
こんにちは。がん専門のアドバイザー、本村ユウジです。
肝臓がんの治療において、手術は最も確実にがんを取り除ける方法として位置づけられています。
しかし、手術を受けるにあたっては、どのような術式があるのか、手術後にどのような合併症や後遺症が起こり得るのかを理解しておくことが大切です。
この記事では、肝臓がん手術の基本的な考え方から、具体的な術式の種類、手術後に発生する可能性のある合併症と後遺症、そして最新の治療成績まで、患者さんが知っておくべき情報を詳しく説明します。
肝臓がん手術の基本的な考え方
肝臓がんの手術を考える際には、2つの重要な原則があります。
第一に、肝臓がんが発生する肝臓は、B型・C型肝炎ウイルス感染、アルコール性肝障害、肝硬変といった基礎疾患があることが多く、肝機能が低下している場合が少なくありません。このような状態で肝臓を大きく切除してしまうと、残った肝臓の機能が不足して肝不全を起こし、命にかかわる事態となる可能性があります。
そのため、手術前には必ず肝機能を詳しく評価します。具体的には、Child-Pugh分類や肝障害度分類といった指標を用いて、どの程度の範囲まで安全に切除できるかを慎重に判断します。一般的には、Child-Pugh分類がAまたはBで、肝予備能が比較的保たれている患者さんが手術の対象となります。
第二に、肝臓がんは肝臓内での転移が多く見られます。これは門脈という血管を通じてがん細胞が広がるためです。肝臓は8つの亜区域に分けられており、それぞれの区域は特定の門脈によって栄養が供給されています。
そのため、がんが存在する門脈の領域を系統的に切除する「解剖学的切除」を行うことで、より確実にがん細胞を取り除くことができます。ただし、肝機能を十分に残すことと、がんを確実に取り除くことのバランスを取ることが重要です。
なお、肝臓がんは他の消化器がんと異なり、リンパ節への転移は比較的まれです。そのため、リンパ節を広範囲に取り除く「リンパ節郭清」は通常行いません。
肝臓がんの手術術式と切除範囲
肝臓がんの手術には、切除する範囲によっていくつかの術式があります。切除量が少ない順に以下のように分類されます。
| 術式名 | 切除範囲 | 適応となる状況 |
|---|---|---|
| 肝核出術・部分切除術 | がんの周辺のみを切除 | 小さながん、肝機能が低下している場合、多発性のがん |
| 肝亜区域切除術 | 亜区域単位での切除 | 門脈の血流領域に沿った系統的切除が必要な場合 |
| 肝区域切除術 | 1つの区域を切除 | がんが1つの区域内に限局している場合 |
| 肝葉切除術 | 肝臓の右葉または左葉を切除 | がんが大きい場合、主要血管に近い場合 |
| 拡大肝葉切除術 | 肝葉以上の範囲を切除 | 広範囲にがんが広がっている場合 |
術式の選択は、がんの大きさ、位置、個数、そして患者さんの肝機能によって決まります。大きく切除すれば肝内再発の頻度は減りますが、肝不全のリスクは高まります。そのため、根治性と安全性のバランスを考えた術式選択が求められます。
門脈塞栓術による肝臓の再生
手術前の評価で、切除後に残る肝臓の容積が小さくなりすぎると判断される場合には、事前に対策を講じることがあります。
具体的には、右または左の門脈を意図的に塞栓して血流を遮断します。すると、血流が遮断された側の肝臓は萎縮し、反対側の肝臓に血流が集中して容積が増大します。この肝臓の強力な再生能力を利用して、手術後に十分な肝機能を確保できるようにします。
腹腔鏡下手術とロボット支援下手術
最近では、肝臓がんの手術においても腹腔鏡下手術が広く行われるようになっています。2016年からは解剖学的切除にも腹腔鏡下手術の保険適用が拡大され、多くの施設で実施されています。
腹腔鏡下手術のメリットは、傷が小さいため術後の痛みが少ないこと、回復が早く入院期間が短縮できること、出血量を抑えられることなどがあります。一方で、全ての肝臓がんに適用できるわけではなく、がんの位置や大きさ、切除範囲によって開腹手術を選択する場合もあります。
また、一部の施設ではロボット支援下肝切除も導入されており、より精密な手術が可能になっています。ただし、これらの低侵襲手術は高度な技術を要するため、経験豊富な施設で受けることが重要です。
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がん専門アドバイザー 本村ユウジ
肝臓がん手術後の合併症
手術技術の進歩により、肝臓がん手術後の合併症は以前と比べて大幅に減少しています。しかし、どのような手術にも一定のリスクがあり、合併症が起こる可能性はゼロではありません。
現在では、術後10日から2週間程度で退院できるケースが増えていますが、合併症が発生した場合には入院期間が延びることがあります。主な合併症について説明します。
肝不全
肝不全は、肝臓が十分に機能しない状態を指します。肝臓が働かなくなると、黄疸、腹水、血液凝固能の低下、意識障害などの症状が現れます。
肝不全は手術後の合併症の中で最も注意が必要なものです。徐々に悪化する黄疸が特徴的で、黄疸の悪化とともに重要臓器の機能低下や意識障害を引き起こします。
発生の要因としては、術前の肝予備能の低下、手術侵襲の大きさ、術中の出血量などが関係しています。ただし、最近では術前の詳細な肝機能評価や3D-CTシミュレーションによる正確な切除計画、手術技術の向上により、肝不全の発生はかなりまれになっています。
胆汁漏
胆汁漏は、肝臓の手術では比較的多く見られる合併症です。肝臓内には血管や胆管が網の目のように走っており、肝細胞で作られた胆汁は胆管を通って腸管に流れていきます。
肝切除を行う際には、切除断面の胆管を電気メスで焼灼したり、糸で結んで閉鎖しますが、時に肝切除断面から胆汁が漏れることがあります。
胆汁漏は通常、ドレーン(排液管)を留置し続けることで自然に止まります。ただし、肝硬変がある場合には長期間続くことがあり、また細菌感染を起こして発熱する場合もあります。感染が起こった場合には、抗生物質による治療が必要になります。
術後出血
術後出血とは、手術中にしっかりと止血を確認して手術を終了した後に、再び出血が起こることを指します。
肝臓は血管が豊富な臓器であるため、一旦止まっていた出血が再度起こりやすい特徴があります。また、肝硬変がある肝臓では血液が止まりにくい状態にあることも、出血のリスクを高める要因となります。
術後出血が起こった場合には、輸血や再手術による止血処置が必要になることがあります。
腹腔内膿瘍
腹腔内膿瘍は、お腹の中に膿がたまる状態です。胆汁漏がある場合に、そこに細菌が感染して起こることが多いです。
また、まれに手術の影響で肝臓の一部の血流が悪くなり、その部分が壊死して感染を起こすこともあります。膿がたまると発熱や腹痛などの症状が現れます。
治療は、超音波検査で膿の位置を確認し、細い管を刺して膿を体外に排出します。同時に抗生物質による治療を行います。
創感染
創感染は、手術で切った腹部の傷口が化膿することです。傷口が赤くなったり、腫れて熱を持ったり、痛みを伴ったりします。
肝臓手術では比較的まれな合併症ですが、皮下脂肪が多い方や糖尿病、腎不全などの基礎疾患がある方に起こりやすくなります。また、胆管を再建する手術では、胆汁中の細菌が原因で創感染を起こすこともあります。
創感染が起こった場合は、皮下にたまっている膿を排出することで治療します。
胸水
肝臓は横隔膜のすぐ下に位置しているため、手術による炎症が横隔膜を介して胸に波及し、胸水(胸に水がたまる状態)が生じることがあります。
特に右側の胸に水がたまることが多く、胸水の量が多くなると呼吸困難を感じることがあります。呼吸に悪影響がある場合には、針を刺して胸水を抜く処置を行います。
肝臓がん手術後の後遺症
手術が無事に終わり退院した後にも、いくつかの後遺症が続くことがあります。主な後遺症について説明します。
肝機能障害
肝臓がん手術の多くは、肝硬変を伴っていることが多く、もともと肝機能が低下しています。手術の侵襲が加わることで、退院後も肝機能の低下が長引く場合があります。
全身倦怠感、食欲不振、腹水、胸水、軽度の黄疸などの症状が現れることがあります。通常は時間とともに徐々に回復してきますが、長引く場合や悪化する場合には、医療機関を受診する必要があります。
腹水・胸水の持続
手術の侵襲が大きかった場合や、もともとの肝機能が低下していた場合には、肝機能の回復に時間がかかることがあります。その結果、腹水や胸水が長期間にわたって貯留することがあります。
腹水がたまるとお腹が張って苦しくなったり、食欲がなくなったりします。胸水がたまると呼吸が苦しくなります。
治療としては、利尿剤を使用して尿として水分を排出させます。利尿剤で効果が得られない場合には、針を刺したり細いチューブを入れて水を抜く処置を行います。また、塩分を控えた食事管理も重要です。
創部痛
手術の傷の痛みは、退院後も続くことがあります。肝臓の手術では、お腹の中央から左右に及ぶ大きな傷になることが多く、傷の痛みが長引く場合があります。
痛みの感じ方は個人差が大きく、同じ大きさの傷でもほとんど痛みを感じない方もいれば、少し動いただけで痛みが出る方もいます。
通常は痛み止めの内服薬で対処できますが、日常生活に支障をきたすほど強い痛みが続く場合には、ペインクリニック(痛み治療の専門科)の受診を検討することもあります。
肝臓がん手術の危険性と入院期間
肝切除の最大の利点は、がんを治す効果が他の治療法の中で最も確実なことです。一方で、身体に傷をつけること、合併症のリスクがあること、手術関連死亡が起こり得ることが欠点として挙げられます。
現在の統計では、術後90日以内の死亡率は切除範囲によって異なり、1区域切除で約2.7%、2区域切除で約3.9%とされています。ただし、これらの数字は施設や患者さんの状態によって変動します。
入院期間については、80%以上の患者さんが術後10日から14日で退院できています。腹腔鏡下手術の場合は5日程度、開腹手術でも7日から10日程度で退院できる施設が増えています。
退院後は、社会復帰までに2週間から3週間程度の自宅療養が必要です。この期間は、徐々に日常生活に身体を慣らしていく大切な時期です。
肝臓がん手術を受けるための条件
肝切除を受けるためには、いくつかの条件があります。
第一に、日常生活のすべてを介助なしで行える体力が必要です。また、肝機能が手術に耐えられる程度に保たれていることも重要です。
具体的には、Child-Pugh分類がAまたはBであることが望ましいとされています。黄疸が出ていたり、吐血があったり、腹水がたまっている場合は、肝機能がかなり悪化しているため、手術は困難になります。
第二に、がんの進行度も重要な判断材料です。がんの大きさ、個数、位置などを正確に診断し、完全に切除できる見込みがあるかを評価します。
一般的には、がんが肝臓内にとどまっており、個数が3個以内の場合に手術が推奨されます。がんの大きさについては、10cmを超える大きながんでも切除可能な場合があります。
肝臓がん手術の治療成績と生存率
肝臓がん手術の成績は、手術技術の進歩、術前評価の精度向上、術後管理の改善により、年々向上しています。
全国的な統計によると、肝細胞がん手術後の5年生存率は施設によって異なりますが、主要ながんセンターでは50%から65%程度となっています。ステージ別では以下のような成績が報告されています。
| ステージ | 5年生存率 | 10年生存率 |
|---|---|---|
| ステージI | 約60~64% | 約20~25% |
| ステージII | 約40~46% | 約14~15% |
| ステージIII | 約15~17% | 約6% |
| ステージIV | 約4~5% | 約2% |
肝臓がんの生存率が他のがんに比べてやや低めである理由は、いくつかあります。
第一に、多くの患者さんが肝硬変を合併しており、肝硬変そのものや肝硬変による合併症(食道静脈瘤など)のリスクがあることです。
第二に、肝炎ウイルスに持続的に感染している場合、肝臓全体ががんを発生しやすい状態になっており、1つのがんを治療しても別の場所に新たながんが出てくる可能性があることです。実際、手術後2年以内に約70%の患者さんで再発が見られ、そのうち約90%は肝臓内での再発です。
ただし、再発しても肝臓内に限局している場合は、再度の肝切除やラジオ波焼灼術などの局所治療を行うことで、長期生存が期待できます。
術後の経過観察と再発への対応
肝臓がんは再発率が高いため、手術後の定期的な経過観察が非常に重要です。
通常、3ヶ月から6ヶ月ごとに通院して、血液検査(肝機能、腫瘍マーカーなど)と画像検査(超音波検査、造影CT検査、造影MRI検査など)を行います。早期に再発を発見することで、治癒を目指した治療を行える可能性が高まります。
また、術後のウイルス性肝炎に対する抗ウイルス療法の進歩も、予後の改善に貢献しています。B型・C型肝炎ウイルスに対する治療を継続することで、新たながんの発生リスクを低減できます。
手術以外の治療法との組み合わせ
肝臓がんの治療は、手術だけでなく、ラジオ波焼灼療法、肝動脈化学塞栓療法(TACE)、薬物療法、放射線療法など、複数の治療法を組み合わせる集学的治療が行われることがあります。
患者さん一人ひとりの状態に応じて、最適な治療の組み合わせを選択することで、より良い治療成績が期待できます。
まとめ
肝臓がんの手術は、がんを確実に取り除ける最も有効な治療法ですが、肝機能を十分に残すことと、がんを完全に切除することのバランスを取ることが重要です。
手術技術の進歩により、合併症の発生率は減少し、手術関連死亡もかなりまれになっています。腹腔鏡下手術やロボット支援下手術といった低侵襲手術も広く行われるようになり、患者さんの負担は軽減されています。
ただし、肝臓がんは再発率が高いため、手術後の定期的な経過観察と、必要に応じた追加治療が重要です。