乳がんの「局所再発」は、手術をした側の乳房やその周囲の皮膚やリンパ節に起こるものをいいます。温存した乳房や乳房切除術後の胸壁やリンパ節に再発した場合は、化学療法や必要に応じて手術や放射線治療を行うのが一般的です。
温存乳房内再発と治療について
温存乳房内再発は乳房温存療法(温存手術+放射線)を受けた後、残っている乳房に再び乳がんが発生することです。乳房温存療法では、乳房温存手術をした後に、目にみえないがん細胞を根絶して再発を予防する目的で、残した乳房に5~6週間の放射線照射を行います。しかし、残した乳房に再び乳がんが発生することがあります(10%程度)。
この温存乳房内再発には、最初のがんが残っていてそれが再発したものと、最初のがんとは別に新たながんが発生したものの2種類があります。しかし実際には、これらを区別することは難しく、合わせて温存乳房内再発としています。
温存乳房内再発は、定期的な検査でみつかる場合や自身でしこりを感じ、検査を受けて判明する場合があります。治療は超音波、マンモグラフィ、MRIなどの検査を行い、がんの広がりを判定したうえで手術を行います。通常は乳房切除術によって、残した乳房全体を切除するのが標準です。
再び乳房温存手術が可能なのは、しこりが小さい、病巣の広がりが小さい、手術後も美容的に十分満足のいく形が保たれる、初回の治療が不十分であった(切除範囲が小さすぎた、放射線治療をしていないなど)、患者さんが再度の温存手術を強く希望している、再発までの期間が長いなどの場合です。
この温存手術の後、再々度、乳房内再発を起こすこともありますが、どのような人に再発が多いのかは研究段階です。一方、再発までの期間が短く、皮膚全体に赤みを帯び、炎症性乳がんのような再発をきたした場合は、がん細胞の悪性度が高く、進行も早いことが多いため、がん細胞が全身ヘ広がっている可能性があります。
このため、抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的治療などの全身療法を先に行い、それらの治療効果が現れれば、手術、放射線照射などを考慮します。
乳房切除術後の胸壁再発と治療について
乳房切除術後にその周囲の皮膚、胸壁に再発を起こすことがあります。これらは、しこりとして感じたり、湿疹や虫刺されのような症状でみつかります。治療方法は、そのしこりが部分的な再発なのか、全身的な再発の一部分の症状であるのかで異なります。
肝臓や肺などの全身的な再発とともに胸壁再発が起こった場合は、胸壁の病巣より、肝臓や肺の病巣がからだヘ悪い影響を及ぼすので、胸壁表面のしこりを切除することには意昧がなく勧められません。この場合は全身療法として、ホルモン療法、抗がん剤治療、分子標的治療などを行います。
全身療法により肝臓や肺などの病巣は縮小したにもかかわらず、胸壁の病巣に対して効果が不十分である場合には、出血や感染を予防する目的で、その部分を切除することもあります。
ー方、肝臓や肺などの病巣とともに、胸壁の病巣も縮小傾向にある場合には、全身療法を継続します。これに加えて、以前、放射線治療を受けたことがなければ、放射線治療を行うことがあります。
これらの全身治療を行っても病状が悪化した場合は、病変からの出血や感染を予防するという目的で、切除したほうがよいという意見もあります。しかし、胸壁の再発に対する切除は、他に治療法がない場合にのみ行うことが一般的で、あまり医師からは薦められないのが現状です。いずれにしても、体力や病気の進行状況と合わせて治療法を考える必要があります。
一方、他の臓器に転移がなく、胸壁とその周りだけに再発した場合は、手術から再発までの期間により治療法が異なります。再発までの期間が長いときは、がんの悪性度が高くないと考えられ、積極的に治療することが勧められます。病気の広がりが小さく、乳房切除が可能であれば手術で切除を行い、以前に放射線を受けたことがなければ、術後に放射線照射を併用するのが一般的です。
手術から再発までの期間が短い場合(一般的には2年以内)や胸壁全体が赤みを帯び、広範囲に広がる炎症性乳がんのような再発では、がん細胞の悪性度が高く、進行も早いことが多いため、がん細胞が全身へ広がっている可能性があります。
この場合は、抗がん剤治療、ホルモン療法、分子標的治療などの全身療法を先に行い、治療効果が現れれば手術、放射線照射などを考慮します。
以上、乳がんの再発についての解説でした。