がん闘病中の症状として「胸水(きょうすい)」が生じることがあります。文字通り胸部(胸膜腔)に水分が溜まる状態です。
この記事ではなぜ胸水が溜まるのか?原因の解説と対策として実施される医療行為(主に胸膜癒着術)について解説したいと思います。
※胸水とは?
胸水とは、壁側胸膜と臓側胸膜の間(いわゆる胸膜腔)に存在する液体の過剰な貯留のことを指します。
胸水の原因として考えられるもの
がん(腫瘍)によるもの
・がん性胸膜炎(がんの再発・進行の場合など)
・上大動脈症候群
・がんによる胸管の圧迫
・Meigs(メーグス)症候群(胸水・腹水を伴う卵巣の線維筋腫)
手術によるもの
・胸部の手術による胸管の損傷など
化学療法(抗がん剤などの投薬)によるもの
・うっ血性心不全
その他によるもの
・ネフローゼ症候群
・肝硬変
・肺炎随伴性胸水
・細菌性胸膜炎
どのようにして胸水が生じるのか
・胸水の過剰な貯留は、何らかの原因により、胸水の産生と吸収のバランスが崩れると生じることになります。
・胸水は、毛細血管透過性の亢進、静水圧の上昇、膠質浸透圧の低下によって生じます。
・胸水は正常でも少量(約1~20mL程度)存在します。呼吸運動による胸膜の摩擦を緩和する潤滑液の役割があるためです。主に壁側胸膜の毛細血管から間質液が滲み出すことで産生され、壁側胸膜のリンパ管に吸収されます。
・がん性胸膜炎では、がんの再発・進行により、がん細胞が胸腔に播種することで、胸膜の炎症が生じて胸水が発現します。
・がん性胸膜炎とは、胸膜に播種や転移をすることで生じる胸膜炎のことです。肺がん、乳がん、リンパ腫に多く発生します。胸水の細胞診では悪性細胞があり、リンパ球が多くなります。腫瘍マーカーの上昇(腺がんではCEA、胸膜中皮腫ではヒアルロン酸の上昇)もみられます。
主な胸水への対策と治療法
・胸水に対する治療は、原因疾患に応じた治療が必要となるので、確実な原因究
明が最も大切になります。がん患者さんで頻発するのががん性胸膜炎の進行や肺炎随伴性胸水です。
・がん性胸膜炎に対しては、化学療法などがんに対する治療、胸腔ドレナージ、胸膜癒着術などが行われます。
・乳び胸では、胸腔ドレナージや低脂肪食などの治療が行われますが無効例や長期化した場合には、胸膜癒着術や胸管結紮術も考慮されます。
・胸腔穿刺、胸腔ドレナージや、胸膜癒着術を実施する際は、合併症状が起きるリスクがあります。
※胸腔穿刺、胸腔ドレナージの場合:血圧低下、呼吸困難、意識レベル低下、咳嗽、強い胸痛、呼吸性移動・エアリークなどに注意。
※胸膜癒着術(薬剤注入直後)の場合:疼痛、気分不快などに注意。
胸膜癒着術とは?
胸膜癒着術とは、薬剤(抗がん剤)を注入して意図的に臓側・壁側の胸膜を癒着させる方法です。
1.ドレナージ
確実に胸水を抜いてから肺を再膨張させ臓側・壁側胸膜を癒着させます。
2.薬剤注入
局所麻酔のキシロカインに続き、ユニタルクなど癒着のための薬剤を注入ます。
3.クランプ
クランプ(ドレーンを鉗子で挟み、薬剤が出てこないようにする))を実施し、薬剤が
まんべんなくいきわたるよう、15分ごとに体位変換をします。薬剤注入後は炎症による発熱や疼痛の有無を観察します。
4.クランプ開放、吸引
2時間後にクランプを開放し薬剤の吸引を行います。