子宮頸がん広汎子宮全摘出術とは
子宮頸がん広汎子宮全摘出術は、子宮頸がんの根治的治療法として行われる手術です。単純子宮全摘術とは異なり、がんの取り残しを防ぐために子宮だけでなく、子宮周囲の基靭帯、腟の一部、そして骨盤内のリンパ節まで広範囲に切除します。
2025年現在、手術方法は従来の開腹手術に加えて、腹腔鏡下広汎子宮全摘術やロボット支援下手術など、患者様の負担を軽減する低侵襲な手術法が普及しています。手術方法により入院期間や回復期間が大きく異なるため、事前に詳しく理解しておくことが重要です。
手術前の入院と準備期間
広汎子宮全摘出術では、手術前に十分な検査と準備が必要です。多くの医療機関では手術前日に入院し、以下の準備を行います。
手術前日のスケジュール
- 血液検査、心電図、胸部レントゲン等の術前検査
- 麻酔科による診察と説明
- 手術に関する最終確認と同意書の確認
- 夕食は消化の良い特別食を摂取
- 下剤の服用による腸管の清浄化
- 深夜0時以降は飲食禁止
患者さんによっては、基礎疾患や体力に応じて数日前から入院し、より詳細な検査や体調管理を行う場合もあります。
手術当日の流れと処置
術前処置
手術当日は朝から以下の処置が行われます。
- 浣腸による最終的な腸管の清浄化
- 血栓予防のための弾性ストッキング着用
- 静脈点滴ルートの確保
- 手術部位の剃毛と消毒
手術中の処置
全身麻酔下で手術が行われ、手術時間は術式により異なります。
手術方法 | 手術時間 | 特徴 |
---|---|---|
開腹手術 | 3-4時間 | 従来の標準的な方法 |
腹腔鏡下手術 | 5-7時間 | 小さな傷で低侵襲 |
ロボット支援下手術 | 5-8時間 | 最も精密で低侵襲 |
術後の状態
手術終了後は以下の管が挿入されています。
- 尿道カテーテル(排尿管理のため)
- 腹部ドレーン(手術部位の排液のため)
- 硬膜外麻酔カテーテル(痛み止めのため)
- 血栓予防装置の装着
手術当日は絶飲食となり、水分補給は点滴で行います。
術後の入院期間と回復過程
手術翌日(術後1日目)
- 血液検査による全身状態の確認
- 医師の指示により起き上がる練習開始
- 水分摂取の開始(少量から)
- 痛みの程度に応じた鎮痛薬の調整
術後2-3日目
- 腹部ドレーンの抜去(状態により前後)
- 硬膜外麻酔カテーテルの抜去
- 歩行訓練の開始(室内歩行から病棟内歩行へ)
- 五分粥から全粥への食事の段階的進行
術後4-5日目
- 普通食への移行
- シャワー浴の許可
- より積極的な歩行訓練
術後5-10日目
この期間が最も重要な回復段階となります。
- 尿道カテーテルの抜去
- 排尿トレーニングの開始
- 自立した日常生活動作の練習
- 退院に向けた指導の開始
手術方法別の入院期間比較
2025年現在、手術方法により入院期間には大きな違いがあります。
手術方法 | 平均入院期間 | 社会復帰まで | メリット |
---|---|---|---|
開腹手術 | 14-21日 | 4-6週間 | 確実な手術、保険適用 |
腹腔鏡下手術 | 7-14日 | 2-4週間 | 傷が小さい、痛み少ない |
ロボット支援下手術 | 7-10日 | 2-3週間 | 最も低侵襲、精密 |
最新の治療法:腹腔鏡下手術とロボット支援下手術
腹腔鏡下広汎子宮全摘術
2018年4月から保険適用となった腹腔鏡下手術は、お腹に小さな穴を数か所開け、カメラで見ながら行う手術です。従来の開腹手術と比較して以下のメリットがあります。
- 術後の痛みが少ない
- 出血量が少ない
- 入院期間の短縮
- 美容面での優位性
- 早期社会復帰が可能
適応となるのはⅠA2期、ⅠB1期、ⅡA1期の早期子宮頸がんです。
ロボット支援下手術
2025年現在、ダヴィンチなどの手術支援ロボットを用いた手術が普及しています。3D画像と精密な操作により、より安全で確実な手術が可能です。
- 手ぶれのない精密な操作
- 拡大視野による安全性向上
- 神経温存による機能保持
- 更なる低侵襲性
退院基準と退院後の生活
退院の条件
以下の条件が満たされた場合に退院となります。
- 自分で排尿ができること
- 普通食が摂取できること
- 歩行に問題がないこと
- 痛みが内服薬でコントロールできること
- 発熱などの感染兆候がないこと
- 創部の治癒が良好であること
退院後の注意事項
退院後は段階的に日常生活に戻していきます。
- 重い物(5kg以上)を持つことは1か月間避ける
- 激しい運動は3か月間控える
- 入浴は2週間後から可能(それまではシャワーのみ)
- 性生活は3か月後から医師の許可を得てから
- 定期的な外来受診による経過観察
社会復帰のタイミング
社会復帰のタイミングは手術方法と職種により異なります。
デスクワーク中心の場合
- 腹腔鏡下手術:退院後1-2週間
- 開腹手術:退院後2-3週間
- ロボット支援下手術:退院後1-2週間
立ち仕事や身体労働の場合
- 腹腔鏡下手術:退院後4-6週間
- 開腹手術:退院後6-8週間
- ロボット支援下手術:退院後3-4週間
術後の合併症と対処法
短期的な合併症
- 排尿障害:術後最も多い合併症で、神経温存術により軽減可能
- 腸閉塞:腹部の癒着により発生、保存的治療で多くが改善
- リンパ浮腫:リンパ節郭清により発生、リンパマッサージが有効
- 創部感染:適切な創部管理により予防可能
長期的な影響
- 更年期症状:卵巣摘出により発生、ホルモン補充療法で軽減
- 性機能障害:段階的なリハビリテーションで改善可能
- 便秘:食事療法と運動で改善
入院準備と心構え
入院前の準備
入院期間が長期となる可能性があるため、以下の準備が必要です。
- 家族・職場への長期療養の説明と理解の確保
- 家事代行や育児支援の手配
- 経済的な準備(高額療養費制度の活用)
- 入院用品の準備
精神的な準備
子宮を失うことへの不安は自然な感情です。医療チーム、家族、患者会などのサポートを活用し、前向きに治療に取り組むことが大切です。
- がん相談支援センターの活用
- 同じ経験をした患者さんとの交流
- 心理的サポートの受講
- 正しい情報の収集
医療費と支援制度
手術費用の目安
手術方法 | 保険適用 | 3割負担時の目安 |
---|---|---|
開腹手術 | 全額 | 50-80万円 |
腹腔鏡下手術 | 全額 | 60-90万円 |
ロボット支援下手術 | 一部条件付き | 70-100万円 |
利用可能な支援制度
- 高額療養費制度による自己負担上限の設定
- 障害者手帳の取得による各種支援
- がん患者就労支援事業
- 医療費控除による税制優遇
まとめ
子宮頸がんの広汎子宮全摘出術は、がんの根治を目指す重要な治療法です。2025年現在では手術方法の選択肢が広がり、患者様一人ひとりの状況に応じた最適な治療が可能となっています。
入院期間は手術方法により7日から21日程度と幅がありますが、どの方法でも適切な術後管理により良好な回復が期待できます。重要なのは、医療チームと十分に相談し、自分に最適な治療方法を選択することです。
参考文献・出典情報
この記事は以下の信頼できる医療機関および学術団体の情報を基に作成されています:
- 国立がん研究センター がん情報サービス「子宮頸がん 治療」
- 日本婦人科腫瘍学会「子宮頸癌治療ガイドライン2022年版」
- 先進医療.net「腹腔鏡下広汎子宮全摘術」
- 日本産科婦人科学会「婦人科領域におけるロボット手術に関する指針」
- 熊本赤十字病院「腹腔鏡下広汎子宮全摘術について」
- 東京医療センター「ロボット手術センター(婦人科)」
- 三重大学病院「子宮体がんに対する最新のロボット支援下手術」
- 千葉市立青葉病院「子宮全摘術について」
- 国立がん研究センター「後遺症の少ない手術で忙しい女性たちの活躍を応援」
- 子宮頸がん予防情報サイト「子宮頸がんの治療・治療による後遺症」
※医療情報は常に更新されるため、実際の治療については必ず担当医師にご相談ください。