非ホジキンリンパ腫に対する治療としては、複数の抗がん薬による化学療法、抗体医薬(リツキサン)による治療が中心です。B細胞性リンパ腫の場合は抗体医薬を併用することが多くなっています。
治療としては病変が完全に消えている「完全寛解」と呼ばれる状態を目指します。
化学療法・リツキサン療法
・CHOP療法
現時点では、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫をはじめとする多くのタイプの非ホジキンリンパ腫に対して、CHOP療法と呼ばれる抗がん薬の組み合わせを基本とした治療法が最も多く選択されています。
過去には、抗がん薬の量を多くした強力な治療法が試された時期もありましたが、CHOP療法の治療効果を上回ることはできませんでした。
CHOP療法は、第1日目にエンドキサン、アドリアシン、オンコビンという3種類の抗がん薬を点滴で投与します。さらに、第1日目から第5日目まで毎日、プレドニンという副腎皮質ホルモン剤を服用します。この治療を1コースとして3週間ごとに繰り返し、合計6~8コース行って治療終了となります。
CHOP療法は、原則として外来で実施可能な治療法ですが、初回は副作用の程度などを観察するために入院して行うことがあります。
・リツキサン-CHOP併用療法~B細胞性リンパ腫の場合
B細胞性の非ホジキンリンパ腫細胞の表面には、多くの場合、CD20と呼ばれる蛋白質が存在しています。そこで、CD20と選択的に結合するリツキサンという抗体医薬が開発されました。
リツキサンが細胞表面のCD20に結合すると、患者さんの免疫の働きによってリンパ腫細胞が壊されると考えられています。
CHOP療法との併用によって治療成績の改善が得られるため、B細胞性リンパ腫に対してはこのリツキサン-CHOP併用療法が広く行われています。ただし、T細胞性リンパ腫は、腫瘍細胞の表面にCD20が存在していないため、リツキサンが効きません。
なお、リツキサンは点滴薬で、はじめはゆっくりと投与し、副作用の有無を見ながら徐々に点滴のスピードを上げていきます。従って、1回3~5時間ほどかかりますが、外来で行うことが可能です。
・治療の途中で効果の有無を判断
通常は2コースあるいは3コース目のCHOP療法(B細胞性ではリツキサン併用)が終了した時点で、CTなどを行い、治療効果が現れているかを確認します。充分な効果が認められていれば、引き続きCHOP療法を続けていきます。
いっぽう、CHOP療法の効果がなく腫瘍の縮小が見られない場合は、他の抗がん薬の組み合わせによる治療法へと変更します。
・CHOP療法が効かないときは?
最初の治療としてのCHOP療法が無効であった場合、あるいは完全寛解が得られた後に再発したような場合は、他の抗がん薬の組み合わせによる治療が行われます。この場合、どの組み合わせを選ぶかは非ホジキンリンパ腫のタイプによります。
例えば、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫などの場合は、DeVIC療法、DHAP療法、ESHAP療法、ICE療法などが実施されますが、どの治療法を選ぶかという明確な基準はありません。この場合も、B細胞性リンパ腫ではリツキサンが併用されます。
これらの治療法は、白血球低下などの副作用が強く現れるため、いずれも入院が必要となります。いっぽう、濾胞性リンパ腫では、これらの治療法が選択されることの他にフルダラ、ロイスタチンといった抗がん薬もよく使われます。
CHOP療法以外の化学療法を最初から行うことはあるのか
非ホジキンリンパ腫のタイプによっては、最初の治療としてCHOP療法以外の治療法を選択することがあります。
例として、マントル細胞リンパ腫では、Hyper CVAD療法とMTX-AraC療法を交替で行うHyper CVAD・MTX-AraC交替療法などが、初回治療として多く選択されます。
また、「最も激しいタイプ」に分類されるリンパ芽球性リンパ腫やバーキットリンパ腫に対しては、一般的に急性リンパ性白血病と同じ治療や、Hyper CVAD・MTX-AraC交替療法が行われます。
欧米では、濾胞性リンパ腫に対してもCHOP療法ではなく、初回からフルダラを中心とした治療法を行うことが多くなっています。
化学療法を行わずに様子を見る可能性は?
非ホジキンリンパ腫では、原則的に、すっかりリンパ節などの腫れが消えて、検査の結果が正常化した状態(完全寛解)を目標に化学療法を繰り返します。
しかし、濾胞性リンパ腫などで病気の進行が緩やかで自覚症状に乏しいときは、治療をしないで様子を見ることもあります。この場合は、ある程度腫瘍が大きくなった時点で治療を開始します。
神経に腫瘍が拡がっている場合
脳などの神経系から、非ホジキンリンパ腫が発生することがあります。反対に、他の場所から発生したリンパ腫細胞が、脳神経系へと拡がることもあります。
このようなときには、腰から針を刺して抗がん薬を脳脊髄液に直接注入する髄注を行います。また、抗がん薬の1つであるメソトレキセー卜の大量投与も、脳神経系のリンパ腫に対して有効であると考えられています。脳の腫瘍の部位に放射線を照射することもあります。
抗体医薬-ゼヴァリン
2008年にCD20に対する抗体に、放射線を出す物質を結合させた新しい抗体医薬(ゼヴァリン)が国内で承認されました。ゼヴァリンは結合したリンパ腫細胞だけでなく、結合を免れた周囲の腫瘍細胞にも効果を及ぼすことが特徴です。
今のところは、濾胞性リンパ腫などゆっくり進行するB細胞性リンパ腫とマントル細胞リンパ腫の治療抵抗例に対してのみ適応となっています。
しかし、副作用として正常な血液細胞の減少が強く現れる可能性があり、また、放射線を発生するという特徴があるので、薬の取り扱いが厳密になります。このような理由から、実際に使用できる病院は限られてくるものと思われます。
化学療法による副作用
・抗がん薬の副作用
<吐き気、食欲不振、だるさなど>
抗がん薬の副作用としては、吐き気、食欲不振、だるさなどがありますが、程度は患者さんによってさまざまです。吐き気に対しては、積極的に制吐剤を使用して対応します。
<脱毛>
脱毛は抗がん薬投与後2週間ぐらいから生じますが、通常は、抗がん薬投与が最終的に終ってから半年~1年ほどで生え揃うまでに回復します。
<生理不順、生理の停止、早期の閉経>
女性の場合は、生理不順や生理の停止、早期の閉経が起こることがあります。
・それぞれの抗がん薬に特徴的な副作用
<オンコビン-しびれ、便秘>
オンコビンは、非ホジキンリンパ腫に対して頻用される抗がん薬ですが、しびれや便秘がよく起こります。副作用の程度が強いときは、オンコビンの使用量を減らすか、一時中止することがあります。
<メソトレキセート-口内炎など>
メソトレキセートもよく使われますが、大量に投与する場合は口内炎などを起こします。そこで、投与終了24時間後くらいからロイコボリンというメソトレキセートの毒性を軽減する薬を使って、血液中のメソトレキセートの濃度を下げる工夫をします。これはロイコボリン救援療法と呼ばれます。
<アントラサイクリン系の抗がん薬-心臓への影響>
アドリアシンなど、アントラサイクリン系と呼ばれるグループの抗がん薬は、心臓への影響が知られています。特に、投与量が増えてくると心不全を起こすことがあるため、注意する必要があります。
検査のうえで現れる副作用
<白血球の減少>
検査のうえで現れる副作用としては、白血球、赤血球、血小板などの血球減少が重要です。白血球が低下すると感染症の合併のリスクが上がるので、必要に応じて白血球の回復を促す薬(G-CSFといいます)を投与します。
CHOP療法では、おおよそ抗がん薬投与後10日~2週間ほどで白血球数が最低になり、その後、回復してきます。DeVIC療法、DHAP療法、ESHAP療法、ICE療法、Hypel、CVAD・MTX-AraC療法などでは、多くの場合でCHOP療法よりも高度の血球減少が見られます。
フルダラやロイスタチンを用いた治療では、白血球の低下が中等度に留まることが多いのですが、低下した状態が長期間続くこともあるため、やはり感染症の合併には気をつけます。もし、感染症を合併した場合には、速やかな抗生剤や抗真菌(かび)剤の投与が必要となります。
<血小板・赤血球の低下>
血小板の低下や赤血球の低下(貧血)に対しては輸血で対処します。
・リツキサン(抗体医薬)の副作用
リツキサンの投与中に、発熱、寒気、かゆみ、息苦しさなどの副作用が生じることがあります。この場合は、リツキサンの投与を一時中止して副腎皮質ホルモン剤を注射します。特に、はじめてリツキサンを投与するときに、この副作用が現れやすいといわれています。
血球減少は、リツキサン単独でも生じることがありますが、化学療法と比べて高度な減少を起こすことは多くありません。
・その他の副作用-腫瘍崩壊症候群
リンパ腫細胞の量が多いときは、抗がん薬やリツキサンによって大量のリンパ腫細胞が急速に壊されることがあります。その結果、血液中のカリウム濃度の上昇、尿酸の増加、腎機能障害が起こります。これを腫瘍崩壊症候群といい、重篤な場合は透析が必要になることもあります。
予防として、充分な量の点滴による尿量の維持や、尿酸を低下させる薬の服用などを行います。また、もともとリンパ腫細胞の量が多いと判断されるケースでは、最初の治療で抗がん薬を減量したり、リツキサンを中止したりすることもあります。
以上、非ホジキンリンパ腫の治療についての解説でした。