抗がん剤治療の副作用として「脱毛する」ことがよく知られています。抗がん剤治療を受けるとなぜ脱毛するのでしょうか?
これは、毛髪の成長のメカニズムと関係があります。
毛根にある毛母細胞(もうぼさいぼう。毛を作るもとになる細胞)が細胞分裂することによって、毛が成長(伸びる)します。
毛髪は「成長期」「退行期」「休止期」のサイクルを繰り返しています。
毛母細胞は、全身の細胞の中でも分裂が速い細胞です。そのため、同じく分裂の速いがん細胞を標的とする化学療法(抗がん剤治療)は、毛母細胞にもダメージを与え、脱毛が起こりやすくなります。
抗がん剤治療による副作用により、頭髪だけでなく、まゆ毛やまつ毛、陰毛など、全身のあらゆる部位の毛が抜けます。
脱毛は、抗がん剤治療の開始後、2、3週間もすると始まります。ただし、脱毛のタイミングには個人差があります。
回復は?抗がん剤治療の終了後、2~3か月で生え始める
抗がん剤は、毛母細胞の中にある毛乳頭と呼ばれる、発毛の際の司令塔となる部分にまでは直接影響を及ぼしません。したがって、抗がん剤治療が終了すれば、2~3か月目ごろから毛髪が再び生え始めます。
発毛の時期にも個人差がありますが半年1年ほどすれば、もとの状態に戻ります。
ただし抗がん剤治療後に生えてきた産毛や髪の毛が、以前の毛質と違うことがあります。細くなっていたり、色が薄くなったり、くせ毛になることもあります。
これは、毛母細胞がまだ十分に回復していないためで、半年から1年かけてもとに戻ります。ただし、閉経後の女性や高齢の人は前髪や頭のてっぺんの毛が生えにくくなります。
脱毛対策は抗がん剤治療の開始前から
残念ながら、現時点で脱毛そのものを防ぐ方法はありません。
髪が抜けると、頭皮が露出してしまいます。帽子やバンダナは、頭部をおしゃれにカバーするというだけでなく、頭を保護するための大切なアイテムでもあります。治療前に用意しておくとよいでしょう。
なお帽子やバンダナの素材は、頭皮にやさしいものを選びましょう。室内用、外出用など、シーンに合わせて用意しておくと便利です。
たとえば風の強い日でもあおられないよう目深にかぶれる帽子だと安心です。また、襟足まで覆ってくれる帽子なら、脱毛が目立たなくなります。
帽子につけ毛を組み合わせるとより自然に見えます。
また、脱毛が始まり、長い髪がごっそり抜けるのを目のあたりにするとショックを受けてしまうことがありますので、前もって髪を短く切っておくほうがよいかもしれません。抜けた毛の処理も楽になります。
爪を短く清潔に
頭皮を傷つけないよう、爪を短く整え、清潔にしておきましょう。とくに入浴時は、敏感になっている頭皮は丁寧に扱いましょう。
ウィッグ(かつら)を選ぶ
今は、がん患者さんそれぞれのニーズに合わせた商品があります。
【自分に合ったウィッグの選び方】
ウィッグには、製造方法や毛質によってさまざまな種類があります。価格は数万円と手ごろなものから、医療用オーダーメイドになると数十万円と、幅があります。
自分の好みや予算に合わせて、ウィッグを選びましょう。2、3点購入して、その日の気分でかえてみる人も増えています。
医療用ウィッグ
医療用ウィッグは、抗がん剤治療を受けている患者さんが着用するものです。2015年に経済産業省が医療用ウィッグについて性能、品質、安全性の基準を示したJIS規格を定めました。
安心できる製品を望む患者さんにとって、選択の目安になります。オーダーメイドもあれば、既製品から選ぶこともできます。
オーダー品
患者さんに合ったものを作る完全オーダー品は、注文からできあがるまでに、約1か月かかります。治療開始、脱毛が始まるタイミングを確認して準備しましょう。価格は30万~80万円程度になります。
基本となる形がいくつかあり、その中から選ぶセミオーダー品もあります。価格はオーダー品よりも安くなります。
既製品
既製品のメリットは、手ごろな値段ですぐに購入できることです。サイズ調整はできないため、よく試着して決めることが大切です。
まゆ毛、まつ毛が抜けたときの対策
まゆ毛やまつ毛が抜けると、美容面だけでなく、目に汗やゴミが入りやすくなります。対策としてはメガネ(伊達メガネ)が有効です。目を保護すると同時に、脱毛を目立たなくします。アイブロウなどのメイクでカバーしてもよいでしょう。
脱毛が起こりやすいおもな抗がん剤
・ドキソルビシン
・エピルビシン
・パクリタキセル
・ナブパクリタキセル
・ドセタキセル
・エリブリン