
骨盤リンパ節
子宮頸がんにおける骨盤リンパ節郭清とは
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
子宮頸がんの治療を検討する際、骨盤リンパ節郭清という言葉を耳にすることがあります。
リンパ節郭清は、がんの根治を目指すために行われる重要な治療手段の一つですが、同時に術後の合併症のリスクも伴います。
この記事では、子宮頸がんにおける骨盤リンパ節郭清の目的、効果、デメリット、そして2026年現在の最新治療動向について、患者さんが理解しやすいよう詳しく解説します。
子宮頸がんのリンパ節転移の仕組み
子宮頸がんは、子宮頸部という子宮の入り口部分に発生するがんです。がん細胞は進行すると、血液の流れだけでなく、リンパ液の流れに乗って周囲に広がっていきます。
リンパ液は体内を巡るリンパ管という細い管を通って流れており、その途中にはリンパ節という関所のような組織があります。子宮頸がんの場合、がん細胞はリンパ管を通じて以下のような経路で広がる可能性があります。
まず、子宮頸部から最も近い骨盤内のリンパ節に到達します。具体的には、内腸骨リンパ節、外腸骨リンパ節、閉鎖リンパ節などと呼ばれる部位です。これらは骨盤内の血管に沿って存在しています。
次に、がんがさらに進行すると、骨盤より上部にある傍大動脈リンパ節や、足の付け根にある鼠径リンパ節、さらには鎖骨上窩リンパ節などの遠隔部位へと転移する可能性が出てきます。
リンパ節はリンパ液を濾過する役割を持っているため、がん細胞がここに付着して増殖しやすいという特徴があります。このため、リンパ節への転移の有無を確認することは、がんの進行度を正確に把握し、適切な治療方針を決定するうえで重要な意味を持ちます。
骨盤リンパ節郭清の目的と意味
骨盤リンパ節郭清とは、骨盤内に存在するリンパ節を外科的に切除する手術のことを指します。この手術には大きく分けて二つの目的があります。
一つ目は、がんの根治を目指すという治療的な目的です。がん細胞が既にリンパ節に転移している場合、そのリンパ節を切除することで、がんの拡散を防ぎ、再発のリスクを減らすことができます。特にステージIb2期やIIa2期といった比較的進行したがんでは、リンパ節への転移が認められることが多いため、根治的な意味で骨盤リンパ節郭清が必要とされています。
二つ目は、がんの進行度を正確に評価するという診断的な目的です。手術前の画像検査では、小さなリンパ節転移を正確に判断することが難しい場合があります。そのため、実際にリンパ節を摘出して顕微鏡で詳しく調べることで、がんの広がりを正確に把握し、術後の追加治療が必要かどうかを判断する材料とします。
通常の骨盤リンパ節郭清は、熟練した術者が行っても片側で1時間、両側で2時間程度の時間を要する手術です。摘出するリンパ節の数は一般的に25個前後とされており、かなり広範囲にわたる手術となります。
骨盤リンパ節郭清の効果とメリット
骨盤リンパ節郭清を行うことによって得られる効果とメリットについて説明します。
まず、リンパ節転移が確認された場合、そのリンパ節を完全に切除することで、がん細胞を体内から取り除くことができます。これにより、がんの進行を抑え、治癒の可能性を高めることができます。
また、摘出したリンパ節を詳しく調べることで、がんの進行度や悪性度を正確に評価できます。この情報は、術後に放射線治療や化学療法などの追加治療が必要かどうかを判断する重要な材料となります。
日本婦人科腫瘍学会が発行する子宮頸癌治療ガイドラインでは、腫瘍の大きさやリンパ節転移の有無など、再発リスク評価に基づいて術後の治療方針が決定されるとしています。骨盤リンパ節郭清によって得られる病理学的情報は、この判断に欠かせないものです。
特に、骨盤リンパ節転移が確認された場合は、術後に同時化学放射線療法を追加することが一般的です。このように、リンパ節郭清は単なる治療手段だけでなく、その後の治療計画を立てるための重要な検査としての意味も持っています。
骨盤リンパ節郭清のデメリットとリスク
骨盤リンパ節郭清には、治療効果がある一方で、術後の合併症というデメリットも存在します。患者さんが最も注意すべきリスクについて説明します。
リンパ浮腫(むくみ)
最も頻度が高い合併症が、下肢や会陰部のリンパ浮腫です。リンパ節を切除することで、足から体の中心に戻ってくるリンパ液の流れが阻害されるため、足や下腹部にむくみが生じることがあります。
国立がん研究センター中央病院の報告によると、骨盤リンパ節郭清を行った患者さんのうち、約4人に1人の割合で下肢リンパ浮腫が発生するとされています。元記事では15~20%という数値が示されていますが、現在の医療現場では25%程度の発生率が報告されています。
リンパ浮腫は一度発症すると完全に治すことが難しく、長期的な管理が必要になります。治療としては、圧迫療法(リンパドレナージや着圧ストッキング)を中心に、根気強く対応していく必要があります。
その他の合併症
リンパ浮腫以外にも、以下のような合併症が報告されています。
骨盤内リンパ嚢胞や膿瘍の形成があります。リンパ節を切除した後の空間にリンパ液が貯留し、嚢胞を形成することがあります。
また、手術時間が長くなることで、術中出血量の増加や、術後腸閉塞などの合併症が生じる頻度も増加する傾向があります。
さらに、骨盤内の神経が損傷されると、排尿障害や便秘などの症状が現れることもあります。これらの症状は、手術後数ヶ月から1年程度で改善することが多いですが、個人差があります。
縮小骨盤リンパ節郭清という選択肢
すべての子宮頸がん患者さんに、広範囲のリンパ節郭清が必要というわけではありません。がんの大きさや進行度によっては、より小さい範囲の郭清で済ませることができる場合があります。
子宮頸がんのリンパ節転移頻度は、腫瘍の大きさと密接な関係があります。腫瘍の大きさが2cm以下の場合、リンパ節転移の頻度は約6%とされています。2cmから4cmの場合は約10%、4cmを超えると15~20%まで上昇します。
このデータから、腫瘍が2cm未満と小さい子宮頸がんの場合は、子宮頸部に最も近いリンパ節だけを郭清する「縮小骨盤リンパ節郭清」という方法が選択されることがあります。
縮小骨盤リンパ節郭清は、通常の骨盤リンパ節郭清と比べて郭清範囲が2分の1以下となるため、手術時間も短縮されます。経験豊富な医師であれば、片側で約25分、両側で50分程度で実施できます。
郭清範囲が狭くなることで、術後のリンパ浮腫の発生頻度や程度が軽減されることが期待できます。ただし、縮小骨盤リンパ節郭清は、腫瘍の大きさや進行度、患者さんの状態などを総合的に判断して適応が決定されます。
センチネルリンパ節生検の最新動向
近年、リンパ節郭清の合併症を減らすための新しい技術として、センチネルリンパ節生検が注目されています。
センチネルリンパ節とは
センチネルリンパ節とは、がん細胞がリンパ液の流れに乗って最初に到達するリンパ節のことです。「見張りリンパ節」や「前哨リンパ節」とも呼ばれています。
がんのリンパ節転移は、まず最初にこのセンチネルリンパ節に起こると考えられています。したがって、センチネルリンパ節に転移がなければ、その先のリンパ節にも転移がない可能性が高いという理論に基づいています。
センチネルリンパ節生検の方法
センチネルリンパ節を見つけ出す方法として、放射性同位元素(RI)や色素を使用する方法があります。
手術前日に、放射性同位元素であるテクネシウムや、蛍光色素であるインドシアニングリーン(ICG)を子宮頸部に注入します。これらの物質はリンパ管を通ってリンパ節に流れ込むため、特殊な機器を使ってセンチネルリンパ節の位置を確認することができます。
手術中に、このセンチネルリンパ節を1個から数個摘出し、迅速病理診断で転移の有無を調べます。転移が認められなければ、他のリンパ節の郭清を省略できる可能性があります。
2026年現在の保険適用状況
子宮頸がんにおけるセンチネルリンパ節生検は、近年大きく進展しています。
日本婦人科腫瘍学会の指針によると、2023年3月に放射性同位元素トレーサーであるテクネフチン酸が、子宮頸がん、子宮体がん、外陰がんを適応症として保険収載されました。
さらに2025年7月31日付けで、蛍光色素トレーサーであるインドシアニングリーン(ICG)が、子宮頸がんと子宮体がんに対して保険診療での投与が可能となりました。
ただし、2026年現在、子宮頸がんおよび子宮体がんにおけるセンチネルリンパ節生検加算(手技料)はまだ認められていません。外陰がんに対してのみ、2024年度の診療報酬改訂で認められています。
このため、子宮頸がんに対するセンチネルリンパ節生検は、現時点では臨床研究として実施されることが推奨されています。慶應義塾大学病院、東北大学病院、北野病院など、いくつかの施設で臨床研究が進められています。
センチネルリンパ節生検の利点と課題
センチネルリンパ節生検の最大の利点は、リンパ節郭清の範囲を縮小できることです。これにより、リンパ浮腫などの合併症のリスクを軽減できます。
また、摘出するリンパ節の数が少ないため、より詳細な病理検査を行うことができます。2mm間隔の連続切片で診断を行うことで、従来の方法では見逃されていた小さな転移も発見できる可能性があります。
一方で、課題もあります。センチネルリンパ節に転移が陰性であっても、他のリンパ節への転移の可能性を完全に排除することはできません。長期的な治療成績についてのデータがまだ十分に蓄積されていないため、慎重な適用が必要とされています。
現在、センチネルリンパ節生検によるリンパ節郭清の省略が、本当に患者さんの予後にプラスなのかどうかについて、複数の臨床研究が進行中です。
リンパ節郭清の適応基準
どのような場合に骨盤リンパ節郭清が必要になるのか、現在の適応基準について説明します。
ステージと腫瘍サイズによる判断
ステージIb2期(腫瘍が4cm以上)やIIa2期(膣上部への浸潤があり腫瘍が4cm以上)の場合、リンパ節転移のリスクが高いため、骨盤リンパ節郭清が標準的に行われます。
一方、ステージIa期(顕微鏡でのみ確認できる小さながん)やIb1期(腫瘍が4cm未満)の場合は、腫瘍の大きさや深達度によって判断されます。
画像検査による評価
手術前にCT、MRI、PET-CTなどの画像検査を行い、リンパ節転移の有無を評価します。明らかなリンパ節転移が疑われる場合は、骨盤リンパ節郭清に加えて傍大動脈リンパ節郭清も検討されることがあります。
ただし、現在の画像診断技術では、小さなリンパ節転移を事前に正確に予測することは困難です。このため、最終的には手術中の所見や迅速病理診断の結果に基づいて、郭清範囲を決定することになります。
リンパ節郭清を省略できる場合
現在の治療ガイドラインでは、以下のような条件を満たす場合、リンパ節郭清の省略や縮小が検討されることがあります。
腫瘍が2cm以下と小さく、浸潤が浅い場合。画像検査でリンパ節転移が疑われない場合。センチネルリンパ節生検で転移が陰性と確認された場合(臨床研究として実施されている施設に限る)。
ただし、これらの判断は個々の患者さんの状態によって異なるため、担当医との十分な相談が必要です。
手術後の経過観察と再発予防
骨盤リンパ節郭清を含む子宮頸がん手術後は、定期的な経過観察が重要です。
子宮頸がんは、手術後2~3年以内の再発率が高いとされています。このため、最初の2年間は1~3ヶ月に1度の頻度で、細胞診検査、腫瘍マーカー検査、胸部X線検査などを実施します。
3年目は3~6ヶ月ごと、4~5年目は6ヶ月ごと、6年目以降は1年ごとに検査の頻度を徐々に落としていきます。
また、リンパ節郭清を行った患者さんには、リンパ浮腫の予防と早期発見のため、定期的な自己チェックとセルフマッサージの方法をお伝えしています。
術後補助療法の判断
手術で摘出したがん組織を詳しく調べ、再発リスク評価を行います。腫瘍の大きさ、浸潤の深さ、リンパ節への転移などの因子によって、術後の治療方針が決定されます。
リスクが低い場合は経過観察のみとなりますが、中~高リスクの場合は、手術後に再発予防として放射線治療、化学療法、または同時化学放射線療法が実施されることがあります。
特に、骨盤リンパ節転移が確認された場合は、再発リスクが高いと判断され、術後に同時化学放射線療法を追加することが推奨されています。
患者さんが知っておくべきこと
子宮頸がんの治療において、骨盤リンパ節郭清は重要な役割を果たしますが、すべての患者さんに同じ治療が適用されるわけではありません。
がんの進行度、腫瘍の大きさ、患者さんの年齢や全身状態、将来の妊娠希望の有無など、様々な要因を総合的に判断して、最適な治療方針が決定されます。
医師とのコミュニケーション
自分のがんの状態について、担当医から詳しい説明を受けることが大切です。リンパ節郭清が必要な理由、期待される効果、起こりうる合併症について、納得がいくまで質問しましょう。
また、縮小骨盤リンパ節郭清やセンチネルリンパ節生検といった新しい治療法が自分に適用できるかどうかについても、相談してみることをお勧めします。
セカンドオピニオンの活用
治療方針について不安がある場合や、他の選択肢について知りたい場合は、セカンドオピニオンを求めることも一つの方法です。
特に、センチネルリンパ節生検などの新しい治療法は、実施できる施設が限られています。臨床研究として実施している施設に相談することで、新しい治療の選択肢が得られる可能性もあります。
術後のQOL(生活の質)への配慮
リンパ節郭清は、がんの根治を目指すための重要な治療ですが、術後のQOLへの影響も考慮する必要があります。
リンパ浮腫などの合併症が発生した場合の対処法や、日常生活での注意点について、事前に医療スタッフから説明を受けておくことが大切です。
また、リンパ浮腫を完全に予防する方法は現時点では確立されていませんが、体重管理、定期的なセルフマッサージ、スキンケアなど、日常的な対策を継続することが推奨されています。
まとめにかえて
子宮頸がんにおける骨盤リンパ節郭清は、がんの根治と正確な進行度評価のために重要な治療手段です。
一方で、リンパ浮腫などの合併症のリスクも伴うため、個々の患者さんの状態に応じて、通常の骨盤リンパ節郭清、縮小骨盤リンパ節郭清、またはセンチネルリンパ節生検を用いた縮小手術など、最適な方法を選択することが大切です。
2026年現在、センチネルリンパ節生検の技術は進歩しており、一部の施設では臨床研究として実施されています。将来的には、より多くの患者さんが低侵襲な治療を受けられるようになることが期待されています。
参考文献・出典情報
- 国立がん研究センター中央病院 - リンパ節郭清の省略
- 日本婦人科腫瘍学会 - 子宮頸癌治療ガイドライン2022年版
- 日本婦人科腫瘍学会 - 子宮体がん治療ガイドライン2023年版
- 慶應義塾大学病院 - 子宮体がんの手術とセンチネルリンパ節生検
- 慶應義塾大学病院 - 婦人科がんでのセンチネルリンパ節ナビゲーション手術
- 日本婦人科腫瘍学会 - 婦人科悪性腫瘍センチネルリンパ節ナビゲーション手術の指針Ver2.0
- MSD oncology - 子宮頸がん 治療(進行期別の治療の種類、転移と再発など)
- 北野病院 - センチネルリンパ節生検
- 国立がん研究センター がん情報サービス - センチネルリンパ節生検
- 日本産科婦人科学会 - 子宮頸癌・子宮体癌に対する手術

