がんの治療ではさまざまな薬が使われます。では、どんな基準で選ばれるのでしょうか。
薬物療法(化学療法)は、年齢や体力がどれくらいあるか、持病があるかなど患者さんの全身状態を考盧されますが、一般的には「標準治療」を1次治療(初回治療、ファーストラインともいいます)にします。
標準治療とは、それまでに行われた国内外の大規模な臨床試験の結果から、現時点で最も有効性と安全性が裏付けられている治療のことをいいます。
多くのがんでは、例えば再発時の初回治療ではこの療法、それが効かなくなったときの2次治療(セカンドライン)ではこの療法などと、標準治療がだいたい決まっています。
標準治療というと、いまでも「月並みな治療」「ありふれた治療」などと思っている人がいますが、それは間違った認識だといえます。
最近、よく耳にするのが「エビデンス」や「EBM(Evidence-Based Medicine)」という言葉です。エビデンスとは「科学的根拠」という意味で、研究として行われた臨床試験を統計学的な手法で分析して、有益であることが確認できたものを指します。
また、EBMとは、そのエビデンスに基づいた医療(治療のほか、検査などでも用いる)ということになります。標準治療は、現時点で最もエビデンスがある治療法のことであり、現時点でもっとも効果が期待できる治療だといえます。
新たな薬の有効性が確認されたりすると、それが新たな標準治療になります。現時点での標準治療が、1年たつと別のものに置き換わっていることはしばしばです。
いっぽう、画像検査や生検(細胞診・組織診)などの結果から別の治療のほうが有効性は高いと考えられる場合、持病があるなどでその薬が使えない場合(例えばCHOP療法で用いるプレドニゾロンというステロイド薬は、重い糖尿病や緑内障の人などには使えません)、新しい薬や治療法の臨床試験に参加する場合、患者さん自身がその治療を望まない場合などでは、例外的に別の治療を選択することがあります。
標準治療の指標となる「診療ガイドライン」
ガイドラインとは、病気の検査や治療の教科書、指標となるもので、とくに診察や治療のガイドラインを「診療ガイドライン」といいます。日本全国、どこにいても平等に同じ治療が受けられるのは、診療ガイドラインがあるからです。
がんの診療ガイドラインは、がんの種類ごとに分かれていて、進行度や患者さんの年齢、体力などをもとに初回治療として行いたい標準治療、それ以降にすすめられる治療などが載っています。
胃がんや大腸がんのように手術、放射線療法も含めているガイドラインもあれば、乳がんのように治療法ごとに別になっているものもあります。医師向けだけでなく、患者さん向けのガイドラインもありますから、詳しい情報が知りたいときなどに役立ちます。
ガイドラインは冊子として市販されているものもあります。また、日本癌治療学会のホームページなどでも、公開されている診療ガイドラインを見ることができます。
以上、がんで使われる薬についての解説でした。