
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
がん治療中のお腹の痛みは、多くの患者さんが経験される症状の1つです。
軽い違和感から強い痛みまで程度はさまざまですが、その背景には複数の原因が考えられます。
腹痛の中には、腸閉塞のように緊急の対応が必要なケースもあるため、痛みの特徴を知り、適切なタイミングで主治医に相談することが大切です。
この記事では、がん治療中に起こる腹痛について、主な原因や痛みの種類、医療機関で行われる治療法、そして日常生活でできる対策まで詳しく整理しています。
腹痛とはどのような症状か
腹痛は、お腹の部分に感じる痛みとして自覚される症状です。
医学的には、痛みの発生する仕組みや特徴によって、いくつかの種類に分類されます。
主な分類として、侵害受容性疼痛と関連痛があります。
侵害受容性疼痛はさらに内臓痛と体性痛に分けられ、がん患者さんの場合、はじめに内臓痛が起こり、がんの進行に伴って体性痛や関連痛が生じることが多いとされています。
内臓痛は、消化管などの内臓が伸びたり圧迫されたりすることで起こる痛みで、お腹全体がぼんやりと痛む、締め付けられるような感覚が特徴です。
一方、体性痛は腹膜などが刺激されることで起こる痛みで、痛む場所がはっきりしており、鋭い痛みとして感じられることが多いです。
がん患者さんに腹痛が起きる主な原因
がん治療中の腹痛には、さまざまな原因があります。
主な原因を以下の表にまとめました。
| 原因の分類 | 具体的な内容 |
|---|---|
| がん(腫瘍)そのものによる痛み | 消化管の圧迫や閉塞、腹膜の伸展、臓器被膜の伸展、神経への浸潤、膵胆管の閉塞など |
| 手術後の影響 | 神経麻痺による機能的腸閉塞、腸管癒着による機械的腸閉塞 |
| 化学療法(抗がん剤)の副作用 | 便秘や下痢に伴う腹痛、腸管粘膜の障害 |
| 放射線治療の影響 | 放射線腸炎(腹部や骨盤内への照射後の後遺症) |
| 薬剤の副作用 | オピオイド系鎮痛薬による便秘、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)による消化性潰瘍 |
| 精神的な要因 | ストレスや不安による過敏性腸症候群 |
がん(腫瘍)そのものによる腹痛の詳細
がんが直接的な原因となって起こる腹痛には、いくつかのパターンがあります。
まず、腫瘍が大きくなることで消化管が圧迫され、内容物の通過が妨げられる状態があります。
たとえば、胃がんの出口付近にできた腫瘍は胃の過剰な伸展を引き起こし、みぞおち付近の痛みの原因となります。
小腸や大腸にできたがんも同様に、腸の内容物の流れを妨げ、腸閉塞を引き起こすことがあります。
膵臓がんでは、腫瘍が後ろ側の腹膜に広がったり、腹腔神経叢という神経の束に浸潤したりすることで、上腹部や背中に強い痛みが生じることがあります。
この痛みは、座った姿勢や前かがみになると和らぐことがあるという特徴があります。
肝臓がんや腎臓がんでは、腫瘍が大きくなることで臓器を包む被膜が伸ばされ、季肋部(肋骨の下あたり)や腰背部に痛みが出ることがあります。
がん性腹膜炎により腹水が溜まると、腹壁全体が伸ばされてお腹全体に痛みや膨満感を感じることもあります。
手術後に起こる腹痛
腹部の手術後には、腸の動きが一時的に低下する機能的腸閉塞が起こることがあります。
これは、手術中の腸管への刺激、麻酔の影響、術後の痛み止め(特にオピオイド)の使用などにより、腸の蠕動運動が弱まることで生じます。
また、手術後の癒着によって起こる機械的腸閉塞も、がん患者さんに多く見られる原因の1つです。
済生会の報告によれば、腸閉塞全体の約6割が癒着性イレウスであり、過去に腹部手術を受けた方は特に注意が必要とされています。
癒着が起こると、腸管が折れ曲がったり狭くなったりして、消化管の内容物が流れにくくなります。
手術から時間が経っていても突然発症することがあるため、強い腹痛や嘔吐、排ガス・排便の停止といった症状が現れた場合は、速やかに医療機関を受診する必要があります。
化学療法(抗がん剤)による腹痛
抗がん剤治療では、副作用として便秘や下痢が起こり、それに伴って腹痛が生じることがあります。
国立がん研究センターがん体験者調査によれば、下痢による腹痛は抗がん剤治療中の患者さんが経験する代表的な症状の1つです。
下痢には大きく分けて2つのタイプがあります。
1つ目は早発性の下痢で、抗がん剤投与中または投与直後から24時間以内に見られるものです。
これは抗がん剤によって副交感神経が刺激され、腸の動きが活発になりすぎることで起こります。
多くの場合、持続時間は短く一過性です。
2つ目は遅発性の下痢で、抗がん剤投与開始後、数日から10日ほどで発症します。
これは抗がん剤によって腸の粘膜が傷つくことで起こり、場合によっては感染症を引き起こすこともあります。
便秘も腹痛の原因となります。
吐き気により食事量や水分量が減る、横になっている時間が長くなり腸の動きが悪くなる、といった要因で便秘が生じやすくなります。
放射線治療による腹痛
腹部や骨盤内に放射線治療を行った場合、後遺症として放射線腸炎が起こることがあります。
これは腸管の粘膜が放射線によってダメージを受けることで起こる炎症で、下痢や腹痛の原因となります。
薬剤による腹痛
痛み止めとして使用されるオピオイド系の薬は、腸の動きを抑える作用があるため、便秘の原因となり、それに伴って腹痛が起こることがあります。
また、NSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)は、消化性潰瘍を引き起こすことがあります。
がん疼痛治療ガイドラインでは、NSAIDsを使用する場合には、プロスタグランジン製剤、プロトンポンプ阻害薬、高用量のH2受容体拮抗薬のいずれかを併用することが推奨されています。
精神的な要因による腹痛
がん治療に伴うストレスや不安が、過敏性腸症候群のような症状を引き起こし、腹痛の原因となることもあります。
心理的な負担が大きいときは、医療者や臨床心理士に相談することも1つの方法です。
腹痛の場所とがんの部位の関係
腹痛が起こる場所と、考えられるがんの部位には一定の関係があります。
ただし、これはあくまで目安であり、実際の診断は医療機関での検査が必要です。
| 痛みの場所 | 考えられるがんの部位 |
|---|---|
| 心窩部(みぞおち) | 下部食道がん、胃がん、肝臓がん、横行結腸がん、膵臓がん(頭部・尾部) |
| 右季肋部(右の肋骨付近) | 肝臓がん、胆管がん、腎臓がん(右)、上行結腸がん |
| 左季肋部(左の肋骨付近) | 膵臓がん(尾部)、下行結腸がん、腎臓がん(左)、巨大脾腫を伴う慢性骨髄性白血病 |
| 臍部(おへそ付近) | 胃がん、小腸がん、横行結腸がん、膵臓がん、肝臓がん破裂 |
| 右下腹部から回盲部 | 回盲部がん、卵巣がん(右) |
| 左下腹部 | S状結腸がん、卵巣がん(左) |
| 腹部全体 | がん性腹膜炎、イレウス(腸閉塞) |
腹部全体に痛みが広がる場合、がん性腹膜炎やイレウス(腸閉塞)などの可能性があり、緊急の対応が必要なケースもあります。
腹痛に対する医療機関での治療と対策
がん治療中の腹痛に対しては、原因に応じたさまざまな治療法が検討されます。
原因疾患への対応
腹痛の原因となっているがんや合併症に対する治療が可能であれば、それを優先的に検討します。
ただし、進行がんや終末期のがんの場合、原因疾患の治癒が見込めないことも多いため、その場合は患者さんの生活の質(QOL)を重視した治療方針が立てられます。
腸閉塞に対する治療
腸閉塞が起きた場合、まずは絶飲食(食事と飲み物を控える)と点滴による栄養管理を行います。
腹痛や嘔吐が強い場合は、鼻からイレウスチューブという細い管を入れて、腸の中の内容物やガスを吸引し、腸管内の圧力を下げる治療が行われます。
日本腹部救急医学会のガイドラインによれば、単純性癒着性腸閉塞の場合、まず胃管による減圧を行い、1から2日間経過を観察します。
改善傾向が見られない場合にイレウス管の挿入を考慮するとされています。
血流が遮断されている複雑性腸閉塞の場合は、腸が壊死してしまう可能性があるため、緊急手術が必要になることがあります。
進行大腸がんなどの腫瘍による腸閉塞の場合は、内視鏡を用いたステント留置術が選択されることもあります。
これは腸の狭くなった部分に金属製の管を留置して、通り道を確保する方法です。
その他、腸液の分泌を抑制するオクトレオチドや、腸管周囲の浮腫を軽減させるコルチコステロイドといった薬剤も使用されることがあります。
痛みを和らげる薬物療法
2025年のがん疼痛治療ガイドラインでは、患者さんごとに詳細な評価を行い、それに基づいて鎮痛薬を選択することの重要性が強調されています。
軽度の痛みに対しては、まずNSAIDs(非ステロイド性消炎鎮痛剤)やアセトアミノフェンといった非オピオイド鎮痛薬が使用されます。
これらで十分な効果が得られない場合や、中等度以上の痛みがある場合は、オピオイド(医療用麻薬)の使用が検討されます。
内臓痛に対してはオピオイドが有効であることが多いとされています。
腸の過剰な伸展による内臓痛にはオピオイドが、腸の蠕動が激しくなることによる痛みにはブチルスコポラミンという薬が効果的とされています。
2018年にWHOのがん疼痛治療ガイドラインが改定され、従来の「3段階除痛ラダー」が削除されました。
現在は、患者さんの状態に応じて個別に鎮痛薬を選択する考え方が主流となっています。
神経ブロック
薬物療法で十分な効果が得られない場合、神経ブロックという治療法が検討されることもあります。
これは痛みを伝える神経に局所麻酔薬などを注射して、痛みの信号を遮断する方法です。
特に膵臓がんが腹腔神経叢に浸潤して強い痛みが生じている場合などに、腹腔神経叢ブロックが行われることがあります。
食事の調整
消化管の通過障害がある場合は、閉塞の程度に応じて食事の形態を調整します。
たとえば、食事をペースト状にする、1回の食事量を減らして回数を増やす、といった工夫が行われます。
下部消化管の閉塞があり、排便時に腸管が伸びて突発的な痛みが生じる場合は、予防的に痛み止めを使用したり、便の硬さを調整したりすることもあります。
日常生活でできる腹痛への対策
医療機関での治療に加えて、日常生活の中でも腹痛を和らげるための工夫ができます。
症状を記録して医療者に伝える
腹痛が起きたときは、その状況を詳しく記録しておくと、医療者が原因を特定したり適切な治療を選択したりするのに役立ちます。
「いつから」「どこが」「どのようなときに」「どんなふうに」「どのくらい」痛むのかをメモしておくとよいでしょう。
排便の状況や食事の摂取状況も合わせて記録しておくと、より詳しい情報になります。
特に以下のような症状がある場合は、速やかに主治医に連絡する必要があります。
- 急激に始まり、徐々に強くなる腹痛
- 長く続く腹痛
- 嘔吐を伴う腹痛
- 排ガス(おなら)や排便が止まっている
- お腹が張って硬くなっている
- 発熱を伴う
姿勢の工夫
膵臓がんによる腹痛の場合、座った姿勢や脊柱を前に曲げた姿勢をとると痛みが和らぐことがあります。
クッションで腰部を支える、マットレスの硬さを調節するといった工夫が効果的な場合があります。
温めたりマッサージしたりする
温罨法(温めること)やマッサージは、腸の蠕動を促したり、筋肉の緊張を緩めたり、血流を改善したりする効果があり、腹痛の緩和につながることがあります。
ただし、炎症が強い場合や原因がはっきりしない場合は、温めることで症状が悪化する可能性もあるため、まず医療者に相談することをおすすめします。
リラクセーション
深呼吸や軽い運動、音楽を聴くといったリラクセーション法は、心身の緊張を和らげ、痛みの緩和につながることがあります。
ストレスや不安が腹痛の一因となっている場合には、特に効果的です。
便秘の予防
便秘を予防するための日常的な工夫として、以下のようなことが挙げられます。
- 体調が許す範囲で、適度な運動や散歩を行う
- 水分を十分に摂取する
- 便意がなくても、毎朝決まった時間にトイレに行く習慣をつける
- 腹部を優しくマッサージする
ただし、抗がん剤治療で吐き気や食欲不振が強いとき、体がだるくて動けないときなどは、無理をせず、できることを行うようにしましょう。
便秘が続く場合は、主治医に相談して適切な下剤を処方してもらうことも大切です。
食事の工夫
腸閉塞の既往がある方や腹痛が起きやすい方は、以下のような食事の工夫が勧められています。
- 暴飲暴食を避ける
- 消化の良いものを摂る
- ゆっくりよく噛んで食べる
- 規則正しく食事をする
- 食物繊維の多いものは控えめにする
お腹が張って痛むときや、ガスや便が出にくいときは、食事量を減らすことが有効な場合があります。
緩和ケアの活用
がんと診断されたときから、必要に応じて緩和ケアを受けることができます。
緩和ケアは、痛みなどの身体的な苦痛だけでなく、気持ちのつらさや日常生活の困りごとにも対応してくれるものです。
国立がん研究センターがん情報サービスによれば、緩和ケアは通院、入院、在宅療養のいずれの場でも受けることができます。
全国のがん診療連携拠点病院では、どこでも緩和ケアを受けることが可能です。
腹痛について困っていることや不安なことがあれば、主治医や看護師だけでなく、病院内のがん相談支援センターに相談することもできます。
がん相談支援センターでは、患者さん本人だけでなく、家族からの相談も無料で受け付けています。
最後に
がん治療中の腹痛は、原因が多岐にわたり、複数の要因が重なっていることも少なくありません。
そのため、痛みの発生する仕組みを多角的に評価したうえで、治療とケアが検討されます。
痛みを我慢せず、自分の感じている症状を医療者にしっかり伝えることが、適切な対応を受けるための第一歩です。
また、日常生活での工夫や、緩和ケアの活用も、生活の質を保ちながら治療を続けるために役立ちます。
腹痛に関して気になることがあれば、いつでも遠慮なく主治医や医療スタッフに相談してください。

