がん専門のアドバイザー、本村です。
当記事ではホルモン陽性かつHER2陰性の進行・再発乳がん向けの薬として開発された、バーゼニオ(アベマシクリブ)について解説します。
バーゼニオは「CDK4/6阻害薬」というタイプの薬で、最近承認された「イブランス(パルボシクリブ)」と同じタイプです。
バーゼニオはすでにアメリカで承認されており、2018年中には日本でもほぼ承認されるだろう、という流れになっていますので、どんな方に使える薬なのか?効果は副作用はどの程度なのか?という点について解説しておこうと思います。
バーゼニオはどのタイプの乳がんに使われる薬か?
乳がんには様々なタイプがあり、昨今では明確に分類したうえで治療薬が決められています。
病理検査では様々な情報が分かりますが、特に押さえておきたいポイントは「ホルモン受容体が陽性か陰性か」「HER2が陽性か陰性か」の2点です。これがいずれかによって使える薬が大きく異なってくるためです。
ホルモン。HER2。
「私はこの2つがどっちだか分からない」という人はあまりいないと思いますが、もし不明な人は主治医に確認するようにしてください。
さて、バーゼニオは冒頭にも記載したとおり「ホルモン陽性かつHER2陰性の進行・再発乳がん」向けの薬で、これに該当しない場合は使用できません(保険適応となりません)。
ホルモン陰性でも効果があるのでは?といわれていますが、医療現場で投与の対象となるのはホルモン陽性かつHER2陰性のタイプと決まっています。
どのくらいの効果があるのか?
薬の効果は、必ず臨床試験によって確認されます。臨床試験によって「効果がある」と認められた薬が承認され、実際の医療現場で使われるようになります。
バーゼニオが承認されるにあたり、3つの臨床試験の結果で明らかに効果があったと認められています。その3つの臨床試験の結果をみることで、どのくらいの効果があるのかが分かります。
なおこれらの臨床試験の対象者はすべて「ホルモン陽性・HER2陰性の進行・転移性乳がん患者さん」です。
臨床試験1
【患者さんの状態】
ホルモン療法を受けていたが進行した人(669人)。
【試験の内容】
二次治療薬として使うホルモン薬(フェソロデックス)にバーセニオを併用したグループと、フェソロデックスとプラセボ(偽薬)を使用したグループと効果を比較。
【結果】
バーセニオ併用グループでは、無増悪生存期間中央値(進行せずに生存していた期間の平均)が16.4か月。バーセニオを併用しなかったグループでは9.3か月。
臨床試験2
【患者さんの状態】
ホルモン療法を受けていたが進行し、その後抗がん剤治療を1~2回受けた人(132人)。
【試験の内容】
バーセニオを単独で投与
【結果】
全奏効率が19.7%、奏功期間が8.6カ月という結果。既存の薬の投与を受けた方でも効果があることが示された。
※奏効率とは:ある治療法を患者に用いた際、その治療を実施した後にがん細胞が縮小もしくは一定期間消滅した患者の割合を示したもの。
※奏功期間とは:効果が示された期間の平均値。
臨床試験3
【患者さんの状態】
閉経後かつ、術前・術後ホルモン療法を初めて受ける人(493人)
【試験の内容】
ホルモン薬「アナストロゾールまたはレトロゾール」とバーゼニオの併用投与。
【結果】
ホルモン療法単独の場合、無増悪生存期間中央値は14.8か月だが、バーゼニオを併用することで28.2か月になった。
バーゼニオの効果まとめ
試験1では、フェソロデックス(既存のホルモン剤)+バーゼニオ併用により、抗がん剤を使用せずに「ホルモン療法の効果が薄くなった場合の二次治療」が可能になった、というところが特徴的だといえます。
試験2では、既存のホルモン療法、抗がん剤治療を受けてきた人に対しても(投薬に対してある程度の耐性ができてしまった場合でも)、バーゼニオを使うことで改善が期待されることが分かったことが重要です。
また、同じタイプの先発薬「イブランス」は単独での効果が確認されていませんが、バーゼニオは単独でも効果が見込める、と分かったことも画期的な情報だといえます。
試験3では、閉経後の患者さんに対して、初回のホルモン療法を単独で行うよりも、バーセニオを併用することで長く効果を持続させることができた、ということがポイントです。
バーゼニオの副作用
最も頻度が高く、影響がある副作用は「下痢」です。
臨床試験ではバーゼニオを使用すると、81%の人に下痢が起きるという報告があります。この半数は軽度の下痢ということですが、逆にいえば厳しい下痢の状況が半数の人に起きるということがいえます。
うち、2.3%の人が下痢によって投薬を中止したというデータがあります。
次に影響の高い副作用は「好中球(白血球の1つ)の減少」です。
重度(グレード3以上)の好中球減少が起きる可能性は、20%。この状況になると投薬を休止せざるを得なくなります。
その他、発生する可能性がある副作用としては、悪心、腹痛、感染症、疲労、赤血球数の減少(貧血)、食欲減退、嘔吐、頭痛があると報告されています。