卵巣がんは、欧米では発生率も死亡率も高い病気として恐れられています。それに対して、日本は卵巣がんの発生率は低い国とみられていました。
しかし、女性の価値観やライフスタイルの変化につれて、最近は、欧米にせまる勢いで増えてきています。
卵巣がんの発生は、排卵と関連しています。卵巣から周期的に卵子が飛び出していく(排卵)たびに、卵巣が傷つけられ、そこが修復されます。
だいたい12~15歳から排卵を伴う月経が始まり、45~40歳までの間に400回くらい繰り返します。この損傷と修復を毎月繰り返していく過程で、卵巣表面(表層上皮)の細胞が異常に増殖していくのが、卵巣がんです。
つまり、継続する排卵が卵巣がんの危険因子になるのです。
出産回数が少ないほど卵巣がんのリスクは増える
1960年代ごろまでの日本女性は、今より若い年齢(20歳代前半)で出産し、しかも多産(5、6回以上もまれではなかった)でしたが、現代は初産の時期も遅く、出産回数も減少しています。
そのため、排卵の機会が多くなり、卵巣がんになる人が増えていると考えられています。殴米では、18歳前後からほとんどの女性が低用量ピル(無排卵状態を保つ薬)を服用していますが、このことが卵巣がんの減少に貢献しています。
出産回数が少なく、低用量ピルも使用していない日本女性は、卵巣がんのリスクが高く、今後ますます増えていくものと思われます。卵巣がんにかかる年代のピークは、50~60歳ですが、20~30歳代でもまれではありません。
卵巣がんのステージ別5年生存率
卵巣がんは、おなかの奥深いところにできるので、子宮頸がんのように外から組織をとるわけにいきません。
そのため、内診や画像診断(経膣超音波検査、MRI)、腫瘍マーカーなどの結果によって、良性か悪性かの判断をします。
進行期については、ある程度推測できても、子宮体がん(子宮内膜がん)と同様、手術をして摘出した腫瘍や臓器の病理検査を行わないと、正確な判断はできません。
外から組織を採取することのできない卵巣に関しては、0期というのは存在しません。
卵巣がんの進行期はⅠ期からⅣ期までの4段階に分類されます。Ⅳ期以外は、それぞれa、b、cの3段階に分かれています。
ステージⅠ期の5年生存率
がんが卵巣のみに存在している状態です。aはがんが卵巣の片側のみに、bは両側にあることを意味します。cは浸潤がみられたり、卵巣の皮膜が破れたりしている状態を指します。
5年生存率は、Ⅰa期95%以上、Ⅰb期60~80%、Ⅰc期60~80%です。ⅠaとⅠb、Ⅰcでは大きな違いがあります。
ステージⅡ期の5年生存率
がんが卵巣の周囲の子宮や卵管、そのほかの骨盤内の臓器に転移している状態です。5年生存率は50~75%程度です。
ステージⅢ期の5年生存率
がんが骨盤内からさらに広がり、上腹部の腹膜か、後腹膜リンパ節に転移している状態です。5年生存率は30~40%程度です。
ステージⅣ期の5年生存率
がんが肝臓や肺など、腹腔以外の臓器に転移した状態です。5年生存率は10~15%程度です。
卵巣がんのステージ診断は手術をして行う
進行期分類は重要で、正確な診断がなされなければなりません。
そのためには、診断する材料(臓器または組織)を採取する必要があります。
医師によっては、肉眼的にがんが卵巣にとどまっているという理由や、あるいは技術的な理由から、子宮と卵巣、卵管、大網の一部だけを摘出する手術を行うことがあります。
こうした方法は、かつては基本手術とされていましたが、これでは診断が甘くなる(Ⅲ期がⅠ期になるなど)といった問題があります。現在は正確な診断をするため、もっと広範囲の手術が推奨されています。
卵巣がんの生存率が低い理由
卵巣は、通常は親指の頭くらいの大きさで、子宮の左右に1個ずつついており、下腹部の奥深く、骨盤の内側に納まっており、通常は外から触れることはできません。
卵巣で発生したがん細胞が増殖すると、卵巣はふくらみ、場合によっては大人の頭ほどの大きさになることもあります。
また、腹水がたまっていることも多く、おなかだけがふくらんだ「カエル腹」状態になることがしばしばあります。
また、がん細胞がリンパ液の流れに乗ってリンパ節に転移し、さらに血流に乗り、肝臓や肺など、ほかの臓器に転移していく場合もあります。
しかし、卵巣は腹腔内にあるため、腫瘍が小さいうちは症状を自覚しにくく、また、手術前に細胞診や組織診を行うのが困難であり、適切な検診方法がないなどの理由で、卵巣がん患者さんの約半数は、3期、4期といった進行した状態で医療施設を訪れることが多く、発見が遅れてしまうのです。
それが、卵巣がんの平均的な5年生存率や10年生存率は低く、婦人科がんの中でも、最も予後が悪いとされてきた理由です。