がん治療専門のアドバイザー、本村です。
当記事では膀胱がん治療「尿路変向」手術について解説します。
尿路変向のための手術にはさまざまな方法があり、それぞれメリットとデメリットがあります。
そのため、尿路変向手術をどうするか考えるときは、十分なインフオームド・コンセント(情報の開示と説明)を受け、その後の生活をイメージして慎重に選択する必要があります。
膀胱がん手術による尿路変向とは?
「筋層浸潤膀胱がん」に対しては膀胱の全摘出術を行うのが標準ですが、とうぜん膀胱を失うことになります。そのため尿を体外に排出させるために尿路を再建しなければなりません。これを尿路変向手術と呼びます。
これまでさまざまな方法で尿路変更は行われてきましたが、現在では尿失禁型である「尿管皮膚瘻(ひふろう)」と「回腸導管造設術」、尿禁制型である「腸管利用新膀胱造設術」が主に行われています。
どの方法で尿路変向を行うのか選択するうえでの重要な要素は、尿道の温存が可能かどうかです。
通常、膀胱がん手術後、残存尿道の腫瘍再発率は10%程度と言われていますが、前立腺部尿道あるいは間質にがんが浸潤している場合や上皮内がんを合併しているケースでは、その頻度が上昇することが分かっています。
そのため、尿道温存をするかどうかは慎重に決定しなければなりません。そして尿道温存が可能な場合は、自排尿型である「新膀胱造設術」も選択肢の1つとなります。
尿路変向手術の結果は、一生つきあっていかなければならない尿の排泄方法です。具体的にどんな手術を行い、どのように生活に影響するのか十分理解し、家族のバックアップ体制などもふまえて選択するべきだといえます。
尿路変向手術の方法
1.尿管皮膚瘻(にょうかんひふろう)
これは尿管の断端をそのまま腹部の表面へ通し「ストーマ」を作成して尿を体外に排出する方法です。ストーマにはパウチと呼ばれる集尿袋を装着し、採尿することになります。
この方法には二連銃式、交差式、両側式などがあり、ストーマの作成法も有吉法、豊田式などさまざまな方法があります。
尿管皮膚瘻は手術内容が比較的単純であるため、高齢者や心機能低下などの重度の合併症を有する患者さんや、腹部手術あるいは放射線治療歴のある人、腎臓の1つが機能していない人などに選択されることが多いです。
最近では内視鏡を使って行われることが多く、より体にはダメージが少なくなっています。
しかし、体の表面にストーマが作成されるため、外観上の変化は避けられません。また、尿管を直接腹壁に吻合するため、感染しやすく、腎盂腎炎を引き起しやすいといった欠点があります。
また、尿管狭窄などにより、尿管ステントを留置せざるをえない症例も少なからずあり、その場合は定期的な交換が必要となります。
2.回腸導管(かいちょうどうかん)
回腸をつかって導管を作成し、導管の末端に尿管を吻合します。反対側をお腹の表面へ通ししストーマを作成、腸の蠕動を利用して尿を体外へ排泄する方法です。
1950年から行われ歴史があり治療成績も比較的安定しているため、現在最も多くの症例で行われている方法です。
回腸はストーマの作成が容易で、尿管皮膚瘻と異なり目標がはっきりしているため、パウチもとりつけやすいのです。また、尿管狭窄もほとんど起らないため、カテーテルを長期に留置することはほとんどありません。
しかし、尿管皮膚瘻と同様ストーマを作成するため、外観上の変化はあります。感染にも弱いため、腎盂腎炎を引き起しやすいのも同じです。また、尿が常に流れている状態であるため、尿の匂いがとれにくいといった欠点があります。
腸管を利用した手術であるため、手術操作がやや難しく、手術のダメージもやや大きいといえます。合併症も重篤なものは少ないものの、その頻度は少ないものではありません。晩期合併症も多岐にわたるため、長期の経過観察が必要です。
3.腸管利用新膀胱(ちょうかんりようしんぼうこう)
腸管を使って袋状に新膀胱を作成し、本来の尿道に吻合する方法です。結腸が利用されることもありますが、多くは回腸を利用して作成されます。ほぼ正常に近い排尿が得られることが大きなメリットだといえます。
新膀胱はほぼ正常に近い排尿が得られるとはいえ、新膀胱自体に収縮力がありません。そのため尿意もなくなります。術後の排尿訓練が必要で腹圧排尿を習得しなければなりません。
そのため、がんの進行度や排尿方法などの正しい理解をしたうえで受ける必要があります。また、がんが男性では前立腺部尿道、女性では膀胱頸部にある場合は適応外であり、腎機能が低下している人は慎重に選択しなければなりません。
なお、残存尿道のがんの再発率は5%以下であり、ほかの尿路変向術に比べ少ないとされています。そのため、尿道再発のリスク軽減の可能性が示唆されています。ただし、尿道再発がないわけではないため、尿細胞診などによる定期的な経過観察は必要です。
尿禁制(自分の意志の元に適切な場所、適切な場面で排尿ができる状態を言います。)については、昼間は良好で90%以上の禁制が得られるものの、夜間では尿失禁の割合が増加するとされています。
その理由の1つとして、夜間における外尿道括約筋の緊張低下が指摘されていますが、就寝後1~2回排尿することで、夜間の尿禁制が保てるとの報告もあります。
また、長期経過では排尿困難も出現し、男性では約10%、女性ではそれ以上の症例で、尿閉、あるいは残尿多量のため、自己導尿を併用せざるをえなくなります。
合併症については、水腎症、高クロール性代謝性アシドーシス、結石形成などが挙げられます。重篤なものはあまりないものの、長期的な経過観察が必要です。
尿路変向術と生活の質
外観上のイメージではストーマを作らない新膀胱に分があるものの、尿失禁や尿閉など排尿コントロールがうまくいかないことにより、かえって生活の質が下がるといった報告もあります。
患者にとっては、自分が受けた尿路変向術がすべてですので、その選択においては十分なインフォームド・コンセントを受け、さらに熟慮したうえで決定することになります。
以上、膀胱がんに関する尿路変更についての解説でした。