食道の壁は、粘膜や筋肉など4層の組織で構成されています。いちばん外側に膜がないために、がんが周囲組織に転移しやすいといえるのです。
構造的にがんが進みやすくなっている
食道の壁は、粘膜、粘膜下層、固有筋層、外膜の4層で成り立っています。粘液を分泌している粘膜の下にある粘膜下層と、食道の蠕動運動を担当する固有筋層との間には、多くの血管やリンパ管が走っています。
粘膜の表面は扁平上皮細胞という平たい形の細胞で覆われています。食道がんの90パーセント以上が、この細胞から発生します。残りのほとんどは、粘膜下層内部の腺細胞ががん化した腺がんです。ごくまれですが、未分化細胞がん、がん肉腫、悪性黒色腫など、特殊ながんが発生することもあります。
胃や腸など、ほとんどの内臓は奬膜という強い膜に覆われていますが、食道には漿膜がありません。そのため、食道の壁にがんができると、周囲の臓器に転移しやすいのです。
粘膜下層まで進むと転移しやすい
食道がんは粘膜から発生し、上下左右へと広がっていきます。食道壁の奥深くへと広がっていくと転移しやすく、治りにくくなります。
多くの場合、がんは扁平上皮細胞層の下側で発生します。そしてがん細胞は、増殖を続けてだんだん成長し、周囲の組織を破壊しながら上下左右へと広がっていきます(浸潤)。
がんは、はじめ粘膜層に留まっていますが、やがて奥深くへと浸潤し、さらに粘膜下層、固有筋層、外膜へ、さらには食道の外へと広がっていきます。がんが粘膜内に留まっているものは、早期食道がんと呼ばれます。粘膜下層まで進んだものは表在食道がんと呼ばれ、固有筋層まで深く侵されたものは、進行がんとされます。
・深さによって今後が推測できる
リンパ管や血管が無数走っている粘膜下層まで進むと、がんが転移しやすくなります。がんが粘膜に留まっているか粘膜下層まで深く浸潤しているかどうかによって、食道がんのその後の進行度合いは大きく違ってきます。
リンパ液や血液に入ってがん細胞が広がる
転移とは、がん細胞がリンパ液や血液などによってさまざまな部位に運ばれ、流れ着いた場所で増殖してふたたび大きくなることです。
どのがんでも転移はあります。しかし食道壁にリンパ管や血管が張り巡らされていることや、食道の周囲にはリンパ管が豊富にあることで、転移しやすい特徴があります。
転移は、食道周囲のリンパ節だけでなく、遠いリンパ節や臓器にも起きます。いっぽう食道に隣接する気管や大動脈などに、原発巣からがんが直接広がることは浸潤といいます。
・リンポ節転移が起こりやすい部位
【頸部食道】
がん細胞が食道壁のリンパ管に入り、食道周囲のリンパ節へと進みます。リンパ節からさらにリンパ液の流れにのって全身へ転移し、特に首まわりのリンパ節への転移が多いのが特徴です。
【胸部食道】
胸部食道は、最もがんが発生しやすい部位です。周囲のリンパ節転移から首まわりのリンパ節、腹部のリンパ節へと広がりやすいのが特徴です。
【腹部食道】
胃と近いため胃周辺のリンパ節への転移が多く、腹部、大動脈周囲のリンパ節にも転移することがあります。
・播種性転移
がんが食道の外膜を破って大きくなると、胸部食道にできたがんが、胸のなかの空間(胸腔)やおなかの空間(腹腔)内に散らばり、胸部や腹部の多種類の臓器に転移しやすいです。
以上、食道がんに関する解説でした。