放射線治療は一般にがんを切らずに治療する方法だと考えられています。手術のように臓器や器官の一部を切り取ることなくがんを消滅させられるなら、明らかに手術よりも身体的な負担がない方法だといえます。
しかし、副作用や後遺症がまったくないわけではありません。
放射線はがん細胞に向けて照射するわけですが、近くにある正常な組織・細胞に放射線が当たると「強い放射線に被曝した」状態になります。当然、正常な機能が阻害され、副作用や後遺症の原因となります。
ですので、がんを攻撃できるメリットと「正常細胞を攻撃してしまい、問題が起きるデメリット」を比較したうえで、攻撃するメリットのほうがあると考えられた場合のみ放射線治療は対象になるということです。
なお、放射線治療の主な目的は、がんの局所制御です。局所制御をどの程度に行うかによって、(1)根治的治療と、(2)緩和的治療に分けられることになります。
根治的治療は、放射線照射によって完全にがん細胞を死滅させることを目的としています。根治目的となるがん腫瘤の特徴としては、「腫瘍の体積が小さい」「周囲組織へのがん浸潤が少ない」「周囲組織の放射線耐容性が高い」「遠隔転移がない」などです。つまり基本的には比較的早期のがんが対象となります。
いっぽう、緩和的治療は、非根治的治療であり、対症的な治療法だといえます。がん細胞の局所での完全死滅を目的とせず、患者さんのがん腫瘤による局所症状を解消することを目的とした治療です。また、手術や、化学療法(抗がん剤など薬を使った治療)の補助的な位置づけで併用されることもあります。
a)放射線治療に用いられる放射線の種類
電磁波(X線、ガンマ線など)、荷電粒子線(電子線、陽子線、重粒子線など)、非荷電粒子線(速中性子)があります。それぞれ放射線の発生装置、放射線制御技術は異なりますが、がん細胞に対する殺効果がより高く、正常細胞への障害がより少ないように進化を続けています。
がん細胞に対する効果を向上させ、副作用や後遺症を低減するために、「使用放射線の選択」「照射方法」「照射スュケジュール(線量、回数など)」「照射中の身体の固定法」などを踏まえて、どの方法で行うのがベストかを検討する必要があります。
b)通常使用されている放射線照射方法
1.ライナック(リニアックともいう。直線加速器の意味)にて発生させた電磁波を用いる方法で、1門照射、対向門照射、くさび直交2門照射、多門照射などがあります。
2.定位放射線照射は体内の小さい病巣に対して、多方向から放射線を照射して、放射線を病巣に集中させる照射方法です。病巣に高線量を照射し、照射効果を高めると同時に、周囲の正常組織の障害を最小限に抑える工夫がされています。
3.小線源治療は、密封された放射性同位元素(放射線を発生するカプセルのような装置)をがん病巣内あるいはその近くにおいて、放射線をがんに当てる方法です。外照射(体外の線源から病巣に照射する方法)を並行して行うこともあります。この方法が使われるのは主に前立腺がんです。
4.強度変調放射線治療(IMRT)は、複雑な形状の身体部位、あるいはがん病巣にほぼ一致させて、最適とする予定の線量分布が得られるように、コンピュータに最適ビーム位置と照射パターンを決定させるものです。
c)放射線治療に伴う副作用や後遺症
放射線治療に伴って発生した副作用・後遺症はその発生時期により、治療開始後90日迄に発生したものを急性期反応とし、治療開始後90日以降に発生したものを慢性反応として区別します。
発疹、皮膚の赤み、炎症、かぶれ、かゆみなど比較的軽度なものから、組織の壊死など重篤なものまであります。治療を受ける前には、どんな副作用・後遺症のリスクがあり、それがどのくらいの確率で起きるのかをしっかり確認しておくことが大切です。
また後遺症は、照射局所に発現するとは限っていません。放射線治療後の遠隔期にがんの再発ではなく、別のがん(二次がん)が発生する可能性もあります。
以上、がんの放射線治療についての解説でした。