肝臓への転移がある大腸がんに対して、かつては肝臓切除が可能な患者さんであれば積極的に手術が行われていました。いっぱんに、がんは遠隔転移を起こすと手術を行いませんが、大腸がんは転移があっても手術する意味があるとされているのです。
肝臓転移のある大腸がんの肝切除手術
大腸がんの肝転移に対して、切除可能であれば積極的に手術をするという治療方針がとられています。これは肝臓の手術技術の向上が関係しています。肝切除術中の超音波の導入、区域切除の技術、出血のコントロールなどにより以前より安全に肝臓の手術が行われるようになったのは事実です。
とにかく外科手術第一主義、が日本のがん医療の特徴です。そのため肝転移が20個あっても、30個あっても切除できるものは切除する、という医師もいました。しかし、多発する肝転移に対して肝切除術を行っても、再発率は非常に高かったのです。
そこで化学療法を併用することに
切っても再発する、という事態に直面したころ、化学療法(抗がん剤や分子標的薬)に動きがありました。欧米でFOLFOX療法(5-FU+ロイコボリン+エルプラットを併せた抗がん剤治療)が登場し、それが日本でも使われるようになりました。
FOLFOXの登場をきっかけに、大腸がんの化学療法は進歩をみせ、分子標的薬も承認され、今まで大腸がんにはほとんど効果がなかった化学療法の役割が重視されるようになったのです。
化学療法が進歩することで、外科的には手を出せなかった大きな転移や、肝臓全体に広がったような転移も化学療法によってがんが縮小させることができるようになり、結果として手術をするケースも増えてきました。
そのため、肝転移治療は、すぐに手術を行うのではなくまず化学療法を行ってがんを小さくしたうえで手術を行う方法が検討されるようになりました。
ただ、術前の化学療法に関してはまだエビデンス(科学的根拠)がありません。欧米では術前の化学療法が日本よりも先に行われていますが、それによって生存期間が延長するかどうかはまだ明確になっていません。
体に負担の大きい化学療法と、リスクの高い肝臓の手術を短期間で行うことにより、患者さんが受ける心身のダメージが大きいことも問題です。大腸がんの肝転移に関する治療戦略はまだ模索中で確かなデータはありませんが、選択肢が増えていることは事実です。
自身のがんの状態、医師の考え、治療のリスクを総合して検討していく必要があります。
以上、大腸がんの治療についての解説でした。