乳がんと診断され、色々と情報収集を始めてみると、さまざまな医学用語・専門用語に出会うはずです。それは、乳がんの治療を始めるとさらにふえていきます。
早い段階で理解してしまえば、医師との会話もしやすくなります。主に登場する用語は次のとおりです。
乳がん治療で使われる医学用語・専門用語(五十音順)
用語 | 意味 |
悪性度 | がんとしての性質(たち)の悪さ。悪性度が高いほど、増殖・転移・再発しやすい傾向がある。ただし、悪性度が高いと化学療法がよく効くこともあるため、悪性度が高いことと予後が悪いことはイコールではない。 |
異形度(いけいど) | がん細胞の形が正常な細胞とどれだけ異なっているか、その違いの程度。がんの悪性度を判定するための指標のひとつ。 |
インフォームドコンセント | 「正しい情報提供に基づいた合意(拒否を含む)」を意味する。具体的には、医師が患者の病状、それに対する治療の内容、治療によって得られる効果と副作用、その他の選択肢の提案と効果とリスクなどについて十分説明し、患者が納得したうえで治療方針を決めることを指す。 |
腋窩(えきか)リンパ節 | リンパ節のなかでも、上肢や胸壁からのリンパを集める部分(わきの下)のリンパ節のこと。 |
郭清(かくせい) | 手術でがん細胞を切除すること。周辺のリンパ節すべてを切除することを、リンパ節郭渭と言う。 |
確定診断 | 症状や身体所見、各種の検査結果などから下した最終的な診断。乳がんの場合、マンモグラフィや超音波などの画像から臨床診断を行い、その後、採取した病変部位の細胞・組織を病理診断し、確定診断に至る。 |
寛解(かんかい) | 病変(がん)が縮小したり、消失した状態。完全に消失すると「完全寛解」と言う。 |
クリニカルパス | 入院時中の診療スケジュールなどが書かれた予定表。 |
血行性転移 | がん細胞が血液にのって他の臓器に転移すること。 |
原発巣(げんぱつそう) | 最初にがんが発生した部位にあるがんのこと。 |
骨髄抑制(こつづいよくせい) | 抗がん剤の副作用のひとつ。血液細胞をつくる働きが低下して、白血球や血小板、赤血球が減ることで、場合によっては貧血などの症状が現れる。 |
再発 | 消えたと思われたがんが再び姿を現すこと。乳がんの場合、もともとのがんがあった乳房内や近隣のリンパ節での再発を「局所再発」、それ以外の場所での再発を「遠隔再発」と言う。 |
細胞診 | 病変部位の細胞を採取して、顕微鏡で観察し、診断すること。乳がんであるかどうかの確定診断は、組織診の結果と合わせて下される。 |
サブタイプ | 生物学的特性のこと。乳がんではその特性によって、「ルミナルA」「ルミナルB(HER2陰性/HER2陽性)」「HER2エンリッチド」「ベーサルライク(トリプルネガティブ)」などと区別される。 |
術前化学療法 | 手術の前に化学療法を行うこと。「ネオアジュバント療法」とも言われる。手術する前にがんを小さくして、乳房温存療法を行えるようにしたり、全身への転移を抑制する目的で行われる。 |
腫瘍マーカー | 腫瘍が作り出す特殊な物質のうち、体液中(主に血液中)で測定できるもの。腫瘍の状態を知るひとつの目安となる。 |
浸潤/非浸潤 | がん細胞が基底膜を破って染み出るように広がり、周囲の正常な組織を侵していくこと「浸潤」と言う。乳がんの場合、がんが乳管または小葉の中にとどまっているものが「非浸潤がん」となる。 |
生検 | 患部の一部を切り取って、顕微鏡で調べる検査。針で行えば針生検、マンモトームで行えばマンモトーム生検、バコラで行えばバコラ生検と言う。 |
生存率 | 診断から一定期間後に生存している確率。目的に応じて、1年・2年・3年・5年・10年生存率が用いられるが、多くのがんは治療後5年間に再発がなければ、その後の再発はまれであるため、5年生存率がよく使われる。 生存率はがんの治療効果を判定する重要な指標のひとつとなるが、どんな病院のどんな患者を対象に計算したかによって大きく左右されるため、だれを対象に計算したものかに注意する必要がある。 |
石灰化 | 乳腺の中にあるカルシウムの塊のこと。マンモグラフィで白い斑点のようにうつって見つかることがある。良性の場合と悪性の場合があり、乳がんが疑われるときは、さらに詳しい検査が必要となる。 |
奏効率 | 化学療法や放射線療法の効果は、完全奏功(CR:すべての病変の消失)、部分奏功(PR:病変の30%以上の縮小)、安定(SD:PRにもPDにも該当しない)、進行(PD:病変の20%以上の増大)の4段階で評価する。CR+PRの占める割合を「奏効率」と言う。 |
組織診 | 病変部位の組織を採取して、顕微鏡で観察し、診断すること。針生検やマンモトーム生検、バコラ生検などのこと。 |
断端(だんたん)陽性/断端陰性 | がんの手術では、がんを残さずに取りきることが重要になるため、乳房温存術では切り取った部分の断端(切り口)に、がんが及んでいるかどうかを調べる。その結果、がん細胞があれば「断端陽性」、なければ「断端陰性」となり、断端陽性の場合には、追加切除を行うこともある。 |
転移 | がん細胞が血液やリンパ系を通って、他の臓器に飛び火すること。 |
乳房再建 | 乳がんの手術のために切除した乳房のふくらみや乳頭、乳輪を形成術によってよみがえらせること。乳がんの手術のときに再建も行う-次(同時)再建と、時間が経過してから行う二次再建がある。また、自分の体の一部を移植する方法と、人工物を使う方法に大別できる。 |
針生検 | 専用針を用いて、組織を吸引採取し、顕微鏡で観察する検査のこと。 |
微小転移 | 原発病巣から転移したものの、目には見えないほどの小さながん、少量のがんが、全身のあちこちに存在していること。 |
被膜拘縮(ひまくこうしゅく) | 異物である人工物に対し、生体反応の膜ができ、硬く変形してくること。乳房再建の際に使用する人工乳房(インプラント)やエキスパンダーによって起こる場合もある。 |
病期(ステージ) | がんの大きさや他の臓器への広がり方でがんを分類し、がんの進行の程度を判定するための基準。「ステージ」「進行期」とも言う。 |
標準治療 | その時点で最も効果が高いと科学的に証明された治療法。欧米では1990年代から、標準治療をベースに各がんの治療ガイドラインが作られており、日本でも治療の標準化、ガイドラインの作成が進んでいる。なお、一般的に広く行われている治療という意味で「標準治療」という言葉が使われることがあるが、最も効果が高いと証明された治療法と広く行われている治療法は必ずしも一致しないため、どちらの意味で使われているのか注意が必要。 |
病理医 | 病院や大学・研究所に勤務し、一般の患者を診療するのではなく、病理診断を行う医師を「病理医」と呼ぶ。病理医は主に病理解剖(剖検)、組織診断(生検および手術材料)、細胞診断などを専門に行う。 |
ホルモン受容体 | 細胞の中で、ホルモンが作用する部分を「受容体(レセプター)」と言う。乳がん細胞の中にもあり、乳がん細胞の受容体にホルモンが結合すると、乳がん細胞は増殖する。手術で摘出したがん細胞のホルモン受容体を調べ、陽性の場合はホルモン療法の適応となる。 |
マンモトーム生検 | 乳腺腫瘍画像力イド下吸引術とも言われる生検の一種。マンモグラフィを見ながら、専用の針で腫瘍組織を吸引採取し、顕微鏡で観察すること。 |
薬剤耐性 | がん細胞などが薬剤に対する抵抗力を持つこと。がん細胞の抗がん剤に対する薬剤耐性には、もともと持っている耐性と、抗がん剤を使いつづけるうちに獲得される耐性がある。つまり、後者の場合、最初は効いていた抗がん剤がだんだん効かなくなってしまう。 |
予後 | 病気に対して治療を行ったあと、病状がどのような経過をたどるかの見通しのこと。 |
予後因子 | 予後を左右する因子(材料)のこと。乳がんの場合、しこりの大きさ、リンパ節転移の有無遠隔転移の有無年齢、閉経前か閉経後か、ホルモン受容体などが予後因子となる。 |
罹患率(りかんりつ) | 一定期間内に新たに発生した患者の、単位人口に対する割合のこと。通常は1年あたりに新しく発生した疾病患者数の人口に対する割合をいい、「人口10万人あたり○○」というように表現される。 |
リンパ管 | 血管と同様、人の体に流れる循環器系のこと。リンパ管は水分やリンパ球、タンパク質、細菌類など体に不必要な成分を含むリンパ液を運び、体外へと排出するための管。 |
リンパ節 | リンパ管のところどころにソラマメ状の丸いふくらみがついているもののことで、多くの弁を持っている。なかでも、上肢や胸壁からのリンパを集める部分のことを腋窩リンパ節と言う。 |
リンパ浮腫 | 乳房を切除(手術)することによってリンパの流れが絶たれたり、変わったりすることによって生じる浮腫(むくみ)のこと。乳がんの場合、手術した側の腕がむくむ傾向がある。適切な対処法により、症状を改善することが可能。 |
HER2(ハーツー)タンパク | 細胞の表面にあるタンパク質の一種。乳がんの約2割はこのHER2タンパクを細胞の表面にたくさん持っている。 |
以上、乳がんで使われる用語についての解説でした。
がんと診断されたあと、どのような治療を選び、日常生活でどんなケアをしていくのかで、その後の人生は大きく変わります。
納得できる判断をするためには正しい知識が必要です。