子宮頸がんの標準治療は現在でも手術が第一選択であり、転移のない局所進行がんにおいては手術が優先されます。
しかし子宮頸がんには放射線治療が用いられることも多く、欧米では日本よりも多く放射線治療が行われています。
日本では、通常の放射線治療(X線を使った治療)よりもピンポイント性とがんの殺傷能力に優れる重粒子線治療の子宮頸がんへの適用が研究されてきました。
重粒子線治療とは?
重粒子線治療は、従来のX線よりも重い粒子を光に近い速さでがん腫瘍に対して照射する方法です。非常に高額な治療機器を使うため、重粒子線治療が行える施設は日本でも4施設に留まっています。
そのため標準治療という位置づけにはならず、現在はどのがんに対しても保険外治療となり、治療を受けるためには300万円以上の高額な費用がかかります。
しかし世界的にみても、日本以外で重粒子線治療ができるのはドイツとイタリアだけであり、重粒子線治療の分野においては日本は世界でもトップの施設数と実績があります。
重粒子線治療の特徴は、非常に強いエネルギーをピンポイントで体の深部に届けられることにあります。肺がんや膵臓がんなど、体の内部にあり、なおかつ腫瘍以外の細胞を傷つけたくない場合に積極的にもちいられるようになりました。
子宮頸がんへの重粒子線治療
子宮頸がんで、重粒子線治療が検討されるのは、腫瘍が大きくて従来の放射線治療では対応できないケースと「腺がん」という頸がんのなかでも放射線治療が効きにくいタイプのがんです。頸がんのなかでも扁平上皮がんというタイプは放射線の効果が表れやすいため、従来のX線で対応できやすいということです。
なお、骨盤内のリンパ節転移は複数個あっても適応となりますが、傍大動脈リンパ節に関しては複数個の転移、またはリンパ節の腫瘍が1つでも1㎝以上を超えるような場合は適応外となります。また、高齢の場合や過去に放射線治療の経験がある場合も適応外となります。
重粒子線の治療スケジュールは一週間に4回の重粒子線照射を5週間行います。一回の放射時間は数分です。照射される放射線の数値は、20回合計で扁平上皮がんなら72グレイ、腺がんなら74.4グレイとされています。
子宮頸がん重粒子線治療の効果と副作用・課題
これまでの治療成績は、72グレイ以上を照射したステージ3レベルの進行がんの場合、5年後の局所制御率が約60%、全生存率は約55%です。この数値は従来の化学放射線治療(抗がん剤とX線を用いた放射線治療の組み合わせ)と大差ありません。
しかし、腫瘍が大きい場合は重粒子線治療のほうが効果が表れやすいというデータがあります。腫瘍サイズ5㎝以上に対する重粒子線治療の2年後の骨盤内制御率が約81%なのに対し、化学放射線治療では5~7㎝で72%、7㎝以上で54%でした。
つまり小さいがんなら従来の治療法と同じレベルの効果に留まるが、大きい腫瘍になるとわずかに重粒子線治療のほうが効果が高いといえる、ということです。
・副作用と課題
子宮は周囲を腸が取り囲んでいるため、どうしても腸への影響が避けられないケースがあります。2002年頃までは腸に穴が開いてしまうこともありましたが、現在は照射の技術の向上、経験値の蓄積によりそのような事態は起こらなくなっています。
また、合計で20回の照射をすることもデメリットの1つだといえます。肺がんでは一回で終わることもあり、他の癌でも20回に達することはありません。回数が多いことは単純に患者への負担となります。
現在の子宮頸がん重粒子線治療のスタンス
重粒子線ならではの効果はみられるものの、高額な費用を投じて行うべきだというほどのメリットは得られていません。
大きな腫瘍や腺がんに対しては従来の治療法よりメリットはありますが、基本的には標準治療など従来の治療法で対処できるならそのほうがよいという評価が医療界のスタンスだといえます。
より進行して治療が難しいがんに対して、選択肢の1つとして検討するものだといえます。
以上、子宮頸がんの放射線治療についての解説でした。