【レジメン】
<AC療法>
DXR(ドセタキセル:タキソテール)=60mg/m2:点滴静注(15分)
CPA(シクロホスファミド:エンドキサン)=600mg/m2:点滴静注(30分)
<dose-dense AC療法>
DXR=60mg/m2:点滴静注(15分)
CPA=600mg/m2:点滴静注(30分)
【制吐対策】
①5-HT3受容体拮抗薬(Day1)
②アブレピタント125mg(Day1),80mg(Day2~3)
③デキサメタゾン9.9mgIV(Day1),8mgPO(Day2~4)
④オランザピン5mgPO(Day1~6)(糖尿病患者には禁忌)
【G-CSF予防投与】
dose-dense AC療法ではG-CSFの一次予防投与が推奨される。臨床試験ではDay3~10に合計7回G-CSFが投与されており、日常診療においてもこれに準じる。また、ペグフィルグラスチムをDay2以降に投与でも差し支えないと考えられる
<dose-dense PTX(dose-dense AC療法に続いて)>
PTX(パクリタキセル:タキソール)=175mg/m2:点滴静注(3時間)
【前投薬】
①デキサメタゾン9.9mgIV(次回以降減量可):PTX投与30分前
②ジフェンヒドラミン50mgPO:PTX投与30分前
③ファモチジン20mgIV:PTX投与30分前
【G-CSF予防投与】
臨床試験(CALGB9741試験)において、全例でG-CSFの一次予防的投与があり、ペグG-CSFの投与が推奨されている
基本事項
<AC療法>
【適応】
[術前・術後化学療法]
・StageI~Ⅲの症例に推奨される
・腋窩リンパ節転移陽性・陰性にかかわらず効果が期待できる
・必要に応じてAC後にタキサン(PTX、DTX)を投与する。AC followed byタキサンでは、再発のリスクの低減が期待できるが、リンパ節転移陰性患者に対して日常臨床で推奨する根拠はない
[転移・再発症例]
・StageIV、または再発症例に適応
・一次治療およびアントラサイクリン系薬剤未使用患者に対する二次化学療法として効果が期待できる
【奏効率】
[術後化学療法]
・3年間無病生存率
62%
[転移・再発症例]
・奏効率
54%
・生存期間(中央値)
20.5カ月
【副作用】
・白血球減少:Grade3=3.4%、Grade4=0.3%
・血小板減少:Grade3=0%、Grade4=0.1%
・悪心、嘔吐:悪心のみ=15.5%、嘔吐≦12時間=34.4%、嘔吐>12時間=36.8%、耐え難い嘔吐=4.7%
・脱毛:薄い(<50%)=3%、不完全(>50%)=19.9%、完全=69.5%
・発熱:38~40℃=5.1%。>40℃=0.4%
<dose-dense AC followed by PTX療法>
【適応】
[術前・術後化学療法]
・StageI~ⅢのTriple negative
・StageⅡA~ⅢのLuminal-B like(一部のLuminal-A like)
・NCCNのガイドラインではHER2陰性患者に対する術前・術後化学療法の第一選択レジメンの一部である
【奏効率】
・4年間無病生存率
82%
レジメンチェックポイント
①前投薬の確認:制吐薬
②投与量の確認
<DXR>
総投与量が500mg/m2を超えると心毒性のリスク増大のため、本治療以前の治療歴を含め、アントラサイクリン系薬剤の総投与量をチェックする
<アントラサイクリン系薬剤換算比>
・ドキソルビシン:限界投与量=500mg/m2、DXR換算比=1
・ダウノルビシン:限界投与量=25mg/kg、DXR換算比=3/4
・エピルビシン:限界投与量=900mg/m2、DXR換算比=1/2
・ピラルビシン:限界投与量=950mg/m2、DXR換算比=1/2
・ミトキサントロン:限界投与量=160mg/m2、DXR換算比=3
<DXR:肝機能低下症例に対する減量の目安>
・T-Bil 1.5~3.0mg/dL or AST 60~180:50%減量
・T-Bil 3.1~5.0mg/dL or AST >180:75%減量
・T-Bil >5.0mg/dL:中止
または
・T-Bil 1.2~3.0mg/dL:50%減量
・T-Bil 3.1~5.0mg/dL:75%減量
・T-Bil >5.0mg/dL:中止
<CPA:腎障害時の減量基準>
・GFR(mL/min)<10:25%減量
<CPA:肝障害時の減量基準>
・T-Bil 3.1~5.Omg/dL or AST >3×ULN:25%減量
・T-Bil >5.0mg/dL:中止
<PTX>
白血球数または好中球数が以下の基準にあてはまれば、回復するまで投与を延期。白血球数が1,000/mm3未満となった場合には、次回の投与量を減量すること
・白血球:4,000/mm3未満
・好中球:2,000/mm3未満
<PTX:減量の目安>
副作用の状況に応じて25%をめどに減量
<PTX:肝機能低下症例に対する減量の目安>
・AST/ALT 10×ULN未満かつT-Bil 1.26~2.0×ULN:25%減量
・AST/ALT 10×ULN未満かつT-Bil 2.01~5.0×ULN:50%減量
・AST/ALT 10×ULN以上またはT-Bil 5.0×ULNを超える:中止
③点滴速度の確認
・DXR:50mLの生理食塩液に溶解し、15分で点滴静注
・CPA:100mLの生理食塩液に溶解し、30分で点滴静注
・PTX:500mLの5%ブドウ糖液または生理食塩液に希釈し、3時間で点滴靜注
④併用薬の確認
・PTX
ジスルフィラム、シアナミド、プロカルバジンは併用禁忌(顔面潮紅、血圧低下、悪心、頻脈、めまい等のアルコール反応を起こすおそれがあるため)。ビタミンA、アゾール系抗真菌薬、マクロライド系抗菌薬、ニフェジピン、シクロスポリン、ベラパミル、ミダゾラムは併用注意(PTXの代謝酵素がCYP2C8、CYP3A4であるためPTXの血中濃度が上昇)
・CPA
ペントスタチンは併用禁忌(心毒性による死亡例が報告されているため)
副作用対策と服薬指導のポイント
①DXRの投与歴の確認
既往歴と現在までの抗がん剤治療について確認し、総投与量の確認を行う
②着色尿
DXRの投与により1~2日間、尿が赤色に着色する
③血管外漏出
DXRは起壊死性抗がん剤であるため、血管から薬液が漏れている場合はすぐに申し出ることを伝える。血管外漏出時は治療薬デクスラゾキサンの投与を検討する
④出血性膀胱炎
CPAでは予防として水分の摂取を心がける。血尿が出た場合には、すぐに申し出るように伝える
※DXRの投与により尿が赤色に着色するため、色調による判断は難しい。自覚症状(排尿困難、排尿時の灼熱感など)がある場合には血尿を疑い、申し出るように伝える
⑤アルコールに関する問診(アルコールに過敏な患者は慎重投与)
自動車の運転など、危険を伴う機械の操作に従事させないように注意すること。WeeklyのPTX投与では、ビール瓶中瓶1/2本程度のアルコールが含まれている
⑥アレルギー症状
皮膚の異常(蕁麻疹)、顔面潮紅、息苦しさ、動悸などが発現した場合は、すぐに申し出ることを伝える
※PTXと溶解補助剤のポリオキシエチレンヒマシ油による過敏症およびショック
⑦末梢神経障害
手足のしびれ、刺痛、焼けるような痛みが発現した場合は、すぐに申し出ることを伝える。PTXによる末梢神経障害は高頻度に起こり、適切に減量・休薬などを行う
⑧脱毛
高頻度で発現し、治療後1~3週間で抜け始め、全治療終了後は回復する
⑨筋肉痛・関節痛
PTX投与後、数日続くことがある。特にペグフィルグラスチムを使用する場合は疼痛が増悪することがあり、鎮痛薬(NSAIDs等)の処方を検討してもよい