がん治療専門のアドバイザー、本村です。
緩和医療(緩和ケア)は、がんに関する苦痛を緩和しクオリティー・オブ・ライフ(QOL=生活の質)を改善するためのアプローチです。
緩和医療は、がんの終末期に限らず、早いステージ(病期)や治療の過程においても必要なもので、患者さんやご家族に見られるさまざまな苦痛を和らげることを目標としています。
ここでは食道がんの進行期・末期にはどのような症状、苦痛があり、どのように対処していくのかを記載します。
痛み(がん性疼痛(とうつう))
「緩和医療(緩和ケア)」とは、一言でいえば、がん患者さんの苦痛を和らげる治療です。がんの症状の中で、何よりもつらいのは"痛み"です。がんによる痛みは、末期状態だけに出てくるものではなく、どの時期でも起こり得ます。
がん性疼痛の原因にはさまざまなものがあります。がんが大きくなることで組織や臓器を圧迫したり、浸潤したりして起こる痛みや、進行して転移した先の組織や臓器の障害で起こる痛み、神経や骨に転移・浸潤することで起こる痛みなどがあります。
WHOがん性疼痛治療指針では、痛みに対する治療指針として次のように揚げています。
①経口投与を基本とすること(by the mouth)
②十分な量の鎮痛剤を、正確に時刻を決めて服用すること(by the clock)
③痛みの強さに応じて弱いものから強いものに段階的に変更していくこと(by the ladder)
④個人の特性に合わせて行うこと(for the individual)
⑤細心の注意を払って行うこと(with attention to detail)
また、痛みを3段階に分けた「WHO方式がん性疼痛治療法」に基づいて治療を行うのが最善とされています。
<第1段階(軽度の痛み)>
アスピリンやアセトアミノフェン、ロキソニン、ボルタレンなどの非ステロイド性抗炎症薬(非オピオイド)
<第2段階(中等度の痛み)>
コデインなどの弱い麻薬(弱オピオイド)
<第3段階(高度の痛み)>
モルヒネ、MSコンチン、カディアン、オキシコンチン、デュロテップ、フェンタニルなどの強い麻薬(強オピオイド)
これは、痛みの程度に合わせて、それぞれの薬剤を段階的に増やしながら痛みを取っていく方法です。特に第3段階では、痛みが取れるまで増量していくことが可能です。
麻薬には眠気や吐き気、便秘などの副作用がありますが、いずれも対処ができるものがほとんどで、適切に使う限り、依存したり中毒になったりすることはありません。
また、神経の障害による痛みや筋肉のけいれんによる痛みなど、麻薬が効きにくい痛みもあります。症状に合わせて、漢方薬や抗けいれん薬、抗うつ薬、ステロイドなどの鎮痛補助薬を併用して、さまざまな苦痛を和らげることを目指します。
食道の狭窄(きょうさく)
食道は食べものを胃に運ぶ臓器です。食道がんが大きくなることで、その通り道が狭くなる(狭窄する)ことがあります。悪化すると痛みが出たり、食べものを飲み込むことが難しくなったりして、食べられなくなってしまいます。食事摂取などを可能にして、QOL(生活の質)を向上させる目的で、以下のような治療が行われます。
・バイパス手術
外科手術を行い、食べものの通り道を確保する方法です。食事が食べられるようになることを目指しますが、やはりからだへの負担が大きいため、行えないこともあります。
・食道ステント挿入
レントゲンおよび内視鏡を使い、がんで狭くなってしまった部分にステントという金属でできた網目状、筒状のものを挿入し、狭い部分を広げることで、食事摂取を可能とする方法です。
挿入する場所(がんで狭くなった場所)によっては効果が弱かったり、のどに近い所では違和感が強かったり、胃に近い所に挿入した際には逆流性食道炎などを起こしたりすることがあります。
・胃ろう、腸ろう
胃、あるいは小腸にチューブを入れて、そこから十分な栄養を摂取していく方法です。1番のメリットは、比較的操作が容易で、感染症などのリスクが小さく、経口摂取が難しい病状でも自宅で過ごすことが可能となることです。
また、内視鏡を使用した胃ろうの造設(経皮内視鏡的胃ろう造設術)は、からだへの負担が少なく行えますが、腹部手術をしたことがある人や内視鏡が通過しないほど食道が狭い人には不向きで、開腹して行われます。
食道がんからの転移部位による症状とその治療
食道がんの増大やリンパ節転移の増大などにより、気管や気管支が狭くなったり、食道と気管の間にろう孔(管状の通路)ができたりすることがあります。
放置すると窒息につながるため、内視鏡治療として、レーザー治療やアルゴンプラズマやマイクロ波などによる凝固法、拡張術、ステント治療などが行われることがあります。
・骨への転移による症状と治療
食道がんが骨へ転移することで、痛みが起こったり、骨折しやすくなったりします。また、脊椎への転移がある場合には、脊髄神経の麻痺が起こる心配があります。オピオイドや消炎鎮痛剤を用いて痛みを和らげることを目指します。また、場合によっては、放射線療法を行うことで症状の緩和を目指します。
・脳への転移による症状と治療
脳への転移が起こると、頭痛、吐き気、麻痺、けいれんなどが起こります。症状を和らげるために、ステロイドやグリセオールという薬を投与して脳のむくみを取ります。放射線療法を行うこともあります。
・肺への転移による症状と治療
肺への転移をきたしても最初は無症状です。しかし、病変部が大きくなると、咳込み、呼吸困難、喀血、胸水貯留などが起こります。症状を和らげるために、咳止め薬や酸素の投与を行ったり、胸の水を抜いたりします。
・胸膜播種による症状と治療
がん細胞が胸膜に広がることで、胸水(胸に水がたまる状態)が起こったり、がん性リンパ管症(リンパ管をがん細胞が埋め尽くした状態)が起こったりします。呼吸困難や心不全の原因となることがあります。
胸水を減らして呼吸困難を改善するために、利尿剤などを用いて、水分を尿として体外に排出します。ときには、針を刺して胸の水を抜くこともあります。自覚症状(呼吸苦、激しい咳、倦怠感)を緩和するために、ステロイドやオピオイドを投与することもあります。
・肝臓への転移による症状と治療
肝臓に転移しても最初は無症状です。病変部が大きくなると、胆汁排泄の障害から黄疸になったり肝不全を起こしたりします。このような場合、からだが黄色くなったり、だるくなったりします。黄疸の場合、ドレナージといって胆汁を体外に排出するための処置を行うこともあります。
末期になれば死に対する準備も必要ですが、どこで「治療を止める」と判断をするのも難しいことです。抗がん剤をしないのか続けるのか、などの判断はとても重要な要素です。