がん治療中に、「なんだか肌がカサカサする」「赤みが出やすい」「今まで使っていた化粧品が合わなくなった」と感じていませんか?
これは、肌の敏感化や乾燥といった、がん治療によく見られる副作用の一つです。
肌のトラブルは、身体的な不不快感だけでなく、外見の変化に繋がり、精神的な負担を増やすこともあります。しかし、適切なスキンケアやメイクの工夫をすることで、肌の症状を和らげ、自分らしく快適に過ごすことは可能です。
この記事では、がん治療中に肌が敏感になる理由から、それを守るための「スキンケアのヒント」や「メイクの工夫」について詳しくご紹介します。
なぜ肌が敏感になるの?がん治療による肌トラブルの理由
がん治療による肌の変化は、薬の作用や治療の種類によって起こります。その主な原因を知ることで、症状への理解を深め、適切な対処ができるようになります。
主な原因
- 抗がん剤の影響:
- 抗がん剤は、がん細胞だけでなく、皮膚の新陳代謝が活発な細胞(皮膚や粘膜の細胞)にもダメージを与えることがあります。これにより、皮膚のバリア機能が低下し、乾燥しやすくなったり、外部からの刺激に敏感になったりします。
- 皮膚が薄くなったり、赤みやかゆみが出やすくなったり、湿疹やニキビのような症状が現れることもあります。手足症候群のように、手足のひりつき、赤み、腫れ、皮膚が硬くなるなどの症状が出ることもあります。
- 放射線治療の影響:
- 放射線が照射された部位の皮膚は、炎症を起こし、赤み、色素沈着、乾燥、皮膚の剥がれなどの症状が現れることがあります。これは「放射線皮膚炎」と呼ばれ、照射後数週間から数ヶ月続くことがあります。
- 分子標的薬・免疫チェックポイント阻害剤の影響:
- これらの新しい治療薬も、皮膚に様々な副作用(発疹、乾燥、かゆみ、爪の異常など)を引き起こすことがあります。
- その他、肌トラブルに関連する要因:
- 免疫力の低下: 治療によって免疫力が低下すると、皮膚の感染症が起こりやすくなります。
- 栄養状態の変化: 食欲不振などによる栄養不足も、皮膚の健康に影響を与える可能性があります。
- ストレス: 治療への不安や、肌トラブルによる精神的なストレスも、肌の状態を悪化させる要因となることがあります。
肌の症状は、見た目だけでなく、かゆみや痛みといった不快感を伴うこともあります。どのような肌の症状が、いつ、どのくらい続くのかを医療者に具体的に伝えることが、適切なケアにつながります。
敏感になった肌を守る!「スキンケアのヒント」
がん治療中に敏感になった肌を守るためには、これまで使っていたスキンケア製品を見直し、肌に負担をかけない優しいケアを心がけることが非常に大切です。
1. 洗顔・入浴:優しさが最重要
- 低刺激性の製品を選ぶ: 洗顔料やボディソープは、無香料、無着色、アルコールフリー、弱酸性など、低刺激性のものを選びましょう。泡立ちが良く、肌に摩擦を与えにくいタイプがおすすめです。
- 優しく洗う:
- ぬるま湯を使用: 熱すぎるお湯は肌の油分を奪い、乾燥を悪化させます。人肌程度のぬるま湯で洗いましょう。
- 手で優しく: 洗顔ブラシや泡立てネットを使わず、手のひらでたっぷり泡立てて、肌をこすらず優しく洗いましょう。
- タオルで押さえる: 洗顔後や入浴後は、清潔な柔らかいタオルで、肌をこすらず優しく水分を押さえるように拭きましょう。
- 短時間の入浴: 長時間の入浴は肌の乾燥を招きます。湯船に浸かる時間は短めにし、シャワーで済ませるのも良いでしょう。
2. 保湿:乾燥対策の要
肌が敏感になっている時は、何よりも保湿が重要です。肌のバリア機能をサポートし、外部刺激から肌を守ります。
- たっぷりと、こまめに保湿する:
- 洗顔後、入浴後は、間髪入れずに化粧水や乳液、クリームなどでしっかり保湿しましょう。
- 特に乾燥が気になる部分は、重ね付けしたり、ワセリンなどの保護剤を活用したりしましょう。
- 1日に何回か、肌の乾燥を感じたらこまめに保湿剤を塗りましょう。
- 低刺激性の保湿剤を選ぶ:
- 無香料、無着色、アルコールフリー、パラベンフリー、アレルギーテスト済みなど、肌への刺激が少ない製品を選びましょう。
- ヒアルロン酸、セラミド、グリセリンなど、保湿成分が配合されたものがおすすめです。
- 全身の保湿を忘れずに: 顔だけでなく、腕、足、体全体もしっかり保湿しましょう。特に、放射線治療を受けている部位は念入りにケアが必要です。
3. 紫外線対策:デリケートな肌を守る
治療中の肌は、非常にデリケートで紫外線によるダメージを受けやすくなっています。
- 日焼け止めを塗る:
- 低刺激性で、SPF値が低すぎず高すぎないものを選びましょう。敏感肌用やノンケミカル処方のものがおすすめです。
- 毎日外出する際はもちろん、室内でも窓からの紫外線に注意し、塗る習慣をつけましょう。
- 物理的な遮光:
- 帽子、日傘、サングラス、UVカット効果のある衣類などを活用し、物理的に紫外線を避けましょう。
- 特に、治療を受けている部位は、できるだけ日光に当てないように注意してください。
敏感になった肌を活かす「メイクの工夫」
肌が敏感になっている時でも、メイクをすることで気分が明るくなったり、自信を持って過ごせたりすることがあります。肌に負担をかけないメイクの工夫を知り、自分らしさを表現しましょう。
1. ベースメイク:肌に優しく、負担をかけずに
肌への負担を最小限に抑えながら、肌の色ムラや赤みを自然にカバーしましょう。
- 化粧下地: 保湿効果が高く、UVカット効果もある低刺激性の化粧下地を選びましょう。肌の乾燥を防ぎ、ファンデーションの密着を高めます。
- ファンデーション:
- リキッドタイプやクリームタイプ: パウダータイプよりも、しっとりとしたつけ心地で乾燥しにくい傾向があります。
- 敏感肌用、ノンコメドジェニック: 肌への刺激が少ない処方で、毛穴を詰まらせにくいものを選びましょう。
- 厚塗りは避ける: 薄く均一に伸ばすことで、肌への負担を減らし、自然な仕上がりになります。指やスポンジで優しく広げましょう。
- コンシーラー: 部分的な赤みやシミ、ニキビ跡などをカバーしたい場合は、低刺激性のコンシーラーを少量使いましょう。
2. ポイントメイク:印象を明るく、目元・眉毛・唇を中心に
肌全体のトラブルが気になる場合でも、ポイントメイクで顔の印象を明るく見せることができます。
- 眉毛: 脱毛で眉毛が薄くなったり、なくなったりした場合は、アイブロウペンシルやパウダーで自然に描き足しましょう。眉毛のテンプレートを活用するのも良いでしょう。
- まつ毛: まつ毛が抜けた場合は、アイラインでまつ毛の生え際を埋めたり、つけまつ毛や医療用つけまつ毛を検討したりすることもできます。ただし、接着剤が肌に合わない場合もあるので、目立たない場所でパッチテストを行いましょう。
- アイシャドウ・アイライン: 目元は比較的刺激を受けにくいことが多いですが、ラメが粗いものや、刺激の強い成分が含まれていないものを選びましょう。
- 口紅・リップクリーム: 口唇が乾燥しやすいため、保湿成分が配合されたリップクリームでしっかり保湿しましょう。口紅は、無香料・無着色で、肌に優しい成分のものを選び、唇の荒れがひどい時は控えるのが賢明です。
3. メイク落とし:肌への優しさを最優先に
メイクを落とす際も、肌への負担を最小限に抑えることが重要です。
- 低刺激性のクレンジング: クリームタイプやミルクタイプなど、肌に摩擦を与えにくいクレンジング剤を選びましょう。
- 優しくなじませる: ゴシゴシこすらず、優しくメイクになじませ、ぬるま湯で丁寧に洗い流しましょう。
医療者への相談とその他ケアのヒント
肌トラブルは、身体的な不快感だけでなく、精神的な負担にもなります。適切な医療的サポートと、日々のセルフケアが重要です。
1. 医療者への相談の重要性
- 主治医・看護師への相談: 肌の症状(赤み、かゆみ、痛み、発疹など)が続く場合や悪化する場合は、我慢せずに必ず主治医や看護師に相談してください。症状を和らげる薬(軟膏など)が処方されることがあります。
- 皮膚科医への受診: 必要に応じて、皮膚科医の専門的な診察を受けることを検討しましょう。がん治療に詳しい皮膚科医がいる病院もあります。
- 薬剤師への相談: 新しく使うスキンケア製品やメイク用品について、使用中の治療薬との相互作用や、肌への影響について確認できます。
2. 日常生活の工夫
- 衣類と寝具: 肌に直接触れる衣類や寝具は、綿やシルクなど、肌触りが良く、刺激の少ない天然素材を選びましょう。柔軟剤の使用は控えめにし、洗剤も低刺激性のものを選ぶと良いでしょう。
- 室内の湿度管理: 空気が乾燥していると、肌も乾燥しやすくなります。加湿器を使用したり、濡れタオルを干したりして、室内の湿度を50~60%に保つようにしましょう。
- ストレス軽減: ストレスは肌の状態を悪化させる要因にもなります。リラックスする時間を作ったり、気分転換を図ったりして、心身のストレスを軽減しましょう。
3. 美容相談窓口の活用
- がん患者向け美容相談: 病院内や地域の「がん相談支援センター」で、美容に関する相談窓口を紹介してもらえることがあります。がん患者さんの肌の悩みに特化した美容師やエステティシャンが、個別の相談に応じてくれる場合もあります。
まとめ:
がん治療による肌の敏感化や乾燥は、多くの患者さんが経験するつらい副作用ですが、決して一人で抱え込む必要はありません。肌に優しいスキンケアを徹底し、メイクを上手に活用することで、症状を和らげ、自分らしい輝きを保つことができます。
「無理はしない」「できる範囲で楽しむ」という気持ちで、ご紹介したスキンケアのヒントやメイクの工夫を実践してみましょう。肌の変化を受け入れながら、自分を慈しむ時間を持つことは、心の安定にもつながります。
そして、肌のトラブルや不安なことがあれば、我慢せずに必ず医療者や専門家、周囲のサポートを積極的に利用しましょう。