
胃がん内視鏡治療(ESD)における病院選びの基本情報
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
胃がんの内視鏡治療、特にESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、早期胃がんに対する有効な治療法として広く普及しています。この記事では、2024年から2025年にかけての最新の治療実績データをもとに、各地域で実績のある病院と、患者さんが病院を選ぶ際に知っておくべき情報を整理していきます。
ESDとEMRの違いと治療の特徴
胃がんの内視鏡治療には、主に2つの方法があります。
EMR(内視鏡的粘膜切除術)は、内視鏡の先端から投げ輪状の電気メス(スネア)を出して、腫瘍を締め上げるように切除する方法です。比較的シンプルな手法ですが、大きな病変の場合は分割切除になることがあり、治療後の再発率が5~10%程度あることが知られています。
一方、ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)は、様々な形状の電気メスを使って病変の周囲を切開し、粘膜下層を剥離していくことで、大きな病変でも一括切除が可能になる治療法です。2006年4月から保険適用となり、現在では早期胃がんの内視鏡治療の第一選択として広く実施されています。
ESDの特徴は以下の通りです。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 治療時間 | 病変の大きさや位置により30分~2時間以上 |
| 入院期間 | 約8日程度(施設により異なる) |
| 切除可能サイズ | 2cmを超える大きな病変でも一括切除可能 |
| 再発率 | 一括切除により局所再発はほぼなし |
| 治癒切除率 | 約86%(がん研有明病院のデータ) |
| 主な偶発症 | 出血(約5%)、穿孔(約2~4%) |
ESDの適応基準
胃がん治療ガイドラインでは、ESDの適応基準が明確に定められています。基本的には、リンパ節転移の可能性がほとんどない早期胃がんが対象となります。
絶対適応病変(EMR・ESD適応)は以下の通りです。
| 分類 | 適応基準 |
|---|---|
| EMR適応 | 2cm以下、潰瘍なし、分化型、粘膜内がん |
| ESD適応 | 2cm以上、潰瘍なし、分化型、粘膜内がん |
| 3cm以下、潰瘍あり、分化型、粘膜内がん | |
| 2cm以下、潰瘍なし、未分化型、粘膜内がん |
適応拡大病変として、リンパ節転移の可能性が極めて低いと判断される場合には、上記の基準を超える病変でも内視鏡治療が選択されることがあります。ただし、最終的な適応判断は切除後の病理診断によって確定されるため、治療前に適応と判断されても、治療後に適応外と判明し、追加の外科手術が必要になるケースが約15%あります。
全国の主要病院における胃がんESD実績(2023-2024年)
東京都の実績豊富な病院
東京都には、胃がん内視鏡治療で高い実績を持つ病院が集中しています。
がん研有明病院(江東区)
がん研有明病院の消化器内科は、年間400~500件以上の胃がん・胃腺腫のESD・EMRを実施しています。直近の実績では、2020年460件、2021年417件、2022年536件、2023年403件と、コンスタントに高い治療件数を維持しています。
開院以来、約5,000例以上の早期胃がんに対するESDを実施してきた実績があり、スタッフの増員や内視鏡室・リカバリー室の増設により、初診から治療開始までの期間を2~4週間程度に短縮しています。
国立がん研究センター中央病院(中央区)
国内最高峰のがん専門医療機関として、豊富な症例数を誇ります。内視鏡科では、胃がんに対するESDの実績が蓄積されており、特に難易度の高い症例にも対応しています。
国立がん研究センター東病院(千葉県柏市)
2024年度は年間で約16,400件の内視鏡検査・治療を実施しており、国内最大規模の内視鏡センターを有しています。2017年5月に開設したNEXT棟の内視鏡センターでは、最新の設備を用いた低侵襲治療を提供しています。
虎の門病院(港区)
消化器内科(胃腸)では、年間約25,000件の内視鏡検査と600件以上のESDを実施しています。食道・胃・十二指腸・大腸すべての消化管がんに対するESDを行っており、豊富な経験を持つ医療チームが治療にあたっています。
その他の東京都の主要施設
| 病院名 | 所在地 | 特徴 |
|---|---|---|
| 昭和大学江東豊洲病院 | 江東区 | POEM、ARMSなど新たな術式の開発で評価 |
| NTT東日本関東病院 | 品川区 | 全臓器のESDに対応、年間900件超の実績 |
| 日本大学病院 | 千代田区 | 通算3,500件以上のESD実績 |
| 慶應義塾大学病院 | 新宿区 | ESD用デバイス開発の先駆的施設 |
関東地方(東京都以外)の主要病院
埼玉県立がんセンター(埼玉県伊奈町)
2023年4月に日本胃癌学会の認定施設Aに選出されました。この認定は、手術・抗がん剤・内視鏡の症例数、専門医の在籍数、学会活動や論文数など、厳しい審査を経て認定されるもので、2025年2月時点で全国142施設、埼玉県内では5施設のみが認定されています。
消化器内科と連携して胃カメラによるESDを実施しており、リンパ節転移の可能性が少ない早期胃癌に対して積極的に治療を行っています。
東北地方の主要病院
仙台厚生病院(宮城県仙台市)
消化器内科では、胃・食道などの内視鏡検査・治療に精通しており、東北でも有数の治療件数を誇ります。内視鏡治療の経験が豊富な医療チームが診療にあたっています。
中部地方の主要病院
県立静岡がんセンター(静岡県長泉町)
内視鏡科では、ITナイフの開発・臨床応用に携わってきたESDの先駆的施設として知られています。胃がんや食道がんへのESDで3,000件を超える実績があり、国内外へのESD普及に貢献してきました。
刈谷豊田総合病院(愛知県刈谷市)
2005年よりESDを導入し、2023年3月までに約1,400例のESDを実施しています。浸水下ESD(Underwater ESD)など、新しい治療技術の開発にも取り組んでいます。
近畿地方の主要病院
大阪国際がんセンター(大阪府大阪市)
消化管内科では、年間500件以上(うち胃がん300件以上)のESDを実施しており、国内屈指の実施件数を誇ります。画像強調観察法、拡大内視鏡など、診断法の開発にも積極的に携わっています。
神戸大学病院(兵庫県神戸市)
「食道がん内視鏡治療数(ESD, EMR)」で全国9位(兵庫県1位)、「胃がん内視鏡治療数(ESD)」で全国22位(兵庫県1位)として評価されています。
2001年という早い時期からESDを導入し、良好な治療成績を収めてきました。麻酔科の協力のもと、手術室で全身麻酔下にESDを行うことで、より安全で患者さんの苦痛が少ない治療環境を整えています。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
病院選びで考慮すべきポイント
年間症例数の重要性
胃がんのESDは高度な技術を要する治療です。年間の治療件数が多い施設では、医療チームの経験が豊富で、様々な症例に対応できる体制が整っていることが期待できます。
一般的に、年間100件以上のESDを実施している施設は、十分な経験を持つと考えられます。300件以上の施設は、特に豊富な実績を持つ専門施設といえるでしょう。
治療待機期間
評判の良い病院は患者さんが集まるため、治療開始までに時間がかかることがあります。一般的な内視鏡治療の待機期間は2~4週間程度ですが、施設によっては、あるいは検診シーズンなどには、さらに長くなる可能性があります。
早期胃がんの場合、数週間の待機期間で病状が悪化することは通常ありませんが、進行がんの疑いがある場合は、治療開始のタイミングも考慮に入れる必要があります。
全身麻酔か鎮静下か
多くの施設では、鎮痛剤と鎮静剤を使用した静脈麻酔下でESDを実施しています。一方、神戸大学病院のように、手術室で全身麻酔下に行う施設もあります。全身麻酔下での治療は、術中術後の管理がより安全に行え、患者さんの苦痛も少ないというメリットがあります。
診療体制と専門性
日本消化器内視鏡学会の専門医・指導医が在籍し、ESDの指導施設として認定されている病院は、教育体制も含めて高い水準の医療を提供していることが期待できます。
また、偶発症が発生した場合に、外科との連携体制が整っているかも重要なポイントです。
ESD治療の流れと治療後の経過
治療当日
ESDは通常、入院下で実施されます。鎮痛剤と鎮静剤を使用することで、患者さんは意識や痛みの感覚がない状態で処置を受けます。血圧、脈拍、呼吸状態、血中酸素濃度などを常にモニタリングしながら、安全に配慮して治療が進められます。
処置中は、まず病変の範囲を確認し、インジゴカルミンや酢酸の散布、NBI(狭帯域光観察)などを用いた拡大内視鏡で詳細に観察します。その後、病変の周囲にマーキングを行い、粘膜下層に局注液を注入して病変部を持ち上げます。専用の電気メスで粘膜を全周切開し、粘膜下層を剥離していきます。
治療後の入院期間
ESDで切除した部分は人工的な潰瘍(創)になるため、翌日いっぱいまで食事を止め、点滴を行います。胃潰瘍の薬をしっかり内服しながら安静に過ごし、通常は翌々日から粥食が開始されます。
入院期間は約8日程度が標準的ですが、施設や患者さんの状態によって異なります。
治療後の経過観察
内視鏡治療によって胃がんが完全に取り除かれても、残った胃の粘膜で新たな胃がんが発見されることがあります。毎年約1~3%の割合で新しい胃がんが見つかる可能性があるため、年に1回は内視鏡検査を受けることが推奨されています。
ESDの治療成績と偶発症
治癒切除率
がん研有明病院のデータでは、ESDによる治癒切除率は86.0%でした。約15%の症例では治癒切除にはならず、追加の外科手術が必要となる場合があります。
これは、内視鏡治療前の評価では粘膜内に留まると判断された病変が、ESD後の病理診断で、がん細胞が予想以上に深く粘膜下層に浸潤していることが判明したためです。
偶発症の頻度
ESDの主な偶発症は出血と穿孔です。多くの施設からの報告では、出血が約5%、穿孔が約2~4%の頻度で発生しています。
これらの偶発症のほとんどは、内視鏡的な止血や縫縮によって回復できますが、まれに外科手術が必要になることもあります。東京逓信病院の報告では、約200例のESDのうち、手術を要したのは穿孔1例のみでした。
最新の技術動向
新しい治療デバイスの開発
ESDの技術は日々進化しています。様々な形状のナイフ(ITナイフ、フレックスナイフ、デュアルナイフなど)が開発され、より安全で確実な治療が可能になってきました。
また、トラクション法(牽引法)を用いたESD、浸水下ESD(Underwater ESD)など、新しい手技も開発されています。
適応拡大の研究
未分化型早期胃癌に対するESDの有効性と安全性について、多施設共同研究が行われています。従来は外科切除が標準治療とされていた未分化型胃癌についても、一定の条件下ではESDが選択肢となる可能性が検討されています。
胃がんの早期発見に向けて
ESDで根治を目指すためには、早期発見が最も重要です。胃がんは初期には症状がほとんどないため、定期的な検診を受けることが大切です。
特に、ピロリ菌感染がある、または過去にあった方は、胃がんのリスクが高いとされています。ピロリ菌の検査と除菌療法を受けることで、胃がんのリスクを下げることができます。
また、過剰な塩分摂取や喫煙を控えることも、胃がんの予防につながります。
病院選択における最終的な考え方
胃がんのESD治療を受ける病院を選ぶ際は、以下のポイントを総合的に考慮することをお勧めします。
年間症例数が豊富であること。少なくとも年間100件以上、できれば300件以上のESD実績がある施設が望ましいでしょう。
日本消化器内視鏡学会の指導施設であること。専門医・指導医が複数在籍していることが、高度な技術と教育体制の目安になります。
偶発症への対応体制が整っていること。外科との連携がスムーズで、万が一の事態にも迅速に対応できる体制があることが重要です。
通院の利便性と治療待機期間のバランス。遠方の有名病院を選ぶのか、地域の実績ある病院を選ぶのかは、患者さんの状況によって判断が分かれます。
最終的には、主治医とよく相談し、ご自身の病状や生活状況に合った施設を選択することが大切です。セカンドオピニオンを活用することも、納得のいく治療選択につながります。
参考文献・出典情報
がん研有明病院「胃がんの内視鏡治療と成績」
国立がん研究センター東病院「実績について」
徳島大学病院「進化する胃がんの内視鏡治療~ESDの登場で大きく変化」
刈谷豊田総合病院「ESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)」
東京逓信病院「早期胃がんに対する新しい内視鏡治療」
東京女子医科大学消化器内視鏡科「胃がんの内視鏡治療の適応」
神戸大学病院国際がん医療・研究センター消化器内科
埼玉県立がんセンター「胃がん」
虎の門病院消化器内科(胃腸)
友仁山崎病院「内視鏡を使った早期がんの治療法(ESD)」