がん闘病中の症状として不整脈が生じることがあります。不整脈は様々な要因で起きることがあるため、「これはがんによるものか?」「抗がん剤によるものか?」などの不安が生まれます。
速やかに医師の診断を受けるべきですが、この記事ではがん闘病中におきる不整脈について主な原因と、一般的にとられる対策について、解説したいと思います。
※不整脈とは
不整脈は、正常洞調律以外すべてであり、心臓の電気的興奮のリズムが異常になった状態を指します。不整脈には、頻脈性不整脈、徐脈性不整脈期外収縮などがあります。
不整脈が起きる原因として考えられるもの
化学療法(抗がん剤などの投薬)による不整脈
・薬剤の心毒性による心筋障害
放射線治療による不整脈
・放射線による心毒性(心筋障害による心不全、刺激伝導障害による不整脈)
その他の原因による不整脈
・制吐薬や抗精神病薬の副作用
・精神的、心理的な刺激、精神的緊張、疲労、睡眠不足
・加齢、心疾患や不整脈の既往
基本的な対処
・心毒性のある抗がん薬を使用しているか確認する。
・不整脈によってめまいやふらつきが生じる場合は転倒を起こしやすいため、ゆっく
り慎重に行動する。
・不整脈によるめまい、失神、動悸、胸内苦悶、息苦しさなどの症状がある場合、死に対する恐怖や不安を生じることがある。自己判断せずに医師の診断を受ける。
化学療法(抗がん剤などの投薬)による不整脈が発生する原因と対策
・化学療法による心筋障害によって、心筋細胞の電気活動にかかわるイオンチャネルへの影響、血管攣縮や心筋虚血などが生じ、不整脈が誘発されることがある。
・心筋障害の発症機序は、フリーラジカル産生による酸化ストレス、心筋細胞のミトコンドリア障害、マクロファージや単球からのサイトカイン放出の影響などが考えられている。
・不整脈の合併がある患者は、抗がん薬投与により悪化する可能性がある。
【リスクのある薬剤(抗がん剤など)】
アントラサイクリン系薬剤、パクリタキセル、シクロホスファミド、サリドマイド、フルオロウラシル、シスプラチン、スニチニブ、ソラフェニブ、ラパチニブ、ニロチニブなど
不整脈出現時にとられる対処法
・安静にする。
・呼吸困難や酸素飽和度の低下がある場合は、酸素投与が行われる。
・持続する心房細動、房室ブロック、失神や血圧低下などの症状を伴う徐脈の場合は、心毒性が低い薬剤への変更などが行われる。
放射線治療による不整脈が発生する原因と対策
・放射線療法による心毒性。晩期有害事象であり、心筋障害、刺激伝導障害、冠動脈疾患、弁膜症、心膜疾患を生じる可能性がある。
・起こりうる不整脈:房室ブロック、洞性徐脈、QT延長、上室性頻拍、心室性頻拍など。
・原因となった放射線療法から、自覚症状や他覚所見が現れるまでには比較的長期間(早ければ数年後、多くは10年後、遅い場合は20~30年後)になることがある。
・心筋細胞は比較的増殖能が低いため、急性の有害事象として心毒性が生じることはまれ。
【リスクの要因】
・総線量が多い
・1回当たりの照射線量が多い(>2Gy/日)
・照射野に含まれる心体積が大きい
・線源の種類(例:コバルト)
・心臓近隣のがんに対する照射
・照射時、若年である
・最新でない照射技術など
不整脈出現時にとられる対処法
・心毒性の発症早期は無症状のことが多く、症状を認めたとしても、患者は病態が複雑であるため、自覚症状のみで心毒性を鑑別することは困難。
・早期発見のための長期的なフォローアップとして、定期的な心機能評価が重要
その他の理由による不整脈が発生する原因と対策
・薬物性QT延長
・薬物性QT延長は、抗精神病薬(制吐薬、鎮静薬、せん妄治療薬)や、一部の制吐薬が原因となる。
【リスクのある薬剤】
クロルプロマジン、レボメプロマジン、ハロペリドール、リスペリドン、ドンペリドン、パロノセトロン、リドカイン、メキシレチンなど
不整脈出現時にとられる対処法
・QT延長や房室ブロックがある場合には、薬剤をすみやかに中止する。