
咽頭がんの転移と再発の基本
こんにちは。がん治療専門アドバイザー、本村ユウジです。
咽頭がんは、発見時にはすでにリンパ節への転移を伴っていることが多く、転移や再発への理解が治療方針を考える上で重要になります。
咽頭は上咽頭、中咽頭、下咽頭の3つの部位に分かれており、それぞれで転移のしやすさや治療への反応が異なります。
喫煙や飲酒といった危険因子を持つ患者さんでは、食道がんや口腔がんなどの重複がんが同時に発生することも少なくありません。このため、咽頭がんの診断時には他の部位のがんの有無も慎重に確認する必要があります。
咽頭がんが転移しやすい場所
咽頭がんは、たとえ原発巣が小さい段階であっても、頸部リンパ節に転移しやすいという特徴があります。咽頭の周囲には多数のリンパ節が存在しており、がん細胞がリンパ管を通じて容易に広がることができるためです。
頸部リンパ節転移
咽頭がんで最も多く見られる転移先は、首の周囲に存在する頸部リンパ節です。リンパ節転移は、がんの進行度を判定する重要な要素であり、治療方針や予後に大きく影響します。
頸部リンパ節は以下のように分類されています。
| リンパ節の位置 | 転移しやすい咽頭がんの部位 | 特徴 |
|---|---|---|
| レベルⅠ(顎下部) | 口腔、中咽頭 | あごの下に位置するリンパ節 |
| レベルⅡ(上内頸静脈) | 上咽頭、中咽頭、下咽頭 | 最も転移が多く見られる部位 |
| レベルⅢ(中内頸静脈) | 中咽頭、下咽頭、喉頭 | 首の中央部分のリンパ節 |
| レベルⅣ(下内頸静脈) | 下咽頭、喉頭、甲状腺 | 鎖骨に近い部分のリンパ節 |
| レベルⅤ(後頸部) | 上咽頭 | 首の後ろ側のリンパ節 |
遠隔転移しやすい臓器
咽頭がんが進行すると、血液の流れに乗ってがん細胞が遠くの臓器に運ばれ、遠隔転移を起こすことがあります。特に上咽頭がんは遠隔転移を起こしやすい傾向があります。
遠隔転移が起こりやすい主な臓器は以下の通りです。
| 転移臓器 | 頻度 | 症状の特徴 |
|---|---|---|
| 肺 | 最も多い | 咳、息切れ、血痰など |
| 骨 | 比較的多い | 痛み、骨折のリスク |
| 肝臓 | やや多い | 初期は無症状のことが多い |
| 脳 | 少ない | 頭痛、神経症状 |
部位別の転移の特徴
上咽頭がんの転移
上咽頭がんは、咽頭がんの中でも特に遠隔転移を起こしやすい特徴があります。診断時に約10〜20%の患者さんに遠隔転移が認められます。
上咽頭がんでは、滲出性中耳炎を合併することがあり、耳の詰まり感や難聴が初発症状となることもあります。これは、上咽頭と耳をつなぐ耳管が腫瘍によって圧迫されるために起こります。
リンパ節転移については、両側の頸部リンパ節に転移することが多く、後頸部(首の後ろ側)のリンパ節にも転移しやすい特徴があります。
中咽頭がんの転移
中咽頭がんは、扁桃を含む部位に発生することが多く、早期からリンパ節転移を起こす傾向があります。特に扁桃がんでは、小さな原発巣でもリンパ節転移が見られることがあります。
近年、ヒトパピローマウイルス(HPV)関連の中咽頭がんが増加しており、これらは従来の喫煙・飲酒関連のがんとは異なる特徴を示します。HPV関連の中咽頭がんは、リンパ節転移があっても予後が比較的良好とされています。
下咽頭がんの転移
下咽頭がんは、発見時にすでに進行している症例が多く、約60〜70%の患者さんで頸部リンパ節転移が認められます。下咽頭がんの特徴として、食道がんとの重複が多いことが知られています。
下咽頭がんでは、両側のリンパ節に転移することも少なくなく、これが治療を困難にする要因の一つとなっています。
転移の有無を調べる検査
咽頭がんの転移を調べるために、様々な画像検査と病理検査が行われます。転移の有無とその範囲を正確に把握することは、適切な治療方針を決定する上で不可欠です。
画像検査
CT検査(コンピュータ断層撮影)は、頸部リンパ節転移の評価に最もよく用いられる検査です。造影剤を使用することで、リンパ節の大きさや内部構造、周囲組織への浸潤の程度を詳しく調べることができます。
MRI検査(磁気共鳴画像)は、CTよりも軟部組織のコントラストが優れており、原発巣の範囲や神経への浸潤を評価するのに適しています。特に上咽頭がんの診断では重要な検査となります。
PET-CT検査(陽電子放出断層撮影とCTの組み合わせ)は、がん細胞の代謝活性を利用して全身のがんの広がりを一度に調べることができます。遠隔転移の検索や治療効果の判定に有用です。
超音波検査は、頸部リンパ節の評価に用いられることがあります。検査が簡便で繰り返し実施できる利点があり、細い針を刺して細胞を採取する穿刺吸引細胞診と組み合わせることもあります。
内視鏡検査
咽頭の内部を直接観察するために、ファイバースコープを使った内視鏡検査が行われます。病変の位置、大きさ、広がりを確認し、生検(組織を一部採取すること)を行って病理診断を確定させます。
下咽頭がんの患者さんでは、食道への転移や重複がんの有無を調べるため、上部消化管内視鏡検査も同時に実施されることが一般的です。
病理検査
生検で採取した組織や、リンパ節を穿刺して得られた細胞を顕微鏡で観察し、がん細胞の有無や種類を調べます。咽頭がんの大部分は扁平上皮がんですが、まれに腺がんやその他のタイプが見られることもあります。
咽頭がんの治療法
放射線療法
咽頭がんの治療において、放射線療法は中心的な役割を果たします。特に上咽頭がんは放射線に対する感受性が高く、進行した症例でも放射線療法で治癒が期待できることがあります。
放射線療法は、原発巣だけでなく頸部リンパ節に対しても同時に照射を行います。これにより、目に見えるリンパ節転移だけでなく、画像では確認できない微小な転移(潜在的転移)にも治療効果を発揮します。
最近では、強度変調放射線治療(IMRT)という技術が普及しています。これは、がんのある部分に高い線量を集中させながら、周囲の正常組織への照射を最小限に抑える方法で、副作用の軽減が期待できます。
化学療法(抗がん剤治療)
咽頭がんの治療では、放射線療法と化学療法を組み合わせる化学放射線療法が標準的な治療法となっています。
よく用いられる抗がん剤としては、シスプラチン、フルオロウラシル(5-FU)、ドセタキセルなどがあります。これらの薬剤を放射線療法と併用することで、治療効果の向上が期待できます。
| 抗がん剤 | 主な作用 | 併用のタイミング |
|---|---|---|
| シスプラチン | DNA合成阻害 | 放射線療法と同時併用 |
| フルオロウラシル(5-FU) | DNA・RNA合成阻害 | 放射線療法と同時併用または術前投与 |
| ドセタキセル | 微小管機能阻害 | 導入化学療法として |
| セツキシマブ | 分子標的薬(EGFR阻害) | 放射線療法と同時併用 |
再発・転移がんに対しては、免疫チェックポイント阻害薬であるニボルマブやペムブロリズマブが使用されることもあります。これらは、患者さん自身の免疫システムを活性化してがんと闘う新しいタイプの治療薬です。
外科手術
上咽頭がんの場合、近くに重要な神経や血管が多数存在するため、基本的に手術は行われません。ただし、放射線療法や化学療法で効果が不十分な場合、頸部リンパ節転移に対して手術が検討されることがあります。
中咽頭がんでは、早期の小さな病変に対してレーザー療法や経口的切除術が行われることがあります。これらの低侵襲治療は、嚥下や発声機能への影響を最小限に抑えることができます。進行がんで他の治療が効かない場合は、扁桃、舌の一部、口蓋、下顎骨などを切除する手術が必要になることもあります。
下咽頭がんは、発見時にすでに進行している症例が多いため、手術が必要となる機会が多くなります。可能な場合は喉頭を温存する術式が選択されますが、広範囲の切除が必要な場合は、下咽頭、喉頭、食道の一部を摘出することになります。
切除した部分には、患者さん自身の組織(遊離空腸、前腕皮弁、大胸筋皮弁など)を移植する再建術が同時に行われ、できる限り嚥下や発声などの機能を維持することが目指されます。
咽頭がんの再発
咽頭がんの治療後、一定期間が経過してから再びがんが現れることがあります。これを再発と呼びます。再発は、初回治療時に完全に取り除けなかったわずかながん細胞が、時間をかけて増殖することで起こります。
再発のパターン
咽頭がんの再発は、発生する場所によって以下のように分類されます。
局所再発は、もともとがんがあった場所の周辺に再び腫瘍が現れることを指します。放射線療法を受けた後の局所再発では、救済手術が検討されることがあります。
領域再発は、頸部リンパ節に再発が見られる場合です。初回治療で頸部リンパ節への照射や手術が行われていても、別のリンパ節に再発することがあります。
遠隔再発は、肺、肝臓、骨などの離れた臓器に転移が出現することです。遠隔再発が起こった場合、根治を目指すことは困難になりますが、化学療法や免疫療法によって症状の緩和や生存期間の延長を図ることができます。
再発のリスク因子
咽頭がんの再発リスクを高める要因として、以下のものが知られています。
頸部リンパ節転移が多数ある場合は、再発の確率が高くなります。特に転移リンパ節が大きい場合や、リンパ節の被膜を破って周囲に浸潤している場合は、再発リスクが上昇します。
治療後も喫煙や飲酒を続けると、治療した部位とは別の場所に新たながん(二次がん)が発生しやすくなります。禁煙と節酒は、再発予防において非常に重要です。
進行度が高い症例、特にステージⅣの咽頭がんでは、初回治療で完全寛解が得られても再発の可能性が高くなります。
再発の早期発見
治療後の定期的なフォローアップが、再発の早期発見につながります。一般的には、治療終了後2年間は1〜3か月ごと、その後3〜5年目は3〜6か月ごと、5年以降は年1〜2回程度の受診が推奨されます。
受診時には、医師による視診・触診、内視鏡検査、必要に応じてCTやMRIなどの画像検査が行われます。患者さん自身も、首にしこりができていないか、嚥下時の違和感がないか、声の変化がないかなど、日常的にセルフチェックを行うことが大切です。
予後と生存率
咽頭がんの予後は、がんの部位、進行度、治療への反応によって大きく異なります。
上咽頭がんは放射線療法がよく効くため、早期であれば5年生存率は80〜90%程度と比較的良好です。ただし、遠隔転移がある場合の5年生存率は30%程度に低下します。
中咽頭がんの5年生存率は、ステージⅠ・Ⅱの早期がんで70〜80%程度、ステージⅢ・Ⅳの進行がんで40〜60%程度とされています。HPV関連の中咽頭がんは、HPV陰性のがんよりも予後が良好です。
下咽頭がんは、発見時に進行している症例が多いため、全体の5年生存率は30〜40%程度とやや厳しい数値となっています。頸部リンパ節への転移がない場合は70%以上の完治が期待できますが、ステージⅣの下咽頭がんでは約30%程度となります。
手術後のケアと生活の質
永久気管孔の管理
咽頭がんや喉頭がんで喉頭を摘出した場合、呼吸のために頸部に穴を開けて「永久気管孔」が造設されます。
永久気管孔からは、通常の鼻呼吸のように加湿や除塵が行われない空気が直接気管に入るため、せきやたんが出やすくなります。日常的に加湿器を使用したり、永久気管孔にガーゼを当てるなどして、気管内の乾燥を防ぐ必要があります。
また、永久気管孔を清潔に保つことも重要です。分泌物が固まって孔が狭くなったり、感染を起こしたりしないよう、定期的なケアが必要となります。
入浴時には、永久気管孔から水が入らないよう注意が必要です。専用のカバーを使用したり、シャワーの向きに気をつけたりして、水の侵入を防ぎます。
嚥下機能のリハビリテーション
咽頭の手術や放射線治療の後は、食道が狭くなったり、飲み込む機能が低下したりすることがあります。言語聴覚士の指導のもと、嚥下訓練を行うことで、徐々に機能の回復を図ることができます。
食事の形態を工夫することも大切です。最初はとろみをつけた流動食から始め、徐々に軟らかい食事、普通食へと段階を踏んで進めていきます。
発声機能の維持
喉頭を摘出した場合、声帯を失うため、通常の発声ができなくなります。しかし、食道発声、電気式人工喉頭、シャント発声などの代替発声法を習得することで、コミュニケーションを取ることが可能です。
嗅覚や味覚に変化が生じて食事の好みが変わったり、食欲が低下したりすることもありますが、時間をかけて慣れていくことで、徐々に生活の質を取り戻すことができます。
参考文献・出典情報
1. 国立がん研究センター がん情報サービス「咽頭がん」
https://ganjoho.jp/public/cancer/pharynx/index.html
2. 日本頭頸部癌学会「頭頸部癌診療ガイドライン」
https://www.jhncs.org/
3. 日本癌治療学会「がん診療ガイドライン」
https://www.jsco-cpg.jp/
4. 日本臨床腫瘍学会「頭頸部がん薬物療法ガイドライン」
https://www.jsmo.or.jp/
5. 国立がん研究センター東病院「頭頸部内科」
https://www.ncc.go.jp/jp/ncce/clinic/head_neck_medical_oncology/index.html
6. がん研究会有明病院「頭頸科」
https://www.jfcr.or.jp/hospital/cancer/type/head.html
7. 日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会「頭頸部がん」
http://www.jibika.or.jp/
8. 日本放射線腫瘍学会「放射線治療計画ガイドライン」
https://www.jastro.or.jp/
9. 厚生労働省「がん対策情報」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/index.html
10. American Cancer Society "Throat Cancer"
https://www.cancer.org/cancer/laryngeal-and-hypopharyngeal-cancer.html

