腫瘍マーカーはがんによって作られる(生み出されやすい)物質です。がん細胞が体内に存在するときに、多量に産生されて血液内に存在する可能性があります。
「マーカー」とはマーク(目印)となるものという意味です。
がんがあるとマーカーの値は高くなることが多い、ということになるので、これを測定することによって、がん細胞の存在を診断したり、治療経過・再発(転移)の観察の判定に応用されます。
腫瘍マーカーの値の上昇は、どこかにがんの再発や転移、進行が起こっている可能性を示しますが、腫瘍マーカーだけで「これはがんだ」と確定診断ができる物質はまだ存在しません。
マーカーが上昇しても「どこに再発があるか」「どのくらいの腫瘍があるか」までは分からないので、画像検査など別の検査をする必要があります。
また、がん以外の要因でもマーカーが上昇することがあるため、マーカーが基準値を超えた=がんの再発や転移がある、とは必ずしもいえません。
腫瘍マーカーの種類と計測の目的
一般的に腫瘍マーカーには2つの種類があります。
・がん全般の腫瘍マーカー
CEA、NCC-ST-439など。乳がんだけでなく他のがんや炎症でも陽性となる。
・乳がんに特異的な腫瘍マーカー
CA15-3、BCA225など。
腫瘍マーカーを測る目的については以下のことを理解しておくことが重要です。
1.乳がん早期発見には適さない
乳がんは前立腺がんや精巣腫場のように早期から腫瘍マーカーが上昇しないため、相当進行するか遠隔転移が起こるまで、ほとんどの場合は陰性です。そのため乳がん早期発見のための価値はありません。
2.遠隔転移の確認にも使われる
レントゲンや骨シンチグラフィーで遠隔転移が疑われでも腫蕩マーカーが陰性ならばその可能性は低くなるため、遠隔転移の検査を省略するために術後にマーカーの検査が行われることもあります。
3.治療効果の判定材料としても使われる
投薬に対する治療効果を判定するために用いられることもあります。
原則的には腫瘍の量を反映しますが、わずかな数値の増減を気にするのではなく「上昇傾向にあるかどうか」「下降傾向にあるのかどうか」を重視します。あくまで補助的なものであり、基本的には画像検査を優先します。
乳がんで使われる腫瘍マーカーと基準値
腫瘍マーカーには先述のとおり2種類あり、1つは「汎腫瘍抗原」といって幾種類ものがんで高くなるものと、あるがんだけの専門別の(そのがんに特異的という)マーカーとに分けられます。
乳がんで用いられるマーカーのうちCEAとNSS-STは汎腫瘍抗原に属し、CA15-3とBCA225は乳がんに特異的なマーカーに属します。
腫瘍マーカーの大部分は再発や、進行した状態で異常値になりますが、早期がんではあまり異常は示しません。
ただ腫瘍マーカーによって、その症例に鋭敏なことと、そうでないこともあるので、組み合わせテストといっていくつかを組み合わせる方法が用いられ、CEAとCA15-3の組み合わせがもっとも一般的です。
測定値の判断については、その値が「O」が正常ということではなくて、ある値の幅があってこれを正常範囲と考えます。
それぞれの基準値は次のとおりです。
- CEA:2.5以下
- CA15-3:27以下
- BCA225:160以下
- NCC-ST-439:7以下
ではこれを少しでも超えるとすべて異常かというと、偽陽性というのがあって、本来のがんの再発以外でも少し値が上昇することもあります。ただ1回ではなく間をおいて何回か測定してみる、あるいは次第に上昇する形をとっているかどうかを確認することなどが大切です。
また1種類のマーカーだけでなく、2つとも上がるかどうか、あるいはもう1つの他のものを追加して、それが上がるのかどうか、などの確認もあります。
腫瘍マーカーの応用は、以上のような再発の早期発見のほかにもう1つの役目があってそれは再発がマーカーでも部位別検査でも確認されてその治療が始まったあと、その治療が確かに効いているかどうかの判断にも役立ちます。
この場合、部位別検査で再発部が縮小するという変化よりも早めにマーカーの値が下がることも多いので、その治療法の有効性の確認に有益です。
乳がんの腫瘍マーカーをみるうえでの留意点
腫瘍マーカーは乳がんが体内にあれば、必ず異常値を示すというものではありません。
腫瘍マーカーが異常値を示さないタイプの乳がんが、全体の30~40%ほどあります。
また、CEAは喫煙や糖尿病などでも、異常値を示すことがあります。
したがって、腫瘍マーカーを調べていれば、再発や転移が必ずチェックできるというものではありません。腫瘍マーカーの値はあくまで参考値であるととらえましょう。