腎臓のがんには、原細管から発生する胃細胞がんのほかに、尿をためる腎孟から発生する腎孟がん、腎臓から膀胱へ尿を運ぶ尿管に発生する尿管がんがあります。
腎孟がんは初期は症状がなく、かなり進行した段階で見つかるのが特徴です。
腎盂がん、尿管がんの原因は?
腎孟は、腎臓で尿をためる部分をいいます。尿路上皮と呼ばれる特別な細胞でおおわれており、そこから膀胱まで尿を運ぶ約20センチの尿管でつながっています。
尿管も尿路上皮でおおわれており、嬬動運動で尿を運びます。腎孟と尿管を合わせて上部尿路と呼びます。
がんは複数の遺伝子に異常が起きて発病すると考えられています。
腎孟がん、尿管がんは膀胱がんと同様、原因遺伝子の一つとして9番の染色体異常が知られています。
腎孟・尿管がんになりやすい要因としては、膀胱がんと同様に長期間の喫煙が一番に挙げられます。
そのほか染色工場などに勤めてナフチルアミン、ベンジン、アミノビフェニールなどの薬品を取り扱ったことなども、発病の要因として指摘されていますc
腎孟・尿管がんの自覚症状と検査方法、診断方法
膀胱がんになりやすい要因をもつ人、長い間夕パコを吸っている人、膀胱がんと診断され治療を受けている人は、腎孟・尿管がんにもなりやすいので十分に注意しましょう。
定期的に尿の検査、尿の細胞診検査などと同時に、上部尿路の検査をする必要があります。
痛みがなくても、目に見える血尿に気がついたら、まず膀胱がんの有無を検査し、そのあと必ず上部尿路の検査を受けましょう。
尿の細胞診検査と同時に、最近、尿中の腫瘍マーカーとしてNMP22検査が早い時期の診断に役立つとして使われてきています。
超音波検査、CT検査もよく行われるようになり、その結果、偶然に腎孟が広がっている水腎症から発見される場合もあります。
腎孟がんの特徴
腎孟がんは、腎孟の尿路上皮から発生するがんで、初期にはほとんど症状がありません。そのため、これまで腎孟がんの患者さんの多くが、がんがかなり進行した段階で見つかっています。
目で見える血尿が初期の症状と考えられますが、腎孟の尿路上皮は膀胱の壁と違って薄く、がんが早い時期に周囲に浸潤し、リンパ管を経由して周囲のリンパ節、さらにはほかの臓器に転移します。
尿管がんの特徴
尿管がんは、初期の症状は目に見える血尿と考えられますが、やがてがんが大きくなり、尿管がつまり、腎孟に尿がたまり(水腎症)、腎臓が腫れることから、腰痛などの症状があらわれてきます。
尿管がんが尿管の下の部分に生じると、がんが尿管の口から膀胱に顔を出し、膀胱がんと同じ症状があらわれてきます。
そして、さらに大きくなると膀胱を刺激して膀胱炎のような症状が出たり、血尿が肉眼で認められるようになります。
腎孟・尿管がんの治療方法の選択
腎孟がん、尿管がんの約半数が75歳以上の高齢者です。
ほかに心臓病や脳梗塞、脳血栓、糖尿病、高血圧、腎臓の病気があり、ほかのがん診断の治療がされている場合、その程度によって治療法が変わることがあります。
治療法は、尿管鏡の検査による生検や病理組織で得られたがんの悪性度、画像診断による進展度、さらには元のがんの大きさと数、上皮内がんの有無、転移病巣の有無で判断されます。
腎孟・尿管がんが限局がん(早期がん、表在性がん)の場合の治療法
筋肉内まで進んでいない表在性の腎孟・尿管がんの場合は、腎臓、尿管の全摘術を行います。
上皮内がんの場合はBCGの腎孟内注入療法を行います。
顔つきが極端に悪いがん(G3) でBCG注入療法で治療することが難しいと判断されたときには、局所浸潤がんと同じく集学的治療(抗がん剤や放射線を併用した手術)を行います。
局所浸潤(T2。がんが広がっていること)がみられる腎孟・尿管がんの治療方法の選択
局所浸潤性がん(T2) の場合は、手術の前かあとに抗がん剤を併用した集学的治療を行います。
腎臓、尿管の全摘術と転移しやすいリンパ節を摘出し、手術後の病理診断で抗がん剤の治療を検討します。
年齢や全身の状態から腎臓、尿管を温存するときは、抗がん剤治療をまず行います。
進行・転移した腎孟・尿管がんの治療方法の選択
元のがんが大きく、周りにまで進んでいるか(T31T4)、転移が認められる場合は抗がん剤を投与し、その効果が認められたあと、腎臓と尿管の全摘術を行うかどうかを判断します。
さらに元のがんに放射線の治療をするかどうかを検討します。
手術前の検査では、手術が安全に行えるように十分に注意が払われ、一般的な検査、感染症の有無、呼吸機能、腎臓機能の検査が行われます。
検査の結果をもとに、主治医から手術の目的と方法、手術中や手術後に予想される合併症、その後の経過の見通しが説明されます。
わからないことはよく聞いて確認しましょう。とくに手術のあとに残される腎臓の機能がどのくらいになりそうか、予想を聞いておきましょう。
腎孟・尿管がんの治療法「外科療法(手術)」とは?
手術前の検査で明らかな転移がなく、手術に耐えられると判断されれば、原則として手術が第一選択の標準的治療法です。
手術の欠点はどうしても体に負担がかかることです。
出血、感染症などの合併症がありますが、現在は手術の前に十分に検査を行い、安全に手術が行われています。
手術の方法は腹腔鏡手術と開腹手術に分けられます。
反対側の腎臓のはたらきに問題がない場合、尿管の部分切除手術は原則として行いません。腹腔鏡手術は、傷が小さく、出血量が少なく、手術のあと早い時期に退院できるという利点があります。
一方、手術時間が少し長くなること、技術の習得と維持に時間がかかること、癒着が強いリンパ節の切除が難しいなどの難点もありますが、腹腔鏡手術の技術は向上しています。
腎孟・尿管がんの手術後の注意点
手術後に腎臓のはたらきが低下し、尿酸の値が上昇することがあります。
食生活に注意して尿酸の値をコントロールしますが、必要により高尿酸血症の治療薬を服用します。糖尿病の患者はこれまで以上に血糖コントロールに注意しましょう。
手術前の腎臓機能を調べる検査で手術後の経過が予測でき、手術のあとで腎臓のはたらきを衰えさせない対策を考えますが、大部分の人は、残った片方の腎臓だけでも普通の生活は送れます。
腎孟・尿管がんの治療法「抗がん剤治療」
膀胱がんと同様、尿路上皮がんに抗がん剤治療はある程度有効です。
標準的治療法として、M-VAC療法(メソトレキセート、ビンプラスチン、アドリアマイシン、シスプラチン)が行われます。
またMEC療法(メソトレキセー卜、エトポサイド、シスプラチン)、GC療法(ジェムザール、シスプラチン)なども用いられます。
抗がん剤の欠点は副作用が避けられないことと、これだけで完全に治すことが難しいことです。とくに高齢者で重い心臓病や腎臓病、呼吸機能や脳の血管に障害がある場合には注意が必要です。
いずれにしても、手術の前に転移が診断されているとき、手術のあとに転移が発見されたときは、抗がん剤治療を行うのが一般的です。
腎孟・尿管がんの治療法「BCG注入療法」
腎孟・尿管がんで上皮内がんと診断されたとき、この療法が検討されます。
欠点は副作用が強いことです。発熱、血尿、肺炎、尿管の狭窄などが起こることがありますが、
治療がうまく進むと、腎臓、尿管の臓器を温存することが可能です。
腎孟・尿管がんの放射線治療
腎孟・尿管がんは、放射線治療だけで治療することは困難です。
副作用として腎臓の周りの臓器、とくに腸管に障害が生じる懸念があります。
そのため放射線治療は「進行がんや悪性度の高いがん」のときに手術療法や抗がん剤療法と併せて行われます。このように手術療法、抗がん剤治療、放射線治療を併せて行う治療を集学的治療法と呼びます。
腎孟・尿管がんの再発、転移の検査と発生した場合の治療法
取り出したがんの組織病理の診断で転移が認められたり、静脈浸潤など予後不良因子が認められたときは、全身の抗がん剤の追加治療が検討されます。
腎臓と尿管が全摘されたときは、残された腎臓の機能を検査し、生活上の留意点があるかどうか確認します。
腎孟、尿管がんの場合、反対側の腎孟、尿管への再発と同時に、同じ尿路上皮でおおわれている膀胱のなかの再発が問題となります。
再発しやすい因子として、大きながんであること、多発性であること、さらにその悪性度などがあげられます。
定期的に尿検査、尿細胞診検査、尿中の腫瘍マーカー、膀胱鏡の検査、肺と上腹部、下腹部の造影CT検査を行います。
再発は最初の2年以内が多く、その後は再発の可能性は減ってきますが、完全に消えたわけではなく、その可能性は一生残ります。
膀胱鏡検査で再発が認められたときは、膀胱がんと同様に内視鏡手術が行われ、がんの悪性度や進展度を確認します。悪性度や進展度がさらに高まったときは、膀胱全摘術を検討します。
膀胱にがんが再発すると、その後も勝腕内に再発の可能性が高まり、さらなる再発を予防する目的で抗がん剤の膀胱内注入治療を行う場合もあります。
尿細胞診検査でがんが見つかり、膀胱鏡検査でがんが認められないような場合、早い時期にがんが再発した場合は、膀胱の上皮肉がんか残った上部尿路のがんが疑われるので、膀胱の生検および上部尿路の検査を行います。
腎臓と尿管の全摘手術が行われたときは、定期的にCT検査と骨シンチ検査を行います。
リンパ節やほかの臓器に転移が見つかったときは抗がん剤を投与することになります。
いずれにしても、現在の医療水準では根治は難しいと考えられます。