方針に不安を感じる患者さんが多くいらっしゃいます。
主治医から診断や治療方針の説明を受けた後、それらに納得できなかったり、他の医師の意見を求めたいと考える方は決して珍しくありません。そのような時に重要になるのが「セカンドオピニオン」です。
セカンドオピニオンとは、患者さんが納得のいく治療法を選択することができるように、治療の進行状況、次の段階の治療選択などについて、現在診療を受けている担当医とは別に、違う医療機関の医師に「第2の意見」を求めることです。
前立腺がんでセカンドオピニオンが特に有効な理由
前立腺がんの治療には、監視療法、フォーカルセラピー(前立腺がん局所療法:監視療法と手術などの根治的治療の中間に位置する治療)、手術(外科治療)、放射線治療、薬物療法などがあります。治療選択肢が多岐にわたることから、患者さんにとって最適な治療法を選択するためには複数の専門医の意見が役立つことがあります。
前立腺がんのリスク分類は主にNCCN(National Comprehensive Cancer Network)のリスク分類が用いられます。前立腺がんは、転移の有無で初期治療の選択が大きく異なります。転移のない前立腺がんでは、がんが前立腺内にとどまっている限局性がんと、前立腺の外に広がって進行している局所進行性がんに分類され、さらに限局性がんは、5つの因子(原発腫瘍の広がり:T分類、がんの悪性度:グリーソンスコア、PSA値、針生検、PSA密度)を用いて、超低リスク、低リスク、中間リスク、高リスクに分類されます。
これらの複雑な評価に基づいて治療方針が決定されるため、医師により異なる見解が示されることもあります。
PSA値、グリソンスコア、T分類を総合的に評価した上で、監視療法、手術療法、放射線療法、ホルモン療法を選択します。
セカンドオピニオンを受けるタイミング
セカンドオピニオンを受ける最適なタイミングは、担当医から治療方針の説明(ファーストオピニオン)があったときです。前立腺がんの場合、以下のような状況でセカンドオピニオンを検討することをお勧めします。
・診断結果や病期に関して疑問がある場合
・複数の治療選択肢を提示され、どれを選ぶべきか迷っている場合
・推奨される治療法の副作用やリスクについて詳しく知りたい場合
・年齢や体調を考慮した治療方針について相談したい場合
・グリーソンスコアやPSA値の解釈について異なる意見を聞きたい場合
ただし、病状や進行度によっては時間的な余裕がなく、なるべく早期に治療を開始した方がよい場合もあるので、セカンドオピニオンの準備は現在の担当医に現在の病状と治療の必要性について確認するところから始まります。
セカンドオピニオンを受ける前の準備
効果的なセカンドオピニオンを受けるためには、事前の準備が重要です。
ファーストオピニオンの理解
複数の医師の意見を聞き、どれを選んでよいかわからなくなってしまうことのないように、最初に求めた担当医の意見(ファーストオピニオン)を十分に理解しておくことが大切です。ファーストオピニオンで、「自分の病状、進行度、なぜその治療法を勧めるのか」などについて理解しないまま、セカンドオピニオンを受けてもかえって混乱してしまいます。
主治医の説明内容について、以下の点を整理しておきましょう。
・正確な診断名
・がんの進行度(ステージ)
・グリーソンスコア
・PSA値
・推奨される治療法とその理由
・治療による効果と副作用
前立腺がんに関する基礎知識の習得
前立腺がんの基本的な知識を身につけておくことで、セカンドオピニオンでの相談がより実りあるものになります。
PSA(前立腺特異抗原)は前立腺でつくられるタンパク質の一種で、前立腺がんの腫瘍マーカーとして用いられています。PSAの基準値は一般的には4.0ng/mL以下とされますが、年齢とともに上昇することを考慮して、50~64歳で3.0ng/mL以下、65~69歳で3.5ng/mL以下、70歳以上で4.0ng/mL以下が推奨されています。
グリソンスコアは、生検で採取したがん組織の悪性度を調べ、点数化したものです。最も多い組織像と2番目に多い組織像について、正常組織に近い場合を1点、最も悪性度の高い組織を5点とする5段階で評価し、その点数を合計します。
セカンドオピニオンに必要な書類と準備
セカンドオピニオンを受けるためには、現在の担当医に、セカンドオピニオンを受けたいと考えていることを伝え、紹介状(診療情報提供書)や、血液検査や病理検査・病理診断などの記録、CTやMRIなどの画像検査結果やフィルムを準備してもらう必要があります。
必要書類一覧
以下の書類や資料を主治医に依頼して準備します。
必要な書類・資料 | 内容 |
---|---|
診療情報提供書(紹介状) | 診断の経緯、治療方針、病状の詳細な記載 |
血液検査データ | PSA値の推移、一般血液検査結果 |
画像診断資料 | CT、MRI、骨シンチグラフィーの画像とレポート |
病理検査資料 | 生検結果、グリーソンスコア、病理標本 |
その他の検査資料 | 直腸診、超音波検査の結果 |
前立腺がんと皮膚がんの方は病理標本が原則必須です。これは、前立腺がんの正確な診断と治療方針決定にとって病理診断が特に重要だからです。
診療情報提供書の重要性
B010 診療情報提供料(Ⅱ)500点 保険医療機関が、治療法の選択等に関して当該保険医療機関以外の医師の意見を求める患者からの要望を受けて、治療計画、検査結果、画像診断に係る画像情報その他の別の医療機関において必要な情報を添付し、診療状況を示す文書を患者に提供することを通じて、患者が当該保険医療機関以外の医師の助言を得るための支援を行った場合に、健康保険が適用されます。
主治医に内緒でセカンドオピニオンを受けることは避けましょう。客観的な医学情報がなければ、セカンドオピニオンを担当する医師が正確な意見を述べることができません。
セカンドオピニオンを受ける病院・医師の選び方
近年、がん医療を行っている病院では「セカンドオピニオン外来」を設置しているところが増えています。セカンドオピニオンをどこで受けるか迷う場合には、がん診療連携拠点病院の「がん相談支援センター」に問い合わせると、その地域のセカンドオピニオン外来を行っている病院や、専門領域などの情報を得ることができます。
病院選びのポイント
1. 前立腺がん治療の専門性
2. セカンドオピニオン外来の実績
3. 地理的アクセスの良さ
4. 費用の妥当性
5. 予約の取りやすさ
例えば「手術を勧められているけれども、放射線治療を検討したい」といった、具体的な治療方法に関する希望がある場合には、がんの放射線治療を専門とする医師にセカンドオピニオンを受けるという方法もあります。
セカンドオピニオンの費用と時間
セカンドオピニオンは健康保険が適用されない自費診療です。30分以内 33,000円(税込)、30分を超える場合、15分毎に加算(延長は最大90分まで)+11,000円(税込)、費用は、30分22,000円(税込)、30分の延長で11,000円(税込)加算となります。病院によって料金設定が異なるため、事前に確認が必要です。
病院種別 | 一般的な料金(30分) | 延長料金 |
---|---|---|
国立がん研究センター | 33,000円 | 11,000円(15分毎) |
その他がん専門病院 | 22,000-33,000円 | 11,000円(30分毎) |
大学病院 | 22,000-30,000円 | 11,000円(30分毎) |
効果的なセカンドオピニオンの受け方
質問事項の整理
限られた時間を有効活用するため、以下のような具体的な質問を準備しましょう。
・診断結果に関する疑問点
・推奨治療法の根拠と期待される効果
・代替治療法の可能性とその比較
・治療による生活の質への影響
・年齢・体力を考慮した治療選択
・治療後の経過観察について
同行者の重要性
できるだけひとりではなく信頼できる人に同行してもうとよいでしょう。その際に、セカンドオピニオンの目的やこれまでの担当医の説明内容について、もう一度確認しておきましょう。
セカンドオピニオン後の対応
セカンドオピニオンを受けたら、別の医師の意見を聞くことによって、あなたの病気や治療方針についての考えが変化したかどうか、もう一度現在の担当医に報告した上で、これからの治療法について再度相談しましょう。セカンドオピニオンに対する担当医の意見を聞くことで、治療への理解がより深まり、納得する治療を選択することができるようになります。
報告と相談のポイント
1. セカンドオピニオンの内容を正確に伝える
2. 疑問点や懸念事項を率直に相談する
3. 治療方針の変更が必要な場合の手続きを確認する
4. 今後の治療スケジュールを再調整する
セカンドオピニオンを受ける際の注意点
セカンドオピニオンに時間をかけすぎてしまうと、がんの治療がどんどん遅れてしまうこともあるということです。がんだと告知されたときにはもう時間的余裕がなく、すぐに治療を開始したほうがいいということも少なくありません。
時間管理の重要性
・2週間以内での意見収集を目安とする
・複数のセカンドオピニオンは最大2-3件に留める
・治療開始の最終期限を主治医と確認する
・緊急性の高い場合は迅速な判断を優先する
セカンドオピニオンの限界
セカンドオピニオンは医師が検査データや画像データなどの診療情報をみて、第三者として診断や治療についての意見を述べたり、情報を伝えたりすることです。診察・検査・治療は行いません。
オンラインセカンドオピニオンという選択肢
当院では、対面によるセカンドオピニオンだけでなく、パソコンやスマートフォンを使ったオンラインセカンドオピニオンを行っています。オンラインセカンドオピニオンは、当院にご来院いただくことなく患者さんの都合の良い場所でセカンドオピニオンを受けていただくことができます。
遠方の専門病院でセカンドオピニオンを受けたい場合や、身体的制約がある場合には、オンラインでの相談も選択肢として考慮できます。
まとめ
前立腺がんのセカンドオピニオンは、患者さんがより納得できる治療選択を行うための有効な手段です。効果的なセカンドオピニオンのためには、主治医との良好な関係を保ちながら、十分な準備と明確な目的意識を持つことが重要です。