乳房温存手術は、病期Ⅱ期(しこりの大きさは3cm以下)までの人に提案される手術方法です。また、非浸潤性乳管がんの場合でも選択肢の1つになります。
乳房温存治療の目的と考え方
乳房温存手術は「乳房温存手術と温存乳房への手術後の放射線照射のセット」を表します。ステージが0、Ⅰ、Ⅱ期の乳がんに対する標準的な局所治療です。乳房温存手術の目的は、乳房内での再発率を高めることなく、美容的な観点も重視しできるだけ乳房を残すことにあります。
そのためには 乳がんの広がりを正確に診断して、それをもとに適切な乳房温存手術を行うこと、そして手術後に適切な放射線治療(原則的には必須)を行うことが重要です。
乳房温存手術が可能な腫瘍(しこり)の大きさ
しこりの大きさが何センチまでなら乳房温存手術の適応になるかについては、科学的に基準が設けられているわけではありません。海外では臨床試験の対象者の多くがしこりの大きさ4cm以下であったことから、乳房温存手術の適応を4cm以下とするガイドラインもみられます。
日本では局所再発をできるだけ少なくすることや、美容的に満足できる形を残せることを考え合わせて、しこりの大きさ3cm以下が温存療法の適応と考えられています。しかし、がんを完全に取りきることができて、見栄えも良好な手術が可能と判断された場合は、大きさ4cmまでは適応となることがあります。
非浸潤性乳管がんの乳房温存手術
ステージO期の非浸潤性乳管がんでは、乳房温存手術と乳房切除術では生存率に差はなく(手術例を集計した報告では乳房温存手術で95~100%、乳房切除術で98~100%)、美容的な観点からは乳房温存手術が選択肢となります。しかし、がんの広がりが広範囲の場合は、乳房温存手術では温存乳房内再発の危険があるため、乳房切除術が提案されるでしょう。
乳がんの局所再発について
乳房温存手術で残した乳房にがんが出現することを局所再発と呼びます。局所再発の原因には2つあり、1つは乳房を部分切除した際に目にみえないがんがあって、それを取り残したために、あとで大きくなって再発としてわかったもの、もう1つはまったく新しい乳がんが同じ乳房内にできたものです。
この2つを厳密に区別することは困難で、居所再発に関する多くのデータがどちらも含めた結果になっていますが、それぞれで治療法が異なることがありますので、担当医にどちらの可能性が高いかを確認しましょう。
切除断端陽性の場合
部分切除した組織の断面を顕微鏡で詳しく調べた結果、がん細胞が断面または断面近くにみられる場合を切除断端陽性といい、乳房温存手術後の乳房内再発を予測するための重要な因子となります。
広い範囲での断端陽性が確認された場合は、追加切除や乳房切除術が推奨されます。断端陽性であっても範囲が小さい場合は、追加切除することもありますが、標準的放射線治療にさらに放射線照射を追加する方法も有効であると考えられています。
乳房温存手術の適応にならない場合
以下のいずれかに該当する場合は、乳房温存手術が適応にならず、乳房切除術(全摘出術)が行われます。
①2つ以上のがんのしこりが、同じ側の乳房の離れた場所にある場合
②乳がんが広範囲にわたって広がっている場合(マンモグラフィで乳房内の広範囲に微細石灰化認められる場合など)
③以下の理由で温存乳房への放射線治療が行えない場合
A)温存乳房への放射線治療を行う体位がとれない
B)妊娠中である
C)過去に手術した側の乳房や胸郭へ放射線治療を行ったことがある
D)強皮症や全身性紅斑性狼瘡(SLE)などの膠原病を合併している
④しこりの大きさと乳房の大きさのバランスから、美容的な仕上がりがよくないことが予想される場合
⑤患者さんが乳房温存手術を希望しない場合
以上、乳がんの手術についての解説でした。